スワッカ谷へ
童話フェスに参加してます
カルマ婆さんがスワッカ谷の家は、だいたいの場所は見当がついてます。捜索隊は若い衆数人と女性二人、それとクリスです、
スワッカ谷は、二つ山を越えたところにあります。村人は春と秋には、山草やキノコ・木の実を探し、足を延ばす事もあるようです。でも今は冬です。山は大人の腰まで雪が積もっていて、道もみえません。
カルマばあさんの紡いた糸をのせるために、そして、紡ぎ終わってないのなら糸のもとの羊の毛をもってくる必要があります。ソリは1台と馬一頭を用意しました。
村中からかきあつめた食料と燃料になるマキを少しもって、出発です。
隊長の元で、山への道を、みんなで確認しています。山の道は獣道で、一人が通れるぐらいの幅しかないのです。ましてや今は冬、その狭い道も雪の下です。馬とソリは山をこえるには、かえって邪魔かもしれません。もう少し人を増やして、雪をかきわけながら進むしかないか、と難しい顔で話しがまとまろうとした所、”ノロマのギュンター”と呼ばれてる若者が、口をはさみました。
「なんだい、ギュンター。」
「あの、あの、お、俺、見たんです」
”だから何がだ”とみなが一斉に、怒鳴りました。ギュンターは体を小さくして黙ってしまいました。少しでもはやくスワッカ谷のカルマばあさんの処にいかなければいけません。捜索隊のみんなは、あせっていたのです。
「なあに、ギュンターおじさん」
と、クリスが聞くと、少し落ち着いたのか、やっと話しだしました。
「山じゃなくて、この平原を村の境までつっきっていくと、谷に直接通じる道があるはずなんだ。俺、見た。カルマばあさんが、朝にそこから荷物をもって出てきて、夕方、また帰るところをさ」
ギュンターは、少しノンビリした処は、ありますが、正直者なのは、みんなが知ってます。
「ギュンター、それはこの平原で羊を離してるときかい?」
平原は牧草が植えられ、羊や馬が離されてます。その見張り役が彼です。
「どうですか?隊長。そっちに行ってみますか?」
「そうだな。あの偏屈でやたら元気なカルマばあさんだが、一日で谷の家を往復するのは難しいだろう。ギュンターの言ったとおり、そこはきっと家への近道なのだろう」
捜索隊は、その近道とやらを目指し草原を進みました。
馬は雪をかいで、ソリをひきます。若い衆は徒歩で早歩き、ソリには二人の女性、リッカとセシル、それとクリスも載せられました。クリスは若い衆と一緒がよかったのですが、隊長からソリに乗るよう、命じられました。
1時間ほどいくと、ギュンターのいうように、山に入っていく道があります。彼がいうには、春先にはここは山の雪解け水が流れるところだそうだ。今は、水の流れた後は雪の下でしたが、不思議な事に、その道は、雪はそれほど深くありませんでした。
ここからは、ソリと馬と数名の者は留守番、残りで沢登りをする事になりました。カルマばあさんの家への近道は、登りが急でソリを引いていけません。馬は、登る事ができますが、帰りに働いてもらうのに、少し休ませたかったのです。食料が少なく、馬も十分にエサをもらってないので、無理できません。
クリスは、懸命に上りました。手を使いながら四つん這いになって、登る所もありました。不思議とクリスが登ろうとすると、雪の中の石がでてきて、ジグザグの階段のようなって行きました。それでクリスが先頭になりました。
「おい、ボウズ、なんかコツでもあるのか?」
「ないよ、ただ、冬の女王に心の中でお願いしたんだ。はやくカルマばあちゃんの処へ行けますようにって。きっと助けてくれてるんだよ」
ほどなく、少しだけ平地になっている場所につきました。奥に粗末な小屋が見えます。カルマばあさんの家です。呼びかけても返事がありません。みな、急いで家に入ると、カルマばあさんが、ベッドで横になって唸ってます。
「よかったわい。そこの若いの。わしをささえてくれんか。なんとしても糸を紡ぎ終えないと、大変な事になるでな」
もうその”大変な事”になってるのですが、皆、黙ってました。
「カルマばあちゃん、どうしたの?」
「たいした事ないわい。腰がとても痛いだけでな。でも、今は起き上がれない」
カルマばあさんは、少しでも動くたびに、腰が痛むらしくクリスは、痛い処をさすりました。クリスのじいちゃんが、腰が痛い時、そうしてたからです。
「私とした事がぬかったよ。転んでしまってさ。腰を痛めてこのありさまさ。早く糸を紡ぎ終えないと」
カルマばあさんは、一生懸命、糸をつむぐ台に行こうとしましたが、少し無理のようです。それを見かねたリッカとセシルが、
「私たちが糸を紡ぎます。ここで糸を紡がないといけないのでしょ?冬の女王の使う糸ですもの」
するとカルマばあさんは、特別な糸の謎を明かしてくれました。
「いやいや、大事なのは、ここの雪解け水で羊毛を洗う事さ。夏の少し前に川が出来るから、いつもそこで1年分のタペストリーに必要な分だけ羊毛を、洗う。紡ぐ時は、ちょっと細工がいるけど、なあに、難しい事じゃない。わしのばあさんのばあさんの代から続いてる仕事さ。息子夫婦は、一緒に暮らそうと言ってくれてるけど、仕事を放り出すわけにいかないしね」
話しは決まりました。すでに紡いである糸と羊毛を背負って、山を降りる事に。隊長がキビキビと分担を決めていきます。羊毛はかさばるけれど、重くはありませんので、クリスも荷を背負いました。
カルマばあさんは、ギュンターに軽々と背負われ、彼女は目を白黒させてます。ギュンターは背が高くて、力持ち。クリスは”いいなあ、僕も頼りになる男になりたい”と思ったほどです。
帰り道は、道はついてるものの、急な下り坂。荷物だけ下にころがして行こうとする者がいて、隊長に怒られてます。
「まあ、その考えは悪くはないけどな。なにせ冬の女王様に使っていただくのだから、丁寧に扱わないと。」
笑い声が谷に響きわたります。この糸を届け、冬の女王がタペストリーを織れば春になる。少し希望がみえてきました。
「わしも、もう若くないのだな。夏と秋の女王様の分を紡ぐのも今年はギリギリだった。これ、ギュンター、もっと静かに歩かんかい。腰に響くじゃろが」
カルマばあさんは、ギュンターの頭を、手でポカっと殴りましたが、ギュンターにはどこ吹く風のようで、階段石をピョンピョンと飛んで降りて行きました。
近道の入り口の側で待機していたソリに、カルマばあさんと、糸、羊毛、女性二人。クリスは、若い衆と一緒に歩きました。”クリスが歩いた所が、一番、歩きやすい”という事にみなが気が付きました。 こんな事なら行くときもクリスを先頭にすればよかった。とボヤく声も明るいものでした。
短期集中連載です。更新は夜の0時以降になります。




