鬼灯のおちる夜
以前に制作した、ボイスドラマ用の台本です。
3年程前のものですが、こうして見返すとお恥ずかしい限りですね。
シーン1『回想』
蓮:妹が、空から降ってきた。
BG1
蓮:ありふれたライトノベルみたいに、突然現れた義理の妹と一緒に住んで恋に落ちるなんていう物語なら良かったんだけれど。
【SE:ぐちゃり、と人が落ちる音】
蓮:嫌な音と共に、故意に落ちてきたのは紛れもない僕の妹。一瞬目があった彼女は、寂しそうな顔で僕を見ていたように見えた。予想外が過ぎる事に対して反応ができず、ある種冷静になり、どうしてと考えながら目の前が真っ白になっていく。
BG1F.O
シーン2『日常』
榴:お兄ちゃん、お兄ちゃんってば。
BG2
蓮:え・・あぁ、なに?
榴:私が聞いてるんだよ。どうかしたの?何かぼーっとしてたけど。
蓮:あぁ。昨日も夜まで勉強してたから、ちょっと眠くって。
榴:来月から社会人になる人の生活とは思えないね。凄い大きなとこに決まったんでしょ?
蓮:うん。だからこそ置いていかれないように、少しでも使えるようにならないと。
榴:でもそれで体壊しちゃったら、元も子もないよ・・?そうだ!駅前に新しいドーナツ屋が来週オープンなんだって。気分転換に、今度一緒に行かない?
蓮:いや、お前もたしかもうすぐ期末試験だろ。落第なんてしたら父さんたちも悲しむぞ。
榴:う、そうだけど・・。でも、もうずっと二人で遊んだりしてないし・・・・。
椿:あら。私を置いて、二人でデートの相談ですか?
蓮:いや、デートじゃないよ・・・・って。
【SE:ゆっくり近づいてくる足音】
椿:蓮さん、榴ちゃん。おはようございます。今日も仲がいいですね。
榴:椿ちゃん!
蓮:おはよう。それより、今の会話をどう聞いたらデートの約束なんだよ。
椿:違うんですか?
蓮:違ぇよ。そもそもこいつは僕の妹だろ。
榴:愛の前には何も障害にはならないって、前に友達が言ってたよ?
蓮:その友達との付き合い方は一度考えたほうがいい。というか、お前まで悪乗りするんじゃない。
椿:ふふ・・・・。お二人は昔から変わりませんね。羨ましいです。
榴:ねぇねぇ椿ちゃん、こんなお兄ちゃんなんかほっといて早く学校行こうよ。
蓮:おい。でも確かに、二人はそろそろ危ないな。
椿:もうそんな時間ですか・・・あ、そうだ榴ちゃん。
榴:ん、何?
椿:今日学校終わったあと、ちょっといいですか?
榴:え?あぁ・・。うん、いいよ!
蓮:どうしたんだよ、何かあるのか?
榴:うん、ちょっと遊んでから帰るから遅くなるかも。
蓮:ちょっと、って何だよ?
椿:蓮さん、女の子同士の秘密というやつですよ。
榴:そうそう、だからお兄ちゃんは引っ込んでる。
蓮:ふぅん。まぁいいけど、危ないからあんま遅くなるなよ?
榴:大丈夫だって、じゃあ私たち行くね。お兄ちゃんも大学いってらっしゃい。
椿:それでは、また明日です。
【SE:二人が走り去る足音】
蓮:二人とも気をつけてな。ちゃんと勉強もしろよ。・・・・・・さて、僕も行くか。
BG2F.O
シーン3『遊戯』
BG3
【SE:駆け足で砂利道】
榴:ごめん椿ちゃん、遅くなっちゃった。
椿:えぇ本当です。暗くなってしまいましたし、寒いです。手も冷たくなってしまいました。
【SE:首を締める音】
榴:っ、・・・・・・つ、椿ちゃん。もうちょっと弱くしてもらえないかな・・?くび、苦し・・・っ。
椿:うん、榴ちゃんは暖かいですね、はぁーぬくぬく。
榴:つば、きちゃん・・・・。
椿:あら、ごめんなさい。これじゃ榴ちゃんが冷えちゃいますね、もっと強くしてあげましょうか。
【SE:首を強く締める音】
榴:・・・・っ!!
椿:そんなに顔を赤くして、喜んでもらえて嬉しいです。ですけど、腕が疲れてしまいました。
榴:・・・・っ!!かはッ、げほっげほっ・・・・・・。
椿:さてと。ではとりあえず、服を脱いでいただけます?汚してしまっては大変ですから。
榴:う・・うん、分かった。
【SE:しゅるしゅると、衣擦れの音】
榴:これで大丈夫?
椿:はい、ばっちりです。ではその辺に横になっていただけます?
榴:うん。
椿:私ずっと立っていたので足が痛くなってしまいまして。硬い砂利の上は疲れます。
【SE:革靴でお腹を踏みつける音】
榴:ぐ・・・・っ!!
椿:榴ちゃんは柔らかくて肌もすべすべで気持ちいいですね、羨ましいです。
【SE:お腹を強く蹴りつける音】
榴:・・・・う、ぁあ・・!!
【SE:びしゃびしゃと、吐き戻す音】
椿:あらら、大変。これではお腹が空いてしまいますね。けど安心してください、そうかと思って榴ちゃんのためにご飯を用意しておいてあげました。
榴:・・・・・・何、それ?
椿:さぁ?私、虫には詳しくありませんので・・。でも私、榴ちゃんのために頑張って用意しましたのに、食べてくれますか?
榴:うん・・・・・・もちろん。
【SE:甲虫系の何かを食べる音】
椿:榴ちゃんたら、口元が汚れちゃってますよ。ほら、これで綺麗にしてください。
【SE:バケツで水をかぶせる音】
椿:ほら綺麗になりました。
榴:はぁ・・っ・・・・・・はっ・・!!
椿:寒いんですか?仕方ない子ですね、ではいつものこれをしてあげましょう。
【SE:バチッ、とスタンガンの音】
榴:ッ・・・・!?
椿:これで暖かくなりましたかね?
榴:・・・・・・。
椿:あれ、寝ちゃったんですか?ほら、起きてください。
榴:う・・・・・・。
椿:おはようございます。今日はこれくらいにしておきましょうか。ほらこれで髪を拭いて、一緒にシャワーを浴びてから帰りましょうね。
榴:うん、ありがとう・・・・あ、でも。
【SE:ゆっくり砂利道の上を近づいてくる足音】
椿:!?・・・誰です?
友人:あ、あの。榴先輩・・・。
榴:私のお友達だよ、この子と一緒に帰るから、椿ちゃん先に帰ってて大丈夫だよ。
椿:そうですか・・・?それでは、また、明日。
榴:うん。また、明日ね。あ、そういえば椿ちゃん・・・。
椿:あ、そうそう。すいません(BG3F.O)、忘れてた事がありましたね。
シーン4『裏側』
【SE:ぴんぽーん】
蓮:ん?はーい。こんな夜遅くに、誰だろ。
【SE:玄関を開ける音】
記者:夜分遅くにすいません。鬼灯さんのお宅ですか。私、週刊月日の者です。
BG4
蓮:記者さん、ですか?うちになんの御用でしょう・・・?
記者:いえ、実はお宅の妹さんがこの街の高校で起きてるイジメ事件の関係者である可能性がありまして、お話を伺いたいなぁと。
蓮:え・・・。榴が、ですか?でも・・・。
記者:というか証拠の写真もあるんですよ。これ、妹さんでしょう?」
蓮:確かに、そうです・・・。!?このもう一人の方、まさか椿ちゃんか!?でも、そんなまさか・・・・・・。
記者:知ってますよ、お宅事故でご両親を失ってるんだそうですね。可哀想な身の上の子が更にイジメの被害者となってしまう、と。これは泣けるんじゃないかと思いましてね。
蓮:ッ!!ふざけないでください・・・っ!!
【SE:勢いよく玄関を閉める音】
蓮:椿ちゃんが、まさか・・・?榴だって、今までそんな素振り見せた事もなかったぞ。
【SE:玄関を開ける音】
榴:ただいま。ってお兄ちゃん?どうしたの玄関なんかに立ってて。
蓮:ざ、榴・・・!お、遅かったな、何してきたんだ、それに髪が濡れてるけど。
榴:?友達と遊んでから帰るって言ったじゃん、遅くなったのはごめんって。汚れたからシャワー浴びてきちゃったんだ、ご飯も食べてるから私もう寝ちゃうね。おやすみ。
蓮:あ、あぁ・・・。・・・・・・特に変な様子は無いよな、いつも通りだ。けど、あの写真はどう見ても榴と椿ちゃん、だったよな。・・・・・・。
BG4F.O
シーン5『背景』
【SE:キィ、と扉をゆっくり開ける音】
蓮:榴は、寝てるか。・・・・・・そういや、榴の部屋に入るのもいつ以来だろうな。
榴:・・・・・・んぅ。
蓮:・・・。?あれ、こんな本棚あったっけ。これは、アルバムか?・・・・・・後で怒られるかな。
榴:・・・・・・・・・。
蓮:・・・・・・少しだけ、ごめんな。・・・・・・!?何だこれ。
BG5
蓮:これは、榴と椿ちゃん?けど、けど何で榴は裸で、倒れてて、しかも頭踏まれてるんだよ!?・・・こっちは皿の上に、鳥の死骸?まさかな・・・。こっちの写真も、泥だらけで傷だらけで・・・。他にも・・・。
【SE:バサバサ、と複数のノートが落ちる音】
蓮:うわっ!まさか、この本棚全部・・・?どうして、こんな・・・・・・。榴・・・。父さん、母さん。僕は一体、どうすればいいんだろう・・・いや、違う。たった二人の家族なんだ、一緒に頑張って生きていこうって決めたんだ。僕が守らなきゃ、いけないんだ。
【SE:携帯をかける音】
蓮:・・・・もしもし鬼灯です(BG5F.O)、ちょっといいかな?
シーン6『会談』
【SE:ゆっくり近づいてくる足音】
蓮:ごめんね、急に呼び出して。
椿:いえ、すぐそこですし。蓮さんのお呼びとあらば。
BG6
椿:それで、お話したいことって何ですか?
蓮:・・・・・・この写真の事について教えてくれるかな。
椿:っ・・・。何の事もない、記念写真です。楽しそうでしょう?
蓮:へぇ、僕にはイジメの現場写真に見えるんだけど。最近学校でも話題になってるそうじゃないか。
椿:あら、誰が言い回してるのか分かりませんが、皆さん私たちの仲に嫉妬してらっしゃるんでしょうね。
蓮:こういう事は、いつからやってたんだい?
椿:私たちの付き合いの長さは、蓮さんもよく知っているでしょう?
蓮:まさか小さい頃、ずっと昔から?
椿:女の子の成長は男の人のそれより早いんですよ?ちょっと危ない大人の遊びに手を出したくもなるんです、そういう子はお好きじゃないですか?
蓮:うん、嫌いかな。(BG6F.O)・・・さっきから、否定しないんだね。
椿:・・・・・・それを見られてしまっては、なんと言い訳しても遅いでしょう?
蓮:一体どうして、こんなひどい事を榴にしてるんだよ、椿ちゃん。
椿:蓮さんのことが、好きだからです。
BG7
蓮:・・・・・・え?
椿:あなたの事を、好きだからです。
蓮:ちょ、ちょっと待って。何で僕が出てくるんだ?
椿:ずっと前からお慕いしてました。今日も夜に会えないかって言われたとき、凄く嬉しっかったんです。
蓮:質問に答えてくれ、それがこの事とどう関係があるんだよ?
椿:兄のように思っていた時もありました、ですがそうではないと気づくのに時間はかかりませんでした。
蓮:おい!僕は榴の事で・・・!
椿:それですよ。私が告白したのに榴ちゃんの話ばっかり。いつも榴ちゃん榴ちゃん榴ちゃん。あなたはそればっかり。蓮さんの視界の中心に、私が入ることはない。
蓮:・・・・・・だからだっていうのか?
椿:えぇ、それだけではありませんが。小さい頃から、榴ちゃんの事が嫌いでした。明るくて、可愛くて、お友達が多くて、蓮さんに大事にされていて。私の方が、お金もあって、勉強もできて、蓮さんのことをこんなに好きなのに・・・。
蓮:・・・。
椿:最初は、蓮さんのそばにくっついていたあの子が邪魔だったんです。ちょっと格好良いお兄さんを取られてるみたいで、むっとしてしまっただけです。ですが、時間が経つにつれて、私の思いは強く、その感情も高くなっていきました。三つ子の魂百までというやつですね、私の中で榴ちゃんをいじめるのは日常となっていきました。
蓮:・・・写真を撮ってあるのは、なんで?
椿:私の方が優れてるってことを見せつけてやりたかったんです。浅ましいでしょう?蓮さんには見られたくありませんでした。
蓮:こういう事をやめるつもりはないのか?
椿:無理ですね、蓮さんのお願いでも。さっきも言いましたように、これは私の日常なんです。これでも私、今の位置を保つために辛い中頑張ってるんですよ?・・・それにですね、最近は純粋に楽しいんです。あの子、何でも言うこと聞くんですよ?学校では人気者のあの子が、蓮さんの横で邪魔になってるあの子が私の言いなりになっていると思うと嬉しくて嬉しくて。
蓮:・・・。
椿:・・・・・・醜いでしょう、キモチワルイ女でしょう?これが私です。ですが、蓮さんのことが本当に好きなんです。何を言ってるのかと思われるかもしれませんが、こんな私でも、好きになっていただけたらと、今だからこそ思います。
蓮:・・・・・・椿ちゃん、君も大変だったんだね。
【SE:ゆっくり近づいてくる足音】
椿:蓮、さん・・・?
蓮:君の気持ち、すごく嬉しいよ。純粋に思ってくれてありがとう。その返事をしたいから、少し目を閉じててくれる?
椿:・・・・・・はい。
蓮:ありがとう。(BG7C.O)
【SE:ずちゃり、と刃物が刺さる音】
椿:蓮、さん・・・?
蓮:ごめんよ。あの子は、榴ちゃんは僕のたった一人の妹で家族なんだ。あの子にひどい事をする人を黙って見ておけやしない。警察に言っても、こういうのはよく扱ってはくれないだろうし。
椿:そう、ですよね・・・。当たり前ですよね。ふふ、私ったら。ちょっと期待しちゃってました。もしかしたら一緒になれるかもって夢見て。馬鹿な子ですね。
【SE:人が倒れる音】
蓮:本当は榴ちゃんにやってきたことをしてやりたいところだけど、僕も椿ちゃんの事は嫌いじゃないから。綺麗なまま、苦しまない顔のままにしてあげるよ。あぁそうだ、ちょうど名前と一緒だね。知ってる?椿って、綺麗な花がそのまま落ちるんだよ。
【ずちゅり、と首を切り落とす音】
蓮:・・・・・・。これで大丈夫だ、終わったんだ。
蓮:(内心)そうつぶやいた、けれどすぐには動けず。帰ろうと思うまでどれぐらいか長い間、それの目の前に立っていた。そして心の整理がついて歩き出し、ぼんやりしながらマンションの入口に到着し、安堵感からふと上を見上げると。榴が、屋上に立っているのが見えた。
シーン7『現実』
BG8
蓮:(内心)衝撃が強すぎて、一瞬だと思うけどまた長い間意識が飛んでいたような気がする。目の前を見ると、名前が皮肉であるように、頭が潰れて血が広がり、静かに倒れている榴がいる。
蓮:何で、何でだよ。どうしてなんだよ、榴・・・。(BG8F.O)・・・・・・ん?何か手に持ってるな。アルバムじゃない、これは、日記?
BG9
榴:夜、部屋に入ってきたお兄ちゃんが暫くしたら出て行ったので、何かなと思って着いて行ってみたら、お兄ちゃんが椿ちゃんをいじめていました。椿ちゃんにひどい事をしていました。私の、椿ちゃん。優しかった椿ちゃん。椿ちゃんは小さい時から、友達の少なかった私と遊んでくれました。色々教えてくれました、いっぱい食べさせてくれました。たまに痛いときもあったけど、後に必ず優しくしてくれました。大好きでした。お父さんとお母さんがいなくなってから、椿ちゃんは私の全てでした。でも、もういません。お兄ちゃんの事は好きでした、けどいつからか遊んでくれなくなって、寂しかったです。そして椿ちゃんを奪ってしまいました。もう私には誰もいません。私を見てくれる人は、誰もいません。
BG9F.O
シーン8『落第』
BG10
蓮:(内心)榴の遺書を握り締めながら、どれくらい歩いていただろう。どこを歩いていただろう。人にぶつかった気もする、殴られた気もする。怒りは起きなかった。榴もこんな感じだったんだろうか。ここは、何処だろう。体が冷えてきたな、ふらふらするし。このまま死んじゃってもいいのかな・・・。
【SE:ゆっくりと近づいてくる足音】
?:大丈夫ですか?こんなところにいては風邪を引いてしまいますよ。ほら、しっかりしてください
蓮:・・・誰、ですか?すいません、目がよく見えなくて・・・・・・。
?:寒かったでしょう。ほら、手を取ってください。
蓮:有難うございます・・・。(BG10F.O)
【SE:ずちゃり、と刃物で人を刺す音2(鈍くゆっくり)】
蓮:・・・・・・え?
友人:榴先輩・・・。やりました、私榴先輩の敵討てましたよ。褒めてください・・・。
蓮:あ・・・っ・・・・・・。
【SE:どさり、と人が倒れる音】
BG11
蓮:はは・・・何だよ、榴のやつ。ちゃんと自分を見てくれてる人がいるじゃないか。ちゃんと周りを見ろよ自分にはもう誰もいないとか、そんな悲しいことないよ。・・・でもまぁ、僕がその一人になれてなかったのが、悔しいよなぁ。僕だって割と、妹のためにって頑張ってたのにな。誰が悪いんだろ、誰も悪くないか。現実を見ずに、身を打った榴。僕の事だけを見ていて、首が落ちた椿ちゃん。僕は妹のことをちゃんと見えてなくて、兄として、家族として落第って事か。まったく、僕にはいいとこなしか、華がないよね。腑に落ちないね(BG11F.O)、ヒドいオチだよ。
ED