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スティグマ~たんぽぽの子供たち~ 番外編その⑥鬼ヶ島

 2020年2月1日、去年から始まった極東戦争は北海道と九州北部の一部を戦火に巻き込んでいた。

日本の安全保障の観点から自衛隊に採用される最新装備は、仮想敵国を想定して富士演習所から北海道と九州南西諸島に優先的に配備されていた。

加えて最新式装備と日々鍛錬してきた自衛隊員達の戦闘力の高さは、とても一世紀近く戦争経験をしてこなかった軍隊とは思えないほどの奮闘ぶりだ。

それ以外にも世界最強の軍隊でもある米軍の協力も合わさって、進行してくる中国・ロシア軍の大部隊に損害を与えながら状況を優位に勧めていた。

 しかし、犠牲がない訳でもない。

連日のニュースやワイドショーでは事細かに戦況が報道され、最近では最前線で戦っている北部方面隊第2師団や、西部方面隊第4師団の状況を中心に報道された。

東京のテレビ局では今日までに殉職した自衛隊員が陸海空合わせて150人を超えた事や、中には殉職した隊員の生前の活動を追ったドキュメンタリー番組まで制作され、どの局も視聴率の奪い合いに躍起になっているありさまだ。

戦火が続く北海道とは違い、津軽海峡を渡った東北地方ではまだ戦争の影響があまり出てきていないように思えた。

秋田県北部にある繁華街を、荒い息を吐きながら一人の男が足早に急いでいた。分厚い革のカバンを持ち、レインコートの肩には僅かに粉雪が掛かっている。

繁華街の路地を一本曲がって路地裏に入ると、そこはもう繁栄という光を失った別世界になっている。

蒸せっかえる程よどんだ空気の下、地面には何人ものホームレスが横たわっていた。皆20代前半くらいの若者達だ。

おそらく北海道から戦火を逃れるために海峡を渡ってここまで辿り着いたのはいいが、このご時勢まともな仕事なんて見つかるはずもなく、自然に着く所に辿り着いたようだ。

座り込むホームレスの間を抜けていくと、奥の角から30代位の細身の男が1人出て道を塞いだ。

「すみません。お兄さん、仕事ないですか? 俺、何でもやりますよ。こう見えても旭川の下町育ちで、金属加工が上手いです。建築現場でも仕事した事ありますから力仕事もできます。仕事ないですか?」

 腰が低い弱々しい声と物欲しそうな目で訴えてくる。無視して脇をすり抜けるとなおも追ってきた。

「しつこいぞ、無いよ」

「ホントに何でもやりますから。俺職人気質なところがあるから、どんなにシバレル(寒し)現場の仕事も愚痴こぼさずやりますよ」

「悪いが無いものは無い。仕事が欲しければハロワークに行け。俺はブローカーじゃない」

「ああ、まって…下さい」

 懇願する男はなおも食らいつこうと男のレインコートの袖を掴んできた。

「しつこいぞ!! 無いものはないんだよ!! 邪魔だぁっ!!」

 袖を掴む手を強引に払うと、早足にその場を駆け出した。

 少々強引だったとはいえ悪事をしたと思ってはいるが、ここで足を止めたら最後甘い蜜に群がるアリのようにまとわり付き、最後は身ぐるみ剥がされ殺されるに決まっている。

 この前もこの近くの路地裏で足を止めた男性が、武装集団に襲われ命を落としたばかりだった。

 優雅な繁華街ではまだ見られないが、戦争が続くにつれ日本の治安は間違いなく悪くなっていた。

 路地裏を店舗の通風孔から出る強烈な油の臭いと混ざった寒気が顔に襲ってくると、思わずハンカチで口元を押さえた。一瞬ふらつくと側に置いてあるゴミバケツにつまずき、倒してしまった。

「まったく。こんなところにゴミなんて出して、通行人の迷惑ぐらい考えろよな」

 この男の名は蒼崎真一、現在の職業は戦場カメラマン兼ジャーナリストだ。この路地裏を通っているのは別に取材ではなく、ただ単にこの道が真一にとって一番の近道だっただけだ。

 路地裏を出るとまた違う繁華街に出た。地獄から天国に上りついたように、繁華街のネオンがキラキラと輝く。一瞬めまいに似た感じに目の奥が痛むと、真一は視界の右端に見える『ヤナセ出版』のビルに向かって行き中へと入っていった。

「や~真ちゃん。わざわざご苦労だったね。帰ってきてそうそうすぐに寄ってくれるなんて申し訳なかったね」

 待たされている編集部の応接室で真一を出迎えたのは、ここの編集長の『田辺』という男だ。見事なまでに太ったハゲ頭な外見は一度見たら忘れないだろう。

「いえ、気にしないで下さい。それよりも自分の原稿どうでした? 飛行機の中で推敲は何度もしたつもりだけど、もう校正チェックはまだ入らないのか?」

「まあまあ、そう焦っちゃダメだよ。ダブルチェックが大事なのは真ちゃんもわかってるだろう。それにどうだった? 北海道の様子は? テレビで2時間前に旭川空港が閉鎖されたって聞いたけど本当か?」

「正確に言えば違います。まだ完全に閉鎖されていません。だたしもう報道関係者も北海道には一切入れないようになっちまってる。空港は滑走路の一つを避難民用に使う目的で残ってはいたけど、俺もそれを使って帰って来れたんだ。残りの滑走路は全て自衛隊と米軍が使ってるよ。空港で待機されていた避難民の一部が『このままじゃ空港がアメ公に接収されちまう!!』なんて叫んでいた奴もいたくらいさ。半年前のイラクのバクダット空港そのまんまだったよ」

「そうか、まさか…この日本でな…」

 田辺の顔色が沈む込む。

「それで、俺が向こうに行ってる間何があったんだ。まさかまだ次回開催予定の冬季東京オリンピックを開催しようなんて話し出てきてないような」

「真ちゃん、いくらなんでもそれは無いよ。ほらここの新聞記事にも書いてあるだろう。霞ヶ関のお上連中も連日マスコ連中に叩かれてまくって、頭ん中がお花畑の共産党連中もようやくそこにある危機を認識してようだよ。一昨日の臨時国会の来年度予算案でオリンピック予算を全部防衛費に回す事が決定したんだ。今更って感じだけどしないよりはマシだろう」

 田辺がYシャツの胸ポケットからおもむろにタバコをくわえると、自社新聞を真一に手渡した。それから何度も火のついたタバコを深く吸い込みゆっくりと紫煙を吐き出す。

 その間も真一は食いる様に新聞に目を通していく。

「…むしろ遅すぎだ」

「まあそう憤るなよ真ちゃん。ほら、今回の取材費に特別ボーナスも入れて少しイロを付けといたからさ」

「それは随分と気前がいいな。何か裏がありそうな感じなんだが」

「おいおい、よしてくれよ。友人の気持ちをそんな疑うなんて野暮だぜ」

「そうか、それならありがたく頂戴するよ」

 蒼崎が封筒を受けとりカバンにしまうと、別の封筒を取り出し田辺に差し出した。

「まさかそれって…」

「今回の取材に掛かった経費諸々の領収書だよ」

「アイタ~、そりゃーねぇーよ真ちゃんよ。うちは大手と違ってそこまで-」

「面倒は見切れないだろう。それならその分自衛隊の情報<ネタ>を流してくれよ。また特ダネをものにしてみせるからさ」

 真剣な表情で視線を送る蒼崎に、苦笑いを浮かべる田辺は根負けしたかのように言葉を切り出した。

「真ちゃん。一応聞くけどもさ。次の取材地はどこを考えているんだい?」

「対馬だ」

「対馬? おいおい、止めとけ止めとけよ。あそこはもう地獄の入り口になっちまってる。中国連中共が上陸して激戦地になってから何の情報も入ってこないんだぜ。おまけに島に行ったジャーナリスト達も皆行方不明になっちまってる。中国本土のジャーナリストもだぞ。悪い事は言わねぇ対馬は止めとけ」

「それを聞いちゃなおさら行かなきゃならねぇな。早速九州にいる記者仲間に連絡を取って上陸手段を検討しないと」

 心配する田辺をよそに、蒼崎はすでに躍起になっている。この男の中には『中止』という選択肢は存在しないのだろう。

 困難な状況下であればあるほど、モチベーションが高まっていく性格のようだ。

「そこまで言うんだったら、俺は別にかまわねぇさ。死んでも骨は拾わんぞ。死に水も汲んでやらんからな。ただし、対馬に行くなら先にこっちに取材に行ってからも遅くねぇよな」

 田辺がズボンのポケットから丸めたメモ用紙を出すとテーブルに置いた。

「これは?」

「一昨日、佐渡島にいるフリージャーナリストから変なFAXが届いてな。このご時勢メールが主流なのに、そいつはFAXで原稿を送ってきたんだ。いつもメールで寄こすのにだ。しかもよほど慌てた様子だったのか、原稿が手書きの殴り書きのように乱筆だったんだ」

「それがどうしたんだよ。そんな事戦場じゃ日常茶飯事だよ。目の前で見慣れないものを見れて興奮すれば皆そうなる。その記者もどうぜ何か戦場の変なものでも見て興奮したんだろう」

「そいつが送ってきたFAXの紙がそれだよ。内容を読んで正直気でも狂ったんじゃないかと思ったけど、見てみろよ」

 そこまで言うならと、蒼崎が丸まったメモ用紙を広げてみるとそこに書かれた内容に目が止まった。

「何だコレ?」

 そこには乱筆で『鬼が入ってきた』と書かれていた。

「とてもまともじゃないのは確かだな。しかしどおってことないだろう。俺は戦場ジャーナリストだ。オカルトは畑違いだよ」

「問題はそこなんだよ。この紙切れ一枚だったら俺もすぐにゴミ箱に捨てちまうんだがな。妙に引っ掛かっちまって、オカルト出版の知り合いに話したらその編集部に奇妙な噂が入ってきてるそうだ」

「奇妙な噂!?」

 眉ツバもの話だが、蒼崎は半分冗談のつもりで田辺の話しを聞くことにした。本来、蒼崎は幽霊や妖怪の類は一切信じていなかった。それは長年戦場という現実リアルの地獄を見てきてわかった事は、この世で一番恐ろしいのは人間だと悟っているからだ。

「実はな、新潟県の港の漁師が佐渡島に鬼を運んだって話なんだよ」

 思わず吹き出しそうになってしまった。何を言うのかと思えば21世紀のご時勢に鬼などと言う妖怪の話が出たと思ったら、それを漁師が船で運んだなんてとても信じられない話だ。

 それでも、真剣な顔で話す田辺に配慮して笑いを堪えるのに必死になった。

「ほお~っ、鬼ね。そいつはちゃんと鬼のパンツを履いてたのかい? それとも巨大なこん棒は持ってたのか?」

「まあまあ、詳しく話すとだな。ついひと月ほど前新潟港に長野だか群馬の自衛隊駐屯地所属の部隊が来て朝早く佐渡島に渡ったんだ。でもな、その日の夜に夜漁に出ようとした漁師の船に迷彩服を着た自衛隊員が2人近づいて、『佐渡島に行きたいから船を出してもらえるか?』と尋ねてきたそうだ」

「…それで」

 自衛隊という単語が出た所で蒼崎の表情が変わった。

「まあ、当然このご時勢だ。漁師は漁に行く合間でかまわないならといって承諾したんだとよ。だがな…問題はここからなんだ、その2人の自衛官以外に頭のてっぺんから爪先までポンチョ(雨合羽)みたいのですっぽり覆った10人前後の集団も一緒に乗ってきたそうだ」

「ポンチョ? 雨が降ってないのにか?」

「ああ、どう見ても大人には見えなかったそうだ。でもおそらく中学生ぐらいの子供だろうって言ったな。それで船が3隻に別れて佐渡島の港へ出港したんだけど、その日はたまたま海が時化て激しく船が揺らされちまってな、情けない事に自衛隊員の1人が海のど真ん中で船酔いして吐いちまったそうだ。見かねた船員が近寄ったとき、隊員の隣にいたそのポンチョの子供の顔がチッラと見えたそうだ。そしたよ…」

「そしたら?」

「額から角が生えていたんだぁ!!」

 田辺が大げさなリアクションで指を角に見立てた所で暫し沈黙が生まれた。

「……噂にしては随分と詳しいじゃないか。まだ調べてないっていってたよな」

「いやいやいや。調べてないとは言ってないよ。向こうの編集長から聞いた話だ。うんうん」

 どこなく田辺の目が泳ぐのを蒼崎は見逃さなかった。

「それを俺に調べろと、悪いがそんなオカルト話なんてどこにでもある与太話だろう。興味ないね。話が終わったんならこれで失礼するよ」

 ジッと田辺に視線を向ける。

「じっ…実はな、もう前金貰っちまってな」

「そらみろ。そんな事だと思ったよ。どうせこのFAXを送った記者に取材させてたんだろう。連絡が取れなくなったその記者を心配して探しに行きたいけど、自分とここの社員にもし何か起ったらマズイ、そこでもし何か起っても問題ないフリーの俺に探しに行ってもらえたらなと考えた。おおかたこんな感じだろう。行方不明になったんなら警察に頼めよ」

 腹の中を読まれてバツが悪そうな表情に変わっていく。

「まっまあ。真ちゃん。これから対馬に行くんならさ、俺に少しカリを作っといた方が後々いいと思うぞ。俺こう見えても市ヶ谷に太いパイプがあるのを知ってるだろう。今回の取材だって向こうのお偉いさんに根回ししてやったんだからさ、ここは少し俺に恩を売っとくのも得策だと思うんだよね」

「ちっ、相変わらず食えねぇタヌキだなぁ。しょうがねぇな。行くよ。ただし、このカリはデカイぞ!!」

 快くはないが、蒼崎は承諾した。

「あと、この話には続きがあってな。その送迎した船なんだが3隻とも一週間ほど前に漁に出たっきり戻って来てないそうだ。真ちゃんくれぐれも気を付けてなよ」

 すでに他人事の様な感じで話す田辺に、呆れ顔の蒼崎が溜め息を漏らす。この顔だけはどうしても好きになれない。単純に生理的に受け付けないのだ。

 取材途中で追加経費を多めに取ってよろうと考えながら会社を後にした。

 すっかり陽が落ちた繁華街は夜の顔に変わっていた。ひと通りがよりも路地裏からコチラ側を伺うホームレスの数が増えていた。

 酒や居酒屋の空腹を刺激する香りと一緒に、危険な匂いも漂っていた。

 さすがに帰りは安全に帰るべきだと思い、蒼崎は繁華街を進んでいくとポケットから着信音が鳴り出した。

 相手は今年6歳になる娘からだ。

「もしもし。玲子か? パパだぞ」

『あっパパだ!! やっとつながった。どこにいるの? 今日帰ってくるの?』

「ゴメンな玲子。パパなまだ仕事なんだ。多分あと2,3日かかると思う。今度はちゃんと帰るからさ」

『え~パパいつもそればっか。信用ないよ』

「今度は本当さ、今度のパパは約束を守るパパになったんだぞ」

『ふ~ん、あっそうだ。パパ、玲子ね今日学校で-』

「悪い玲子、そこにママが居るだろうから先に変わってくれないか」

『もうっ!!』

 残念そうな返事を出し、母親の綾子に変わった。

「やあママ、愛してるよ」

『ちょっと。今日帰ってくる約束でしょう』

 やや不機嫌な口調は、その原因の相手にぶつけられた。

「すまん、まだ取材が終わってなくて、予想以上に時間が掛かるんだ。玲子にはママから謝っておいてくれ。頼むよ」

『安心してください。今日帰ってくる約束の事は玲子には言ってませんから』

「さすがお前、愛してるよ」

『まったく。それよりも、あの子今日大事な話があったのよ』

「なんだ? まさか………彼氏に娘はやらんぞと伝えときなさい!!」

『ちょっと何いってるよ。安心してそんなんじゃないわよ。玲子ね将来なりたい夢が決まったって言ったのよ。何だと思う?』

「!?」

『あの子ね、将来『女医』になるんですって。しかも外科医になりたいそうよ。どうしてだかわかる?』 

「さあ、何だろうな? 検討もつかないな」

『あの子ね『パパがケガしても私がちゃんと治してあげるだもん』って言って、それが理由らしいのよ。あの子はもうパパがどんな仕事をしてるのか薄々気づいてるようだから』

 言葉が出なかった。自分でも知らないうちに娘に心配されていた事に。そして急に娘が愛おしくなり、声が聞きたくなって変わるよう頼む。

『何パパ?』

「…玲子、お父さんな。この仕事が終わったら少し休みを貰うつもりだ。だからしばらくお前の側にいて一緒に学校の送り迎えに行ってあげるからな」

『えっ!? ホントっ!! でも、学校休みがおおくなってきたし、パパ本当に大丈夫なの?』

「ああ、大丈夫だ。少しでも玲子の側にいたいんだ」

『ほんと!! 絶対だよパパ。わーい!! わーい!!』

 久しぶりにこんなにも娘の喜ぶ声を聞いた。こんな仕事をしている自分があとどれだけ生きられるか分からないが、ほんの少し家族と過ごしてもいいだろう。対馬行きは少し延期して、しばしの間娘の顔や温もりを感じて過ごすのも悪くないだろう。

 今は少しだけ優しさに身を置いておきたい。自分の胸の奥が少しだけ温かくなるのを確かに感じていた。


 2月3日、佐渡島外海府海岸付近。真夜中の県道45号線の路面に血筋を描きながら進む影が1つ見える。おぼつかない足取りの中、星も月明かりも無く夜間灯火規制の為なのか防犯等さて付いていない。

 ただ見えるのは左側面の山間から見える夜空を赤かと照らしている光景だけだった。

 それが、住宅街の火事であるのは容易に想像できた。まるで空爆でも受けたかのように町全体が広範囲に焼かれている。

「はぁ、はぁ。クソっ、クソっ!!」

 脇腹を押さえる手の隙間から生暖かい血液が止まることなく溢れてくる。歩けば歩くほど傷口が開き体力を消耗させる。

 少し休憩したい衝動にかられるが、背後から迫る獣のような気配を感じ休む気にはなれなかった。

 勢いよくアスファルトを蹴る足音が耳に届いた時、握りしめていたスマフォから着信音が鳴り出した。

『おい真ちゃん。真ちゃんか!? そっち一体どうしたんだよ。どうなってんだ一体?』

「…悪り…田辺…今…はぁ、はぁ、電話できる状況じゃ…ないんだよ」

『無事なのか? おい!! 海岸線一帯が空爆されたって本当か? 無事なのか?』

「悪い…、今回だけはマジでヤバイ…はぁ、はぁ、本気で…ヤバイんだ…」

 下半身の感覚が無くなり膝から崩れ落ちた。真っ暗な中すでに平衡感覚も失い。自分がどこを歩いているのか、本当に歩いていたのかさえ分からずにいた。

一つだけ確かなことは、もう歩く事ができない。

 振り返った蒼崎は、背後から迫り来る不気味な何かがいる闇の向こうを凝視した。

 間違いなくそこにいるのがわかる。だが、姿が見えない。

 長年戦場で体験し、研ぎ澄ましてきた第六感がその先にいる得体の知れない存在に警告を発していた。

 だが、逃げようにも足を動かす事ができない。冬の海風に指先の感覚さえ感じなく始めた。

「クソォ。…まだ…死にたくねえよ…」

『どうしたんだよぉ!!おい!! おい!! 真ちゃん。おい!! おいってば!!』

 グルルルルルル

 荒い鼻息が蒼崎の顔をなでる。キツイ血の匂いが混ざり生暖かい。

「けっさっきの…俺の…腹の肉には…美味かったかよぉ!!」

グルルルルルル、グルルルルルル、グルルルルルル。

 一匹だけじゃない。周りに何匹も気配を感じる。

暗い闇の中、肉食獣のような獣が群れで蒼崎を取り囲んでいるのがわかる。それでも、こんなにも近くで鼻息を感じるのに姿が見えない。

『おい、真ちゃん。返事をしろよぉ!!』

「玲子…ごめんな。パパ…また…約束破っちゃたよ…」

 今回ばかりはもう駄目だと諦め全身の力が抜ける。そして蒼崎はゆっくりと目を閉じた。

 だが、次の瞬間。辺り一面が昼間のように明るくなった。

 同時に、先ほどまで感じていた獣たちの気配も消え、道路に細長く伸びる自身の影だけが見える。

 一瞬何が起こったのか理解できずにいた。

助けが来たのかと思い蒼崎は後ろを振り返った。

 そこには散々と照ら二つの閃光弾の下、道路の中央に小さな黒いシルエットが1つだけ見える。

 目を細め、そのシルエットを注視すると蒼崎の顔から血の気が引いていくのがわかった。

「…やばい…」

『何がやべぇんだよ。真ちゃん!!』

「俺も…もう、お終いだ…あの鬼だ………鬼に見つかった…」


皆さん、お久しぶりです。朏 天仁です。

2ヶ月以上更新が遅れていしまい本当にすみませんでした。

今回は番外編です。

この番外編は気になる所で終わってますが、ご安心ん下さい次回の番外編まで続きますので(´∀`)

次回の更新もなるべく早く更新したいと思います。

ここまで読んでいただいた読者の皆さんに感謝を送らせて下さい。

ありがとうございますm(_)m

では、また次回よろしくお願いします!!(^o^)/

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