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第九条

 近づけた窓ガラスに自分の顔が映る。ひどく泣き明かし憔悴しょうすいしきった顔がそこに映っていた。

 生気を無くした瞳と重なるような真っ黒な外の視界は、今の自分の心境に悲しいほど合っているなと葵は思った。

 あと数分かそれとも数秒後には、この飛行機は出発し二度とこの国には戻ってこない。またあの暗い穴蔵で一人寂しい生活が始まるのだと覚悟しても、感情の波が何度も押し寄せてくる。

「うぐっ…ううぅぅ…」

 さんざん泣き疲れ枯れ果てたと思った瞳からまた涙がこぼれ出す。それは自身の未来を思っての涙ではない。ほんの少しの時間自分に優しくしてくれた者達に対する感謝の気持ちと、その人達を欺き傷づけてしまった事への後悔の気持ちを合わせた涙だった。

 あんな形で別れが来てしまうなんて、せめて最後にちゃんと『ごめんなさい』と謝りたかった。と、締め付けられる胸の苦しさを感じるたびに涙が溢れる。

「いい加減諦めろ。自分が何者であるかまだ自覚が足りないようだな。国家財産である以上お前には人としての自由と人権などないのだからな。余計な感情を持つから苦しいのだ。まあいい、本国に戻ったらたっぷり再教育が待っているからな。お前も今回の件で懲りただろう。自分が関われば周りにどんな害悪をまき散らすのか。お前を守れるのは世界中で王室と我々だけだと言う事をな。分をわきまえろ醜い国有家畜スレェッペレめ!!」

 何度聞いても耳障りなロメロ神父の声が鼓膜に響く。とても神父など聖職者にふさわしくない口調が葵に語り掛け続ける。

「おい聞いてるのか!!おまえ自身が王室の『国家財産』であることをしっかりと認識してもうため、二度と浅はかな考えを持たぬよう今後は我々が徹底的に再教育を行っていく次第だと言ってるんだ。わかったな!!」

 大声で返答を求めているが、葵は沈黙で答えた。それは彼女なりの小さな抵抗でもあった。

「そうだったな。お前声が出せぬかのだったな。おとっ、ワシに『奇跡」は通じんぞ。念の為この機に搭乗している者すべてに『拮抗術式』を施している。まあしゃべったところでお前の声は誰の耳にも届きはせんがな」

 ヘビのような顔が静かにほくそ笑むが、一向に顔を向けようとしないばかりか反応すら見せない葵の態度に興ざめすると、すぐに前方に向かって席を立ってしまった。

 耳障りの声が聞こえなくなると、涙をぬぐおうと手を持ち上げる。

ガチャリ、ガチャガチャ。

 冷たく重い手錠が誰かに知らせるかのように金属音を立てる。別にもう逃げる気などとうになくなっていても、この無機質の塊に分かるわけもない。

 涙をぬぐい、静かに指を組む。ここから抜け出せなくても、自己満足にしかならないと分かっていても、せめて思いは届いて欲しいと、葵は自分を優しく迎え入れてくれたあの家族に感謝を込めて祈った。


葵が祈りを込めている間、コクピット付近ではロメロ神父と数名のSPらしき男たちが不穏な空気を作り出していた。

「なに!? シスターが行方不明とはどういうことだ?」

「それよりも何故まだ管制塔から離陸許可が下りないんだ。グズグズしてたら夜が明けちまうぞ。時間が経つにつれリスクが上がっていく。これ以上は待てないぞ!!」

「同感だ。幸いこの機は政府専用機だ。外交特権を行使しこのまま強引に離陸を強行しましょう!!」

「待てそれなら事後処理の為何名か降りてもらう。そしてシスターと合流したら早い便で出国を済ませるんだ」

「ええいぃ!! ここで話しても時間の無駄だ。ワシが直接管制官と交渉する。必要なら多少脅すか術を使って離陸させるまでだ!!」

 シビレを切らしたロメロ神父はコクピットへと向かって行った。SPらしき男たちも後に続く。

 乱暴にコクピットの扉を開けると、振り向いた機長と目が合った。

「おい!! ここはKEEP OUTだ。すぐに出て行きなさい!!」

「その無線をよこせ。ワシが直接話す!!」

 常識ならそんな事許されるわけがない筈なのだが、ロメロ神父の言葉に機長は大人しく従った。

 何か催眠術にでもかけられたように、何の躊躇もなく無線インカムを渡す機長の姿に副機長が呆気にとられた。

「機長やめて下さい!!」

「貴様は大人しく前を向いてワシの指示を待て」

 今度は副機長が黙ったまま操縦席の前方へと視線を戻し硬直した。

 二人は黙らせると、口元にマイクを近づける。

「管制室に告ぐ。こちらはルーマニア共和国の政府専用機だ。外交上につき緊急発進の要請をする。至急発進許可を求む」

『こちら管制官。許可はできない。以上』

「よく聞こえなかった。再送を求む」

『離陸申請は却下された。当機は管制塔からの指示があるまでそこでその場で待機となった。以上だ』

 離陸許可は呆気なく却下された。世界中どの空港でも同じことだが、管制官がNOと言えばNOなのである。無理に離陸でもしたら最悪外交問題へと進展してしまう。

 管制塔からの指示に是非は無い。だが、それを良しとしない人物がいた。

「管制塔。これはもう申請でしない。強制だ。私の言葉に従い今すぐに離陸を許可せよ。他の障害があってもこちらの機の離陸を最優先に強制されたし。以上だ」

 ロメロ神父はこれでもう問題がないような表情でほくそ笑む。何かしらの力によって管制官の意思を掌握したように思った。

 だが、その考えはすぐに崩れた。

『繰り返す。許可はできない。以上だ』

 その言葉にマイクを握りしめた手がわなわなと震え、コクピット中に立ち込める怒気に背後の部下達は後ずさった。

「貴様ぁ!! この私を愚弄する気かぁ!!」

『悪いな、いくら怒こっても無駄だよこの偽善者。残念だが暗示は効かない。いくら声に暗示を載せても、声自体に暗示を掛けることは不可能だ。それにこの管制塔と空港全域は私が掌握している。もうすぐこの国の怖い番犬達が来てお前の喉元を食い千切ってやるから、それまで大人待ってなよ』

 その言葉ですべて理解した。

「ほう。貴様、向こう側の住人だったか。それなら遠慮はいらんな、こちらの好きにさせてもらうぞ」

『面白いな。いつまでも寛容なこの国を舐めているとどうなるかその身に刻むといい。あんた等の相手は災いの申し子が相手するから―』

 乱暴に無線を切ると、すぐに隣の機長に離陸の指示を出す。

 ジェットエンジンが始動し、機体がゆっくりと滑走路へと侵入する。

 予定外の侵入に他の飛行機が滑走路手前で停止する。空港作業員達もしばし唖然としていたが、次第に事の重大さを認識すると、慌てて他の機を空港に入れないよう指示に走り出した。

 空港中に非常警報が鳴り響き、人々の怒号が飛び交う。

周りではパニック寸前の光景が繰り広げられている中を、悠然とコクピット内で眺めるロメロ神父は何とも得難い感情を感じていた。

 やがて離陸位置に着くと、本格始動したジェットエンジンの振動が機内に伝わってくる。あと数秒でこの国を離れ自由な空へと思った矢先。

「何だあれは?」

 機体のはるか前方から小さなライトが飛び込んできた。



「あの…本当にこんな事やっちゃって大丈夫なんですかね?」

 運転席に座る飯野は尋ねた。困惑の表情を浮かべているが、おそらく、いやむしろ彼の人生の中で絶対に経験する事などない最悪な状況下の中で、むしろ平静としていられる自分に驚いていた。

「コラ、無駄口叩かないの。あんたは黙って前向いて運転しなさいよ」

「俺って…だた巻き込まれただけなのに、なんで…俺ここにいるんだろう…」

「乗り掛かった舟よ、男なら腹決めなさい。合図が出たら打ち合わせした通り車を走らせるのよ。間違ってもハンドルは切らない方が無難だから。もし切ったら上の娘に別の意味で斬られるから」

 助手席に座っている霧島が親指を上下に動かす。ベンツの割れたサンルーフから仁王立ちしている月宮薫の姿が見えた。

 日本刀を腰に持ち真っ直ぐ飛行機<ターゲット>を凝視しながら、これから始まるであろう至福の時を今か今かと待っている。

 生暖かい夏の海風に載った潮の香りが鼻の奥をツンっとさせた時、ついに片耳につけたインカムから待ちに待った連絡が入った。

「イッツ、ショータームよ!! GO!! GO!! GO!!」

 最高の笑みで二人に合図を放った。

「ひっひいぃぃぃ」

 頭を刀の鞘で小突かれ車をスタートさせる。アスファルトを焦がすタイヤの匂い、体感するG。開始5秒で速度メーターは140キロを振り切った。

整備された滑走路は予想以上に振動が少なく、順調に車のスピードを上がっていく。

だが、直線上には車体の何十倍はあろう旅客機がある。このまま行けば間違いなく正面衝突だ。しかも相手は旅客機、まるで像に挑む蟻の様な気分だ。これはまさに勝ち目のないチキンレースに等しいだろう。

 が、それよりも時速140キロを超える風速の中で、平然と車体の天井に乗っている薫の姿に飯野は驚愕した。

「あっ、…あんた一体何もんだぁぁっ!!」

「無駄口叩いてないでちゃんと前見て運転しなさよ」

 薫の言った通り、前方の旅客機がエンジン音を響かせながら向かってくる。

 一瞬で現実に戻った。

「ひぃぃぃ!! 嫌だぁ!! 死んじゃう!! 俺死にたくないよぉぉぉ!!」

 無意識にハンドルを左に切ろうとするが、横から霧島の手がしっかりとハンドルを抑えつけ固定される。

「アンタ何怖気づてるのよ!!こんな楽しいことから途中退場なんて勿体ないわよ。今からハリウッド顔負けのカーアクションが体験できるのよ。こんな特等席で見れるなんて人生にそういくつもあるわけないでしょうが。それにあなたキャリア組何でしょう。将来この国を動かす人間になるんだったら、今ココでビビッてどうすんのよ。ここぞって時に漢を見せなさいよ!! ほら、今がその時でしょうがぁ!!」

 霧島の足がアクセルを踏む飯野の足を上からさらに踏みつけ加速させる。

「いやぁあぁうあああぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 もはや霧島の声など耳に届いていない。

迫りくる死の恐怖に飯野は悲鳴を上げ続けるしかできずにいた。

 そしてフロントガラスからコックピットのパイロットの顔が認識でき始めた時、薫が動いた。

 腰の日本刀に手を掛けると、両目が真っ赤に変わり始める。

「月鎌流居合体術甲一式奥義『地雷刃(じらいや)』」

 薫が横一文字に抜刀すると、なぜか刀身が消えていた。

次の瞬間。エンジン音を掻き消す程の轟音が下から響くと、丸鋸の様な刃が無数に出現し機体両翼を走り抜けた。

 そして右尾翼のタイヤが外れ機体が大きく急旋回すると、薫達が乗った車が機体と左翼の間を猛スピードで走り抜けていった。

滑走路を外れ機体が大きく揺れ出し、見る見るうちに両翼がバラバラになり始める。

全てのタイヤが外れコントロールを失った機体は、そのまま地面に胴体を擦り付けながら土煙りを上げたまま、ゆっくりと一回転して停止した。


電力が消失した機内で葵は瞼を開いた。わずかに照らされる非常灯の明かり、天と地が逆転した光景が広がっていた。

慌てて自分の体に怪我がないか探るが、幸いなことにかすり傷程度のようだ。

上を見上げると、何人もの黒服の男たちが折り重なって倒れている。シートベルトを着用してなかったら、今頃葵もあの中にいたはずだろう。

機内に充満してくる煙にむせ込みながら直ぐにシートベルトのロックを外すと、その男たちの中に落ちた。クッションに利用してしまい悪いと感じながらも、葵は落ちていたスケッチブックを見つけ拾い上げた。

そのままおぼつかない足取りで出口に向かうとした時、突然誰かに右足を掴まれた。

「待て…どこへ…行く…」

「ひっ」

 悲鳴を上げ尻餅をついた。黒服の一人が意識を取り戻したのだ。

 必死にその手から逃れようと足をバタつかせるが、さらに掴む手に力が入り込む。

「ぐぅふぅ…に、逃がさんぞ…こっちに来るんだ」

「ふぐ、ふぐぃ、ひぐぅ」

 持っていたスケッチブックで手を叩いて抵抗する、神か何か別な存在か知らないが、ここから逃げれる千載一遇のチャンスをここで逃すわけにはいかなかった。

 何度もスケッチブック叩きつけるが埒があかず、今度は左足で黒服の顔を蹴りだした。しかしこれが黒服の怒りに火をつけてしまった。

「この…ガキィ!!」

 黒服が掴んでいた右足を一気に引き寄せ、葵の腹に渾身の拳を打ち込んだ。

「ぼうぇ」

 腹部に鈍い痛みが走り、苦い酸味の液体が口から噴出した。大人と子供、男と女。体格も力を違いすぎる。

 腹部の一撃で抵抗できない葵に、さらに黒服が覆いかぶさってきた。強靭な両腕で葵の体を括ると、力いっぱい締め始めた。

「きっ…ぁ…」

 体を締め上げられ呼吸ができない。このまま体を締め落として失神させる気だろう。抜け出そうにも手錠が掛けられたままでは思うように抜け出せない。もがけばもがくほどに相手の両腕がキツク体に食い込み、すでに脱出不可能な状況陥った。

 すぐそこに出口があるのに、伸ばせる手はなく視線だけを出口に向ける。

―ああ、あともう少し。あともう少しだけ―と、ゆっくと意識が遠きはじめる彼女に唯一できる事は、もはや悔し涙を流すだけだ。自分の前に降りてきた蜘蛛の糸、その糸を前にして手が伸ばせないでいる悔しさに、枯れ果てたはずの彼女の瞳に再び感情の雫を流させる。

 もう一度あの場所へ、あの人達に会いたい。もう悪魔でも死神でも構わない自分をここから救い出してくれる存在がいるのなら、彼女はどんな手にだってすがりついてみせる。

 視界がボヤケてくる。せめて声は出せなくても、その言葉を出そうと唇が動く。


―た・す・け・て―


「おい!!」

『?』

 その声は神でも天使でもなく、また悪魔でも死神でもなかった。聞き覚えてのある声。初めて家族として受け入れ、自分を妹のように優しく接してくれた男の声。声と一緒にあの顔が浮かんでくる。

 本当に彼なのか? そんな疑問が駆け巡りながら葵はゆっくりと瞼を開けた。

「お前、俺の妹に何してやがるんだよ!!」

そこには間違いなくあの月宮亮がいた。夢でも幻でもない現実に存在している。

 亮は片腕だけで黒服の男を背後から首を締め上げていた。さすがの黒服も葵を離して抵抗するが、強力に閉まる亮の腕に抗えぬまま失神した。

「ふう、遅くなってゴメンな葵。迎えに来たよ」

 そう言うと亮は葵の前に手を差し出した。その顔はいつもの屈託のない顔に変わっていた。

 差し出されたその手をとろうした時、葵は慌てて手を引いた。

「!? どうした? 帰るんだよ家に、皆葵が帰ってくるのを待ってるんだから」

 しかし葵は首を横に振った。そしてスケッチブック開いて何かを書き始めた。

『だめ、かえれない』

「どうして? もしかして皆に迷惑かけたって思っるからか?」

 その問いに今度は大きく頷いた。自分が関わった事で沢山の人が傷ついたのは事実だ。今更どの顔してあの人達の前に出ればいいのか。そう思うと気持ちは会いたくても、頭が拒否してしまう。

『まなちゃんに すごく いたい おもいさせた みんなにも わるいことした』

「おいおい葵よ」

 亮はあきれたように肩をすくめると、葵の頭に手を置いて髪をゆっくり撫で始めた。

「あのなぁ~、皆はお前の事スゲー心配してるんだせ。これ以上心配させんなよ。皆お前が帰って来て欲しいって思ってる。お前が考えてるような事は皆考えてないから大丈夫だよ。それにお前に帰って来て欲しいって一番思ってるのはマナなんだぜ。嘘だと思うなら一緒に帰って確かめてみろよ」

 怒っていない。皆が葵を待っている。その言葉が葵の心を震えさせる。自分の帰る場所がある。待っている人がいる。自分の居場所がそこにある。それだけでどれだけ心が軽くなったか。どれだけ心の奥が熱くなったか。

 俯き唇を噛みしめながらまたスケッチブックにペンを走らせる。もう涙で視界がよく見えなくても今の気持ちを伝えた。

『ほんとに いいの?』

「ああ。いいって言ってるだろう」

『わたし これからも いっぱい めいわく かけるかも しれない』

「…葵、これだけは覚えておいてくれ。これは昔俺がある人から言われたセリフなんだけど、それを俺が少し変えて言うんだけどな」

 亮の手が葵の顔を上げさせる。そして優しく指で涙を拭ってあげる。

「いいか。妹ってのはいつも兄貴を困らせるもんだろ。それがお前の特権なんだよ。だから遠慮なんてしなくていいから、うんっと俺を困らせてみせろよ。葵がどんな人間でも俺たちはもう家族なんだからさ」

 この男は自分の全て受け入れてくれる。自分の良いも悪いも全て受け止めてくれる。亮のやさしい瞳から葵はそう確信した。

「さあ帰るぞ。お前の家に、皆の『たんぽぽ()』に」

「うぅっ…」  

今度はこくりと大きく頷いた。


「なんだその茶番は?」

 振り向くとコクピットから出来ていたロメロ神父が立っていた。顔のほこりを拭きながら、不満な顔で二人を睨みつている。

「まったく『聖アントニウスの加護』のおかげで無事だったが、この場において汚物を視界に入れるのは極めて不快だな。とくに黄色い猿が、その汚い手で我々の財産に触れようなどと。今すぐその手を離し分をわきまえれば、人らしく最後を迎えさせてやるぞ」

 耳障りな声に反応して、葵はすぐに亮の腕を掴み背中に隠れた。それまで忘れていた恐怖がよみがえり、ガタガタと身体が震え出した。

葵の震えを背中で感じ、亮はロメロ神父に鋭い視線を向けた。

「あんたがルーマニア王室に仕えているロメロ神父か?」

「ふん。気安くワシの名を呼ぶな。家畜にも劣る二級人種などと話す気は無いが、今回は特別に教えよう。いかにもそうだ。ワシがルーマニア王室に仕える北米幻魔導師団東方シオネス十字教会の聖職者フレデリック・J・ロメリオロだ」

 見下すように言い放つと、右手を伸ばした。

「さあ、いつまでそこに隠れているつもりだ。早くこっちに来い。それともそのサルが死体になってからじゃないと来れないのか?」

「おい、話を逸らしてんじゃねぇよ。俺はお前にも用があるんだ。フレデリック・J・ロメリオロ。すごく長ったるくて噛みやすい名前だから略してロメロでいいだろう。亜民の未成年者誘拐と監禁の現行犯でお前を逮捕する」

「逮捕? この私を逮捕するだと?」

「今そう言ったぞ」

「成る程黄色いこの日本猿イエローモンキーの知能はだいぶ低下しているようだな。無知な猿に寛大なワシが分かりやすく教えてやろう。このワシにはな外交特権がある。国際社会の中いかなく場合でも外交官の逮捕・拘束は禁じれているのだよ。ふはははっは。残念だったなクソ猿。お前はワシに指一本触れることさえ出来ぬのだよ。正義は常に主の側にある」

「勘違いしているかわいそうな爺さんに教えてやるよ。俺は警察じゃねぇーよ」

 亮はポケットから手を出すと開いたバッチをロメロ神父に向けた。

「俺は国家バウンテーハンターだ。BH法は如何なる国家権力からも独立、如何なる法律・外交・宗教・条約おも凌駕する特権があるんだよ。BH法第三条だ。あんたが外交官だろうと俺には関係ねんだよ。それにあんたは今から25分前にBHネットワークから五千万の賞金がかけられたんだよ。罪状はさっき俺が言った通りだ。それと俺と個人契約した依頼主から別料金でお前の逮捕依頼を受けた。だから―」

 亮はゆっくりとほくそ笑む。

「俺は今からてめぇーに、BH法の第九条を行使する。現時刻をもってお前が持っている外交特権を含むすべての権利を剥奪。お前には拷問を受けない権利なんて無いし、殺されない権利も無い。簡単に説明してやると『死の宣告』だよ。お前の命の采配は俺の気分次第なんだよ。俺の妹をこんなに傷つけて泣かせたんだ。自分が人間らしく扱われるなんて思うなよ!!」

 権利を読み上げている間、琥珀色の瞳がしっかりとロメロ神父を捕らえていた。

 そして読み終わった後はただ執行するのみ。


どうも皆さん、天仁です。

更新が遅れてしまい本当に申し訳ございません。

次回はできるだけ早く更新できるように頑張りますのでどうか

よろしくお願い致します。

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