2-3 図工室
「美琴、ちょっとこれ見てくれ」
「えっと…紙?」
「そ、トイレの鏡に貼ってあった。」
「…ただの紙…じゃん」
「そうだよな…ただの紙だよな」
だけど俺はこれは捨てない。これを取ったらミニ美琴が出てきたのだ。多分この紙とミニ美琴は何か関係があるはず…。
「ねぇ…どうしたの?…トイレで何か…あった?」
そして多分…イヤ、確実にミニ美琴と美琴は何か関係があるはずだ。声の高さやら、声の質やらで考えるとミニ美琴と美琴は同じ人間だろな。でも…今は余計な混乱は避けよう。
「イヤ、それを拾った事以外は何も」
「ねぇ…また…?またはぐらかす…の?」
「えっ…」
そうか…俺は記憶の事も話してないんだった。美琴を混乱させない様にとやってきたけど、逆に混乱させてるんじゃねぇか?いっそ話してしまおうか…。
「これで2回目…だよ?どっちかだけでも…話して?」
いっそ…いっそ…イヤ駄目だ!少なくとも記憶の方は最悪彼女を傷付ける!ミニ美琴の方はまだ何とかなるけれど…。
「分かったよ…片方だけな」
「うん…」
「っつーワケで小さいお前に会ったんだ、まぁ…信じられないだろうけど」
俺はミニ美琴に会った事を話した。最後に聞こえたもの以外全部。
「ううん…信じる」
「俺だって信じられないんだよなぁ、どっちがホントの美琴なんだ?」
「どっちも…だと思う…」
「どっちも…か、まぁ現状何も分からねぇ。何か知ってたりしねぇか?」
「知らない…何も…」
「そっか、そうだよな」
……悪いな、美琴。お前もそうだけど俺の方が嘘に敏感だ。いつものお前は『知らない』だけで返すハズだ。でも今回は…『何も』を付けてきた。だから多分それは嘘だ。まぁ愛想よくなっただけって線もあるけど。でも俺は聞かないよ。聞いちゃいけねぇ気がするしな。
「それより…そろそろ図工室行かねぇ?」
「うん…そう…だね」
「んじゃ行こーぜ」
俺らは図工室の位置を地図で確認して、相談室を後にした。
「ここ…ね」
「そうだな、中はちょっと広そうだな…中に入ろっか」
中はやっぱり広かった。そして外から見えてた通り…血だ。血がこびり付いている箇所がいくつもある。中には大量の血もあった。多分ここで死んだんだろな。
「あれ?美琴今回は震えないの?」
「慣れた…」
「ありゃ、図書室の時は俺に抱きついて来たクセに」
「慎が抱きついて…来たんじゃない…」
また美琴は頬を赤らめた。顔は可愛いんだけどなぁ…。愛想が悪いなぁ…。といつも思う。
「ん?青い霊がいるぞ?」
「あ…ホントだ…」
(やあ)
「どうも」
(まぁ突然だけどそこのドアから中を覗いてごらん)
「は?」
(いいからいいから)
「えっ…!慎…これ…!」
「何だよ……。何だこれ!?」
中には6匹位か?赤い霊が閉じ込められていた。それでその部屋の奥に青い霊がいる。
(あの青い霊のお陰でこのフロアには悪霊も死霊もいないんだ。全部そこにいるからね)
「なるほど、探索が楽なワケだ」
(まぁ…でも1つ問題が…)
「…青い霊の事…でしょう?」
(鋭いね。あの子はウソツキが誰なのかを知っている。つまりウソツキを聞き出すにはあの部屋に入るか、あの部屋の霊を部屋から出すかの二択しかない)
「な…無理だろ…」
(彼に聞かなきゃ駄目って事ではないよ。自分の眼でウソを見抜いてもいいんだ)
「そっか…」
(ああ、そうそう分かってるだろうけどウソツキに奴の記憶を渡すと殺されちゃうからね、気を付けて)
「なるほど、センキューな…さて、どうする?」
「…多分今は何も出来ないよ…」
「へ?何で?」
「多分…あんな数の霊を相手にするのは…無理」
「じゃあ霊を出しちゃえよ」
「せっかく…安全に探索出来てる…のに?」
「なるほど、霊がいねぇ内に調べられる所は全部調べるって事か」
「うん…」
「さて、どこを調べよっか?」
「…トイレ…」
「は?」
「男子トイレがあるなら…女子トイレも…あるでしょ…」
「ああ、確かにな」
「なら……い…行ってみよーぜ?」
「…ブフッ」
「あ…笑った…頑張ったのに…」
「ハハハッ!以外!美琴そんな事すんのかよ!」
「もう…いい…行こ?」
正直言って美琴がミニ美琴の事を聞いて、混乱してるんじゃないかって悩んでた。多分美琴はそれを察してあんな事言ったんだろな。少なくとも混乱はしてねぇ様だな。
「ありがとな、美琴」
「うん…」
(彼らの事か?僕らを救う可能性のある子って………聞いてんだろ?)
(そうじゃない?西谷の所を偶然クリアしたって言ってたけど正直そんだけで?って思ったよ)
(いや?もしかしたら偶然ここを壊すヒントを見つけるかもよ?)
(脱出出来たあの天才カップルですら例の問題は解けなかったんだよ?あんな凡人に解けるとは思えないよ)
(あの問題が解ければヒントを得られるのかな)
(そうでしょ…だっていかにも怪しいじゃん)
(あれは多分引っかかればラッキー程度の時間稼ぎだよ)
今美琴が女子トイレの中を調べている。流石に俺が入るワケには行かないっつー事で俺はトイレの前で待っていた。
「あの…ミニ美琴は何だったんだんだろな」
もしかすると…俺とも何か関係あるのか?いや、美琴なんて名前の人は覚えてない。
「あのー…霊ですか?」
「うおっ!何、何、何事?」
俺はトイレの入口の方を向いていたので背後から声をかけられた事になる。メッチャビビった。
「えっ…人間?生きてる?」
「うあっ!はい、生きてます、生きてますよ」
パニクって自分でも何言ってるか分からん。
「良かったです!まさか生きてる人間に会うとは…」
「うえっ!えーっと、誰?」
「ああ!僕は白石健吾です!あなたは?」
「ああ、えっと山口慎です。一応高校1年生…」
「じゃあ先輩だ!僕中学2年生なんです!よろしくお願いします!」
「うん、よろしく」
「ところで山口先輩は女子トイレの前で何を?」
「や、連れがここで何かないか探してて…」
「慎…色々見つかった……誰?その人」
「中学2年生の白石健吾です!」
「そう…私は…神山美琴」
「よろしくお願いします!」
「うん…慎、これ見つけた…」
これは…奴の記憶!もうかなり集まったな。
「え?何ですかこれは」
「…奴の記憶…」
「ああ!僕も持ってますよ!奴の記憶」
「へぇ、いくつ?」
「3つです!」
「全部でいくつあるんだ?」
「えっと…7枚です!」
「おお!今ので全部じゃん…後は嘘つきの霊がどっちか…だな」
「ああ、その事なんですけど多分家庭科室の霊が嘘つきかと」
「え?何で?」
「私も…そう思う…」
「『何も思い出せない』って言ってたんですけどそれって変じゃありません?」
「何が変なんだよ?」
「本当に記憶を失ってたら、『何も思い出せない』って事も『分からない』はずなんですよ」
「は?意味が全く分からねぇ」
「そうですね…そもそも記憶がないのに何かを思い出そうとするって行動自体が変じゃありません?」
「えーとつまり、記憶がないのに何で記憶がないって事が分かるの?って事か?」
「ちょっと違いますけどそんな感じです、でも一応確認したいんですけど」
「んじゃあ、図工室行ってみるか」
「うん…」