小さな家庭教師2
「それでは、始めますよ。」
「……はい。」
今、私は自室にてカミルンにこの世界の言語を教えてもらっている。
驚くことにこの世界の言葉はドイツ語や英語が混ざっているだけのもので、簡単なものなら読める。
「カミルン、ここの言語って私のいた世界の言葉が混ざっているだけなの?」
「あぁ、まぁだいたいそんな感じだと思います。アストニットの言語に英語が入っていなかったら一日では覚えられませんでしたよ。」
「なんで英語なの?」
「詳しくは知りません。ご自身でお調べになられては?」
この歳で家庭教師を任されるほど頭の良いカミルンも知らないとなると自分で調べるしかないのか。
「…あと、先程から何度か言っているんですけど……そのカミルンって呼ぶの、やめてもらっていいですか?」
「え?やだよ、気に入ってるし…」
「やめてください。」
「…はい。」
こうしてカミルン……カミルがこの世界の言語を教えてくれたことによって書物が簡単に読めるようになった。(元々読もうと思えば読めるが。)
カミルンには感謝しなければならない。
……カミルには感謝しなければならない。
勉強が終わって一息つこうと思っていたら、モレナさんが入ってきて紅茶を持ってきてくれていた。
「あら、もう終わったんですか?」
「はい、終わりまし…」
「まだです。」
私の言葉を遮るようにしてカミルが衝撃的事実を口した。
勉強がまだ?嘘でしょ?だってもう読めるよ?私は何が何だかわからなかった。
「ユエルさん、明後日までにやることがありましたよね?」
「はい?」
「ありましたよね?」
「ん?」
「…はぁ…」
カミルは溜息をつくと、私のベッドの上に置いてあった頑丈で古い本を指差した。
「あっ…そういえばエレナさんに明後日までに読めとか言われてた!」
「…この本の文字は?」
「ん?古代文字じゃないの?」
「つまり?」
つまりなんだろうか。馬鹿な私は脳をフルで働かせた。そしてある言葉を思い出した。
『何万年も昔の字です。恐らく誰も読めませんし、書斎にもありませんね…。でも、あそこなら、“世界の果て”なら何かわかるかも…』
モレナさんの言っていた言葉だ。
世界の果てまで行って明後日までに読まなければならないのか…
「ユエルさん、分かりましたか?」
「はい、ものすごく。」
「そうですか。ではモレナさん、僕たちは世界の果てまで行ってきますね。」
「え!今からですか?」
今から行く気満々だったカミルは時間をみてやめましょうかと言って部屋を出て行った。私が時計を見ると夜中の三時だった。カミルは恐らく、睡眠をとった方が良いと判断したのだろう。
「おやすみなさい、ユエル。」
「うん、おやすみ、モレナさん。」