サリア村『前編』
「ん…眩しっ」
気がつけば俺は草の上に仰向けに倒れていた。
むくりと起き上がり、辺りを見回す。
目の前には大きな湖、後ろには森が広がっていた。
「どこだここ」
見覚えのない景色にしばらく呆然としていた。
ふと、錆びれた鉄のようなものが手に当たった。
「剣…?」手に持っていたのは茶色く錆びれた剣
だった。
剣を見つめていると何かが頭につっかえてる気がした。忘れている。大事なことを。
湖の近くに人が見えた。
どうやら釣りをしているようだ。
「あの…」
「ん?見かけない顔だな。どこから来たんだ?」
おじさんが怪訝そうに尋ねる。
「自分でもわからないんです。気がついたらここに」
事実をありのまま述べた。
「はっはっは!面白いことを言うね。
頭でも打ったんじゃねーか?」
そうかもしれない。言われてみれば頭が痛む感じが
する。頭に触れると瘡蓋が出来てた。
「というか、その錆びれた剣はなんだ?
研いだら凄く鋭くなりそうだな」
じっと剣をみる。「わかりません」
「なんもわからねーじゃんか。お前さん、名前は?」
少し答えるのに躊躇ったが答えた
「アギラです」
「アギラか。俺はナキだ。
ひとまずうちに来な。子供1人増えたところで支障
はねーだろう」
俺はその言葉に甘えることにした。
「俺達の村は後ろにある森の中にあるんだ。
ついてきなさい」
そう言うとおじさんは森に向かって歩き出した。
俺もその後を追う。
結構急な坂で歩くのが疲れてきた。
横の茂みで音がした。
兎や鹿だろうか。村では釣りや狩りなどで食料を確保
しているのだろう。
おじさんの体格を見てそう悟った。
日常的に運動をしているのがわかる。
「さっき、釣りをしてたみたいですけど何か釣れましたか?」
「ああ、今日は大漁だぞ!ほれっ」
バケツの中を覗き込むとピンク色の魚と緑色の魚が
泳いでいた。どちらも俺の知らない魚だ。
「これって食用?」
「そうだ。だいたいは市場に持って行くけど
多く釣れた時は家族に魚料理を食わせてる。
煮付けでも塩焼きでもどれも美味いぞ」
どんな味なのか想像してるとよだれが出てきた。
そんな様子の俺を見てナキはニヤリと笑った。
「食べたいか?」
俺は大きく頷いた。
「素直なやつは好きだぜ。よしっ振舞ってやろう」
「ありがとうございま」
「ただーし!」俺の声を遮り、顔を近づけてくる。
「タダで食えると思うなよ?」威圧感に仰け反る体勢になる。
「着いたぞ。サリア村へようこそ」
広がっていた景色は無邪気に遊ぶ子供の姿。
汗水流して働く男達。川で洗濯する女達。
とてものどかで平和な場所だった。
「おーいモーラ。釣ってきたぞー」
モーラと呼ばれた女性はどうやらナキの妻
らしい。
「その子は?」俺の方を見て尋ねる。
「湖の近くで見つけたんだ。なんでも記憶喪失らしく
なんも覚えてないらしい」
「へぇ、そうなの」まじまじと見つめてくる視線を
感じ、目をそらす。
「まぁ、ここではなんだからうちで飲もうか」
と、ナキが冗談交じりに言う。
「何言ってんの。すでに酔ってるんじゃない?」
何気ない夫婦のやりとりに頬を緩める。
「っとその前に手伝ってもらおうか」
俺は何を?と言いたげにナキを見る。
「タダ飯食わせないって言ったろう?」
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