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想定外の男

 先に動いたのは亮だった。

 踏み込んだ一歩で一気に間合いを詰める。そしてほくそ笑む法眼の顔面に掌底を打ち込んだ。

 ボキッ!! と、鈍い音が鳴る。

 聞きなれた者ならば、骨が折れる音だとすぐにわかる。相手の頬骨でも砕けかと思いきや、亮の掌底が寸前の所で止まっている。

「ぐぅっ」

「あっれ? どうしたの? それがお前の本気なのかな? もっと力を入れないと全然届かないし、半端な攻撃は自分に返ってきちゃうからね」

 打ち込んだ掌底の手首から先が法眼の鼻先で2回転して骨が突き出ている。

「コノッ…テメェ…」

「一つ忠告してやるよ。本気出さないと死んじゃうよ。ほら」

 苦悶に顔をゆがめる亮の顔を楽しげに覗き見ながら、ねじれた手を掴みさらに捻りこんだ。

「う゛う゛ぎぃぃ!!」

 唸り声と悲鳴が混ざった声が上がる。すぐにその場を離れようとするが、脚が何かに抑え込まれているように微動だにしない。

「はははははははっ!! 羽を落とされて飛べなくなったガチョウみたいな声だな。これがお前の断末魔のかい? もってといい声で鳴いてくれないかな聞いてて気持ちいいよ。でも、まだまだだろう。もっといい悲鳴<こえ>がでるはずだからもっと僕に聞かせておくれよ」

「コノっ…ガキィ…だったら銃声コレを聞かせてやるよ!!」

 腰に挟んだコルトを抜き、法眼の腹に向けて発射した。

 だが、発射と同時に銃が暴発し亮の右手5本の指全てが吹っ飛んだ。

「なっ…!?」

「チッチッチッチッチッ。ダメだよ道具なんか使っちゃったら。ケンカは昔から殴り合いって決まってるだろう。あっ!! そっか、もうお前には殴る手がないよね。しょうがないから足で許してやるよ!!」

 腹部に法眼の前蹴りを受け、亮の身体が後ろの中央分離帯まで飛ばされた。

「ゲホっ」

「はっぁ? たあいないな。式神を使うまでもなかった。おっさんから十分気をつけろっなんて言われたけど全然余裕だし。むしろ拍子抜けだよコレ………さてと」

 法眼がベンツに近づき中を覗きこむと、後部座先にシスターが1人いるのを発見した。気を失っているのか顔を俯いたまま動こうとしない。

「おやおや。何で『赤い十字架<レッド・クロス>』がここに居るんだ。何だかややこしくなってる気がするな」

 顔を確認しようとフードに手を掛けた瞬間。背後で強い殺気を感じ振り返った。

 そこには立ってるいのがやっとな状態の亮がいた。

「その人に…触るなぁ!!」

「呆れた。そのまま大人しく寝ていればよかったのに。しょうがない。今度こそ終わりにしてやるよ」

法眼が指を鳴らすより先に亮の膝蹴りが飛んできた。寸前で交わしたが、右頬を軽く切る。

間合いを確保するため距離を取ったが、いつの間にか法眼の顔から余裕の笑みが消えていた。

「お前。僕の顔に傷をつけるなんて…タダじゃおかない。体中の皮を剥いで四肢を五分刻みにしてるよ」

「能書きたれてねぇでさっさとかかって来いよ。俺はまだ十分戦えるぜぇ!!」

「それは上々だな。相手してやるよ。ただし僕に触れることなくな」

 法眼の眼が本気の色に変わった。指で九字を書き結界を構築すると白色の網目から梵字が出現した。

「神仏融合術式『五芒藕花ごぼうぐうげ』柏十三結界の中でも特に特殊な結界の一つなんだ。念には念を入れてやらないとね。後は豚のような悲鳴を聞くだけだよ」

「小賢しいマネしやがって。能書きたれてねぇでかかってこいよ!! 俺から両手を奪って勝った気になってんじゃねぇぞ!! 俺の心臓はまだ動いてるぞ。この心臓が動く限り勝った気でいると痛い目みるぜ」

 いつの間にか法眼によって潰された左手は元に戻り、右手からは黒く変色した血塊が次第に剣先へと変わっていく。

「行くぞ!!」

 再び亮が突進すると、梵字の結界に黒い剣先を突き刺した。青白い火花が幾つも飛び散る。

「ほらね、無駄だよ。どんな能力ちからを使ってもこの結界を破る事は出来ないよ。僕はこの絶対安全圏で悠々とお前を料理できるんだからな。ホラ、こんな風に」

 法眼がまた指を鳴らすと、亮の右膝が弾け飛んだ。法眼の破壊念術パイロキネシスの前に亮の体は紙くずのように引き裂かれる。

「だから、それがどうした? たかが足一本とったぐらいで倒したつもりか? 舐めるなよガキが!! 戦場じゃこんなの…まだまだこんなもんなじゃねぇぞ」

 右足の切断面から黒い半透明な液体が流れ固まり新しい脚が生まれた。この時始めて、法眼は破壊念術が効かないことに気づいた。

「なるほど、これだけじゃ殺しきれないか」

「今更か!!そうだって言ってんだろが。破壊念術おもちゃを使った所で相手に効かなくちゃ意味がねんだよ。さあ、遊びは終わりだ」

 蒼白い火花を散らしながら剣先がゆっくりと沈み込む。否、結界が破れていくのではなく結果内へと侵食を始めたのだ。

 梵字の結界にいくつもの黒筋が広がり覆いつくす。

「んっ!? まさか…お前」

「やっと気付いたか。俺は最初から破る気なんてねんだよ。この結界を使えなくすればそれで良かったんだ。この結界俺がもらうぜ」

 始めて亮が笑った。前に道士が使った荒狐の式神『大鎌狐』を喰った時と同じように、この結界を自分の所有物モノにするつもりだ。

 敵が使う術式を奪い解析し再利用して使う。敵にしてみれば自分の術や技を奪われるだけでなく、それが自分に返ってくるのだからたまったもんじゃない。

 だが、ここで上手く形成逆転を狙っていたつもりだったが、亮はまだ敷かれている五芒星の存在に気づいたいなかった。

 亮の足元に五芒星の印が浮かび上がると、直上に無数の光槍が放たれ亮の身体を貫いた。そして亮の動きが止まり、侵食も停止した。

「灯台下暗しだな。まるで猪だね、それとも何か気になって僕を過小評価してるのかな。それなら頭にくるね。それに僕が出しだ結界は一つじゃないんだぜ。目の前の事に集中しすぎるから肝心な足元をすくわれるんだよ。そこでおとなしくしてろよなよ、今から―」

「お逃げください法眼様!!」

 突然、道士の急迫した声が響いた。考えるよりも先に身体が動き上体を横にズラすと、首筋に冷風を受け浅く皮膚が裂けた。

「なっ…!?」

 幸い傷は浅かったとは言え、あと刹那遅ければ間違いなく首が飛んでいた。

 首筋を伝う自身の血を感じ、法眼は始めて全身から不快な汗が滲み出てくるのを感じた。

「チッ!! 邪魔が入りやがった」

 全身を串刺しにされたままでも、亮はそれをまったく気にする様子を見せない。むしろ二人の殺し合いに余計な助太刀に入ってきた白バイ警官を睨み付けている。

 カーチェイスの時、薫の顔を何発もヘッドショットしていた白バイ警官をよく見ると、一之瀬のアパートで出会ったあの男だった。

「お前、確か…あの時の」

「よくもやってくれましたね。私の式神で…よくも法眼様を傷つけましたね。許さずっ!! 確実に滅する!!」

 語尾を強めるが表情に変化は見られない。ヘルメットを外しバイクから降りると全身から異様な殺気を放ち、青い制服が黒い修行僧のような服へと変わった。

「貴殿を後悔の海に沈めさせる!!」

 目的は告げ後は実行あるのみ。しかし道士は亮に近づこうとはしなかった。その理由は目の前にかつての主人を威嚇する大釜狐いるからだ。

 下手に動けば微塵切りにされる。

 式神の中でもこの荒狐は別格だ。捕獲術式の類は一切通じない。

 術士の手を離れたら、自分の意思を持ち考え行動する特殊な式神でもある。

 不気味に光る尻尾の大鎌の間合いに入ったら最後、瞬時に身体を八つ裂きにされる。

 主人の邪魔をするなと言わんばかりに、尻尾の鎌が高温熱を帯びたように紅潮している。

「戯け、この主の顔を忘れたか。それとも誰が主なのか思い出ささて欲しいのか。括りが切れ浅い自我に目覚めおって。まあいいさ、また括りて鎮めてやる。今度は時間をかけてゆっくり調教してやらないとな」

 道士が袖から出した御札で空を描くと、白狼が現れた。

「道士そっちは任せたよ。僕はもう少し遊んであげないと」

「法鬼様十分お気をつけ下さい。まだその者の力は未知数ですので」

「誰に言ってんだよ。たとえそうだとしても問題ない。どっちみち僕が勝つさ」

 何を根拠に勝利を確信しているのか分からないが、法鬼の自信は決してただの虚勢ではない事は確かだ。亮もそうだが、それ以上この男の能力も未知数であるのだから。

「能書きたれてないで来いよ。時間が無いんだろう、だったらかかって来い。今度はお前の番だぞ」

「言われないてもそうするさ」

 乱れた前髪をかき上げる。今度は法鬼が先に動いた。

「遊びは終わりだ。行くぞ」

 指を鳴らし法鬼の身体が一瞬で消えた。

「ぐぶぅ」

 鈍い衝撃を亮の顔面に受ける。続けて喉、鳩尾みぞおち、脇へと続く。

 衝撃を受けるたびに身体に突き刺さっている光槍が傷口を広げ、余計な痛覚が身体を巡っていく。

「僕はね、いつも能力を使って相手を痛めつけてるけど本当はあまり好きじゃないんだよ。僕が本当に好きな事はね、素手による人体破壊が一番好きなんだ。お前の身体はとても頑丈そうだから、簡単に死ぬ心配はなさそうみたいだから安心したよ。好きなだけ弄れるからね」

 さらに強い衝撃を腹部に受ける。

「ごぼぅ」

 こみ上げてきた胃酸と一緒に吐いた血が足元に広がった。さらに2発、3発と連続して衝撃が襲う。

 折れたアバラが外に飛び出し、腹部に幾つものコブのような血塊ができ始めた。

 衝撃が収まると、法鬼の姿がゆっくりと現れる。そして強引に亮の髪をつかみ上げた。

「ありゃー? ちょっと壊しすぎちゃったかな? ごめんごめん。でも大丈夫、すぐ治せるだろ。でもさ、もしお前の能力が無くなったりしたら、このケガどうなるのかな?」

「ど…どういう…意味だ…」

「そのままの意味だよ」

 亮の額に人差し指を当てた。

「汝は影、我は光。現し世へと続く鬼門の道よ、法鬼の名の下に道を絶たれよ」

 唱え言葉を終えると、亮が今まで出した事が無いほどの悲鳴を上げた。

「どうだい痛みが戻った感想は。気が狂わんばかりのその悲鳴、さぞ痛いだろう。人としての治癒能力はたかが知れてしもう動く事もできないだろ。お前はもう詰んだ。言っただろ僕が勝つってさ」

 法鬼の言葉など聞く余裕すらない。

 亮は全身を激痛に襲われていた。呼吸するたびに胸を鋭い針で刺されている感じになり、呼吸させうまくする事が困難な状況におかれていた。

「月宮亮。謎多き男だが僕にはどうでもいい事だ。村岡のおっさんに引き渡した後は僕自身が直々に尋問するから。姉さんの事を知ってる限り吐いてもうらうから、頭さえ無事なら他をミンチすれば死者でも口を開くから」

 突然、法鬼は自分の顔に生温かい何かがぶつかった。

 手で顔を拭ってみると、それは血痰だった。

 動けない亮のささやかな反抗だった。

「ふ~ん。随分と諦めがわるいんだね」

「…フッ」

 ハンカチで顔を拭く法鬼に、亮は挑発するかのようにニヤケ顔を向ける。

「僕ね、往生際のわるい奴は嫌いじゃないんだよ。その方が痛め甲斐があるからね。それに安心したよ。もうちょっと痛めつけて死にゃしねぇよな」

 法鬼は笑いながら右手の甲に術式を描く。右手が白く輝くと今度はそれを勢いよく亮の胸に突き込んだ。

「ゴォッ、ブゥ」

 亮の口から噴水のように鮮血が噴出した。

法鬼の右手が亮の胸中をまさぐる様に描き回していく。あまりの激痛に何度も意識を失いかける。

 そして骨の砕ける音と一緒に外へ引き出された右手には、黒い血に覆われ鼓動を続ける心臓が収まっていた。

「あはぁはぁはぁははははは!! ほらほらほら。早く本気出さないと本当に死んじゃうよ」


みなさん、朏 天仁です。書けなくなって3が月あまり。読者の皆さんをここまでお待たせしてしまって本当に申し訳ございます。

文章力も落ちてしましましたが、一生懸命考えての掲載です。

少しずつではございますが、また書き始めております。

更新ペースは遅れ気味ではありますが、今後ともどうがよろしくお願い致しますm(__)m

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