小林と山田
「いただきます。」
「はい。いただきます。」
久々の小林カレーに舌鼓を打つ。やっぱり美味いわ。
「うまっ!」
「それはよかった。」
俺はおかわりまでして、パンパンになった腹を抱えてベッドに転がった。
「食べ過ぎだ。」
「だって美味かったし。」
小林は食後のコーヒーを入れて戻ってきた。俺は壁を背にして、ベッドに座ってコーヒーを受け取る。
小林はソファに座った。
しばらく腹休めの休憩をして、俺は先に風呂に入った。
交代で小林が風呂に入ってる間に、勝手知ったる小林のベッドに潜り込み本格的に寝ることにした。
山田の時から、俺は我先にと小林のベッドを占領していたものだ。
アスリート御用達のマットレスはマジで寝心地がいいうえに、このベッドで寝たら翌朝は体が軽いんだよ。
俺も欲しくなったが、小林に値段を聞いて断念した。その頃、ギャル系の彼女に貢ぎまくってたもんなぁ。
そんなことを思い出しながら、俺は寝心地の良さに眠りの世界に旅立っていった。
+‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥+
◆小林視点◆
「有栖川?」
俺が風呂からあがると、有栖川はベッドのど真ん中で寝ていた。ベッドヘッドに置かれた漫画を手に取る。
手塚治虫のきりひと讃歌。
山田が読もうとして、毎回挫折して
・・・結局、最後まで読めなかった漫画だ。
「・・・。」
今日、俺は山田にしていたのと全く同じ態度で有栖川に接した。
有栖川は山田と全く同じ態度で応えた。
記憶転移なんてもんじゃない。
山田太郎そのものだ。
「・・・山田。俺のベッドだ。ソファで寝ろ。」
有栖川が寝言混じりに答えた。
「・・・んー。お前はいっつもこのベッドで寝てんだろ。社蓄の俺に譲れよ・・・。」
「・・・ッ!!」
俺は息を呑んで
「山田?」
少し震える声で呼んだ。
「んー?」
ベッドの横に膝をついて、ぽふりと眠る有栖川の腹に頭を乗せた。
「本当に山田なのか?」
小さく呟く。
「・・・なんだよぉ?」
むにゃむにゃと、有栖川がまた寝言混じりに言った。
+‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥+
ーーーあの夜。
山田が死んだ夜に。
どうして俺は山田を帰らせたんだろう。あの夜が最後になるなんて思いもしなかった。
いつも通り、ヘラっと笑って「明日、会社だし」と、ほろ酔いの山田は帰ってった。
あれが生きている山田を見た最後の顔だった。
遺体安置室で見た山田の遺体は損傷が激しくて、シーツで覆われていた。僅かに見せられた顔だけで確認した。
顔はほとんど傷が無くて、寝てるみたいだった。
「びっくりした?」と今にも起き上がりそうだった。
だが、山田が目覚めることも、時間が巻き戻ることも無くて。
山田はあっけなく死んだ。
俺は有栖川の腹に頭を乗せたまま、ポツリと呟いた。
「・・・ごめん。」
あの夜、引きとめればよかった。
「ごめんな。山田。」
あの夜、もっとちゃんと話せばよかった。
ビールなんか、飲ませなければよかった。
山田の家まで送ればよかった。
タクシーに乗せて帰らせればよかった。
「ごめん・・・。」
帰らせなければよかった。
うちに泊めればよかった。
山田が気に入ってたこのベッドで寝かせてやればよかった。
「山田。ごめん。」
ぽふっと、有栖川の手が俺の頭を撫でた。
「・・ん・・も~・・いいよ・・。」
むにゃむにゃと寝言混じりに言った。
「今度、キーマカレーつくって・・・それで・・チャラね。」
有栖川は細い手で、俺の髪をくしゃくしゃにした。
「・・・。」
そのまま、俺の頭に手を置いたまま、穏やかな寝息が聞こえた。
ーーー俺は、少し泣いた。




