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冬の女王のタペストリー作り。

村中の女衆で、必要な糸ができました。冬の女王様は、タペストリー作りにかかりました。

 羊毛を持ってきた男衆たちから、荷をひったくるように、村の女性たちは、糸作りを始めました。セシルやリッカ、糸紡ぎのの上手な女性が、すぐ作りがはじめました。


「なあに、特別なのは、”羊毛をスワッカ谷で洗う事”だけで、後は、普通に毛糸をつくるようにするのさ。ただし、糸のヨリは少しきつめにする。太さはこのぐらいで、ほら、細くて強そうな糸だろ?」


 カルマばあさんは、自分が紡いだ糸を見せて、コツを女性たちに教えました。セシルとリッカは、すぐコツを飲み込んで、他の女性たちに、時々、注意しながら、自分たちもすごい勢いで糸を紡いでいます。


 クリスはその光景に圧倒されました。急な斜面を力強く登った若い衆たちに感心しましたが、女性の糸を作る作業にも、なかなか迫力がありました。


「クリス、昨日、今日とご苦労様でした。ここは私たちに任せて。マリエちゃんの熱も下がって、西側の一番奥の部屋で寝てるから。今日はそこで休んでね」


 村長さんの奥さんでした。村の女性たちにテキパキと指示してました。帰ってきた若い衆への食事や寝場所。(村に帰りついたときは、とても疲れていて、村長さんの処で一晩とまることになったのです)糸を作る女性たちへの食事などの手配など、仕事が山積みのようです。


「あの、女王様のところで他の季節の女王様が作ったタペストリーを見たんだけど、ちゃんと色がついてました。でも、これは白い糸ばかりで、後で染めるのですか?」


 そう、クリスの言う通り、いくら雪に埋もれていても、青空は青ですし、湖の側の塔や家は、灰色でした。


「クリスとやら、他のタペストリーも見ることが出来たんだね。それはうらやましい。心配しなくていいんだ。女王様の力で。色をつけるそうだ。だいぶ昔に女王様からそう聞いた。」


 カルマばあさんは、そういうと、イテテと腰をさすりながら、糸を作る女性達の間を回ってます。薬師に湿布をはってもらい、痛み止めの薬をのんだおかげで、カルマばあさんは、杖にすがりながらでも、歩けるようになってました。

*** *** *** *** *** *** *** ***

 次の日の昼くらいまで、クリスは寝てしまいました。緊張がとれたせいでしょうか、体のアチコチが痛みます。


「ねえ、お兄ちゃん、作った糸、女王様の処へ運ぶんだって」

マリエが、クリスの後をついてきました。熱も下がり、スッカリ元気になってました。


 クリスが見に行くと、マリエがすっぽりはいるような大きなカゴが、二つ部屋においてありました。中には白い糸、がたくさん入ってます。雪のように白い糸は、下の方が、水色に光ってみえます。村長の家から馬ソリを出し、そこにクリスとカルマばあさんが乗りました。


「あれだけの羊毛、全部、終わったのですか?」

「いんや。半分さね。それで間に合うかと思ったからの。女たちも徹夜して、昼まで休まず糸づくり。とりあえず、冬のタペストリーの分だけさ。春の分の糸も必要なのだけどね。それは十分体を休めた後に、またはじめるよ」


 クリスとカルマばあさんは、ソリのゆれで舌をかみそうになったり、カルマばあさんは、まだ痛いのか、時々、腰をさすってます。


**** **** *** *** *** *** ***

 塔の門は、空きっぱなしでした。村人が数人、ソっと中をうかがってます。


「怖いものみたさなのかね。まったく」

「カルマばあちゃん、女王様はマリエくらいの年の小さな女の子だよ。前の女王様は結婚して、その一番したの妹が新しい女王になったんだって。」


 村長たちには話した冬の女王様の話を、クリスはもう一度話しました。自信がないって泣いていた子、糸がないと困ってもいた。今はどうしてるだろう。


「おい、ヒマで力のあるのは、このばあさんを背負って、塔の部屋までいっておくれ。あと、この籠も持っていっておくれ」


「私が、背負っていく、カルマばあちゃん」

と、馬をあやつる御者が、振りむきました。ギュンターでした。クリスは嬉しくなって、ギュンターに抱き着きました。


「ギュンターにいちゃん、昨日はありがとう。あの近道があったから、なんとか今日、糸を届けることが出来るよ」

「おはようクリス。もう昼だけど」


 糸の入った籠は、クリスより3,4歳年上の子、二人が、持つ事になりました。


*** *** *** *** *** *** *** 

 一行は、螺旋階段を昇って行きました。クリスが先頭、ギュンターが最後です。荷物持ちの二人は、やや足取りが遅く、最後のほうは、フーフー言って登り切りました。


「クリス、今度、何かあったときには、俺たちにも声をかけてくれ。俺はユーリ、こっちはネビル。俺たちも村のために何かしたい」

「うん、わかった」


*** *** *** *** *** ***

「わあ、すごい。これだけあれば十分に間に合う。クリス、ありがとう」


 冬の女王様は、とても喜び、クリスに礼を言いました。でも、本当に大変だったのは、谷へ一緒に行った若い衆と馬、寝ないで糸を紡いだ女性とカルマばあちゃん、世話をしてくれた村長夫妻です。そう考えたクリスは 女王様にその様子を話しました。


「そうなんだ。村の人がたくさん、協力してくれたのね。ますます、元気が出て来た。私、頑張るから」

「今年はとんでもなく遅くなってしまって、すまんこってす。今まで糸作りをやっていたカルマです、女王様。糸にする前に腰を痛めてしまって、歩く事もかなわなんだ」


 カルマばあさんは、女王様に頭を下げると、ギュンターも頭をさげたので、ばあちゃんは落ちそうになり、女王様はそれがおもしろかったのか、クスクス笑ってました。


「いいの、腰、大事にしてね。」ニッコリ笑う女王様は、マリエと同じ、ごく普通の女の子に見えます。


 それから女王様は、テキパキ動きだしました。タペストリーを作る台、糸を通す太い針のようなもの、座る椅子。ただ、どれも大きくて小さな女王様には、使いにくそうでもありました。


「おひとりで作られるのかの?必要なら村の女衆を呼んできますが」

「いいえ、おばあさん。私には味方がいるから大丈夫。」


 そういって、女王様は、首にかけてた小さなペンダントを口にくわえると、窓から顔を出し、ペンダントを吹きました。ヒューイって音と一緒に、白いまるいものが、たくさん部屋に飛び込んできました。目と手足がついてます。白いフサフサした毛(?)を、震わせながら、女王様の前にやってきました。


「さあ、始めます。よろしくお願い」

そう女王さまが言うと、イスに座ると、白いフサフサに、糸を通した針のようなものをもたせ、何か指で指示してます。パタパタパタパタという音と一緒に、たくさんのフサフサが、女王様と台の周りを飛び回っています。クリスは声をかけたのですが、一生懸命な女王様には聞こえないようです。クリス達一行は、黙って頭を下げて塔を降りて行きました。


「あんなに小さい子なのに、がんばっちゃって、大丈夫なんだろうか」

「うん、時々、様子を見にこよう。気づかれないように」

ユーリとネビルが、そう心配しています。クリスも心配でしたが、フサフサの謎の妖精?を使いこなすくらいですから、大丈夫だろうと、言い聞かせ、村へ帰りました。


*** *** ** **** ***** *** 

 次の日は曇り。今にも雪がふりそうです。


 そのニュースは、村中に広まってました。

”冬の女王様のタペストリーが出来た”


 村中が喜びました。これでやっと春が来る。クリスもホっとしました。仕事終わって、女王様もこれで泣く事はなくなるだろと。


 この日、クリスが塔へ行こうとすると、マリエが一緒に行くと、ダダをこねました。おとなしいマリエの初めての我儘かもしれません。連れていってくれないなら、自分ひとりで行くと、言い出したので、クリスはしぶしぶ妹のマリエを連れていきました。塔の中は寒いので、病み上がりのマリエには体に良くないだろうと、クリスは思ったからです。それに螺旋階段は、何重にもなっていて急で長い階段です。マリエは案の定、途中でバテてクリスが背負う事になりましたが。


(ギュンターってすごいな。結構重そうなばあちゃんを軽々背負って登っていったのだから)

 クリスは改めて、彼を尊敬しました。


 村の風景を描いたタペストリーがほぼ出来上がってました。後は台から外すだけのようです。湖、塔、村の家々、空の青い色、中でも綺麗なのは雪の白色です。

太陽の光で輝いているのがわかります。素敵なタペストリーでした。カルマばあちゃんの言った通り、色の事は心配なかったようです。


 でも、冬の女王様は、タペストリーを見て、まだ浮かない顔をしてます。


「おかしい、何かおかしいの。お姉さまに教わった通りの手順でやったのに。このタペストリーじゃ、お父様からの”知らせ”は、こないかも」


 その時、クリスに背負われたままのマリエが指をさして言いました。




短期集中連載です。

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