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新米の冬女王は、困ってます。

 これはある村でのお話しです。その村には湖の側に塔がありました。石でできた高くて古い塔です。そこには、春、夏、秋、冬、それぞれの季節の女王がやってきます。自分の季節の分だけ塔で過ごします。


 それが今年はどうした事でしょう。冬の女王が塔にこもりきりで、また、春の女王もやってこないのです。だから4月というのにまだ真冬のまま、湖も半分ほど凍ってます。




 村人は雪の降る寒い冬に備え、秋の終わりには食べ物や、暖炉で燃やすマキも貯めておいてます。でも、冬が終わらない今年は、村人の蓄えがつきかけてきました。もっと暖かい南の村に行った人もいましたが、そこも冬のままだったそうです。


 国中が冬だったのです。


 村に国王からの命令が来ました。


「塔にいる冬の女王に、早々に天にお帰りになるよう説得すること」


 村長は、長引く冬を心配し、冬の女王の事も心配してました。”もしかしたら何か女王の身に何かあったのでは?”と。村長は、塔までいきましたが。門は硬く閉ざされていて、中に入る事すらできませんでした。村人を集め、塔に入るため門を壊そうとしましたが、ビクともしません。少し傷をつける事ができても、不思議な事に、門はひとりでに直ってしまうのです。門を登って入ろうとすると、不思議な事に、いくら登っても上までたどりつきませんでした。門の下は、くぐれそうもありませんでした。不思議な門に村人たちは恐れて、あきらめて帰っていきました。


 その様子を、木陰にかくれ、ジっと見ている子がいました。12歳の男の子で名前はクリス。村人は諦めて帰りましたが、クリスは一人、塔にむかって大声で呼びかけました。


「冬の女王様、聞いて下さい。うちにはもう燃やすマキがなくなりました。食料もつきて昨日から何から何も食べてません。どうか門をあけて、僕の話しを聞いて下さい」


 クリスは、祖父と妹のマリエと暮らしています。貧しいけれど、平和な毎日でした。ところが冬の寒さで、マリエは風邪で昨日から熱が出て寝込んでいます。クリスは妹の事が心配でいてもたってもいられなかったのでした。(少しでも早く、暖かな春と交代してもらわないと)そう思いながら何度も呼びかけました。


 クリスが声がかれてきた時、門が独りでに開きクリスは中へ入る事が出来ました。


*** *** *** *** *** *** *** *** ***


 塔の入り口には誰もいません。中は薄暗く寒いです。クリスは凍える手を息で温めながら、螺旋階段を上り、一つの部屋の前につきました。部屋の戸は、木でできたもので、中から小さい子の鳴き声が聞こえました。


 (この部屋には子供がいる。女王様の子供の部屋かな)クリスは不思議に思いながらも、扉をトントンとノックしました。中から、”だ~れ?”と幼い声が帰ってきました。部屋にいたのは、泣きはらして真っ赤になった目の女の子でした。クリスの8歳の妹・マリエと同じくらいの子でしたから。クリスが冬の女王を探してるというと、”私はそうなの”といって女の子は、うつむてしまいまいました。



「急に、すみません。あなたが冬の女王様...」

クリスは、女王はてっきり大人だと思っていたので、少しびっくりしました。


「そう、でも私には女王なんて無理。いつまでたっても、お父様からの”知らせ”が来ないの。

”知らせ”がないと天に帰れない。皆が困ってる事はわかってるんだけど」


 そういうと、また泣き出しました。クリスは困ってしまい、妹が泣いた時になだめるように、背中をさすって、落ち着かせようとしました。女王は、少し落ち着いたのか、ポツポツと話しだしました。


「私たち5人姉妹なの。冬の女王をだった一番上のお姉さまが結婚したので、末っ子の私がその代わりになるよう、お父様から言われました。お姉さまから冬の女王の仕事をいろいろ教わったのだけど、私、上手くできなくて。」


 クリスは、女王に仕事があるなんて初めて聞きました。女王は”ただ塔にいればいい”ぐらいだと思ってたのです。


「僕はクリスと言います。その...冬の女王の仕事、僕でお手伝い出来る事はないですか」

もちろん”冬の女王にはやく帰ってもらうため”もありますが、”仕事が上手くいかない”と泣く女王様が、可哀想に思えて、少しでも力になれたらと思ったからです。


「ありがとう、クリス。仕事の一つはわかってるの。見て、この3つのタペストリー。これが、春、夏、秋の風景を織ったもので、私も冬の間中に織る事が仕事なの。でも、今年はなぜか糸が足りなくて困ってました。」


「糸なら、村のおばさんたちが、持ってると思います。持ってきます。」

すぐ、とってこようとしたら、女王様が止めた。


「特別の糸でないとだめ。スワッカ谷のカルマさんの紡ぐ糸が必要なの。」


 これは困ったと、クリスは思いました。スワッカ谷はここから半日の距離ですが、冬の間は雪に閉ざされてしまうからです。それでも、やるしかないと、村長に相談に行きました。


*** *** *** *** *** *** *** ***

「冬の女王が小さい子供で、カルマばあさんの糸が必要だと?。クリスの言ってる事が本当だとしてもスワッカまで行くのは、難しい。」


 クリスは懸命に冬の女王に逢った時の事を話しましたが、村長は難しい顔をして腕組みをしてます。


 (誰も一緒に行ってくれないなら、僕、一人でも行く。でも、寝込んでるマリエの事が心配だな。)クリスは、手を握り締め、うつむいて考えていました。そこへ、村長と一緒に住んでいる”長老”とよばれてるおじいさんが、カルマの糸の事を、話してくれました。


「だいぶ昔からだがの、村の者は皆忘れてしまったのかもしれぬ。季節の女王はこの子の言う通り、特別な糸でタペストリーを織るんじゃ。カルマ婆の糸は特別の紡ぎ方があるようじゃ。いつも季節の変わり目にスワッカ谷から糸を塔に運んでるんじゃ。冬だけはさすがのばあさんも、スワッカ谷では暮らせないらしく、糸を塔に持っていくと、冬はそのまま村ですごすんじゃが...誰か、冬のカルマばあさんの家まで行って来てくれないかの?」


 クリスは教えてもらって、自分で行くつもりでしたが、若い衆が二人、長老の言葉をうけ、すっとんで行きました。”村にあるカルマばあさんの家は誰もいませんでした。”

若い衆の報告に、クリスも村長も皆、がっかりしました。


「カルマばあさんに、何かあったのかもしれない。年も年だしな。病気なのかもしれないから、村の衆の何人かで、明日、晴れていれば、スワッカ谷へ行くように手配しよう。クリス、女王様に逢ってくれてありがとう。もう大人たちでなんとかするから、君は家に帰りなさい。妹が風邪で寝こんでるんだって?」


クリスは妹の事がとても心配だったので迷った。(でも約束したんだ。女王様を助けると言ったのは僕なのだから。)


「村長さん、僕も行きます。足手まといにならないよう頑張りますから。」


 村長夫人が、クリスの後押しをしてくれた。

「頑張ってらっしゃい。おじい様とマリエは、この家で面倒見ましょう。捜索隊を組むからには、後に残された家族は私が面倒みます。それと、隊には、女性も連れていったほうがいいと思います。なにせ、重要な糸のようですから」


 村長夫妻、長老の言葉で、捜索隊が作られた。



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