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滅ぼせ神剣! 布都御魂ちゃん!

作者: 藍藤 唯

 久々にやりたい放題の物語が書けて、楽しかったです。


 ワタユウさんありがとう!



パロネタ全部分かる人が居たらすげぇと思う。

 スーパー聖剣&魔剣大戦。



 修羅神仏が集いその手に為した、天上の遊戯にして過激な祭典。


 各々が神群の中から由緒ある武具を持ち出し、担い手を探し"ゲーム盤(ちきゅう)"の上でその強さを競わせる。


 どの武器が、どの装身具がより強いか。


 ただただそれだけを、遊び半分で鑑賞するだけの行為も神にとっては十分な余興。


 いかに自分たちの神群から猛者を出すか、と盛り上がり、どの武具が一番強いかと熱論する。


 まるで競馬か、賭博のたぐいか。


 そんなスーパー聖剣&魔剣大戦ではあるが、さて。


 その中でも日本神群は今、ちょっとした窮地に立たされていた。


 窮地に立たされていた、とは言っても、別に神群の系譜が全て奪われてしまうとか、神霊格が失われるとか、そういうものではない。


 単純に、スーパー聖剣&魔剣大戦において、戦える武器が殆どなくなっていたのだ。


 どんな武器を小出しに出そうと、西欧の有名剣にばっさばっさとなぎ倒される。エクスカリバーやデュランダルがまだ出てきていないから良いものの、このままでは本当に危うくなってしまう。


 いまや、日本神群の持つ剣は、すでに残り二つにまで減ってしまっていた。






「いやそれでもコレはだめだろう!!」


 大広間に声が響く。日本神群の中でも、聖剣&魔剣大戦に強い興味を持つ数名が集まったこの場所。


 今居る二人の前に並べられたのは、一振りの剣だった。


「何故だ? もう日本神群に残る聖剣は少ないが」

「残していた理由があるだろ!?」


 怒り心頭、とまでは言わないが、ヒドく焦っているこの神は高木神(タカミムスヒノカミ)。眼前の台に置かれたその剣に、思い入れの強い神の一人だと言っても良い彼は、必死にその剣の参戦を止めていた。


 いぶかしげな顔をするは、参戦賛成派の筆頭である建御雷之男之神(タケミカズチノオノカミ)。日本神群で最も有名な軍神と言っても過言ではないほどの剛の男だ。


「さては、あれか。この剣が負けることなど考えたくないと?」

「そんな訳がない! そして、そんなレベルの剣でないことくらい、貴方も知っているはずだ!」

「なら、良いだろう」


 胸を張る建御雷之男之神に、頭を抱える高木神。


 何故、二人ともこの聖剣&魔剣大戦に勝ちたいはずなのに、こうも軋轢が起きているのか。


 答えは簡単だ。眼前の剣を取り出してきてしまったそのことで、単純明快と言っても良いほどに。


 高木神と建御雷之男之神。この二人が今まで、眼前の剣を参戦させなかったのは、お互いに利害が一致していただけのこと。

 理由が、正反対であることに高木神は初めて気がついたのだった。



 建御雷之男之神は、楽しんでいただけだったのだ。小出し小出しに剣を出し、その微妙な強さのバランスで熱く戦う大戦の様子を。


 だからこそ、今までこの剣を参戦させることは無かったし、そのそぶりも見せなかった。


 だが、今のこの男は違う。


 軍神として熱いものがみたい以上に、もう一つみたいものがあるのだ。


 そして、それこそが高木神が見たくないものだった。








 無双。








 数多の軍勢を孤立無援で切り倒し、なおも一人君臨し続ける"最強"。その最強が、敵を蹂躙する姿もまた熱い。


 だから、早くそれがやりたい。


 建御雷之男之神の脳内はそれ一色で、高木神の危惧する"他神群"との摩擦など考えていないのだ。


 そして、それだけの強さがこの剣にはある。

 何せ



「これ一振りすれば軽く街が消し飛ぶのだぞ!?」

「だからかっこいいだろう!!」

「ヤマタノオロチぶった斬った時も、あれほどの神霊を木っ端微塵にしてるのは見てるよなぁ!?」


 手元の剣を指さし、口角泡を飛ばして思いとどまらせようとする高木神に、しかし建御雷之男之神はどこ吹く風。


「ヤマタノオロチが一撃で粉微塵。地面に突き刺しただけで半径数キロに畏怖効果発動! こいつは一振りすればその膨大な霊力が最高の活力を見出し、そして神化する!!」

「だからヤベエって言ってるんでしょうが!!」


 聖剣&魔剣大戦に神剣を出そうとするんじゃねえ!!



 そう、高木神が止めている理由はそこにあった。


 聖剣&魔剣大戦に、残る数本を出そうとしない理由。

 何故ならそれは、草薙の剣と呼ばれるヤマタノオロチの体内からドロップした宝剣と、そして。


 そのヤマタノオロチを葬り去り、一振りで軍勢の霊力を解放した恐るべき神剣。





 布都御魂(フツノミタマ)であるからだ。







「んじゃ、布都御魂の精霊呼ぶわ」

「話聞いてた!?」

「我は建御雷之男之神。その名に導かれて馳せ応ぜよ、聖剣の魂の一片よ!!」

「あああああ召還してるうううう!!!」


 ギラリ輝く建御雷之男之神の手と、共鳴するように同じ光を発する布都御魂。

 突如その二つの煌めきが巨大化し、一室を瞬間的に支配して、思わず高木神は目を閉じた。


 数瞬の後、ゆっくりと、おそるおそる目を開いた彼の眼前に飛び込んできたのは、成功に喜びの笑みを浮かべる剛毅な男と、そして。






「呼っばれって飛っび出ってパンプルリ「言わせねえよ!?」……んだよ誰も欠伸なんかしてないじゃーん」



 他の聖剣魔剣の時と同じように、小さく可憐な少女が、布都御魂のあった場所に小さくちょこんと座っていた。


 ショートカットの黒髪と、萌黄色の浴衣。

 大和撫子を彷彿させながらも、その黒い瞳はギラギラと輝きに満ちている。


 やたらめったらテンションの高い彼女は、きょろきょろとあたりを見回して、高木神を見てやたらと嬉しそうな顔で指を一つ立てた。


 視線の先は、高木神の前掛けと、彼の人の良さそうな顔。


「おっちゃん、生とあれな、つまみ」

「俺バーのマスターじゃねえよ!!」

「居酒屋の大将か?」

「日本神群だから言い直すとかしなくて良いんだよ!!」


 ケラケラと楽しげに、少女は冗談冗談と手で煽る。

 出てきた瞬間からなんつー破天荒な、と頭を抱える高木神に、その短髪の少女はにかっと笑って言った。


「味普通油少なめ、ぐっと硬めな」

「ラーメン屋でもねえよ!!」

「じゃあその前掛け何なんだよ」

「高倉下の夢枕に立つ準備だよ!!」

「なんだ夜限定営業か」

「そぉじゃねえええええ!!!」


 日本神話ネタで漫才をやる二人に、建御雷之男之神は豪快に笑うと、その少女に目をやった。


「おまえ、布都御魂か?」

「おうよ! アタシが布都御魂! ばったばったと罪無き人々を吹き飛ばし、ただ巣を守りたかっただけの蛇を粉みじんにする最高の剣たぁアタシのことよ!!」

「すげえ悪ぃ奴じゃねえか!!」


 頭を抱える高木神を、建御雷之男之神は押さえる。


「あ~……いやまあ、戦争してる連中とはいえ、罪は無い元一般人だし、ヤマタノオロチはその罪業を背負った悪蛇だ。悪気はなかったかもしれんからな」

「ちぇ~……なんだよ、知った風に」

「ハッハッハ、俺の系譜から現れた剣のお前なぞ、お見通しよ」


 ばつが悪そうに頭をかく彼女の八重歯が、ちらりと小さく見えた。


「んでんで? アタシこれからあれっしょ!? スーパー撲滅&撃滅大戦争でしょ?」

「惜しい」

「惜しくねえ!!!!」


 つっこみの高木神。


 妙に波長が合うのか、少女と建御雷之男之神の会話は飛ぶように進む。


「行ったらアタシが適当な奴に寄生してその他をボロカスにすればいいんだな!?」

「うむ! "OBUTSU☆HA☆SYOUDOKU"作戦だ!!」

「ヒャッハアアアアアアアアアア!!!」


 日本神群が世紀末だ。


 止めなくてはと思う高木神は間違っていない。


「コラコラコラ!! 本当にお前の出力じゃ街一個平気で滅ぼしかねないんだぞ布都御魂!!」

「高木先生……虐殺が……したいです……」

「諦めろおおおおおおお!!!」


 きゃはは、と楽しそうに、背中の小さな羽をはばたかせて布都御魂は飛んだ。


「んじゃ、アタシ行ってくる! やまだあああ!! ってやってくる!」

「三國無双する気満々!?」

「おう、がんばってこいよ!! 日本神群は!」

「強い!」

「え、なにそのスローガンいつできたの!?」


 WRYYYYYYYY!! と叫びながら下界におりて行った少女を、呆けた目で高木神は見つめていた。











 滅ぼせ神剣! 布都御魂ちゃん! ~Now Loading~













 生きる意味って何だろうか。

 ずっと考えてきたことはあったが、俺にはピンとこなかった。

 友人には、夢に向かって邁進してる奴も居るし、ゲーセンに命をかけてる奴も居る。

 情熱を燃やす方向はそれぞれだが、それでも俺には等しく眩しく見えた。



 俺には、なにもない。


 だからこそだらだらと毎日を過ごしていたし、何かに自分を見出そうとして色々やって、全部ふいに終わった。


 何かにかける、自分。それすら想像できないモノクロの日々。


 何だろうなあと。


 ため息を吐いても仕方のないことだなんて、わかってる。毎日を無駄に浪費している自分が、生きているといえるのだろうか、それすらも、わからない。


 自堕落に学校へ通い、時にさぼり、ゲーセンで適当に暇を潰し、絡んできた奴を適当にボコるそんな日常は、とてもしらけて、つまらないものだった。


 そんな俺だったからこそ……最近噂のスーパー聖剣&魔剣大戦、というものに、少しの興味も抱けなかった。


 どうせ、自分には関係ない。やったところで、すぐ飽きる。



 数日前まで、そう、思っていた。




 あの出会いが、俺のモノクロに色を与えてくれたんだ。









 滅ぼせ神剣! 布都御魂ちゃん! 


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Exit










 晴れ渡ったある日の登校時間。朝の日差しが眠気と共にいらだちを募らせる、そんな時間。

 高校に行くかさえ迷っていたコンクリートの住宅街で、それは起きた。



 唐突にWRYYYYYY!! と叫びながらバカが俺の脳天に突撃かましてきやがったのだ。


「何しやがるテメエ!?」


 振り返ればそこに居たのは、見慣れた不良連中ではなくちみっこい女。

 あれか、ちまたで話題のスーパー魔剣&聖剣大戦の妖精か。


 睨みつけたらなぜかこの女は目を輝かせて拳を握り、わくわくと口で言いながら言葉を重ねる。


「ウホ! 好い男!」

「お前が言っても危機感ねえな」

「そんなことは良いからさ! ねえ暇!? 今暇!? 暇でしょ!?」

「なんだよ突然現れやがってからに」

「アタシと契約して、戦争(クリーク)! 戦争(クリーク)! 戦争(クリーク)!」

「混ざってド派手に物騒な話に!?」

「ほら少佐! コールに答えてコールに!」

「え? あ、よ、よろしい、ならば契約だ! ……うお!?」


 唐突に輝く周囲と俺。

 しまったついノリに任せてしまった。

 なんというゴリ押し商法だ。


 少佐好きが祟ったか?


「ほほう、わかってるじゃんわかってるじゃん! やっぱりお前にけってーい!! はい契約契約ぅ! これ保証書ね」

「保証書? 何の?」

「アタシの」

「お前の!?」


 保証書って何だよ。

 紙を見れば確かに「布都御魂返品について」となんか書いてある。返品!?


「アタシ布都御魂! あんたは!?」

富士山(ふじやま)結城(ゆうき)だ」

「ねえチョモランマ、おなかすいた」

「欠片もあってねえよ山か!? 山つながりか!?」


 さっそく俺の肩にちょこんと座った彼女だが、不思議と重くない。何故だろう、羽が乗っていると言っても納得がいくほどに軽い。


 一瞬で何か重大なことが起きてしまった感が否めないこの状況。


 スーパー聖剣&魔剣大戦と言えば確か、有名な武具を持つ担い手同士が戦い、一万倒せば願いが叶う、という……。


 願い、か。


 願いなんて、特にない。せめてこの退屈な日常さえ、どうにかなってくれれば。


「それにしてもあれな。スーパー聖剣&魔剣大戦だっけ?」

「ん~? ……あ~、うん、たぶんそんな感じ。きっと。アタシ記憶力あんまよくないし。もっとこう、見敵&殺害大戦とかのがおもしろいんだけど」

「それただの殺し合いだ」

「サーチ&デス!! サーチ&デス!! サーチ&デェェェェェッス!!」

「お前やりたい放題だな!?」

 

 性格に非常に難があるとはいえ。


 布都御魂……みてくれはとても可愛らしい、八重歯のよく似合う元気な童女だ。短髪も、前髪ぱっつんでまるで日本人形のよう。


 そんな可憐な少女が、戦わなければいけない理由がまさか、神様の暇つぶしとはな……。


「何でも一つ、願いが叶う……だっけ?」

「一万の軍勢を滅ぼせばね! ギャルのパンティ食べ放題!」

「お前サブカルチャーネタ本当に豊富だな!?」


 日本の神だし。


 そう肩をすくめる彼女は現在、俺の肩の上にちょこんと座ってアイスを食べていた。


 腹が減ったというのでコンビニに寄り、やっすい棒アイスを購入してやったところだった。


 首だけ捻って彼女を見ると。食べ終えたアイスの棒のささくれを割いて、鼻にぶっさしていた。思わず、みなかったことにしようと、きわめて自然を取り繕ってもう一度前を向く。


「結城見て見て」

「……なんだよ」

「鼻毛神剣!!」




 すーっ……ふー……。深呼吸だ。



 ……なんでこんなことになっているんだろうな。


 彼女の性格は、よくわからないが。とにかくボケに命をかけているように見える。


 WRYYYYだったしな。俺の頭に突撃してきた時のかけ声も。


「布都御魂、お前強いのか?」

「鼻毛神剣!」

「いつまでやってんだよボケが」

「んだよ反応しろよぉ」


 ちぇ~、つまんね、と唇を尖らせる布都御魂。よくよく考えたら謎の生命体ではあるのだが、それは別にどうでもいいかなと思っている自分が居る。


「んで、俺はどうすればいいわけ?」

「大丈夫、特別なにもしなくても"聖剣魔剣使いは惹かれあう……!"」

「なんで変なポーズ取り始めてんだよ」


 可愛らしい萌黄色の浴衣で、片足あげたポーズをする布都御魂の顔はどこか劇画調になっている気がしないでもない。


「で、どこに向かってんだこれ~?」

「ん? 高校めんどいからさぼり? 今日はちょっと裏山に行きたい気分なんだ」

「さすが金髪不良!! 日本人の誇りを捨てたゴミ!」

「そこまで言うかテメエ!?」


 髪を染めてなにが悪いってんだ全く。やることなさすぎて色々手を出した時期があったんだよ。

 先公は確かに、うるさいが。



「ちなみにさ、結城ぃ」

「何だよ今度は」

「裏山に今、一人居るよ魔剣使い」

「魔剣使い?」

「あ、あの超絶面白い銀賞受賞して今年中に書籍化する作品とは関係ないよ?」

「うるせーよ何で知ってんだよ」

「まあとりあえず、記念すべき一人目殺っちゃおうぜぃ!」

「記念すべき、ねえ」


 まあ、高校さぼって、なにもやることもねえ俺みたいな不良には、一つくらい楽しみがあった方がいいかもしれないとは思う。


「なあ布都御魂」


 何の気なしに、話しかけた。スーパー聖剣&魔剣大戦はともかくとしても、彼女とのこの会話は、少しは陰鬱とした気分がまぎれそうだったから。


「……その大戦は、楽しいか?」

「さぁね~? ヒマラヤ次第じゃない?」

「もはや山脈単位!?」


 ……でもまあ、そりゃそうか。面白いかどうか、楽しいかどうかなんて俺次第。ちょっとでも彼女という存在に対して期待してしまった自分が少しおかしいのかもしれないとも思ってしまう。


 けど。


 どーせ一時の退屈凌ぎだ。


 やっちまおうか、魔剣を使うプレイヤーを。


「行くか、裏山。魔剣使いとやらを駆逐しに」

「お! 乗り気だねえ! すばらです!」

「お前のネタ数どうなってんだよ」


 キラッ、と流星に跨って急降下する感じにポーズを取る布都御魂と、俺は何とも言えない感情を抱きつつ裏山に向かうことにした。



 俺の住む町はそこまで大きな都会でも、寂れた田舎でもない。

 せいぜいが郊外、緑も散見されるような、ベッドタウン的な要素を含んだ街だ。

 少し進めば、コンクリートの道のはずれに、小さな山の入り口がある。木々やすすきの小道を抜けた先が、山の獣道に繋がっているのだ。


「へー、なんかこうあれだね、健やかだね山登り!」

「山頂まで30分もない小さいもんだけどな」


 爆走兄弟だぜ! と怒鳴る彼女はレッツゴーとでも言いたいのだろうか。


 黒髪の和服美人に憧れたこともあったが、この天真爛漫な雰囲気も悪くないものだと思う。


 少し頭がイカレすぎているのが難点か。


 ざくざくと、春の山道を進んでいたその時だった。


「結城、その命……消えるよ?」

「は?」

「プランD、いわゆるピンチだよっ! アハっ!」

「ピンチって何……っ!?」


 危うくバックジャンプをするも、坂道だったせいでバランスを崩す。

 何だと思った矢先に突き抜けるような風、反射で首を日ねって回避。


 視界に必死で意識を向ければ、そこに居たのは長髪の男。金髪の、何者か。


「おいおいおいおい、いきなり剣で攻撃たあ……ずいぶんじゃねえか」

「それがエクストリームVSマキシブースト宇宙戦争だからね!」

「もはや原型ねえな!?」


 すすきの中に転がって、呼吸が浅くなるのをこらえながら立ち上がる。

 長い剣はカトラスのたぐいか。剣に詳しくない以上よくわからないが……。


「よけたか」

「穏やかじゃねえなテメエ。殺す気かよ」


 見ればぽつりとつぶやくだけの幽鬼のような形相。なんだかよくわからんが、これが俺の相手なのか?


「お前を殺せば931人め。ふふふ……やっと目的に……うけけ……」

「あ~、やばい人だコイツ」


 みればなんか涎垂らしてた。

 目がイッてた。


「布都御魂、どうすんだ?」

「まかせんしゃい! アタシを誰だと思ってるのさ!」

「いや、布都御魂なんて聞いたことねえ名前だしな」

「なんですと!?」


 目を丸くする彼女は、魔剣使いに向き直る。どんな剣なのかは知らないが、そこに気を向けるほどの余裕は今の俺にはないわけで。


「いいかよく聞けコラァ!」


 布都御魂が俺の前に飛び出た。

 何をする気かわからないが、コイツは武器の妖精だ。

 喧嘩ならやってもいいんだが、相手がマジモンの刃物持ってると少し怖い。


 彼女は金髪に向けて、声を発する。

 まさか挑発でもする気じゃ


「デャアハッハッハッハ!!!! 流派布都御魂は王者の風よ全新系裂天破侠乱見よ東方は赤く燃えている!!」 

「何してんだテメエ!?」

「ぎゃふ!?」


 何を言うかと思えば相手もお前も東方で不敗なあの流派じゃねえだろうが。口上を垂れる布都御魂に、当然男は反応なし。それどころか、狂気の笑みを携えて曲刀を振りかぶってきた。


「うのわ!?」

「ウケケケケ!! 931! 931!」

「結城臭い臭い言われてねえどんな気持ち!? ねえ今どんな気持ち!?」


 逃げながらそのちみっこい胸ぐらを掴んでガンつける。


「オフザケしてる場合じゃねえよなぁ? あいつ武器もってんだぞ? 武器もってんだぞ?」

「大事なことだから?」

「焦ってるから二度言ったんだよ!!」


 胸を張る布都御魂。


「安心したまえ! アタシはすっごく強いのだ! ほらさっさと起動しなよ!」

「起動!?」

「ほら腕を掲げてシェエルブリットオオオオオ!! って! ほら!」

「アルター能力じゃねえだろお前!?」

「じゃあほら、やぁぁぁぁぁってやるぜ!! って!」

「ダンクーガでもねえよ畜生!!」


 俺だってさっさと剣使って相手倒したいんだっての。お前がふざけてるから進まないんだろうが!


「ウケケケケ!! 931! 931!」

「金髪てめえもふざけんな! 俺は臭くねえ!!」

「そうだそうだ! ヴァン先生が臭いんだ!!」

「布都御魂お前ほんと黙ってくんねえかな!?」


 俺の眼前にまで跳躍してきた金髪が、狂ったように曲刀を振り下ろす。

 瞬間、爆ぜるように砕ける足場。


「ウケケケケケケケケ!!!」

「やっべ!?」


 金髪の曲刀が地面を割ったのだ。

 あっぶな。あんなの相手するの? 俺が?


「布都御魂、大事な話がある」

「ほいさ?」

「本気でお前の使い方がわからねえ」

「説明書の32ページ」

「今言えよお前が!!」

「ええ!? えっとね、『赤巻紙青巻紙黄巻紙』って三回言えばいいんだよ!」

「あかまきがみあおまきがみきまきがみあかまきゃっ……って言えるか馬鹿が!! 馬鹿があああああああああ!!!」

「あひゃひゃひゃひゃ!!」


 うのあ!? 馬鹿をやってる間にさらに曲刀が振るわれる。かろうじてよけられているから良いものの、俺は人間だ、普通に斬られたら死ぬ。


「ウケケケ!! シネシネシネシネェ!!」

「ちょ、こわ」


 ブンブンとやたら振り回す剣なのに、どうしてか回避が難しいのは何でだ。


「まじめにやれやスクラップ!!」

「布都御魂剣、って言えばいい! ……ってスクラップ!? ひどい! 鉄製じゃないのに!」

「後でしばく! 布都御魂剣!!」

「あいよ!!」


 瞬間煌めきが周囲を包む。さっき契約した時と同じ光が。

 何が起こったのかなんて、見るまでもない。俺の手に握られたこの剣こそ、俺が契約したあいつ……って


「ぼっろ! なにこの剣ぼっろ!? 遊んでる場合じゃねえんだぞ!?」

『アタシ古くても由緒ある剣だから大丈夫。あ、あと良いこと教えてやるよ』


 脳内に響く声にシフトした布都御魂。

 さび付いた銅色の、柄すらないこの直剣が、彼女の本体らしいが。


「何だよ、良いことって」

『今までさんざん遊んでたけど、どう? スリル楽しかった?』

「折るぞテメエ」

『あひゃひゃ、安心しなよ。アタシが遊んでたのはねぇ……アタシが剣になっちゃったら、勝負じゃなくなるからなのさっ!!』

「は?」

『アイツ来たら、かる~く。きわめてかる~く、アタシを振りな。それだけで良い』

「軽く?」


 またくだらないノリにつきあわされるんじゃないかという懸念もあるが、なんだかこうイヤな予感がする。


「ウケケケケケ!!」

「いい感じにラリってんなコイツ……」


 そして、逃げても逃げても追いかけてくる金髪が、目の前に現れた。


「かる~く、ね」


 すい~っと。

 振った。


 剣を。


 振ってしまった。


 布都御魂を。




 俺の手元から発せられた暴風が周囲の木々を根元からごっそり吸い込んだ。山の地面に入るは大量の亀裂。

 草花は消し飛び、大気は戦慄く。たった一閃したその威力。まるで空気を斬ったかのように、その軌跡が真空と化してしまったかのように、根こそぎその即席ブラックホールへと、無力な大自然が吸収され、粉微塵にされ、塵芥へと姿を変える。


「えええええ!?」

『いやあ、照れる照れるぅ!』

「誉めてねえよ!!」


 野山の一角の惨状が、視界に飛び込んでくると同時。


 ラリっていた魔剣使いが、踏ん張り虚しく足を取られて無惨に散る。


「ジャコオオオオオオオオオオオオス!!!!」

「なにそのひめい」


 吹き荒れる嵐は不思議と俺にだけは干渉しない。まるで台風の目だ。俺だけが、この災害の中で一人、金髪が粉々に砕かれるのを、傍観者のごとく立ち尽くしていた。


 からん、と何かが落ちた音。


 曲刀だった。


 風が、掻き消えるように止んだ後。ふいに手に持っていた感触が消え、目の前に現れる妖精。


「……おいおい、強いなお前」

「ヤマタノオロチを斬ったアタシに、敵は無いね!」


 ふふん、と鼻をならす彼女の前で、曲刀を拾い上げた。

 コイツからは、何も声が聞こえない。


「あー、まあ担い手の精神ぶっ壊れてたし仕方ないんじゃない? 埋めといてあげれば?」

「は?」

「いや、その子が返事をすることはないんじゃねって」

「ふうん」


 ならまあ、埋めといてやるか。かわいそうだし。


 とりあえず。


「ぎゅむっ!?」

「テメエさっきはよくも窮地で早口言葉とかさせたなコルァ」


 指で彼女の顔をつまむも、すぐに脱出された。

 まあこれで仕方がないとは思いつつも、一つ息を吐いた。


「まずは一人目! 日本神話群が最強だと示す第一歩だねぃ!」

「え、なにそれ」

「一万人倒すのはエベレストだよ!」

「俺富士山な?」


 何もなくなってしまった、荒廃した野山に腰を下ろして彼女を見上げた。


 どしたどしたと首を傾げる布都御魂は、思い出したようにポンと手を打った。


「どう、一戦目はたのしかった?」

「……ああ、そういや暇つぶしになるかどうか、って話でここまで来たんだったな」


 楽しかった、か。

 どうだろうか。よくよく考えれば今のは命の危機だった訳だ。

 布都御魂の馬鹿のせいで、それこそピンチにもなりはしたが……怖かったかと言えば嘘になる。


 だが逆に楽しかったとか、おもしろかったかと言えば、それに頷くことも出来なさそうだ。


「喧嘩とかわんねえな、なんか」

「そーお? やっぱり卑劣なことして『これは孔明の罠だ!』とかやりたい?」

「俺仲達じゃねえよ」


 まあ確かに、暇つぶしにはなった。

 だが、正直それだけかもしれないとも思う。


「俺さ、なんか燃えられない人間なのかもしんない」

「あ、まいたけ」

「聞けよ!?」

「ん? 燃えられないなら、別にそれでもいんじゃないの?」

「は?」


 なんだかんだでちゃんと聞いていたらしき布都御魂は、生き残っていたマイタケの近くから戻ってきて、のんびりと言う。


「いやだってほら、アタシとか何も考えずに生きてるし」

「それで生きてるって言えるのか?」

「よくわっかんない。けど、生きる意味とか、逆に考える意味あんの?」

「……それは」


 俺は、そればかりを考えて空白な日々を過ごしてきた人間だ。だから、生きていることに価値を見出したいと思っている。

 でも、コイツの問いに答えることが出来なかった。


 生きる意味を、考える意味、か。


「将来の夢を持つとか、何かを必死でやるとか。そういう奴が、俺は羨ましいんだよ。だから、何かをやってみたいとは思うけど、どれもつまんねーって投げちまう。生きる意味って、何だろうって、思っちまっても無理ないだろ」

「うわキモ」

「そこまで言う!?」

「なんでそんなこと考えんの? そんなのよりさ、明日の晩飯どーしよとか、そっちのが気になんだけど。アタシ」


 人間わっかんねー。知らんけど。とどこからか取り出した扇子を持ってパタパタと飛ぶ彼女だが、今更彼女のサブカルチャーネタに追いつくテンションは無い。


 明日の晩飯どーしよー……か。


「まー、無理なら無理で必死で考えれば? つまんねーと思うけど」

「……テメエ」

「だってさ、楽しいこと考えてる方が生きてる感じすんじゃん」

「生きてる感じって何だよそりゃ」

「生きる意味を考えるんも大いに結構だけどさぁ? それより生きてる~! って思った方がいいんじゃないの? ギャルのパンティ一万枚、神様に頼むとかバカらしくておもしろいじゃん」


 建御雷之男之神にそれ言ったらどんな顔すっかなー! と、一人想像してけらけらと笑う、布都御魂。


 見回せば、彼女の恩恵でイヤにさっぱりした、剥げて亀裂の入った大地。

 何も、ない。


 すー……ふー……。深呼吸して、思う。


 おもしろい、か。


「布都御魂」

「布都御魂と聞かれたら、答えてあげるが世の情け」

「晩飯、どうしようか」


 問いかけた言葉に振り向いた彼女は、一瞬目を丸くして、ついで小さく口角をあげて……そして、元の不満げな顔に戻った。


「ちぇー、なんでスルーすんのさー」

「さぁな。要望がなければお前の食事はクレンザーだ」

「研磨剤!? ひどい! 錆は落ちないよ!?」


 考えに決着は着かないし、コイツの言ってることもよくわからん。


 どこか冷めた自分の思いも、改善されることは何一つ無いし、くだらないことだけれど。


「布都御魂」

「なになに~?」

「……やるか。ギャルのパンティ一万枚」

「おお! 楽しく生きる覚悟の貯蔵は十分か!?」

「楽しくってのはよくわからねえけど。暇潰しにはなりそうだし、それにまあ……一万を退けた後に頼む神様への申し出がそれってのは……面白そうだ」


 それでも一応、当面の目標は出来た。彼女が居れば、まあどうにでもなりそうだ。


「ちなみにお前、本気出すとどうなんの?」

「本気ってアタシじゃなくて結城が出すもんなんだけど、結城が本気でアタシを振れば、少なくとも街一個木っ端みじんに消し飛ぶ」

「……ちょっと待て、それ日本でやって良いのか?」

「担い手含めて人を殺さないようには出来るし、こーゆー野山で戦えばいいんじゃん? 地図から山一個消えるけど」


 なんというか。


 スーパー聖剣&魔剣大戦の妖精はみんなこんな化け物だっただろうか。

 高校の担い手は確か、校庭で斬り結ぶだけで十分事足りていたと思うんだが。


 まあ、山一個消すのが楽しいと思うかもしれないし、いいか。


「よし、じゃあギャルのパンティ一万枚を神様に頼む為に、いっちょやるか」

「ふふふ……大きく出たな時臣」

「誰だよお前」


 ふんぞり返るこの少女は本当にぶれない。


「アタシ洋食って食べたことないんだよね」

「んじゃ、適当にハンバーグでも作ってやるよ」


 立ち上がって、俺と布都御魂は下山を始めた。

 いつの間にか、お日様は真上まで来ていて、ちょうどお昼時。おなかもすいて、仕方がないのかもしれない。


「マジ!? やった!」


 小躍りしながら、空をくるくる飛び回る。彼女は、俺の眼前にまで戻ってくると、笑って言った。


「安心しなよ結城。アタシが居る限り面白いって保証してやる! それにアタシは負けないよ? 神の剣の恐ろしさ、思い知らせてやろうぜぃ!」

「面白い、か」


 ……まあ、彼女との、今日のふれあいは……本当に些末な楽しさがあったことは認めよう。

 くだらない、本当にどうしようもない掛け合いで、この女はこれまた濃いネタしか振らない女だが……悪くないと思う自分も居る。


「ま、保証してもらおうかな。じゃあ。せっかく、暇つぶしに他の担い手を倒すんだ。面白おかしく倒して行くか」

「任せな! アタシの力なら朝飯前だ!! 何せ……」


 言葉を切った彼女が、なんだか言うことが予測出来た。


 これだけパロディばかりを口にする女が、あれを言わないはずがない。


 彼女のタイミングに併せて、俺も息を吸って。


「「アタシの戦闘力は53万だからな!」……だろ?」


 なぜ分かった!? と言いたげな彼女に、口元に弧を描くことで答えて。


「アアイエエエエエ!? ナンデ!? チョモランマナンデ!?」

「誰がチョモランマだ!」


 くだらない、どうしようもない日々を始めよう。


 生きてるって感じを、探しに。

 Character Profile


 富士山結城

 17歳男。この物語の主人公にして、なんだか燻ってる不良少年。

 中学時代の友人がやたら将来のビジョンを明確化してたりハイスペックだったりしたせいでコンプレックスを抱いている。

 実はモデルは、「作者が高校を辞めなかったらこうなってただろうな」というところから引っ張ってきたという割とどうでも良い設定あり。



 布都御魂


 まんま、神剣布都御魂に宿る妖精。サブカルチャー好きなのは、だいたい日本神群の連中のせい。おもにオモイカネ神とか。

 活力に溢れるキャラクターで、作者自身“やりたい放題好き放題”を地で行く子が好きなので出来た子。気に入ってくれたらうれしいな。

 伝承ではヤマタノオロチを斬った十拳の剣とされ、そして邪神の瘴気に気絶した軍勢を、一振りの霊力解放で全開させ、そのままの勢いで神武天皇の統一を為した神剣。

 中つ国を制圧した建御雷之男之神が持っていた剣もこの布都御魂だとする説もあるが、これに関しては別の十拳の剣である説もあるので触れない予定。

 強い。




 続く……かなあ? どうだろう。基本的に日本国内でゲリラ的に強い奴を探してはブッコロ★していくヤバい存在になるんじゃない?


 長々書きましたが、ワタユウさんありがとうございました。



 ワタユウさんが許可してくれたら、またいずれ続きを書く……かもしれない。設定が神ってるから書きやすいし楽しいんだよね、スーパー聖剣&魔剣大戦。


 ではでは。


 2014/05/10 藍藤♂

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ちゃっかり宣伝してましたね... 別にいいですけど! [一言] 誤字報告 反射で首を日ねって回避。 反射で首をひねって回避。 ですかね
[良い点] よろしい。ならば戦争だ。 [一言] サブカル豊富だねっ☆ミキラッ 少佐はいいよ。うん。 っていうかヒラコー最高。
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