泡沫の喧騒(ミレーレ)
「……私に学生会の手伝いを、と言うことでしょうか」
「あぁ、君も俺の婚約者というならば拒否できないと思うが」
いきなり人をとっ捕まえてこれか。まいッかい唐突すぎんだよ。
それでも、婚約者なんてもんを出されたら断る訳にはいかないか。
あーメンドクセ。顔に溜息を吹きつけるのを我慢して了承した。
「……分かりました。授業が終わりしだい向かいますわ」
「頼んだ」
そうして迎えた放課後、学生会室に入り挨拶したとたん頭をおさえてしまった。
プリメラたんがいるなんて聞いてないんですけど!?
「メディオ殿下これはどういうことでしょうか?」
何を言ってるんだ? と書いてある顔をチョークスリパーしてやりたい。
「何を言っているんだ?」
いやいやいや、思考と言葉が被ってるのはどうでもいいわ。お前また私情でプリメラ呼んでないか? だかーかーらー、プリメラにヘイトが集まるだろうが!! このボンクラ王子が!
「プリメラ様はとても優秀ですから、私の方からお願いしました。なにか問題がありますでしょうか」
でた! 出ましたよ腹黒眼鏡のテンプレ野郎が。その眼鏡光らせるくいッてのやめろし。俺の腹筋が割れてまうわ。
あーお前もか。お前も私情だな。
そんな一触即発の空気の中、オロオロするプリメラたんグッジョブ。ナニソレかわい。
じゃなくて、大丈夫か? 良いように使われてないか?
「プリメラ様、貴女の意志でこちらにいらっしゃるのですか?」
「えっ! あ、はははい! あの、その私でお役に立てればと……」
はぁ。これアカンやつ。ぜーったい押し切られたやつや。
軽くついた息にプリメラが肩をビクつかせるのが見える。プリメラたんは悪くない、こいつらの欲望ダダ漏れる私情だから。
震えるプリメラを微笑みと視線で諌めたら頬が赤くなった。
ほんと大丈夫か?
「分かりました、プリメラ様がよろしのでしたら何も申し上げません。それで、今回は属性石を使った発表会についてでよろしいでしょうか」
用意された席につき資料をめくる。各科の生徒からの研究内容や使用する場所・時間などの要望がぎっしり寄せられている。
うわっ。
毎年のことながらこれを捌くのか、超めんどくせぇ~。各科の教授らがある程度同種のものをまとめてるとはいえ、かなり膨大だ。
この学園で学生会を仕切るのは王族の努め、補佐につくのは将来の側近候補の貴族子息や優秀な平民など、トップの人選しだい。ある意味国を治める仮想統治の意味が強い学生会に選挙などない。トップ次第で腐敗も顕著だが、学園長を通して国王に逐一報告されているため、王子にとっても気の抜けないものなんだろうな。
それにしても属性石発表会か……これも厄介なんだよな〜。
この世界に魔法はない。
厳密に言うと不思議要素はあるんだけどな、それが属性石。ゲームで武器とかにはめると炎属性になるよ! ってやつだ。それが道具に組み合わされ、各ご家庭で現代でいう家電のように使われてる。
発表会は、その属性石を使って様々な発表をするイベント的なものになるのだが、多種多様の属性石があるため、内容も千差万別で毎年いろんなトラブルが起こる。それを自治するために王宮から騎士が派遣されるとかなぁ〜某雪まつりかな?
その諸々の手配を学生会が仕切るとか、アホかな? しかも、発表もやらなくてはならない。免除もされないとか、もう一度いう。アホかな?
「あぁ、まずは……」
「入るぞ」「失礼するよ、主役は遅れて登場するってね」
あ、脳筋とエセイケメン。
ぷぷぷ、馬鹿ぼんとセリフ被ってやんの。
絶妙なタイミングで邪魔をされたメディオのやつは、ギシリと固まり重い溜息をついて片手を振る。
「……はぁ。二人とももう始まってる、早く席につけ」
「すまんな!」
「あぁ、ごめんよ。でもまずは、天使と女神に挨拶していいかい?」
「アルデュオ、いいから席につきなさい。この時期はニャロンの手でも借りたいぐらいだとさすがの貴方でも理解しているでしょ」
うん、腹黒眼鏡ド正論だな。いいから席つけや、脳筋見習え。
首根っこを引っ張られながら無理やり席につかされ、ぶーぶー文句言っているエセイケメン。
おい、しつこいと……ほら、やられた。
お高いストール的なもので口元を縛られているエセイケメン。すっごいほっぺたに食い込んどる。お前も知っとるだろ腹黒眼鏡の特技。何度縛られたら分かるんだよ。
うん、知ってた知ってたよ。お前の絶技……。前世でも片鱗がな……ファンディスクがR18になったの絶対こいつのせいだと思う……。
ま、まぁいいや。空気のようなプリメラたんに目線を送ると、同じような困ったような目線をくれた。なんかトップ連中がこんなで正直すまんかった。
「それで、メディオ殿下、何から決めるんだ?」
ようやく話が進み始めたよ、はよ帰りたいわ。帰りにプリメラたん城下のカフェに誘っちゃう? いや無理っしょ的な妄想してたら、アホ殿下が爆弾発言を落としてくれた。
「あぁ、まずは発表会のテーマと名前を決めたいと思う!」
おい!! 「――決めたいと思う!(キリッ)」 じゃないからね。盛り上がってる君らプリメラたんが微妙な目線なの気づいてる? 「貴女は何が良いと思う」なんて聞いてやるんじゃないよ、困惑しとるわ。
「いい加減にしてくださいませんか」
呆れを込めて強く言葉を発すると空気が止まる。
「ミレーレ君は……」
「インフィニーテ様はあまりご参加いただけないようですね」
はいはい、婚約者失格ですか? つかこっちから願い下げだけどな! その前に腹黒眼鏡、お前メディオの言葉遮っちゃってますけど? 不敬じゃね?
幻のブリザードが吹く間で、未だ口を縛られたイスナーンが意識を飛ばしているようだがスルーで。
そんな凍りつく空間を気にもせず脳天気な声が割り込んだ。
「んーならば、インフィニーテ様に決めてもらえば良いのではないか?」
ん? 聞き間違えかな? この空気読まないで俺に振るのか、脳筋よ。
「私がですか?」「そ、それ! とてもいいと思います」
被ったね、プリメラたん。そんなキラキラした目でおいちゃんを見ないで。
「メディオ殿下が決めたほうが良いのではないでしょうか」
俺の必死ななすりつけも全てはたき落とされる。
「いや、プリメラの言う通りミレーレに決めてもらおう」
「そうですね、インフィニーテ様ならさぞかし素敵なお言葉を考えられるでしょうから」
「うむ、俺もそう思うぞ!」
「むむ、むむむー!!」
コイツラ……。
アホぼんはプリメラを肯定する機械かな? 腹黒……もうこいつは眼鏡でいいや。眼鏡はは嫌味だろ。脳筋はそのままだし、エセイケメンは……眼鏡、いい加減解いてやれよ。何も分からん。
「……では、私が決めたもので異論はありませんわね?」
もうね、さっさと終わらせたいの一心で言葉が出てきたよ。どうでええわい。
「お願いします! インフィニーテ様」
プリメラたんだけが可愛いわ。
そして俺が言ったのは……。
『属性石発表会』〜属性の調べ〜
おい、俺が言うにしてはまともだと思ったやつ挙手しろ。
……お前は正しい。俺もそう思うからな!
いや、中身はどうであれ俺は公爵令嬢様だからな。アホなことは言えんわ。
ほんとは。
『ドキドキ属性パラダイス』〜ありのままの姿を見よ!! ポロリもあるよ〜
にしようかと思ったけどな、そんなん病院に運ばれるわ!
まぁ、俺は言ったからな。文句言うなよと周りを見渡すと明らかに微妙な空気だった。プリメラたんだけはキラキラしてたけどな! ……クッソ。
「ふむ、普通だな」――おい、馬鹿ぼんひねるぞ。
「普通ですね」――お前もか眼鏡。
「ははは、堅いな!」――うっさいわ、脳筋!
「むーむーむー」――分からん。いい加減取れ。
涙目でメガネに訴えたのが効いたのか、今思い出したのか。ようやくストールを外された。うん、顔に変な後がついてるイケメンて親しみがあるね!
「麗しのインフィニーテ様、私も考えました聞いて頂けますか?」
おかしな顔でふんすふんす言うから、鷹揚に頷いてやった。
うん、どうでもいいよ。
なぜか中央で、ちらりちらりとプリメラを見ながら芝居がかって声高に言う。
『ワクワク属性パラダイス!〜君も石博士になろう〜』
……。
…………。
なんか被ったうえに夏休みの自由研究みたいになっとる。少しでもかぶったことに俺は傷心だ。
「決定で良いのではないですか? 普通ではなく、固くなく、何よりもイスナーン様なら皆様よくご存知でしょうから。異論はないですわよね」
疲れたからこの話は終いだ。
そう牽制的にあたりを見渡せば、顔を青くした3人と、ニコニコ顔の2人。
よっし、これで今年のタイトルとテーマは決まった!
「イスナーン様のお名前もしっかりお入れいたしますからね」
「本当かい! それはとても光栄なことですレディ」
「お、おい!」
異論は絶対認めん!!