1-1 お化け屋敷の裏の入口
「あー!!!」
ここは陽菜の部屋。俺は陽菜の勉強机で宿題を写させてもらっていた。俺がトイレに行こうと立った所、床に置いてあったスマホを踏み、スマホを割ってしまった。
「ちょっと慎!」
「…ホンットゴメン!」
…ここで床に置いてる方も悪いとか言ったら宿題写させてもらえなくなるし、ゲームの攻略教えてもらえなくなるし、殴られるし、俺の秘密暴露させられるしで言えねーな…。
「ちょっとどうすんのよー!」
「ゴメン!弁償するから…ね?許して?」
「人のスマホ壊しといてそれだけ?」
えっ…それだけって…まだなんか要求するんか。
「…わーったよ、1つだけお前の言う事聞くよ、俺に出来ることならだけどな」
「やったね!じゃあ…慎の奢りで遊園地連れてってよ!」
「は?俺の奢り?全額?」
「そう!全部慎の奢りで!」
「どこの遊園地?」
「んー、近くだとプラーターランドとか?」
「…あそこ高くない?」
「へーっ、スマホ壊しといてそんなこと言うんだ」
「あー分かった分かった、プラーターランドね。いつ行く?」
「今度の土曜!部活休みだし丁度いいでしょ?」
陽菜は弓道部に入っている。うちの高校は弓道部が盛んな学校だ。陽菜は中学最後の大会で全国大会まで行き、全国ベスト4に入った。だからうちの高校には推薦で入った。まぁ学力も俺程ではないけれどそこそこはある。
「じゃあ土曜は10時に現地集合ね!」
「はいはい、分かったよ…ハァ」
ああ、思わぬ出費…。
「あっ!慎!コッチコッチ!」
入場門の前で待っていた陽菜が俺に気付き、手を振って俺を呼んでいる。家、近いんだからわざわざ現地集合にしなくても良かったのに。
「今日は全部慎の奢りだからねっ!」
「うん?遊園地の費用って言ったよな?」
「全部だよ?全部」
「お前の土産とか夕飯とかもですか?」
「そう!全部!」
「えーっ、勘弁してくれよォ!俺小遣い少ねぇんだよ!」
「バイトしてるんでしょ?これ位余裕余裕」
「…うえーい」
俺はさっさと2人分の料金を払った。俺の暴露されたくない秘密の1つはこのバイトの件。俺らの通ってる高校の風習?に同級生がバイト先に押しかけるという風習があるのだ。それが嫌で俺は皆にバイトを黙っているのだ。
「まず何乗る?ジェットコースター?観覧車?」
「なんでもいいや、つーかここのアトラクション何あるか知らねぇ」
「じゃあじゃあ!迷路行こうよ!鏡のヤツ!」
「…お前好きだな、迷路」
「えーっ?だって楽しいじゃん?」
「…楽しくねーよ」
「なんか言った?」
「いーや?なーんも?」
「ホラッ迷路あっちだよ、行こ行こ!」
ミラーの迷路って…簡単なんだな。鏡を軽く押すと、扉みたいに開く所があるんだけど…皆の押した跡がくっきり残ってるから分かってしまう。それにも関わらず陽菜は…何回通り過ぎたんだよ。お、やっと見つけたか。
「やった!やっとゴール!鏡があると難しいね!」
「そうか?そう思うのは小学生位までだと思うぞ?」
「ハァ?私が小学生レベルだって言いたいワケ?」
「…そーゆー事だ。んで、次どこ行く?」
「ちょっとぉー慎だって迷ってたじゃない」
「お前に合わせてたんだよなぁ…」
「言い訳になってないわよっ!えっと…次は…」
「でも…お前が楽しいなら…いっか…」
「なんか言った?」
「イヤ、なんでも?」
「じゃあ次は…ジェットコースター行こっか!」
「ゲッ…」
「慎、ジェットコースター苦手だもんねぇ?」
「分かってんじゃん…」
「じゃ、行こっか!」
酷い目に遭った…。ここのジェットコースターってこんなに速かったっけ?
「やー、楽しかったねぇ、ねぇ慎?」
「楽しくなかったデス」
「アハハッ!あんたメッチャビビってたねぇ?私の手ギューって握っちゃって」
「うえっ!?握ってた覚えはねぇぞ!?」
「ジョーダンよジョーダン!焦っちゃってどうしたのよ」
クッソ、騙された。
「んなろー」
「じゃあ次は観覧車行こっか!」
高いなぁ…。ジェットコースターもそうだけど高いの、嫌いなんだよなぁ。観覧車は高いだけだからマシだけどな。
「見て見て!あそこ、ホラあそこ!」
「あー海ね、ココ海近いもんね」
「綺麗…」
俺はつい、陽菜に見とれてしまった。海を夢中で見る陽菜がカワイイと…。
「あ、そうだった!あんた高いのが苦手なのよね!」
「うぇ!?そ…そうだよ」
「現在進行形で怖いんでしょ」
「そうだ…や、怖いわけじゃなくて苦手なだけな?」
「アハハッ!ビビってるー!」
「あーっ分かった、そこまで言うなら次はお化け屋敷な!」
「えっ!チョチョ待って、なんでそうなるのよ!」
「さっきから俺を馬鹿にするから」
「ゴメンゴメン、だからお化け屋敷は…ね?」
「いーや許さないね、お化け屋敷行くまで許さないね」
「あーっちょっと勘弁してぇ!」
…俺の腕を掴んだまま放さねえじゃねーか。
「おい、どっちがビビりだ?え?ギューって掴んでんのはどっちだ?」
「ううっ…」
「ほらっ出口だぞ、出口 。いい加減放せ」
「グスッグスッ…」
「ほら、怖いの終わったから放せ、な?」
「あんたが行くって言ったんじゃないのよぉ…」
陽菜は怖いのと暗いのが大の苦手だ。入った早々俺の腕を掴んで、その上俺の耳元でキャーキャー言って…。前にお化け屋敷に行った時もこんな感じだったな。まぁ前は俺が無理矢理振り払ったから、その場に座り込んで泣いてたけど。あれにはスタッフも心配してたし、俺も悪いと思う。でもやっぱあれだけ言われたから、ちょっとぐらい仕返ししないとな!
陽菜はまだ涙ぐんでいる。そんなに怖くなかったんだけどな。ん?スタッフ専用の入口が開いてるぞ?
「なぁ、あそこからお化け屋敷に入れば裏方とか衣装とか見れるんじゃね?」
「えっ…そ、それは流石にヤバくない?」
「バレなきゃ平気だってバレなきゃ!行ってみよーぜ」
「ああ、待ってよ慎!」
「なんだ…?扉とレバーしかねぇぞ?」
「ねぇ、戻ろう?ゴーカートも乗ってないしティーカップもまだ乗ってないんだよ?」
「いやいや…このレバーを引いたら行くから…」
レバーを引くと、大きな扉がゆっくりと開いた。
「ちょ、怒られるよ?」
「きっとこの先には衣装部屋とかがあるんだ!行ってみよーぜ!」
「ああちょっと待って慎!ゴーカートとかティーカップとか行くんじゃなかったの!」
俺はどんどん先に進んでいく。電気が点いてないのが気になるけど、多分お化け屋敷だから裏方も暗くしてあるんだろうな。なんか楽しみになってきた!もしかしたらお化け役の人に会って、俺が逆に驚かすことが出来るかも…。しかし俺が進むに連れて、どんどん暗くなってる様な…?
「あれっ!陽菜…陽菜!」
さっきまで一緒にいたはずの陽菜がいない!どこだ!どっかに隠れて俺を脅かそうとしてんのか?
「おーい陽菜、そこにいるのは分かってるんだぞ?出てこいよ!」
………まだ隠れてるつもりか。
「分かった、悪かったって。馬鹿にしてゴメンなー」
………まさか戻ったのか!?暗いところが苦手な陽菜が1人で戻るのは考えにくいけどな。そういや、暗すぎじゃねーか?流石にこれ以上はマズイか。俺も戻ろう……え?戻れない!壁…か?俺は壁の様な物に阻まれ戻れなくなってしまった。