表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/75

小林と山田

「いただきます。」


「はい。いただきます。」


久々の小林カレーに舌鼓を打つ。やっぱり美味いわ。


「うまっ!」


「それはよかった。」


俺はおかわりまでして、パンパンになった腹を抱えてベッドに転がった。


「食べ過ぎだ。」


「だって美味かったし。」


小林は食後のコーヒーを入れて戻ってきた。俺は壁を背にして、ベッドに座ってコーヒーを受け取る。


小林はソファに座った。


しばらく腹休めの休憩をして、俺は先に風呂に入った。

交代で小林が風呂に入ってる間に、勝手知ったる小林のベッドに潜り込み本格的に寝ることにした。


山田の時から、俺は我先にと小林のベッドを占領していたものだ。


アスリート御用達のマットレスはマジで寝心地がいいうえに、このベッドで寝たら翌朝は体が軽いんだよ。


俺も欲しくなったが、小林に値段を聞いて断念した。その頃、ギャル系の彼女に貢ぎまくってたもんなぁ。


そんなことを思い出しながら、俺は寝心地の良さに眠りの世界に旅立っていった。


+‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥+ 


◆小林視点◆


「有栖川?」


俺が風呂からあがると、有栖川はベッドのど真ん中で寝ていた。ベッドヘッドに置かれた漫画を手に取る。


手塚治虫のきりひと讃歌。

山田が読もうとして、毎回挫折して


・・・結局、最後まで読めなかった漫画だ。


「・・・。」


今日、俺は山田にしていたのと全く同じ態度で有栖川に接した。


有栖川は山田と全く同じ態度で応えた。


記憶転移なんてもんじゃない。


山田太郎そのものだ。


「・・・山田。俺のベッドだ。ソファで寝ろ。」


有栖川が寝言混じりに答えた。


「・・・んー。お前はいっつもこのベッドで寝てんだろ。社蓄の俺に譲れよ・・・。」


「・・・ッ!!」


俺は息を呑んで


「山田?」


少し震える声で呼んだ。


「んー?」


ベッドの横に膝をついて、ぽふりと眠る有栖川の腹に頭を乗せた。


「本当に山田なのか?」


小さく呟く。


「・・・なんだよぉ?」


むにゃむにゃと、有栖川がまた寝言混じりに言った。


+‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥+ 


ーーーあの夜。


山田が死んだ夜に。


どうして俺は山田を帰らせたんだろう。あの夜が最後になるなんて思いもしなかった。


いつも通り、ヘラっと笑って「明日、会社だし」と、ほろ酔いの山田は帰ってった。


あれが生きている山田を見た最後の顔だった。


遺体安置室で見た山田の遺体は損傷が激しくて、シーツで覆われていた。僅かに見せられた顔だけで確認した。


顔はほとんど傷が無くて、寝てるみたいだった。


「びっくりした?」と今にも起き上がりそうだった。


だが、山田が目覚めることも、時間が巻き戻ることも無くて。


山田はあっけなく死んだ。





俺は有栖川の腹に頭を乗せたまま、ポツリと呟いた。



「・・・ごめん。」



あの夜、引きとめればよかった。



「ごめんな。山田。」



あの夜、もっとちゃんと話せばよかった。


ビールなんか、飲ませなければよかった。


山田の家まで送ればよかった。


タクシーに乗せて帰らせればよかった。



「ごめん・・・。」



帰らせなければよかった。


うちに泊めればよかった。


山田が気に入ってたこのベッドで寝かせてやればよかった。



「山田。ごめん。」



ぽふっと、有栖川の手が俺の頭を撫でた。


「・・ん・・も~・・いいよ・・。」


むにゃむにゃと寝言混じりに言った。


「今度、キーマカレーつくって・・・それで・・チャラね。」


有栖川は細い手で、俺の髪をくしゃくしゃにした。


「・・・。」


そのまま、俺の頭に手を置いたまま、穏やかな寝息が聞こえた。





ーーー俺は、少し泣いた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ