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第3章 入ってみなけりゃ、はじまらない。



 洞窟の前で、オレ達は短い休憩をとった。

 オレ達が休んでいる間に、いくつかのグループが洞窟に入ったが、出てきたグループはなかった。

「やっぱり、手こずっているのかしら?」

 気になるのか、ララが洞窟にちらりと目を走らせた。

「そりゃ、そうだろ。レッド・ドラゴンだぜ」

 レッド・ドラゴン。ドラゴン種の中でも小柄で、体長2~5メートルほど。

 知能は低くいが、肉食で好戦的だ。

 鋭い爪の生えた前足と口から吐くファイヤー・ブレスが武器。

 火山地帯の地下に巣をつくり、春と秋の繁殖期に1~2個の卵を産む。

「みなしゃん、どんどんいってましゅけど…ボクたちの分の卵しゃん、なくなっちゃういましぇんか?」

「そりゃ、ドラゴンの数しだいってとこかな」

「いっーーぱい、いるといいでしゅねえ」

「あのなあ、学校で習ったろ。なにもわかってないんだよ、マロール山のドラゴンは」

 マロール山の地下には蟻の巣のような迷路があり、かなり数のレッド・ドラゴンが生息している。

 生息しているのはわかっているが、ドラゴン達の詳しい生態や個体数はわかっていない。

 国も学術機関も魔術機関も、ようするに誰も調査していないのだ。

「まあね、調べたくない気持ちもわかるわ。ゴールド・ドラゴンのような知能が高いわけでもないし、ブルー・ドラゴンのように飼い慣らして戦闘用にすることもできないし、危険なだけの役に立たないドラゴンなんて、調べたけ無駄っていうものよ」

 ララは冷たく言い切ると「そろそろ出発しましょう」といって、立ち上がった。

「おい、準備はいいか?」

「はい、松明でしゅね」

 ムーが肩からさげている水色の袋から、松明と火打ち石を出した。

 火をつけると、洞窟の内部をぼんやりと照らし出す。

 ドラゴンが使っている洞窟だけあって、広々としている。

 前にはいったグループがつけた傷やアイテムが、壁や床のあちこちに残っている。

「お、光り砂だ。こんな高いアイテム、よく使ったなあ」

「急ぐわよ」

 足早にララが進む。

 内部にはいって50メートルもしないうちに、岐路に出た。

「どっちにいくでしゅ」

「左に進む」

 迷路攻略法を、オレは進言。

 左に、左に行けば、帰り道に迷わない。

「そんな古くさい方法の前のグループがやっているにきまっているじゃない。他の道を通らないと卵に見つけられないわ」

 右をビシッと指すと、

「こっちに行くわ」と、先に歩き出した。

「おい、待てよ。目印をつけていかないと、帰れなくなるぞ」

「だいじょうぶよ。あたしの職業を忘れたの」

 知っている、暗殺者だ。

 暗殺に迷路?

 首をかしげたオレの隣で、ムーがパッと顔を明るくした。

「そうだったんでしゅか!ララしゃんは、迷路案内係しゃんだったんですね」

 ダ、ダダッと駆け戻ってきたララが、ムーの頬をひっぱたいた。

 スパァーーンと、いい音が響いた。

 スパァーーン、スパァーン…スパーン………スパーン…………スパーン…

 洞窟を木霊している。

「いたいでしゅーーー!」

「あたしの仕事は、暗殺者!人を殺すのが、仕事。殺すターゲットを追うのに、目印をつけられないでしょ!迷路でも密林でも帰路を記憶する訓練をしているのよ!」

「いたいでしゅー…」

「迷路の案内係ですって!いい?あたしみたいに、黒い革の身体に密着した服を着ているのは、暗殺者と決まっているのよ!ユニホームよ。制服よ!いちいち説明しなくても、それくらい、知っておきないさいよ!!」

「いたいでしゅ…」

 ララの指が、ムーの耳たぶをグリッとひねった。

「わかったわね!!!」

「わかりましゅた!」

「オレのは武道着。武道家や拳法家など、身体を武器として戦う者が着る服だ」

 ついでに、説明しておく。

「わかりましゅた!」

 耳をさすりながら、ムーが真剣な顔でうなずいた。

「で、オレの職業は?」

「わかりましぇん!」

 額を指で弾いた。

「拳法家、覚えたか?」

「ふぇ…」

 泣きそうな顔で、うなずいた。

「先にいくわよ。見失わないよう、ついてきて!」

「暗いだろ。明かりをもっていけよ」

 ララに松明を渡したムーは、目をうるうるさせてオレを見上げた。

「……乗れよ」

「ありがとでしゅ」

 にこにこと満面の笑みで、オレの背中によじ登る。

 背中にのばしそうになる手を、グッと握りしめた。

 歩かせたい。

 歩かせたいが、歩かせたら、ドラゴンに、いつたどり着けるかわからない。

 ここは、あきらめだ。

 暗闇にララのもつ明かりが、ゆらゆらと揺らめいている。

 ドラゴンサイズの通路は、荷馬車くらいなら楽に通れそうな広さがある。

 動きやすいが、松明の灯りでは、足元を照らすのが限界で、壁は完全に闇に沈んでいる。モンスターが潜んでいても、罠がはられていても、見つけるのは難しそうだ。

「あたしの足跡を踏んできて」

 跳ねるように進む、ララの足跡を追う。

 夜目が利くララは、かなりのスピードで走るりながらも、

「右手の壁に、リトル・スライムが2匹いるわよ」

「奇妙なぬかるみが、右側にあるわ」などと、注意をうながしてくれる。

 ララのおかげで、下へ、下へと順調にくだっていた。

 小一時間ほどしたところで、ララが立ち止まった。

「もう…」

 頬をふくらませて、前方をにらんでいる。

 また、岐路だった。

 蟻の巣といわれるだけあって、やたらと岐路が多い。ここにくるまでにも、十数カ所の岐路を通っている。

 道を記憶しなければならないララが怒る気持ちもわかる。

 ララが驚いた顔をした。

 オレを目で呼ぶ。

「どうした?」

 オレの口を手でふさぐと、小声でシッという。

 シーンとした洞窟。

 耳が何かの音をとらえた。

 かすかだが、人の声がする。

「こっちよ!」

 ララがオレの腕を引っ張って、右側の通路の壁に張りついた。

 声がだんだんと近づいて、それと一緒に騒がしい物音がする。

 左側の通路から聞こえてくる声が、叫び声だと気づいたときには、悲鳴が束になって駆けてきた。

「ヒェーーー!」

「わぁーー!」

「ハァ…ハァ…ハァ…」

 一瞬のことで、誰だったのかもわからなかった。

 左側の通路から飛び出してきた3人は、猛スピードでオレ達が来た道を走っていった。

 レッド・ドラゴンに、追いかけられながら。

 真っ赤な火炎を吹きながら、追いかけていくレッド・ドラゴンをみて、オレは恐怖で硬直した。

 知識として知っていたが、実物のレッド・ドラゴンはオレの想像をはるかに超えた、血肉のある強大な怪物だった。

 ブレスの熱風は隠れていたオレ達のところまでも灼熱の熱さでとどき、鎌のような長い爪は、ひとなぎで4,5人の首は飛ばせそうだった。

「見ましゅたか!」

 最初に声を出したのは、ムーだった。

 興奮した声で、オレの背中をたたく。

「……見たにきまっている」

 ようやく返事をしたが、声がかすれてうまくでない。

「よかったでしゅ!」

「…よかった…どこがよかったのよ!」

 ララがヒステリックに叫んだ。

「あんな怪物の、どこが、どこが、どこがぁーーーー!」

「卵しゃん、もってなかったでしゅ」

 予想もしなかった答えに、オレとララは顔を見合わせた。

「たまご?」

「卵だって?」

 ムーが自慢げにいった。

「はい、卵しゃん、3人とももってましぇんでした。つまりでしゅ、卵はまだドラゴンしゃんの巣にあるわけでしゅ!」

 ララがポンと手をたたいた。

「なるほどね。いま、行けば、ドラゴンはいない」

「卵はある、ってことだな」

 楽して、卵がとれる。

 思わずニッと笑みが浮かんだ。

 卵をとるなら、いまだ。


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