3-1 広がる行動範囲
(ああ、アンタ達待って)
5-3-4教室から声がした。
「え?ああ、大村」
(馴れ馴れしいわね、まぁいいけど)
「僕達急いでるんだけど」
(あなた達に賭けるわ…)
「え?なんか言ったか?」
(いえ、それよりもこれからは全フロアに行けるようになったわ)
「え?前は階段の所で何かに阻まれてたけど?」
(ええ、それがなくなったってワケ)
「じゃあどこでも行けるって事か」
(難易度が上がったって事よ?)
「えっ?何で?」
「多分…悪霊や死霊もフロア移動出来る様になったって事じゃないですか?」
(そう、彼らはフロア移動は出来なかったけれど、これからは出来る様になるわ)
「そっか…なるほど」
(それともう3つ程いいかしら?)
「多いな…分かった、聞くよ」
(これからは狂犬、狂猫も出てくるわ。あれらはスピードが速いわ、更に噛まれたら死ぬわ)
「敵が増えるって事か」
(それと、白猫と白犬はここの脱出の具体的なヒントを教えてくれるわ、ぜひ見つけなさい)
「白い犬と白い猫か…」
(最後に…黒犬と黒猫には気を付けて。奴らは…強い)
「最後だけえらく抽象的だな」
(情報が少ないの、滅多に現れる奴じゃないし)
「なら大丈夫じゃねぇの?」
(…言い方が悪かったわね、私達からすると滅多に現れない奴なのよ)
「は?全く分からん、その回りくどい言い方止めてくれ」
(そうね、ここに来た人間は黒犬や黒猫が現れる前に死ぬ事が殆どなのよ。奴らはどこにいるか分からない。だから私達からしても滅多に現れない奴なのよ)
「それ以前で…死んでる?殆ど?」
(奴らが人間の前に現れた回数なんて、あなた達の指10本で数えられる程少ないわ)
「な…何回だよ」
(正確には6回よ。余談だけどここから脱出出来たのは3人だけ、あなた達は脱出出来るかしら?)
こっから脱出出来たのは…3人だけ?
(ちなみにここに来た人間の数は10000人は軽く超えてるわ)
「んな…」
ここまで順調だと思っていたけどそうじゃねぇんだ。ここからが本番と言っても過言じゃねぇかも知れねぇな。
(話を戻すけど、ホントに黒犬、黒猫には気をつけなさい、多分それぞれ1匹しかいないから)
「な、なあ…黒犬、黒猫についての情報を知ってる限りでいいから教えてくれ!」
(こっちも…イヤ、もう遅いか)
「ん?何だ?」
(いいえ、何でもないわ…奴らはとにかく攻撃のバリエーションが豊富よ)
「どういう事だ?」
(例えば影を伸ばして相手の影に接触すると相手は動けなくなる…とか)
「何だそれ!滅茶苦茶だ!」
(まぁとにかく強いわ、気をつけなさい)
「ああ、分かったよ…アドバイスありがとな」
(ええ、それじゃ頑張って…そうそう美琴、)
「えっ…?」
(あなたが…よ、彼に対抗出来るのはあなたしかいないわ)
「…?」
俺らは5-3-4教室を後にした。
(オオムラ、分かってるのかい?)
(何よ…まだいたのね)
(君がそうすると思ってたからここにいたのさ)
(へぇ…なら何で止めなかったの?)
(どうせ止めたって無駄だろ?)
(…そうね、よく分かってるわね)
(それよりいいのかい?)
(ええ)
(行くのはあの世じゃないんだよ?)
(いいえ、あの世よ、彼らはここを壊すもの)
(ハハハッ賭けに出た訳か)
(そうよ、あなたみたいにビビりじゃないもの)
(フッ…まぁいいさ、僕はギリギリまで考えるよ、じゃ)
(…もう…会えないのね)
(イヤ?また来るよ、でも…ね、全て終わったら…もう会えないね)
(…会わない方がいいわよ)
(…それもそうだな)
「んじゃ、後で回るし、上がるの大変だから上からで」
「…うん…分かった…」
さて、上は…高校か?これって下から小、中、高ってなってんのか?
「んじゃ!早速調べていきましょう!」
「ちょっと待ってくれ、もう1つ上に行こう」
「え?何でですか?」
「上は大学かもしれないからな」
「…小、中、高…ってなってる…から?」
「うん、大学があるならそっちから回った方が良いと思う」
「え?」
「…広いから…大学は…すごく」
「へぇーそうなんですか!まぁでも広そうなイメージですね!」
「あっ…よかった…屋上か」
でもまぁ当然とは言えるけれど空間に固定されてる?っつーの?まぁ基本屋上は開かねぇよな。
「ま、戻りますか!」
「そうだな」
「そう…だね」
「さて、調べていきますか!」
「白石…さっきから気合い入ってんなぁ」
「脱出に近付きましたからね!」
「そうか?」
「1歩前進じゃないですか!」
「ま、そうかもな」
「んで、まずはどこに?」
「んじゃ正面の…1-Cから行くか」
「お!青い霊がいますね、早速入ってみましょう!」
「なぁ、アイツ元気だな?」
「うん…すごく元気…」
「何であんなに元気でいられるんだ?」
「…脱出に近付いたから…じゃない?」
「何してるんですかー?入りましょうよー!」
「ハイハイ、分かった分かった」
これじゃなんか…子供に振り回される親みたいだな。美琴もだけど。え?それじゃ…俺は美琴と…。イヤイヤ何考えてるんだ。妄想にしても酷いな。
「慎…行こ?」
「うえっ!?あああああ、い、今行く」
(アレ、またか…)
「どうもこんにちは!」
(ッ!…こんにちは)
「えっ?何の間ですか?」
(イヤ、いい…脱出のヒントを聞きに来たんだな?)
「はい」
(いいか?このフロアのキーマンは2人いる。1人は学生、1人は教師だ)
「え?教師もキーマンになるんですか?」
(ああ…)
「それで…他には?」
(あ、ああ…後ろに全フロアの地図がある。持っていった方がいい)
「あっ!本当だ…え?ここも含め後4フロアもあるんですか!?」
「えっ!?そんなに!?」
(そうだ、後4フロアある)
「クッソ…脱出するには後4フロア回らねぇといけねぇなんて…」
(いいや、それだけじゃない。脱出の為には全てのキーマンのネガイを聞くだけじゃピースが1つ足りないんだ)
「じゃあ…どうすれば…?」
(彼の部屋に行って…ピースを取ってこないとならない)
「どこにあるんだよ!その彼の部屋ってのは!」
(…全てのキーマンのネガイを叶えなければ…そこには行けない)
「クッソ…結局キーマン探しをしねぇとならねぇのか…」
「ところで…彼と言うのは?」
(悪いな…名前を知らないんだ)
「そうですか…」
(…君達、このフロアには保健室がある。第4保健室だ。そこで休むといい)
「えっ?そんな暇は…」
「いえっ…山口先輩はどうか分かりませんけど、僕…相当体にきてますよ…それに、眠いです」
「私も…」
そっか…。俺はぶっ倒れた分少し体力が回復してるのか…。でもコイツらは違う。緊張感やら何やらとずっと戦ってきた。そろそろ休まねぇとな。
「分かった、保健室に行こう」
「ここが保健室か、キレイだな、この部屋」
「ええ、私立の高校なんでしょうかね?」
「ベッドが…8つもある…」
「スゲェな、そんなにいらねぇだろ」
「じゃあ僕は寝ます、おやすみなさい」
「早っ」
「スー…スー…」
「ホントかよ…」
「じゃあ私も…いい?」
「今までだってキツかったんだろ?もう寝ろよ」
「うん…おやすみ、慎…」
「おやすみなさい」
皆、結構無理してたんだなぁ。そりゃそうか。いきなりこんな所に来て死ぬって事を間近に感じただけで負担になるもんな。俺も寝るか…。ミニ美琴に会えたりしてね。