失恋とフランケンシュタイナー
失恋しました。
ラブラブだと思っていた彼女に二股されていたあげく「太郎ちゃんはつまらない。」と、振られました。
俺、山田太郎 28歳 社蓄リーマン。
半泣きで友人、小林のマンションに駆け込む。←イマココ。
小林は大学時代からの友人で腐れ縁だった。
失恋する度に小林のとこに駆け込み寺してるので「またか。 お前は女を見る目が無いなぁ。」と、ため息をつかれる。
毎度のことなのもあるけど、下手な慰めなどせずにそっとしておいてくれる小林は俺の良き友なんだ。（スルーされてるともいうけど・・・）
その夜、俺が駆け込み寺したとき小林はネットで動画を見ていた。 エロ動画かと思ったらプロレス動画だった。
勝手知ったる小林んちの冷蔵庫からビールを拝借して、グチグチ、チビチビ飲みながら動画をチラ見する。
俺はプロレス詳しくないけど、ひとつのアクロバティックな技ばかり繋いだ動画で、
「うわっ。 これ、危なくない？ 怪我とか、死んじゃったりしねぇの？」
と、思わず聞くと
「プロレスっていうのは技から逃げちゃいけないんだ。 技をかける側と受ける側、双方の度胸と技量が必要なんだ。
技をかけられる痛みや苦痛、怪我をする危険を分かった上で、プロレスラーは真正面から逃げずに受ける。男の生き様だよ。 これは。」
珍しく小林が熱く語った。
俺の体を衝撃が走った。
ーーーー逃げちゃいけない。
男の生き様。
困難と分かった上で受けきる。
痛みと向き合う。
俺はたかだか失恋で何をグチグチやってるんだろう。 情け無い。
男は逃げちゃいけないんだ！ 苦痛も困難も受けきるんだ！
俺の中の何かがメラメラと燃えてきた。 28歳社蓄リーマン、目覚めました！
「ありがとう小林！ ありがとう！！」
「なんか知らんが、どういたしまして。」
小林はいつも通り、俺の頭をぐしゃぐしゃっと撫でた。
良くも悪くも、俺の人生を変えた夜だった。
ーーーーその技の名は、フランケンシュタイナー。
俺が「山田太郎」として、小林に会った最後の夜だった。
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ふっと目が覚めたら、見慣れぬ天井。
（ん？・・・俺の部屋じゃないよな？）
体がとにかく重くて、頭が痛い。 あと、なんか胸んとこも痛い。 とゆうか全身不快感がハンパない。
ゆっくりと部屋を見渡せば、点滴の管が自分の腕に繋がっているのが見える。
腕を見て、その白さと細さにギョッとする。
（病院！？ 俺、入院してるのか？ つか、痩せすぎじゃね！？）
とりあえず白衣の天使を！ ナースコールを・・・でも腕がろくに動かせないし声も出ない。
ウギギ、と静かに奮闘していたら白衣の中年男性が入ってきた。
（あ、先生！ 超助けて！ ）
俺を見て、ハッとして駆け寄った。
「意識が戻ったんだね！ 私の声が聞こえるかい？」
ゆっくり頷く。
とにかく、体が思うように動かなくて、痛いし気持ち悪い。
先生に何やら反応テストやらチェックやらされて、もう大丈夫だと言われた。（ほんとかよ？ 医者の大丈夫は信用ならん。）
どうやら俺はとても危険な手術をして３ヶ月も意識が無かったらしい。
（いったい何があったんだ！？）
先生は俺がもう少し回復するまで話す気はないみたいで・・・ショックを受けるだろうからって言われたけどーーー怖ぇえよ！
というか、親や友達、小林も見舞いに来ないのか会ってないし・・・
いったい俺に何が起こったんだ。
浦島太郎状態になっちゃってるとか！？
ーーーー俺は一人、ただっ広い病室でろくに動けず、声も出せずに悶々と、ひたすら回復を待った。
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目覚めてから一週間後。
体の違和感が少しずつマシになってきた。 わずかに体は動かせても相変わらずベッドから起き上がることは出来ないし、喋れないけど。
先生が言うには、あの日ーーーー小林んちでフランケンシュタイナーに衝撃を受けた帰り道、俺は事故にあったらしい。
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「君は通りの反対側で酔っ払いに絡まれてるOLさんを助けようとして、道路を渡って・・・」
ーーーー車に跳ねられたのか！？
「渡りきって、酔っ払いに4～5発、いや10発だったかな？ 殴られたけど、OLさんを酔っ払いのセクハラから助けたんだ。」
ーーーー10発も殴られたのかよ！ いや、OLさん助けれて良かったけど。
「その後、路地裏で3人の不良にカツアゲされている中学生を助けようとして・・・」
ーーーー不良に刺されたとか！？
「ボコボコにされて君の財布からお金を奪われたけど、中学生をカツアゲから助けたんだ。」
ーーーー俺がカツアゲされたのかよ！！ まぁ、中学生が無事で良かったけど。
「それから、歩きスマホで信号無視していた女子大生が車に跳ねられそうになっていたのを・・・」
ーーーー今度こそ跳ねられたのか！？
「満身創痍の体で華麗に救ったんだ。 君はダイハードのブルースウィリスみたいだったらしい。」
ーーーー俺、カッコイイ！！
「その女子大生はとても可愛い子でね。 お礼がしたいと君の名前を聞いたんだけど、君は照れながら『イイっす。イイっす。』と言って道路を渡ろうとして・・・」
ーーーーまさか・・・
「酔っ払い運転の車に跳ねられたんだ。」
ーーーーマジか！！ 最後の最後でか！
「君に助けられた人たちから聞いたんだ。 3人とも病院に来て、泣きながら『君は恩人だ。助けてくれ』と縋られたよ。」
俺は胸がジーンとした。
とゆうか、一瞬でその可愛い女子大生とお付き合いするところまで想像した。できればギャル系だと嬉しい。
「ただ、君の体はズタボロで・・・手の施しようが無かった。 無事だったのは脳だけだった。」
ーーーーえっ。
「落ち着いてね。 今の君を見せるよ。」
そう言って、先生は鏡を俺に向けた。
「だ・・れ・・？」
目覚めてはじめて声が出た。
ーーーー鏡には、色白で華奢な美少年が写っていた。
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