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私のご主人様  作者: めそ
現実と電脳の狭間にて―私とご主人様とご友人
7/15

第7話 ああもう、面倒臭い……

 さて、J三八番がご主人様の家に泊まるようになったわけだが、


「私の泊まる部屋はどこだ?」


 ご主人様とJ三八番の食事を持って部屋に入ると、そんなことを聞かれた。


「一応聞きますけど、前はどこに泊まってたんてすか?」

「ここの隣の部屋だ」


 J三八番はご主人様の部屋の壁、の向こうにある私が寝泊まりしている部屋を指差した。


「ああ、やっぱりですか」


 どうりで召し使いの私に部屋が用意されていたわけだ。ご主人様が使えと言うので使わせてもらっていたが、あのご主人様がそこまで気を回すことが出来るはずもないし、不思議に思っていたのだ。

 なにか触れられたくない事情があると思って聞かなかったのだが、思わぬ形で疑問が解消された。


 今更、呆れたとは言わない。


「部屋の内装は一切変わっていないので、三日間好きに使って構いませんよ」

「む、そうか。助かる」

「いえいえ」


 私はベッドなどなくても十分に休息を取れる。と言うかそもそも、召し使いである私に部屋など必要ないのだ。世間知らずなご主人様はそれを知らなかったらしいが、その点このお客人は理解があって助かる。


 そんなことよりも、


「朝食ですよ、朝食。J三八番もお食べになりますか?」

「うん? ああ、いや、私は食べてきた」

「そうでしたか。失礼しました」

「加えて言えば、私の分の食事は用意しなくて良い」

「…………………………………………ん?」


 J三八番がこんなことを言うのは、食事が毎食配給されるからだろう。ご主人様もそうだったから、そういう理由であるということは問わなくてもわかる。

 さらに言えば、この朝食はご主人様とJ三八番に用意されたものではなく、ご主人様と私のために用意されたものなのだから、別に食べないと言われても文句はない。


 しかし。


 しかし、だ。


「駄目ですよ、食べなきゃ」

「……ぅむ?」


 J三八番は本日何度目かわからない、困った表情を作る。おそらく、私の言ったことが理解出来なかったのだろうから、


「だから、ご飯は食べなきゃ駄目ですよ?」

「……おい、A二〇〇〇一番。お前の召し使い壊れてないか? 修理に出したほうが良いと思うぞ」

「召し使い一号は正常だ」

「そんな馬鹿な……」


 J三八番は信じられないものを見るような目で私を見るが、しかし残念ながらご主人様の言うように私は正常である。どこにもおかしなところはない。

 むしろ、私よりもこの不躾なお客人のほうが異常である。


「良いですか? 私は言うなればこの家の管理人です」

「J三八番が管理人ではないのか?」

「ご主人様はこの家の管理の一切を私に任せています」


 つまり実質、私がこの家の管理人。

 と言うことは、私がこの家を仕切っているようなもの。

 要は、私がこの家のルールだ。


「だから、いくら客人と言えど、いえ、客人だからこそ、この家のルールに従っていただきます」

「また面倒な……」


 J三八番は眉間を指で押さえて唸る。しかしそれも束の間、すぐに自信に満ちた表情を私に向けてきた。


「ふっ、なんでも言ってみるが良い」


 追い出すぞ。

 いや落ち着け召し使い一号、追い出してどうする。いや、一応解決策としてはあり得るのだが、根本的解決になっていない。それとおそらく、目的も変わってしまう。


「ええとですね……」


 声を出し、それをきっかけとして頭の中を整理する。

 J三八番は少し頭のおかしな人だということはわかった。多分自己完結型の性格をしている。そんな人間になにかを言って聞くとは思えないが、幸いにも思考の柔軟性はそれなりにあるみたいだ。


 まあ、柔軟性がなかったら生きていないだろうけど。


「良いですか? 食事というのは、神聖な行為なんです」

「知らなかった……」


 どこかでやったな、このやりとり。


「私はこんなゴミクズみたいなご主人様にご友人がいたことをとても喜ばしく思っています」

「そうか。なれば、思うままに喜ぶと良い」

「……俺とJ三八番は友人関係にあったのか?」

「当たり前だろう。今更なにを確認している?」

「……私は、あなたがご主人様のご友人であることに感謝しています」

「ふはは、存分に感謝しろ」


 なんだろう、気が抜けていく感覚。

 怒りがどこかに逃げていってしまった。

 息を吐く度に内側から身が削れていく気がする。


「感謝させて欲しいですから、私の料理食べてください」

「……ぅむ? 私は何故お願いされているのだ? 叱られていた気がするのだが……」


 悟いんだか鈍いんだかどっちだよ。


「だから、私はあなたに感謝する手段として、手料理を振る舞いたいんです」

「ふーむ、なるほど」

「私に恥を掻かせないでくださいってことです。大人しく感謝されやがってくださいよ」


 おかしな話だが、J三八番を相手にしていると疲れてくる。

 もしかして、ご主人様はこのお客人のことを知らない振りしていたのではないだろうか。……なんて、大変失礼な邪推をしてしまうほど、J三八番はこう、特殊な人間だった。


 そのJ三八番は私の言葉をよく噛み砕いているのか、なかなか思案顔を崩さない。

 J三八番が私に言葉を返すまで暇なので、ご主人様がえっちらおっちら朝食を摂る様子をしばらく眺めていると、


「うむ、なるほど、そういうことか」


 一体なにに納得したのだろうか、J三八番はもっともらしく頷いてみせた。


「であれば、存分に貴様の手料理とやらを馳走になろうではないか、召し使い一号よ」

「はあ、わかりました」

「……ぅむ?」


 もう、なんでもいいや。

 なにがなんだかよくわからなくなってしまった。


 出来ればこの人と関わりたくないが、残念ながら私のプライドがそれを許してくれない。


 面倒臭いなあ、この人。

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