1-3 赤い霊
「あっそうだ、もう1つリュック持ってくか」
「もう…1つ?…なんで?」
「恐らく俺と一緒にここに来た人がいて…」
「そう…」
「しっかし懐中電灯があって良かったよ。もしかしたらスマホのバッテリーが切れて、動けなくなってたかも」
「うん…」
「それと美琴がいて良かった、俺一人だと職員室見つけられなかったかも…ありがとな」
「そう…」
愛想ないなぁ。顔立ちなんかスゲーカワイイのに、これじゃ男子はおろか女子までも寄ってこないだろうなぁ。友達も少ねぇんだろうなぁ。
「慎は…どこ高?」
「うぇっ!?えーと、星明高校」
「そう…勉強…出来るんだね…」
「そーゆー美琴は勉強出来ないの?」
「星明は…滑り止めで受けた…」
「え?美琴の制服って東原のだよね?」
「そう…だよ」
「星明の方が偏差値高いのに東原行ったの?」
俺らの学校、つまり星明高校は私立高校だ。反対に東原高校は公立高校。金銭的な余裕がなかったから東原に行ったのかな?
「うん…入りたい部活が強かったから…」
「あー確かに東原って部活が全体的に盛んだよな」
「うん…」
「ところで…さ」
「なに?」
「何部?」
「私は…」
「待った…!あれは…!」
赤い霊…!さっきの青い霊が言ったことが正しければ…いや、あの霊が職員室に懐中電灯があるっつって行ってみたら本当に職員室に懐中電灯があったところ見ると、嘘は言ってないんだろう。つまり…あの霊は危険な霊!
「あれ…は…悪霊?」
「悪霊?なんだか分かんないけど逃げよう!」
「うん…」
(イキルモノ…コロス…!)
「うわ!追っかけて来た!けど遅っ!」
動くのがメチャクチャ遅い。これは逃げ切れるな。
「そこの教室でやり過ごそう」
「うん…」
俺は必死にとは言わないけれど、急ぎめに教室のドアを開け教室の中に入った。
(ドコイッタ…イキルモノ…キエタ)
「ねぇ…大丈夫…なの?」
美琴が小声で聞いてきた。
「ああ…多分大丈夫だ。手がないから開けられないし…」
霊の見た目の説明はちょっと難しい。が人型ではない。なんと言うかこう…火みたいにゆらゆら揺れている物体だ。
「ところで…さっき言ってた悪霊ってなんだ?」
「あの様に…オレンジっぽい色の…霊のこと…」
「オレンジ?よく分からなかったぞ?」
「霊には…悪霊と死霊というものがあって…死霊は…真っ赤っか…」
「見たことあるのか?」
「うん…」
「なんか違いがあるのか?」
「死霊は…動きが速い…」
そういえば変なこと思ったけど死霊って同じ様な意味の漢字を繋げた言葉じゃん。
「そっか…ところでここは?」
「ここは…3-4-3教室…」
「気になってたんだけどここって中学校だよな、このフロアって3年生のフロア?それとも2年生?」
「知らない…」
「ああゴメン、ここの生徒じゃねぇんだし知らねぇよな」
「それより…これ…」
「ん?なんだ?鍵?」
美琴が鍵を持っている。第6図書室って書いてある。
「図書室の鍵?行ってみる?」
「図書室に…何かあると思う?」
確かに何もなさそうだ。まぁ悪霊とか死霊とかがいそうだけど。
「でも行くあてもないじゃん?」
「そう…だね、行ってみよう…」
図書室に着いた。早速鍵を開けて中に入る。
「予想通り…何もなさそう…だね」
「うーん…この学校全体の地図があると思ったんだけどなぁ」
「えっ…慎…あれ…は…」
「ん?なんだよ?」
美琴が指を指すと、俺が最初にいた教室にあった様な血が床にこびり付いていた。
「ああ…」
「なんで…慎は…平気なの?ここで…人が…死んだってことでしょ…?」
美琴はガタガタ震えている。俺も平気じゃないんだけどなぁ。
「美琴、あんま見ない方がいい…辛くなっちゃうだろ?」
「うん…」
まだガタガタ震えている。きっと口には出さないけれど、怖いんだろう。最初に悪霊とか死霊に出くわした時もこうやって震えてたのかな。仕方ない…。
ギュッ…。
「な、慎…どうしたの…?」
俺は美琴を優しく抱きしめた。
「大丈夫…怖くないから…俺がいるから…もう1人じゃないから」
「ちょっ…慎…いきなりどうしたの…?」
「怖いんでしょ?」
「うっ…」
俺はしばらく抱きしめていた。
「慎…もう大丈夫だから…放して?」
「ああゴメン、嫌だった?」
「…別に…」
美琴は少し頬を赤らめている様に思った。
「じゃ…戻ろっか、結局何もなかったし」
「待って…あそこに何か…落ちてる…」
美琴は顔を背けながら、血がこびり付いてる所を指さした。
「え…あ、ホントだ、紙みたいなのが落ちてる」
美琴はやっぱ震えてる。大丈夫じゃないんじゃん…。
「分かったよ、俺が取ってくる」
「気を…付けてね…」
俺は恐る恐る紙に近づく。そして恐る恐る紙を拾った。それを持って美琴の所に戻った。
「出よう?もうここにいたくないでしょ?」
「うん…出る…」
俺らは図書室を後にした。
「紙には何が…書いてあるの?」
「ああそっか、紙見てなかったんだった」
『3-3-3教室の26番のロッカーの暗証番号は248』
「ん?ロッカー?なんかあるのか…」
「うん…なにかありそう…」
「そういやもう大丈夫?」
「うん…ありが…と」
「どういたしまして」
俺がそう言うと、美琴はまた頬を少し赤らめた。
「んで?3-3-3教室ってどこにあるんだ?」
「3-4-3の隣…」
「そんなに遠くないじゃん、行こーぜ」
3-3-3教室に着いた。さっきまでは気が付かなかったけれど、教室の後ろの方にはロッカーが並んでるんだな。黒板には何も書かれていない。
「えっと、26番26番…どれだ?」
「これ…」
「おお!それそれ!んじゃ早速開けるぞ」
開けてみると、教科書が沢山入っていた。
「ん?教科書しかないじゃん」
「そう…だね」
「あーでも俺もこの教科書だった。これ最近の教科書じゃん」
「私も…同じ教科書…」
「ハハッ…1年しか経ってないのに懐かしいって思うよ」
「そう…だね、でも数学は…私達と違う教科書…」
今気が付いたけど美琴って随分背が低いな。160ちょっと位か?
「へー、俺はこの教科書使ってたけどなぁ」
「公民も…違う…」
「お、俺も公民は違うな、つーかこの人教科書置きすぎ」
「そう…だね」
「ん?なんかあるぞ?」
「また…紙?」
『ああ、西谷ちゃん…カワイイなぁ…。あの佇まい、あの優しい喋り方、笑顔、慌てた時の態度…全てがカワイイなぁ…。でも、僕だけにそれを見せて欲しいかなぁ。僕だけの西谷ちゃんであって欲しいなぁ』
「…なんだこれ?」
「気持ち悪い…」
「うん、かなり気持ち悪いな」
あ、なるほど。それで248。西谷で248ね。暗証番号まで自分の好きな人の名字にしちゃうのかよ。流石に引くわ。
「まだ…何か入ってる」
「ん?ホントだ、鍵っぽい物が入ってる」
第5会議室の鍵…か。なんでそんな物がこの中に入っているんだ?
「慎っ…!これ…」
「どうした?」
ロッカーの物を全部片すと、ロッカーの底に『キモイ』『死ね』『消えろ』
『学校来んな』などが赤い絵の具で書かれていた。
「これ…は…酷い…」
「…このロッカーの主に何があったか大体分かってきたぞ」
「えっ…?」
「多分このメモがクラスメートに見つかったんだろう。それで気持ち悪いと思われた。多分…いじめに発展したんだろな」
「酷い…」
「だけど何で会議室の鍵がここに?」
「分かんない…」
「取り敢えず行ってみよーぜ」