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勇者召喚

長くてごめんなさい。説明回です。自壊から少しずつ物語が動く予定です


 「うわぁっ!」

 

 唐突に僕は地面に投げ出された。

 その直後。


 「うおっ!?」

 

 と、塔剛が野太い声をあげ僕の上へとのしかかっている。塔剛は中々僕の上からどこうとしない。 わざとやってるんじゃないだろうな。


 「おっと」


 僕と塔剛が絡み合っているのを横目に剣崎は一人綺麗な着地を見せていた。

 こんな場面でもスタイリッシュに決めるのは流石としか言いようがない。

 僕は転んだ拍子にずれた眼鏡をメガネを掛け直す。


 正面には立派な髭を蓄えた中年の男。怪しげなローブを纏った痩身の男。

 白銀に輝く甲冑を纏った男が立っている。

 僕達の周りを囲んでいるのは武装した兵士達。

 どうやら僕が空間の歪みの中で見た場所に転移してきたようだ。


「どけっ!」


 僕は先に起き上がった塔剛に蹴飛ばされた。どっちかと言えば僕のセリフなんだけど。

 また殴られたら堪らないので、少し離れた場所で僕は立ち上がった。

 塔剛、マジで死ね。


 「待っててな! ケモミミちゃん達。あなたの勇者が今行くで! ぶべえっ!」

 

 突然背後から声がしたと思ったら見知らぬ誰かが、顔から絨毯へとダイブしていった。

 僕らとは違う制服を着ているようだけど。誰?


 そいつはがばっと身を起こした後こちらに目を向けた。

 そのままじっとこちらを見つめている。


 「ちぇ、勇者って俺1人じゃ無かったのかいな!」


 「えっと、君は」

 

 と、僕の疑問を代わりに剣崎が尋ねた。そして、剣崎は見知らぬ生徒との接触を試みることにしたようだ。相手の生徒も剣崎に応じて会話を始める。

 人見知りな僕にはちょっと出来そうもない。


 「その制服。見たとこ北校の生徒やろ。俺は東高に通ってる元宮成晃もとみや なるあきや。よろしゅうな。に、しても偶然北校の近くを通ったらいきなり不思議ゲートが開いとるやんけ。びっくりしたわ。で、自分、名前は?」


 「僕は剣崎龍哉。そっちが塔剛で……えーっと」

 まぁ隣のクラスだったし、当然影の薄い僕の名前なんか知らないよな。

 「……真那瀬です」


 「おう。同じ異世界召喚仲間同士、仲良くやろうや!」

 元宮はかなり調子のいい性格をしているらしい。

 初対面の僕らにやたら親しげに話しかけてくる。

 「お前ら、何のゲームが好きなん? ここに来たっちゅー事は異世界召喚に憧れてたクチやろ。わかっとる。わかっとるで。あんなの見たら普通飛び込まないわけにいかへんやろ」

 

 元宮が僕をじっと見ながら話しかけてくるので、どう答えようか困った僕は剣崎を見た。

 僕には今までの人生で友達がいたことが無い。正直、人との会話は苦手なのだ。

 馴れ馴れしいタイプは特にそうだ。

 しかし、頼みの剣崎は愛想笑いを浮かべて目を逸らした。逸らしやがった。


 「僕、あんまりゲームしないんだよね……」

 

 と、言って。

 そしたら元宮の奴、こっちを見るではないか。

 仕方なく僕が元宮にどう答えようか迷っていると。



 「おー、ごほんっ!」

 

 何だかわざとらしい咳払いが正面から聞こえてきた。

 周囲からのただならぬ威圧感を無視するわけにも行かず、僕は正面の髭男を見た。

 正直助かった。


 「よくぞ参った勇者殿。ワシはリナシェの王じゃ。早速勇者殿に今の状況を説明……と、言いたい所なんじゃがいささか数が多いようじゃの? まずはどの者が勇者であるかはっきりさせたい。順番にステータス鑑定を受けて頂きたいのじゃが、よろしいじゃろうか?」


 「なんやて! ステータスやと! マジでゲームみたいやな。 それってすぐ見れるんかいな?」

 

 と、元宮が身を乗り出して食いついたのを剣崎がひとまず手で制する。

 そしてそのまま自然に会話の主導権を奪った。


 「その前に一つ聞いてよろしいですか? ここはどこでしょうか? 僕らはよくわからない空間の歪みに飲まれたのですが。もしかして歪みの中の世界なのでしょうか?」

 

 剣崎が僕らを代表して聞く。それは僕も知りたかったところだ。

 しかし、王様ではなく元宮が代わりに、

「そんなん。勇者召喚に決まってるやろ! だからはよ、ステータス確認を」

 と口を挟んだ。凄い自信だ。それと、ステータス確認って何だ?

 

 元宮が騒ぎ剣崎が現状把握に努める中、そういえば塔剛だけがやけ大人しいなぁと思ってそちらを見れば、何故か僕のことを親の敵でも見るような目でじっとこちらを睨んでいる。

 僕は睨み返そうとして、慌てて目をそらす。 塔剛ははっきり言って憎い。

 しかし、この場で取っ組み合ったり言い争いできる空気ではなさそうだ。

 そんな事をして、王様を無視してもめ事を起こしたから不敬罪的な感じでとっ捕まったら洒落にならないからね。

 それに、塔剛と僕では埋めようも無いほどに戦闘力に差がある。

 無策に襲いかかったところで結果は目に見えている。

 以上の理由を並べて僕はぐっと堪える。


 「……うむ。して、そちらの者はどうして勇者召喚だと知っておるのじゃ」

 と、元宮に王様が言うと、

 「うお、やっぱりか!」

 元宮はあれだけ自信満々に答えていたくせに、何故か驚いていた。当てずっぽうだったらしい。

 元宮はその後すかさず「異世界ファンタジーの定番やろ。ゲーマーの勘や」とそれについてのちょっとした補足も入れていた。


 「なる程、ゲームとはわからんが勇者の世界ではそのような物語が逸っておるのか。魔王を打ち倒すのが定番とな。そこまで把握しているのならば簡潔に説明しよう。この大陸の各地にはかつて世界を支配しようとした魔王の四肢を封印した迷宮がある」

 「わかった。ダンジョンやな! 宝箱や魔物がわんさかおる」

 「ああ、よく知っておるな。それも物語に出てくるのか? いや、よい。話を続けさせて貰おう。して、そのダンジョンに施した封印は約百年周期でとけてしまうのじゃ」

 「と、なると魔法の四肢が復活するっちゅーことか?」

 「その通りじゃ。魔王の四肢は凶悪なモンスターとしてダンジョンの最下層部で蘇る。勇者殿にはその魔王の四肢が合体して再び一つになる前に再討伐して欲しいのじゃ」

 「ダンジョンの攻略か。おおおおおっ! 燃えてきたで!」

  

 自称ゲーマーの元宮は勝手に話を進めて1人で盛り上がっている。

 正直僕はゲームなんてまだ父さんが生きていたくらい昔にやったきりだから元宮と王様と名乗る男性の話はあまりわからなかった。

 それは剣崎も同様だったようで。


 「あまり詳しい事情はわかりませんが。何故この国の問題によそ者の僕らが対処を任されるのでしょう? 討伐というくらいですから戦いになるのでしょう? 僕らは戦ったことはありませんしただの学生でしかありません。正直、あちらの騎士の方のが強いかと」


 「それについても説明しよう。異世界から召喚された勇者は必ず強力極まりない三つのスキルを持っているのじゃ?」

 「スキル?」

 「まぁ、それは実際に見て貰った方がわかりやすいじゃろう。ステータス鑑定を行うので其の方からこちらへ」

 「……あ、はい。それで疑問が解けるのでしたら」

 「あ、ステータス鑑定一番乗りは俺やぞ。勝手に割り込まんといてや!」


 元宮は慌てて抗議したが、とっくに剣崎は王様の元へと向かっていた

 王様の近くまで来ると、ローブを纏った男が王の前へと出る。


 「それでは……【鑑定】」


 ローブの男がそう呟くと剣崎の前にパソコンのウィンドウのような物が現れた。

 そこにはこう記載されている。


―――――――――――――――――

 ケンザキ・リュウヤ LV1


 HP 105/105

 MP 52/52


 ATK 25

 VIT 20

 SPD 18

 MAG 15

 LUK 35

 

         SP 0 


 所持スキル


 <アクションスキル>

 

 【武器創造LV1】


 <パッシブスキル>

 

 【超再生】 【勇者】

―――――――――――――――――

 

 「あの、これで何がわかるのでしょう?」

 剣崎はおずおずといった風に聞いた。それに対してローブの男が答える。


 「はい。その者の能力を大まかに把握できます。例えば、HPは現在の体力と万全の状態の体力を顕し、現在値が0になると死んでしまいます。HPが減る要素としては病気や毒などで体調を崩したり、怪我をしたりといった事が挙げられます」

 

 「つまり、今の健康な状態が最大値って事で死ぬような怪我をしたら0になるって事ですか?」

 

 「はい、その認識で大丈夫です。続いてMPですが体内の魔力量と魔力の最大蓄積量を表します。また、MPは主にスキルや魔法を使用するときに消費されます」

 

 「その魔法というのがよくわからないんですが」

 剣崎が尋ねると王様が答えた。

 

 「魔法に関してはそのうち嫌でも覚えて貰うことになる。その時に詳しい説明をする」

 流石にそう言われては剣崎も二の句を継げなかったようだ。 


 「では続けます。ATKは攻撃力。筋力と思ってくれて結構です。高ければ相手のHPをより減らすことが出来ます。VITは体の頑丈さです。高ければHPの減少を食い止めることが出来ます。SPDはその者が出せる最大速度です。言い換えるならば走力でしょうか。MAGは最大魔力放出量です。この数値によって使用できる魔法の幅や威力に関わります。最後にLUKは運の良さを顕します。基本的なステータスの説明は以上ですね」

 

 「なるほど。ではこのSPと言うのは?」

 

 「これはスキルポイントですね。消費することで新しいスキルを覚えることが出来ます。通常は1レベルに1しかあがりませんが、勇者は3あがるとされています。こちらについてはレベルが上がった時に詳しい説明させて頂きたいと思います。では最後に所持スキルの効果をお伝えしてよろしいですか?」

 

 「はい、とりあえずお願いします」


 「まず<アクションスキル>からです。<Aスキル>というのは所持者が使う意思を見せたときのみ発動するスキルです。私の今使っている【鑑定】なんかもそうです。そのスキルによると、あなたの【武器創造】のスキル説明欄にはこうあります。<MPを消費して一度見たことのある武器を一定時間再現できるスキル>と。どうやらレベルが上がることで同時に作り出せる武器の数が増えたり威力の上昇が見込めるようです」


 「えっと、使い方は?」


 「【武器創造】スキルを使いたいと思ってみて下さい。それだけで使い方が理解できるはずですよ」


 しばらくの沈黙の後に剣崎の右手が光に包まれる。

 その光が消えた時、剣崎の手には日本刀が握られていた。


 「うわ。本当に出来た。でもこれ、どうやって消せばいいんだろう」


 「私が見た説明の限りでは放置しても一定時間で消えるみたいですが、とりあえず落ち着いて【武器創造】の使い方をもう一度確認してみて下さい」

 

 剣崎の手元からスッと刀が消えた。


 「あ、こうすればいいのか? あれ、でもなんか疲れたな」

 「それはMPを消費したからですね。すぐに慣れますよ。あ、そうでした。言い忘れていましたが一度MPが0になると満タンに回復するまで気絶するので注意して下さいね」

 

 「……ああ、はい。しかし先程からいろいろと起こりすぎて何がなんだか」

 

 「気持ちは何となく察しますが、もう少しですのでおつきあい下さい。最後に説明するのはパッシブスキルです。あなたは【勇者】と【超再生】持っているようですね」


 「なんとっ!」「なんやてっ!」


 王様と元宮の声はほぼ同時だった。

 王様がローブの男に語りかける。

  

 「おお、なるほど。ではこの者が『勇者』というわけじゃな」

 「はい。恐らく、そうなりますね。当たり前ですが【勇者】のスキルは勇者しか持っていないスキルですからね。それはそうと説明は最後までさせて頂きますよ。まず【超再生】のスキルからです。これは単純にHPとMPの自然回復速度が100倍になるスキルですね。大変珍しいスキルです。私も初めて見ましたよ」


 「なんとっ! それは凄いでは無いかっ。伝承によると、確か勇者の持つ<Pスキル>はパーティメンバー全員が共有できるのじゃろう!」


 王様が身を乗り出して叫んだ。


 「はい。確かそうですね。あと、他にいくつかの特典もあったかと。このままの流れで<勇者>の方のスキルも確認次第説明させて貰います。<勇者>のスキルの内容は……って、えっ、これ流石に嘘ですよね。ちょっと凄すぎませんか」


 ローブの男は驚いた顔をして固まってしまった。

 その様子を見た元宮が悲痛な叫びを上げる。


 「なんやて! 勇者ってのはそんな強いんか。どのゲームも基本勇者は世界に一人が原則や。うう、俺の異世界始まる前に終わってしもうたんや」


 「……すみません。では続けさせて貰います。勇者のスキルは取得経験値三倍、ステータス成長率三倍、スキルポイント三倍。【勇者】スキル所持者をリーダーに四人までのパーティ編成と、その効果による経験値共有、パッシブスキルの共有です。【勇者】自体もパッシブスキルですからパーティメンバーも同様の補正を受けられることになりますね」


 「おお、大分詰め込んだ効果じゃのう。少し聞き逃したのじゃが、もう少しわかりやすくならんか?」

 「えっとですね。勇者は自身を入れて五人チームを組むことが出来て、そのメンバーは三倍の数のスキルを覚えられて、単純にステータスが三倍強くなる。普通とどめを刺した者にしか入らない経験値をパーティ全員で同量取得できる。それも通常の三倍の量を。こんなところです」


 「チートや。そんなんチートや。ずるいで自分!」


 元宮が剣崎を指さして涙を流しながら叫んでいる。そんなに悲しかったのだろうか。



 「さて、無事に勇者の召喚が出来たことは確認できたわけじゃが、残りの者の待遇はどうしようかの? 勇者によるダンジョン制圧が終わるまで国賓待遇で扱ってもいいのじゃが」


 「だったら、王様。一つ聞いてもええか? この国には冒険者はおるんか?」

 

 「おる。先程も言った我が国のダンジョンに挑戦する者も多いと聞くぞ。なりたいのならばギルドに行くことじゃな」

 

 「決めた。勇者で無くとも俺は冒険者になりたい。世界の運命とかは荷が重くても俺だけの冒険が出来るはずや。じっとしてるのも性に合わんしな。だから、可能であれば今後の参考にステータス鑑定をして貰いたいんや」

 

 元宮が頭を下げると、ローブの男が素早く答える。

 

 「構いませんよ。元々全員行うつもりでいましたからね」

 「じゃ、早速頼むわ」

 

 ローブの男の前に元宮が行くと、先程と同じようなウィンドウが現れた。


 ―――――――――――――――――


 モトミヤ・ナルアキ

 HP 75/75

 MP 65/65


 ATK 18

 VIT 15

 SPD 28

 MAG 16

 LUK 24

        SP0



 <アクションスキル>

 【完全魔力吸収壁】


 <パッシブスキル>

 【完全見切り】【勇者】


―――――――――――――――――

 「……驚きました。どうやらあなたも【勇者】のスキルを持っているみたいですね」


 「なんとっ!」「なんやて!」


 このやりとりさっきも見たな。この二人は驚くのが好きなのだろうか。

 王様が続ける。

 

 「普通、召喚される勇者は一度に一人が原則では無いのか? 伝承では常に一人であったぞ」

 「……そのはずなんですがねぇ。現実こうして二人現れているわけですし」

 「……ふむ。そうなると勇者パーティにと我が国で用意した人材についてもう少しばかり考えねばならんな」


 王様は何かを考え込んでしまった。


 「……さて、あなたのスキルについての説明ですが。どちらも受動的ですのでここは一つ私から攻撃させて貰いたいと思います。ただの炎魔法なので軽く受け止めちゃって下さいね。スキルの使用方法はわかってますね」

 「確か、スキルを使いたいと思えばいいんやな」


 「はい、結構です。ではかるーく行きますよ。炎の理をこの手に宿せ。吹きすさぶは灼熱の神風。炎熱の化神よ立ち上がれ! 【メルトフレイム】!」


 ローブの男の頭上に2メートル大の大きさの火球が出現した。


 「ちょ、ちょっとでか過ぎひん!?」

 「大丈夫です。これでも押さえているので。それに、説明を見る限りは問題ないはずです……多分ですけど」 

 

 「多分ってなんやああああっ」

 「それっ!」


  炎の玉が元宮へと接近する。

 人の体よりも遥かに大きな火の玉だあれに包まれたら一瞬で黒焦げだろう。

 だが、そうなるよりも速く火の玉は霧散した。

 よく目をこらすと半透明の膜が元宮の体を覆っている。

 散り散りになった炎のカスは元宮の周囲に展開する膜に吸収されてやがて消えて無くなった。


 「ふむ。手加減したとは言え最強の炎魔法ですら吸収してしまうとは。勇者の持つスキルとは凄いものです。魔法に対する完全耐性があるとは。と、言うわけでザイラスさんやっておしまいなさい!」


 ザイラスって誰だろう。と、思ったときには一人の男が動き始めていた。

 すっかり忘れてたけど、ローブの男と王様の横に最初から立っていた鎧の男だ。


 「う、うわ。なんやぁ!」


 男は元宮まで一瞬で距離を詰めた。 

 そのまま男は目にもとまらぬ早さで剣を抜き、わずかな光芒のきらめきだけを残し真横に剣を振り抜いた。剣の軌道には元宮がいたはずだ。

 僕は、間違いなく元宮が斬られたと思った。


 「いきなり何すんねん! 驚くやないか!」


 と、ブリッジをしながら元宮が言った。どうやら紙一重で避けていたらしい。

 恐るべき反射神経だ。


 「はい、これがあなたのPスキルです。物理攻撃を完全に予測察知する能力ですね。常時発動ですから今みたいな奇襲にもしっかり対応が出来ます」

 「だからといってこの説明は心臓に悪いわ!」

 

 「いやぁ、それにしても我が国最強の騎士の剣を躱すとはお見それしました。それに私の魔法を打ち破ったのも見事です。これでも私、宮廷魔導士筆頭と呼ばれてるくらいですからそれなりにバリアを破る自信あったんですよ。いやいや、これでまだレベル1と言うのだから勇者とは末恐ろしい」

 「破るって当てる気だったんかいな!」

 「当たらなかったんだから良しとしましょう」

 「良くないわ!」


 しばらくもめた後、ローブの男は元宮との話を打ち切った。


 「さて、もう一つの【勇者】のスキルはもう理解できているでしょうし、あなたのスキルについての説明はこんな所ですかね」


 「……終わったようだな」


 いつの間に塔剛がローブの男に距離を詰めていた。


 「次は俺を試せ。そいつらに特殊な力が宿ったのは見てわかった。もし、その力を手にできればただでさえ強い俺は最強になれるからな」

 

 そう言えば塔剛って趣味は喧嘩と弱い物いじめと自分で言っていた。

 人をいたぶるためだけに強くなろうとするとは最悪だな。

 だが、その人柄をローブの男は知らない。


 「ああ、はい。わかりました」

 

――――――――――――――――― 

 トウゴウ・チョウジ


 HP170/170

 MP15/15


 ATK 35

 VIT 30

 SPD 11

 MAG 2

 LUK 15


      SP0


 <Aスキル>

【蹂躙】


 <Pスキル>

【狂戦士】【勇者】

 

―――――――――――――――――


 「……なるほどなるほど【蹂躙】は使用中に攻撃力が倍になる代わりに防御が半分になるようですね。【狂戦士】は理性を失うほどに闘争心が高まったとき、HPが1以下にならず動き続けられる能力みたいです。どんなにダメージを受けても気力が持つ限り倍の攻撃力で暴れ回るわけですか。恐ろしいですね。そして彼もまた勇者であると」


 こう言っては何だけど、前の二人より能力が見劣りするような?

 説明も大分あっさりしている気がするし。

 【蹂躙】はデメリットがあって使いどころを選びそうだし。

 死なない能力も、理性なかったらあんまり意味なさそうだしね。

 これなら、僕の能力次第では塔剛に勝てるかも知れないな。


 「……ふん」

 

 塔剛はどう思ったのか鼻息を一つならしただけだった。


 「では、最後の方もこちらへどうぞ」


 どうやら僕の番が来たようだ。


―――――――――――――――――


 マナセ・トウマ


 HP 20/20

 MP 20/20


 ATK 4

 VIT 3

 SPD 5

 MAG 5

 LUK -962


―――――――――――――――――



 あれ、他の3人より数値が大分低くないか?

 でも、変な横線は言ってるけどLUKだけは数値が突き抜けてるぞ。

 あれ、でも僕そんなに運良かったっけなぁ?

 う~ん。いや、でも、まだスキルがあるし。




 <Aスキル>

 【呪眼】


 <Pスキル>

 【レベル1固定】【勇者】



 ……う~ん。【レベル1固定】って弱そうな気がするなぁ。

 【呪眼】は文字から判断するに結構強そうだ。

 ローブの男は何やら難しそうな顔をしている。


 「……こ、これは凄まじく酷いですね。ステータスは一般平民の半分しかありません。もっと凄いのがマイナスがついているステータスがある事です。こんなの初めて見ましたよ。とんでもなく運が悪いんでしょうね。所持スキルもデメリット効果しかありません。これだったら一般平民の方がよっぽど強いかと」


 「具体的にはどう酷いのじゃ?」

 王様が聞いた。

 

「呪眼の説明には<呪われた眼。目に映る全てを呪う眼。行き場を無くした呪いが渦巻く眼。呪いによって自身の視力が急速に下がる>としか書いてありませんし、【レベル1固定】は名前通りレベルが上がらないだけだと思われます。一応【勇者】のスキルはあるみたいですが、【勇者】の成長補正も【レベル1固定】のせいで見事なまでに全く意味が無い物になっていますね」


 「……ヒソヒソ(つまり、あれじゃな。 ゴミじゃな)」

 「ヒソヒソ(ええ。ゴミですね。時間経過で目まで見えなくなるのでゴミ以下かと)」

 「ヒソヒソ(う、うむ。本来一人召喚される所を四人も召喚できたんじゃ。一人ぐらいハズレ勇者が混じっていても目を瞑ろう。むしろ、三人の素晴らしい勇者を召喚できた事を喜ぼうではないか)」

 「ヒソヒソ(そうですね。勇者の中に平民が混じっていたと思うことにしましょう)」

 

 王様とローブの男が小声で話している。いや、聞こえてるからね。


 「……ぷっ、あっはっはっはっ。もう駄目や。堪えきれん。あんま笑わせんといてや! 流石、運がマイナスな男やで!」

 

 隣で元宮が遠慮無く僕を指さして笑っている。ばんばんと背中を叩いてくる。

 とても今日初めて会ったとは思えない態度だ。何か非常に居たたまれないんだけど。


 「……あんま笑わないでくれるかな」


 「無理やって。何で異世界召喚されてまで制限プレイしようとする奴がおるん。普通【レベル1】固定って2周目以降のやり込みプレイ御用達スキルやないか!」

 「そう言われても、僕、ゲームとかあまりやらないし、よくわかんないんだ」

 「……そうか。それでこの仕打ちはあまりに災難やな……ぷっくっく。すまん。まだ笑いが止まらん」

 悪気があって笑っているわけでは無いし……まぁいいか。そう思いかけたとき。

 

 「ぶわはははっ! 実にとんまじゃねぇか。ザコの中のザコ。お似合いだなぁ! 役立たずのお荷物野郎! 実にお前らしいじゃないか!」


 と、悪気100%で笑う男の声が聞こえた。


 「よさないか。僕らは見ず知らずの地に来ている身。知人はここにいるだけしかいないんだ。今はいがみ合っている場合じゃ無いと思うよ」


 剣崎は訝しげな顔で塔剛を見ている。


 「けっ、優等生が偉そうに。大体俺がここにいるのはお前のせいだってのによぉ」

 

 塔剛が剣崎に掴みかかる。


 「折角得た力だ。早速試してやろうじゃ無いか。【蹂躙】」


  剣崎は身を捻って塔剛の手を躱したが、スキルを使うかまでは思案しているようだった。

 


 「静粛にしろ! 王が話があると言っている」 


 ザイラスという鎧男の声が通った。僕らは一様にそちらを向く。

 


 「……いきなり召喚してすまなかったの。気が立つのも無理の無い事じゃ。とりあえず今日はとびきりのご馳走を用意させよう。勝手な都合で呼び出したワシが言うのもあれじゃが、ぱーっと宴でもすれば気分も少しは晴れるじゃろう。すぐに部屋も用意させるから準備が出来るまでそちらで休んで貰いたい」 


 □

 ■

 □



 その後、僕らは部屋に案内された。

 先程のやりとりで気を遣われたのか僕らに割り当てられたのは個室だった。


 「では、宴の準備が出来ましたらもう一度呼びにきますので」


 給仕服を着た女はそう言い残して部屋を出て行った。

 僕は部屋を見渡す。僕が母さんと暮らしていた六畳間の倍は広い。

 ベッドもふかふかで、僕の家で使っている虫食いだらけの布団とは大違いだ。

 家具も立派な造りのものばかりだ。どれくらいの値段がするんだろう。

 僕の住んでた部屋には家具が殆ど無かったから比較対象が無い。

 僕は部屋を一通り確認した後、吸い寄せられるようにベッドに向かった。

 きっと疲れていたんだと思う。


 ……どれくらいが立ったのだろう。

 不意にガチャリと扉が開いた。

 そろそろ宴の時間なのかな。

 そう思って扉のほうを見ると大柄な男が意地の悪い笑みを浮かべて立っていた。


 「……な、塔剛!」

 「よう、とんま。お前のHPは確か20だったよなぁ。くっくっく」

 塔剛は僕の髪をわしゃりと掴むとをベッドから無理矢理引き起こす。

 そしてそのまま僕の体を持ち上げた。

 いつも以上の馬鹿力だ。きっとスキルを使っているのだろう。

 

 「な、何を!」

 「知ってるか? とんま。ここは三階らしいぜ。もし、ここから落ちたらどうなるんだろうなぁ。生きるか死ぬか。どちらにせよダメージの目安にはなるだろう。今後俺が生き延びるための実験台として派手に散ってくれ!」」


 塔剛は僕を抱えたまま部屋を歩き、窓を開け放った。 


 「やめろおおおっ。 はなせぇぇぇっ」

 僕はじたばたと暴れる。しかし塔剛は涼しげな顔で歩を進める。

 

 「……なぁとんま、異世界でも日本の法律は通用すると思うか? 俺はずっとお前を殺したくて仕方が無かったんだ。俺は忘れちゃいねぇぜ。かつて貴様の犯した罪を」


 「……な、何の話だよ!」


 「……ああ、当然てめぇは知らねぇよなぁ。貴様は地獄を目の前に、たった一人全てを忘れて逃げ出した臆病者だ、そして遙か昔、貴様と俺は出会っている……いや、そんな話どうでもいいか。俺は貴様に復習するためだけに生きてきた。そしててめぇは死ぬ。それが全てで真実だ」


 その言葉に僕は一気に青くなった。コイツは何を言っているんだ……?


 「はなせえええええっ」

 僕は必死に叫んだ。

 しかし、為す術なく僕の体は風に煽られ始める。塔剛が窓から両腕をつきだしたからだ。


「そうか。とんまはそこまで手を離して欲しかったのか。よし、離してやろう」


 支えを失った僕の体は急降下を開始した。

 落下する僕が見たのは塔剛の満面の笑み。


 ――畜生! あいつ絶対いつか殺してやる!

 

 そう思う事が出来た時間は一瞬。

 間もなく僕の思考は「痛い」という言葉だけに支配されることになった。

 僕は為す術もなく地面に叩き付けられたのだ。

 腹部を強く打ち付けた苦しみで呼吸さえままならない。

 とっさに頭だけは両手で庇った。下敷きになった方の腕の感覚があまりない。

 ぶらりと力なく垂れ下がっている。折れているのかもしれない。


 かひゅー、かひゅーと荒い呼吸を続けながら僕は地面をのたうち回る。

 次第に目の前が霞んできた。

 僕は死ぬのだろうか?

 僕が死んだら母さんは……誰もいない病室で一人僕の後を追うのだろうか。

 ……はは、ここって異世界なんだっけ。じゃあ、死んでも一人か。


 思えば、ロクでも無い人生だった。失うばかりの人生。

 そのくせ最後まで不幸だけが纏わり付いていた。


 「……呪ってやる。こんな人生」

 


 <【呪眼】のレベルが2に上がります。LVMAXで……【???】……ます>


 「侵入者だ! 全く、どこから入り込んだ!」

 「くせ者! であえ、であえ」


 どたどたとお城の兵士が慌ただしく走ってくるのを僕は最後に見た。

 そして、意識が遠のいていった。

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