現実
誰なのか全くわからない。
これは夢だ、と信じて。
勇気を振り絞って言う。
「…そ、そこにいるのは誰?誰なのっ?!?!」
返事はない。
「誰なの?…返事くらいしてください…」
さらに勇気を振り絞って…後ろを向く。
「きゃっ?!」
え…?だ、誰?幽霊…とかじゃないよね?
背後にはふわふわした綺麗な髪が特徴的な女の子がいた。
__にしても、なぜ背後に?
……なんだ…後ろの方に扉がもうひとつあるじゃないか。
というよりかなり広い部屋だな…
なら、なぜベッドはこんなに小さいのだろう?大きくても良いはずだが。
そんなくだらないことを考えていると、女の子が口を開いた。
「大丈夫…ですか?驚かせてしまったようですみません。私はモレナ。モレナ・スカーレット。ここより少し離れたところの館に使えているものです。貴方は確か…」
どうやらこの女性はモレナ…というらしい。
大人びているのにとても可愛らしい声だ。
私のことを知っているのか名前を思い出そうと頭を捻っている。
「えーと、私はユエルです。ユエル・ブランシャールです!…とにかく質問したいことが山ほどあるんですけど。」
「あぁ!ユエル様ですね。はい、とりあえず、私の話を聞いてください。それでもわからないことがあれば質問は受け付けます。」
本当に質問したいことが山積みなのだが…
とりあえずはモレナさんの話を聞こうか。
「わかりました。モレナさんの話を聞きます。まずは私も落ち着かなきゃなので。質問したいことがありすぎて混乱していますから。」
「ありがとうございます。では、まず貴方がこの世界にいる…いや、来た理由、というのをお教えしましょうか。」
私がこの世界に来た?この世界に連れて来られたの間違いでは?などとツッコミを入れたくなる点は無視しておこうか。
「お教えしましょうかと思ったのですが…来た理由などは時期にわかると思いますのでやめておきます。」
「は、はぁ…」
「他に話すことはありません。短くてすみません。では、一言だけ伝えておきます。」
「はい…?」
「これは現実、です。」
現実…?夢じゃないの?!
「とりあえずですね、私が使えている館まで来てもらいます。」
「え?!」
なに?!誘拐?…なわけないか。私をここまで運んできてくれたんだもんね。…きっと。
あれ?そういえばここはどこだ?
「はやくついてこないとおいてきますよ?」
「え?でも…」
知らない人には着いて行っちゃダメなんだよね?
だめだよね??
「……私の住んでいる館の主人が、貴方の引き取り手です。ご主人は、貴方、ユエルさんのお母様とお知り合いだそうよ。だから安心してついてきていいですよ。」
「そ、そうなんですか?!わかりました…!」
よ、よかった…!お母さんの知り合いか!
ならついていっても大丈夫…だよね?このままここにいても何処だかわからないし…
「はやくきなさい。」
「あ、すみません!今行きます!」
私は、早足で歩くモレナさんの後ろを頑張ってついて行った。
…何分かたったころ、いつのまにか小さな館が目の前にあった。想像をしていたよりはるかに小さい。視点を変えれば、一つの「家」ともとらえられる大きさだ。
モレナさんが言うには館らしいが。
「ここが館です。では、入りますよ?」
「はい。」
館のなかへ入っていく。
中はとっても綺麗だ。あ、今のは別に外が汚いとかそういう意味ではないです。
「とりあえず、ご主人と顔を合わせましょう。そうですね、まずは自分の部屋に荷物をおきにいきましょうか!」
「自分の部屋?」
「あぁ、すみません…この館はあまり広くないので、貴方の部屋は屋根裏部屋になりますがよろしかったでしょうか?」
「え、自分の部屋なんてあるんですか?!いいんですか?!」
自分の部屋なんて生まれて一度も持ったことがない。
かなり取り乱した気がするがそんなことはどうでもいいほど興奮していた。
「いいんですよ?せっかく異世界にきたんですから楽しんじゃってくださいな。」
「本当ですか?!ありがとうございます!…い、異世界…?」
今、モレナさんなんて言った?…異世界??
そうだよ、私は異世界にいるんだったよ、なんで忘れてたんだよ…
「やはり場所の説明が必要かしら?…ここは貴方達の世界で言う、「異世界」という場所ですね。まぁ私たちからすれば「地球」という場所などが異世界なのですが。」
「ほうほう。」
「ここは「アストニット」です。」
「あすとにっと?」
「はい。古に伝わりし神、アスニッシュ。神、アスニッシュが作り出した世界。それがアストニットなのです。」
「アスニッシュ…聞いたことない名前ですね。」
「アスニッシュはこの世界でも珍しい名前です。というより、この世界では神様と同じ名前はつけられないんですよね。つけたら重罪ですよ。」
「へ、へぇ…」
つまり私は地球から離れた異世界。
「アストニット」という場所に来たわけだ。
…こちらでは「日本」とかいう島国でキラキラネームという変な名前…いや、珍しい名前がつけられることがあるので、神様と同じ名前がつけられるのかと聞かれたらなんとも言えないだろう。
今のは決して日本国を侮辱したわけではない。むしろ日本国は素晴らしいと思う。偉大だ。
「あら、早くしないと。ご主人がお待ちですよ。」
「あ、そうでしたね。でもまだききたいことが…!」
するとモレナさんはしばらく間を開けて大きな溜息をついてから話を再開した。
「…もしこの世界のことが気になるのであるなら、「世界の果て」に行くといいでしょう。」
「せ、世界の果て?!」
「はい、世界の果て……図書館の名前です。」
「え?!…び、吃驚しました…もう、紛らわしいです!!」
世界の果て、か…異世界なら本当にあるかもしれないって思っちゃうよ。
「すみません。でも、ここから随分離れていますよ?ずーっと西へ行かなくてはならないのだけれど…」
「そうなんですか?」
なんだかとっても興味深い場所だ。
私は元々そういう場所が好きなんだ。
一人の空間をつくれる。落ち着ける。そんな空間をいつも求めてたから。
「機会があれば行ってみたいです!では荷物を置いてきますね!」
「はい、下でお待ちしておりますね。」