とらわれた白鳥と冬の女王
マリエは冬のタペストリーで指さしたのは、湖に浮かぶ一羽の白鳥が織り込まれてる所です。クリスは、一羽だけのなのを、ちょっと不思議に思いました。
その白鳥のいる場所は、湖の東の端、タペストリーでは他の白鳥は、西のほうにたくさん集まってる様子が織り込まれてます。
「あのね、女王様。マリエ見たの。この白鳥は、あまり動かず、飛んで餌を探しに行く事もないの。それに、ダンダンやせていってる気がする。で、この白鳥を助けてほしい。」
クリスはすかさず、
「マリエ、湖の東の端は鬱蒼としてるから、行ってはいけないって、じいちゃんにいわれてたよね。それに、その話しの様子なら、何度も見に行ってるんだな。わかった。それで、体が冷えて熱が出たんだ。まったく。」
クリスの言葉にマリエは、身を縮め下を向いてしまいました。クリスに、もっと怒られると思ったのでしょう。
実際、湖の東の端は日当たりの悪い処も多く、マリエ一人で行くには、あぶないかもしれません。村人は、魚釣りにくる村人が、たまにここの船着き場を使う程度でヤブもマリエより丈が長く、見通しも悪いです。
「クリス、怒らないであげて。私も、この部分が心にひっかかったんだ。だから、タペストリーも完全には仕上げてないの。」
クリスがもう一度、タペストリーの中の白鳥を見てみると、群れている白鳥たちも、何か不安そうな顔をしてるきがしました。
「女王様、女王様って塔を出て、出歩いてもいいの?」
マリエが、無邪気に聴きました、それはクリスも気になってたところです。
冬なら冬、春なら春の女王が、ずっと塔の中にいるから、その季節が続くと思ってましたから。
「お姉さま、えっと前の冬の女王からは、何か異常がないかどうか、見回るのも仕事と教わったの。でもその間は、体は塔の中にあるので、門に命令して人が入れないようにしてあるけど」
一度、村人たちが、おしかけてきたけれど、門を通る事も出来ませんでした。冬の女王は見回り中だったのでしょう。クリスも不思議に思って事が、わかって、スッキリしました。
「私、何度も見回って、クタクタになるほどね。そして、最後の仕事としてタペストリーを作ろうと思ったら、糸がないの。すごく困ったわ。あの時は。」
もし、白鳥の事が解決したら、冬の女王は帰る事が出来るかもしれない。クリスにはそれが嬉しく、そして寂しい思いでした。せっかく仲良くなったのですから。
3人は急いで螺旋階段を降りて行きました。クリスは、まだ、考えてます。
(冬に弱って死んでいく動物も多い。それをいちいち救っていたら、キリがないじゃないか。)
それでも、女王様が元気を取り戻したので、よかったといえば、よかったのですが。
塔を出ると、ユーリとネビルら、クリスより2、3さい年上の子達が、塔の庭で何かつくってました。
「ユーリ先輩、雪で何を作ってるのですか?」
「やあ、クリス。冬の女王様は元気ですか?仕事が全部終わったら、楽しんでもらおうと、雪で滑り台と迷路を作ってるんだ。あんな小さい子だ。遊んで楽しい思い出にしてもらおうと思って」
マリエと女王様が、その事を聞いて、手をとりあって喜んでます。
「あの、門は開けて置きます。出来上がったらすぐに、皆でここで遊んでいてください。たくさん人がいるほうが、私はうれしいです。」
ユーリとネビルは、その言葉を聞いて、もっと早く出来上がるよう、ヒマな大人たちにも声をかける事に決めました。(本当は、自分たちがはやく遊びたかったのかもしれませんけど)
門をでると、村長が、馬ソリでやってきたところでした。クリスは急いで女王様を紹介。白鳥の事を説明しました。
「今日は、タペストリーを見にきたのですが、そういう事なら湖の東端に行きましょう。怪我でもしてるのなら、あの近くに鳥先生がいるので、診てもらいましょう。どうかソリにお乗りください。女王様」
三人が乗り込むと、ソリはとぶように走っていきます。すれ違う村人の中では、”何事か?”と心配してついてくるものもいます。
冬の女王様は、白鳥の事が心配といってたけれど、馬ソリ初体験で、ウキウキしてるようです。さっきの村長の話しにでてきた”鳥先生”の事を聞いてきました。”鳥が先生をしてるの?”と思わず吹き出すクリスでしたが、ちゃんと女王様に説明しました。
鳥先生は、この村の近くにいる動物や鳥を調べてる学者で、メガネをかけ、白くないヨレヨレの白衣を着てる人です。この村ではこの鳥先生に、冬の間、子供たちに勉強を教えてもらうよう、頼んでいたのでした。湖のそばで鳥の観察をするのが日課で、そういうあだ名になりました。
女王様はコロコロと笑い出しました。マリエもつられて笑ってます。
「ねえ、マリエ、私はシエナっていうの。私たち、友達になりましょうね。今度から、私の事、シエナって呼んでね」
二人はすぐ仲良しになりました。女王様とはいえ、まだ子供ですから、一人で塔にいるのは心細く、寂しかったのかもしれない。二人で楽しそうに話してます。
そうこうしてるうちに、湖の東端につきました。ここは村からは、少し離れてます。独りぼっちの白鳥はすぐに見つける事ができました。なぜなら、本当に一羽きりだったんです。ついてきた村人たちが、口々に言ってます。
”おい、誰かあの白鳥にわるさしたやつでもいるのか”
”そんな罰当たりな事しませんよ。白鳥は天の使いっていうじゃないですか”
”じゃあ、怪我かな”
”あの白鳥が飛べるようになるまで、群れは待ってるのかな。去年あたりなら、もうとっくに北の国へ旅立ったころだろう”
”だから春がこないからで、それは冬の女王...”
”いやいや、白鳥が旅立てないから冬の女王様も塔にいるしかないんだ”
ここにいる、小さな女の子二人のうち、一人が本物の冬の女王だとは、村人はわからないでしょう。好奇心でついてきて、好きなようにお喋りしてます。
「やかましい!!」村長の一喝で静になりました。クリスは、人がこれほどついてきてる事にびっくり。
やがて、鳥先生が村人に連れられ、走ってやってきました。
「怪我をしてるわけじゃなさそうです。ただ、他の白鳥より随分痩せてます」
鳥先生は、すでにこの白鳥の事を心配して、一度はつかまえて診察してみようとしたが、もともと、運動音痴の鳥先生。捕獲できずにただ観察するだけだったとか。
その白鳥は、飛べないようでした。羽ばたいてとぼうとしても、水から上には上がれないのです。何度かやっても水面をバタバタ走るばかり。
それを遠眼鏡でみてた鳥先生が、大声で叫びました。
「なんてことだ。あの白鳥の左足と首に重そうな金の首輪がついてる。あれじゃ重くて、飛べるないだろう」
村長は、すぐに湖で投網漁師を、連れて来るように指示。その間に、村人が立て看板を見つけました。
<この湖で、金の首輪のついた白鳥は、この国の第3王子のものである>
村長は、この内容を見て、何か思い出したようです。
「そういえば、白鳥がこの湖にやってきたときに、ちょうど王子が、見回りにかこつけて、遊びに来ていたんだ。この村には休憩に立ち寄っただけで、えらい面倒をかけられっぱなしだったな」
漁師がやってきて、小舟で慎重に白鳥に近づきました。一回で成功させないと、白鳥をもっと弱らせる結果になってしまうから。投網も見えないように、後ろにかくして、白鳥をみないように、釣りをするふりをしました。集まった村の者も、息もしないくらい静かにじっと待ってます。山で鳥が飛び立つ音に白鳥の気がそれた瞬間、漁師は投網で白鳥をつかまえました。
そこからは、すばやく近づき白鳥を、舟にのせました。網を手繰り寄せるのは、鳥を傷つけると思ったのでしょう。そうして陸で見てみると、両足と首にしっかり金の輪がついてました。(可哀想に)誰もがそう思いました。群れの他の白鳥たちは、心配でこっちを見てます。
「クリス、あの群れは、とても心配してる。また、この白鳥が何かされるのではって。はやく外してあげて」
冬の女王・シエナにいわれるまでもなく、鳥先生が、首輪と、足についてるアンクレットのようなアクセサリーをはずしにかかりました。ネジを緩めれば簡単に取れました。
「うん、じゃ、栄養補給にすこしエサをあげよう」
鳥先生は用意してきた小鳥用のスリエサを、口を開かせて飲み込ませました。
「本当は、もう少し保護しておきたいところだけど、群れの仲間が待ってるのだろう?」
そう白鳥に話しかけ、湖にはなしました。白鳥は元気におよぎ、少し飛んで群れに戻って行きました。村人たちからは拍手喝采。冬の女王様シエナも無邪気に手をたたいてました。
すこしだけ村長の顔が、曇ってます。
「第三王子が来られた時、なんと言い訳したらいいのかな」
”そりゃ、当然、本当の事をいえばいいよ。季節に関係する問題だ”という声もありました。
村人の一人で”詐欺師のチェダ”と呼ばれてる男がいました。チェダは王都にいって法律違反ギリギリの仕事をしていて、追われて村に帰ってきたのです。村の皆からは、鼻つまみ者と軽蔑されててます。。
チェダは、当然のように言い放ちました。
「知らない事にすりゃいいじゃん。そんな白鳥は見なかった。看板はあったけど、白鳥はいませんでしたってさ。その金の輪とかは、湖に捨ててしまえばいい。何かの拍子に外れたように、向こうに思わせればいいんだ。」
そういって、輪を湖に投げ捨てました。ポチャっと音がして、”ああ、金なのにもったいない”とか”ばか、王子に知られたら大変だぞ”とか、いろんな話しが聞こえます。
「いいか、今日は、投網の漁師以外、誰もここに来なかった。漁師は白鳥をみていない そういう事にするんだぞ」
白鳥が自由になって嬉しいシエナとマリエ、その顔をみると村の皆は、チェダの案に村人は感心して、彼を見なおしました。
帰ると、塔の庭に、雪で出来た滑り台やら恵美路や雪像など、出来てました。村の子供たちは大はしゃぎ、女性達は、冷えた体が温まるように、スープを作ってます。