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千尋と男子校

◆千尋視点◆


俺が「有栖川千尋」になってから一年。


千尋の体は17歳になっていた。(ちなみに山田は29歳になりました)

中学校をすっ飛ばして今日から高校生になる。


はるか昔だけど、俺はとっくに中学校を卒業している訳で。


ただ、勉強の方はそれほど得意だった訳でもないし、ほとんど忘れちゃってるので、一年かけて鬼家庭教師のスパルタ授業を受けさせられて、なんとか・・・


なんとかなってるかな?・・・くらいには勉強できるようになった。(と、思う!)


そんなこんなで、俺は3か月遅れで高校一年生として入学することになった。


全寮制の男子校、望応みおう学園に。

都会から離れた、少し隔離されたような山の中にある学校だ。


「・・・うわ~。」


俺は思わずまぬけな声を出してしまった。


だって山ん中の男子校で学生寮のイメージなんて、昭和っぽい木造校舎で割烹着のおばちゃんがご飯作ってくれる、なんというか、男臭いザ・男子校~って感じって勝手に思ってたんだけど。


めっちゃ金持ちぃ~って感じ。

門とかハイテクだし、学生寮も高級マンションって感じで。


うわぁ。金持ちめって思ってたけど。

そういや俺も今、金持ちの子か。


ーーーー慣れないなぁ。


荷物はすでに部屋に運ばれていた。

俺は学生寮のエントランスから寮長の部屋を目指す。


まずは寮長に挨拶しようと思ったが、いないようだった。


まぁ、いっか。

それよりも挨拶のときに、うっかり山田太郎って言っちまわないよう気をつけなきゃ。


そのまま自分の部屋へ向かう。


学生寮は二人部屋で、千尋の同室者は2年の風紀委員だという。



これは有栖川父のごり押しなのだが。

本当は同じ1年生同志で同室の予定だったのだが、ちょっとやんちゃな生徒だったみたいなんだよね。


で、2年の風紀委員の生徒の部屋に空きがある。


風紀委員=真面目!

2年=面倒見のいい先輩!


素敵!抱いて!・・・じゃねぇよ!


ただでさえ中身は29歳で10代の奴らの中に入ってくのビビんのに。

しかも一人だけ3か月遅れの入学で遅れをとっているのに。


これ以上浮くようなこと止めてくれ!

どんだけ過保護なんだよ、だせーとか思われるから。


有栖川父、超やめて!と、お願いしてみたけど無駄だった。


本当は学校に行かせるのも嫌だったみたいだしなぁ。



ーーーーううう。気が重い。



先輩とはいえ、俺の方が人生経験は上なのですよ? まぁ、上司の太鼓持ちは得意だったので何とかなるか。



とりあえず深呼吸して部屋のドアを開ける。


「・・・こ、こんにちはー。やま・・・じゃない、有栖川です。」


奥から背の高い奴が出てきた。


ーーーーおお。イケメンですね。


180超えてるかな。黒髪短髪のけっこうガタイの良い奴だ。 確かに真面目そうかなぁ。


「君が有栖川君か。俺は高槻章大タカツキ ショウタだ。」


「有栖川千尋です。父が無理をお願いして申し訳ありません。ご迷惑かもしれませんが、今日からよろしくお願いします。」


深々と頭を下げる。


高槻先輩はちょっと以外そうにマジマジと俺を見た。


「意外とちゃんとしてるんだな。」


「え?」


「いや、ちゃんと学園生活ができるように面倒をみるよう何度も言われてたから、どれだけ世間知らずが来るのかと思ってたんだ。悪いな。」


「いや~。逆の立場なら俺もそう思いますよ。」


「事故のこともちゃんと聞いているから、体調が悪いときは必ず俺に言えよ。」


「ありがとうございます。」


俺は事故で3年間意識不明で、奇跡的に目覚めて1年遅れで高校入学することになっていると伝えられていた。


「ほら、上がれよ。」


「はい。お邪魔します。」


お前の部屋でもあるんだぞ、と笑われた。


男らしい笑い顔だ。羨ましいぜ。



俺は一年間、体力回復の為のトレーニング+アルファをしてきた。うっすら筋肉は付いてきたけど、まだガリの部類だ。身長はどうにか170センチまで伸びた。


髪を短くしようとすると有栖川父が泣くので、髪型は耳が隠れるくらい長めにしかカットできてない。


軟弱少年ぽくて嫌なんだよなぁ。



山田太郎のときは183あったから、まだチビだ。


どうにか、どうにか高校生のうちに180センチ超えてくれ!

 

+‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥+ 

 

「こっちがお前の部屋ね。荷物は部屋の中に置いてるから、荷解き手伝うよ。」


「助かります。ありがとうございます。」


良かった!気のイイ先輩で。

内心、ジャ○アンみたいな奴だったらどうしようかと思ったし。


和気あいあいと荷解きをして、あらかた片付いたときには、そこそこ遅い時間になっていた。


「ちょっと遅くなったけど、飯行こうか。」


「はい!ハラペコっす。」


高槻先輩がおかしそうに笑う。


「ついてる。」


俺の鼻の頭についてた綿埃を指先でちょんと取った。


「あ、すいません。」


二ヘラっと笑う。


「お前って・・・」


「?」


「いや。何でもない。食堂行こうか。」


「はい。」


俺と高槻先輩は連れ立って、寮の横にある食堂に向かう。


「いやいやいや。食堂ってゆうよりオシャレなレストランじゃないですか。」


ほんとにそう。カルチャーショックだわ~。

男子校と学生寮と食堂のイメージ変わったわ。


「どんなのだと思ってたんだ?」


「頭にカーラー巻いた割烹着のおばちゃんが焼き魚定食とか作ってくれるイメージでした。」


高槻先輩がアハハと男らしく笑う。


「お前。いつの時代のコントだよ。」


「だって・・・はぅあ!!」


「ど、どうした!?」


「俺、財布忘れてきちゃいました。」


「ああ。財布はいらないんだよ。学園内ではIDカードで全部済ませて、翌月一括で引き落とされるから。有栖川はまだIDもらってないだろ。今日は俺のおごりだ。」


俺はまた深々と頭を下げる。(何回、先輩に頭下げるんだって感じだけど。悲しいかな社畜のクセで)


その俺の頭を高槻先輩がくしゃりと撫でる。


「いいから。好きなもん頼めよ。」


「はい。」


俺はニッコリ笑って、お言葉に甘えさせてもらう。


不安の方が大きかったけど、良かった。

同室が面倒見のいい、優しい先輩で。


明日からの二度目の高校生活も何とかなる気がしてきた。


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◆高槻視点◆


学生寮で1人部屋を悠遊満喫していたのに、遅れて入学してくる1年生と同室になることになった。


相手の父親がどうしても、と頼み込んできたらしいが。 どんだけ、過保護なんだよ。


話を聞くと、事故に合って3年間意識不明だったらしい。 なるほど。それだと心配しすぎるのも理解できる。


ただ、病院にいて中学校にも行けなかった訳だろ。

どのくらい世間知らずが来るか、気が重かった。


ーーーーだが。


「ご迷惑おかけしますが、よろしくお願いします。」


有栖川千尋は深々と頭を下げた。


俺は拍子抜けした。

他の生徒に比べても、全然しっかりしてる。


それに・・・


マジマジと千尋を見る。


背は170くらいか。俺より頭ひとつ分くらい低い。

艶っとした長めの黒髪。黒目がちなアーモンドの形の瞳。


すっと伸びた鼻筋。

少し色のついた、ふっくらした唇。


華奢だが貧相という感じじゃない。 すんなり伸びた均整の取れた手足。


うちの学園にいる少女のような美形って感じじゃなく、少年と青年の間の、中性的な美形だ。


これだけ美形だと、さぞやちやほやされ慣れているだろうと思ったが。


鼻の頭に埃をつけて、一生懸命に荷解きをしていたり、財布を忘れたとすっとんきょうな声を上げたり、晩飯をおごると言うと頭を下げたり・・・



ーーーーギャップやばいな。



有栖川は気取らず、二カッと笑う。

そうすると、整った顔が親しみやすい可愛らしい顔になる。


これは、よからぬことを考える奴が出てきてもおかしくはない。


この学園にいる限り、俺が守ってやろう。


夢中で親子丼を頬張る有栖川を見ながら、俺は心に誓った。


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