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魔法使いと三つの国  作者: ヒカル
第一章
6/8

勇者の末裔

下に下りてきたはいいが、モレナさんが見当たらない。

人の気配を感じないような小さな館だし、モレナさんという存在感ある美しい女性は、近くに立っていれば恐らく気付くだろう。


館をウロウロするのもどうかと思うが、今はモレナさんを見つけることが先決だ。彼女がいなければこの館の主人に会うことも難しいかもしれない。


そう思って私はわくわくしながら辺りを探索…じゃなくて、モレナさんを捜索しに行くことにした。



「…ユエルさん?」

「ひょわっ?!」



後ろからの突然の声に思わず自分でも驚く変な声をあげた。

なんだよ、ひょわって。意味わかんないよ。

後ろを振り向くと、メイド服をまとったモレナさんがいた。

…メイドと言っても、漫画やアニメ、ラノベなどで見るようなミニスカートは穿いていなくて、スカートの丈はかなり長い。



「モレナさんだったのか。捜索する必要はなかったみたいですね。」

「はい。今、服を替えてきたんですよ。」

「メイドさんだったんだー!凄くにあってますね!」

「ありがとうございます。では、館主のところへご案内致します。」



一分もかからないうちに、モレナさんは「こちらです。」と言って、ノックしてから扉を開けた。



「エレナ…様、ユエル様をお連れ致しました。」

「そうか、ご苦労だったな。お前はもう下がっていいぞ、モレナ。」

「かしこまりました。」



そう言ってモレナさんは、開きっぱなしの扉から部屋を出て行った。

館主のこと、エレナって呼び捨てにしそうになっていたけど。

そしてこの館の主を見て、私は喫驚した。

モレナさんに似ている…というよりモレナさんなんじゃないかと疑うくらい似ている。瓜二つだ。でもモレナさんより胸が小さ…あ、いや、魅力的だと思う、凄く。でも確実に私よりはあることが悔しい。



「あまりジロジロ見るな。そんなにモレナと似ているか?そうだろうな。私達は双子、だからな。私はエレナだ。宜しくな。」

「ほうほう、なるほど…。双子だったんですね。どうりで似ているわけですね。モレナさんがエレナさんのことを呼び捨てで呼びそうになったのも納得です。エレナって確か私を引き取ってくれる方の名前だったような…。」

「あぁ、そうだ。実はお前の母、カミリア・ブラシャールの姉である私が館主として、私の妹のモレナと二人でこの館を護っている。勇者の末裔である私やカミリアが生まれ育ったこの館だからな。大切にしなければいけないと思ってな。」

「そうなんですか…。」



この人たち、モレナさんとエレナさんは私の母の姉で、母は勇者の末裔だったのか。なるほど。納得。



「…って待って下さい!貴方達(異世界人)が姉ということは私の母は異世界人なんですか?!それに勇者の末裔って…貴方達の先祖は勇者なんですか?!」

「あぁ、そうだ。先祖は世界に名を誇る勇者だ。勇者なのだ。…何兆年も昔のことだが。」

「何兆年!?そんなに歴史のある世界なんですか?!というか母が私を産んだ時点で私も勇者の末裔になってません?!それ!!」



思ったことを思いっきり率直いぶつけると、エレナさんが「まぁ、落ち着け」と宥めようとする。こんな状況で落ち着ける人なんてそうそういないだろう。いきなり穴に落っこちて、変な声が聞こえて、気付いたら異世界の知らないベッドの上にいて、引き取り手は異世界人で、お母さんも異世界人で挙句の果てに私は勇者の末裔で…って落ち着けるわけない!



「まぁお前を、失敗してしまうリスクが高い転送魔法でわざわざ異世界へ呼んだのには理由があるからな。」

「理由…?ていうかあれ転送魔法だったんだ。ていうかここは魔法なんてあるんだ。ただの穴にしか見えなかったよ。失敗するとどうなってたの?」

「恐らく、残酷なことに…。うっ…、大丈夫だ、お前は今、生きているからな…」



私はエレナの言葉と様子を見てだいたい察した。訊かなければよかったと後悔している。自分の身が残酷なことになりかけたのだ。恐ろしい…。



「で、エレナおばさん。なに?その理由って。」

「ん?敬語はやめたのか?お、おばさん…」

「え?だってお母さんのお姉さんってことは、私の伯母でしょ?敬語は面倒だったし、伯母ならいいかなって…」

「…確かにそうだな。敬語は別に使わなくてもいいが、おばさんはやめてくれ。なんか嫌だ。」

「わ、わかったよ、エレナ…さん?」



エレナさんも結構乙女なんだな…。

いや、いまのは失礼か。


エレナさんは頑丈そうなロックのかかっている箱から一冊の黴臭く、かなり古そうな本を取り出し、私に渡した。



「これは…?」

「勇者のことについて書かれている本だ。これを呼んで来い。話はそれからだ。」

「は、はぁ。読んで来いって自室で…?」

「あぁ、書斎が開いているからそこをつかってもらっても構わない。だが、明後日には話をしなければいけない。必ず、明後日までには読むように。」

「読めばいいんだね、了解。」



そういって私は軽く返事をしたが、自室に戻り本を開くと絶望した。見たことの無い文字がびっしりとならんでいて全く読めなかった。アストニットの文字なのかな…。



「ユエル様、お飲み物をお持ちしました。」

「わっ、モレナさんいたの?!あ、私の事はユエルでいいからね?」

「ですがメイドとして…」

「もう、私のことは姪として接してよ。親族なんだからいいでしょ?」

「…かしこま…いえ、わかりました、ユエル。」

「うん、それでいいよ。」



私はモレナさんが持ってきた紅茶を飲みながら、「モレナさんはこの文字読める?」と本を見せて尋ねてみた。



「これは…古代文字のセーレン語ですね。」

「ん?アストニットにもアストニットの言葉があるの?モレナさんたちは地球の言葉つかってんじゃん。」

「ユエルの為に少し覚えましたから。でも、文字は読み書きできません。」

「そっか、言葉って複雑だもんね。」



いつから勉強してくれていたのかわからないけど、大変だっただろうな…



「まぁ、今日からユエルはこの世界の言葉を無理やりにでも覚えさせるんですがね。当然です。この世界の人と関わって生きていくことになるんですから。」

「えっ?!わ、わかった…。あ、でもこの古代文字(セーレン語)はモレナにも読めないの?」

「はい。何万年も昔の字です。恐らく誰も読めませんし、書斎にもありませんね…。でも、あそこなら、“世界の果て”なら何かわかるかも…」

「本当?じゃあそこにいけばいいんだね!」



というかなんで読めない本をエレナさんは渡したの…?



「世界の果てはここからずっと東にあります。今日はもう遅いので、明日向かうのがいいと思いますよ。」

「それもそうか…。一刻も早く行きたいところだけど我慢するよ。」

「あら…?もうこんな時間。ユエル、夕食を食べにいきましょう。」


モレナさんが時計を見て言った。

もうそんな時間なのか。


「食事の準備は済ませたの?」

「どうでしょうか?食事はエレナがするから…。」

「え、館主が?!」


二人だけならメイドのモレナさんがやるものなんじゃないのかな…


「まぁ、それは表上の設定ですから。私達は、普通の姉妹ですしね。メイド服はお客様が来られたときにしか着用しないんですよ。」

「私はお客様に入るの?」

「まさか。それでは毎日着ることになってしまいます。」


目を少し大きく開けているモレナに、「それもそうか、親族だもんね。」と納得したように私が言う。


「じゃあなんで?私の他にも誰か来るの?」

「はい、食事へしに…いえ、それもあると思いますが、貴方に話があるそうで。」

「私…?」

「詳しいことはお食事のさいにわかると思います。」

「わかった。」



私達は食堂へ向かった。

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