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囁き

 琥珀色に光る眼光がこれから狩るべく相手の姿を捉えていた。不機嫌そうに穴だらけになったBHジャケットの裾を亮はつまみ上げる。

「はあっ…やってくれるぜ。誰がこれを直すと思ってるんだ。ジャケットは支給されるとして、シャツとズボンは無職の身では痛い出費なんだぞ」

 銃口を向けたままの状態で微動だにしない隊員達は、畏怖の目を亮に向けていた。

「お前は…人間か…?」

 隊員の人が尋ねてきたが、亮は視線を合わせないまま腰からコルトガバメントと取り出すと安全装置(セーフティーレバー)を解除した。

 金属の乾いた音と同時に亮が顔を向ける。

「ふぅっ、200発以上弾を食らって生きている俺が人間に見えるのか? どう見てもバケモノだろうが。お前たち人間の敵だぞ。バケモノなら退治するのは戦士の仕事だろう。さあ、どうした。撃たないのか? ならこっちから行くぞ」

 銃口を眼前にいる盾を持った隊員に向けると、一発発射した。

「うぅ…!?」

 盾を構えていた隊員が一瞬後ろにたじろいだと思ったら、そのまま横に倒れた。腹を押さえて痙攣を始める隊員の姿を見て、後ろの隊員が手を掛けようとした時、右足に激痛が走り同じく身体を崩した。

「クソっ!! 何だコレは!? 痛ってぇえぞぉ!! チキショウッ!! どうなってんだ一体ぃ!?」

 撃ち抜かれた足を押さえながら絶叫する隊員。

 その様子に残った隊員がM4を構えたままゆっくり後退を始める。ゴーグルの向こうには恐怖に怯えた瞳が映っている。

 銃口を向けたまま後退続ける隊員は、完全に戦意喪失した状態でまったく驚異は感じない。

 亮は硝煙が登る銃口をゆっくりと奥の隊員に向けた。そして、

「逃げるなよ。聞きたいことがあるんだから」

 再び銃声が鳴ると、隊員の左膝のプロテクターを撃ち抜き倒れた。すかさずもう一発撃つと銃弾はM4本体を貫通し、右脇腹の防弾チョッキを貫通した。

 たったの3発の銃弾だけて、現状は制圧された。

 床上で悶え苦しむ隊員たちはこの状況の理解に苦しんでいた。それはハンドガンの弾では説明がつかない貫通力だったからだ。

 30cmからの距離でもライフル弾を防ぐ防弾シールドと、特殊防弾チョッキが貫通することなど本来起こりえない事だった。

 よっぽどの偽物で騙されれもしないかぎり説明の使用がない、と誰しもが考える事だろう。しかし、隊員達(彼ら)は一つ重大な事を見落としてした。それは亮が正真正銘のバウンティハンターだという事だ。

 バウンティハンターは自らの捜査遂行の為に、あらゆる法律や規制に囚われることがない。従って彼らは目的達成の為には『どんな兵器の使用も許される』のだ。例えそれが核兵器であっても同じ事だ。

 亮が使用した銃弾はただの45口径の銃弾ではない、その高い殺傷能力から非人道的と言われ国際法で対人使用が全面禁止された『劣化ダムダム弾』だった。

 対戦車砲である劣化ウラン弾を主原料にして製造され、高い貫通力を持った銃弾だ。この銃弾の恐ろしい所はその高い貫通力ではなく、万が一弾頭が体内で留まった場合弾頭の持つ運動エネルギーが熱エネルギーへと変換され、急速に体内燃焼が発生する。

 すると、損傷箇所周辺の細胞が焼かれ放射性物質のウランにより内部被爆が発生する。おまけに弾頭内には特殊加工した水銀液が備わっていて、もし体内で弾頭が割れたした場合は水銀が漏れ出す仕組みだ。そうなった場合たちまち水銀が血管に乗って全身を回り最終的に死にいたる。

 この銃弾が国際法で使用が禁止されているのは死亡率の高さだ。その非人道的な性質で一部の兵器開発業者の間では、これを『処刑弾』とも呼ばれている。

 殆ど手に入らない違法品たが、バウンティハンターはいかなる法や制限、制約に縛れないため遠慮なく購入し使用する事ができる。

「運がいいな。劣化ダムダム弾は全部貫通したぞ。少しでも弾丸が体内に残っていたら、内部被爆か重金属中毒で脳がやられていたぞ。」

「おっ、オイ…」

「!?」 

 足を撃たれた隊員が上半身を起こしてみせる。

「…てっ、テメー……人にそんな危ねぇーモン使いやがって…一体何考えて…やっ、やがるんだ…」

「おいおい、人を蜂の巣にして殺そうとした奴がよく言うぜまったく」

「こっ、…こんなことして…ただで、すっ…すむと思うなよ。今に…」

「今に何だ? 仲間の応援が来るって言いたいの?」

 亮の質問に隊員は黙って頷いた。

「そうか、それは残念だったな」

 そう言うと、亮は上を向き天井に向かって銃を乱発した。全弾撃ち尽くすと、予備マガジンを再装填(リロード)させてさらに乱発する。

 マガジン2本を空け終わると亮は残念そうな顔を向けてきた。

「上の階で待機していたお前のお仲間11人は、残念だが助けに来れなくなったぞ。足が動かなければ降りて来られないからな。ご愁傷様」

「うっ…嘘だろう」

 天井に空いた銃痕からポタポタと赤い液体が滴り落ちてくると、亮は軽く笑を見せた。

「お前は…バケモノだ…」

「だからさっきからそう言ってるだろう。何回同じこと言わせる気だよ、バケモノ意外になんだって言うんだよ!! 正真正銘のバケモノなんだよ!!」

「くっ…、さっさと…殺せ…」

「そうしてやりたいのはやまやまなんだが、お前、U2について知っていることを話せ。素直に情報を出すなら命は助けてやってもいい」

「……そ、…そんなヤツの事なんて知らねぇ…」

「そんなヤツ? ここで答える場合は『そんな名前』というべきだったな。それじゃ相手を知ってるってバラしてるもんだぞ」

「うぅ…」

「はあ~、もともとここまで事を荒立てる気はなかったのに、出来れば穏便にすませようと思っていたのにな」

 肩をすくめながら溜め息を漏らすと、もう一度銃口を向けた。

「もう一度だけ、聞くぞ!! 」

「ひひぃぃ、わかった。わかったって。言うよ。あいつは―」

 瞬間、背後に冷たい殺気を感じとっさに横へ避けた。同時に前にいた隊員の頭部半分が粉々にハジケ飛び、後方に赤い霧状になった脳髄を撒き散らした。

 素早く体勢を直し振り向くとそこにはAA-12オートアサルトショットガンを持った新たな隊員が立っていた。

 亮が撃つよりも一瞬早くAA-12が発射され、散粒の塊が右わき腹辺りの肉塊と臓器の一部をえぐり取っていった。

 衝撃で亮の体が後方へと飛ばされ、頭を半分吹き飛ばされ絶命した隊員の上に背中を着ける。

「ガハッ、…ゲホォ、ガハァ…」

 咳き込むと同時にノド奥から込み上げてきた喀血を吐き出した。

 散弾で撃たれた程度で死ぬ事は無くても、ちゃんと人間本来の痛覚は持っている。普通の銃弾程度なら我慢するのは簡単だが、広範囲に体の一部を塊ごと持っていかれては流石に平気とは言えなかった。

「クソ。後ろをとられるとは、やれやれ…やっぱまだブランクがあるな、調子がでねぇぜ」

 わき腹を押さえてはいるが、すでに血は止まり急速に損傷箇所の細胞再生が始まっていた。

 だが、このまま敵が大人しく待ってくれるハズも無く銃口を向けたまま引き金を引いた。

 ショットガン独特な乾いた高音が鳴り、命中した箇所の肉片が吹き飛ぶ。

「!?」

 だが、吹き飛んだのは亮の肉片ではない。命中したのは盾にした隊員の死体だった。プロテクトアーマーに、防弾ベスト着用しているため散弾を見事に防いでくれた。

 一見すると人間の盾なんて非道で残酷な事だと思われるだろうが、実際死体となってしまっている以上後は個人が持つ価値観の問題だ。

 生と死が常に隣り合わせの世界では死体も立派な武器になる事を忘れてはならない。仲間の死体の下に手榴弾を仕掛けたり、臓物ぞうもつを取り出して麻薬の運搬や、死体爆弾にだってなる。

 そういう世界の住人から見れば、自分の防衛手段の一つに人間の盾が使われる事になんら不思議な事ではないはずだ。

 死体は死体なのだ。しかも、防弾チョッキを着けているため盾にするには申し分ない。亮はなんの躊躇も見せずに盾にすることが出来た。

「悪いね、恨むんならお前の仲間を恨んでくれよ。ショットガンはやっぱキツイでね…」

 無論相手も躊躇無く発砲を続ける。銃弾が発射されるたびに死体の体が小さく削られていく。いくら何でもあと数発受ければ防ぎようがない。

「しかたない。もう少し待ちたかったが、ほらよ!!」

 上半身だけとなった盾を相手に投げつけると、とっさに隊員が身をかわす。その隙に亮が反撃を開始する。カバメントが連射されるが、相手の身のこなしがよく全弾体のすぐ湧きをかすり抜けると、壁の奥へと消えていった。

 代わりに外れた弾が壁や観葉植物の鉢に命中し廊下に破片を撒き散らす。

相手は距離をとって壁伝いに接近を試みる気だ。亮はマガジンを再装填リロードすると、奥の壁をじっと凝視した。

亮の目には壁の向こうでAA-12のマガジンを再装填リロードしている敵の姿がハッキリと見て取れた。

 人形ひとがたの白黒に、銃口の先からはうっすらと硝煙の形さえわかった。

「それで隠れたつもりか。丸見えなんだよバカがぁ!!」

いくら壁越しに隠れていてもその位置が分かってしまっては致命的だ。亮はゆっくりと狙いと定めると敵の両足目掛けて2発発射した。

 コンクリートの壁だろうと『劣化ダムダム弾』の前ではただのベニヤ板と変わりない。命中と同時に相手の動きが止まった。

「そこで大人しくしてろ」

 それだけ言うと、他に敵はいないか辺りを見渡し始める。今の亮の視界は高性能サーモグラフィーのように熱を識別することで、周りに動いている熱源はない事を確かめている。

 動いているとすれば上の階で足を撃たれた数名が這って動いているくらいだ。

 すぐに生きている敵を確保し情報収集に移ろうとすると、壁越しに銃口が見えた。

「くふぅ!!」

 すぐに身を起こして交わす。

銃声と一緒に亮がいた壁に野球ボールくらいの穴が幾つもあいた。

「おい…まさか、外れたわけじゃないだろう。ちゃんと当たってるはずなのに」

 すかさず亮が応戦する。たった3メートルもない距離の中、銃撃戦が始まった。

 敵は闇雲にショットガンを乱射している為、何発かは明後日の方向に当たっているが、それでも接近戦では最強火気を誇るオートアサルトジョットガンを前に容易には近づけない。下手に近づいてまた肉塊ごと持っていかれては厄介だ。

 新しいマガジンに装填しなおすと、亮は敵の頭部に向かって狙いを定めた。今まで急所を外し致命傷を避けてきたが、それも限界だった。

「じゃな、悪く思うなよ」

『亮兄ぃ』

 引き金を引く瞬間、再びマナの声が聞こえたような気がして躊躇した。だがそれは一瞬の迷いで、亮は銃弾を発射した。

 壁越しに見える敵のシルエットがゆっくり崩れ落ちていくのが分かった。

 銃を構えながら確認しに行くと、俯けに倒れたまま首筋から血が広がっていた。

 信じられない事に頭部命中ヘッドショットをしたつもりだったが、軌道下にズレて首に命中していた。あの距離で的を外すはずはないと思っていた亮だったが、無意識に急所を外してしまった。

 一瞬聞こえた気がしたマナの声の影響なのか、それともたまたまブランクの影響なのかは分からなかった。

 一応まだ生きているかも知れないため、足を使って敵を仰向けに起こした。銃弾はやはり首に命中し心臓の鼓動に合わせてドクドクと血液が銃傷から排出されていた。

 一つ気になったのはそれまでに撃った弾が全て命中していた事だ。腕や足致命傷にならなくても神経痛覚が密集して敏感な場所に命中しているのに、平然と動いていたことだ。

 まともに動けないほどの痛みが全身を襲っていたはずなのに、この男はそれをまったく気にしていなかった。

「ただのやせ我慢のつもりだったのか。それとも興奮し過ぎて痛みを感じなかったのか」

 フェイスマスクとゴーグルで表情までは分からない。ゆっくり近づき手からAA-12を蹴り飛ばした。

 念のため右腕を踏んで動けなくすると、フェイスマスクに手をかけた。

「オッ……オレニ…ゴホッ…オレニ…何ノ……ゴホッ……用ダッ…ゴホッ……ッ…」

 かすれるほどの声で上手く聞き取るには難しかったが、亮はコイツがU2だと理解した。

「お前か。お前がU2か?」

 亮の問いに相手は僅かに頷いてみせる。

「お前…が…」

 銃口を向けたまま銃を持つ手に力が入る。たんぽぽを襲撃し葵を誘い、マナに瀕死に重症を加えた当事者を前に再び怒りが込み上げてくる。

 亮は一度、大きく深呼吸をした。それから、この目の前にいる男の顔を粉々に砕きたい衝動を何とか抑えながら亮はゆっくり尋ねた。

「今朝お前達が亜民の施設を襲撃した際に誘拐した少女をどこにやった。彼女は無事か? 居場所を教えろ。もし依頼主に引き渡したのならその依頼主の名前を教えるんだ。正直に教えれば直に救急車を読んでやる。その傷じゃ助かるかどうかは五分五分だろうけど、死ぬのは嫌だろう。少しでも長く生きたいなら素直に話したほうが良いぞ」

 口調はゆっくり丁寧に言ってるつもりでも、みなぎる殺気だけは隠す事が出来なった。それはそれで別に構わなかった。

 亮の中でも正直に話したとしても助けるかどうかは決めていなかったから。

「オッ…教エテヤル…」

 左手人差し指をクイクイと動かし顔を近づけるように合図を送る。

 亮がゆっくりと顔を近づけると、男の手が亮の襟首を掴みグッと口元に近づけた。

「アノ…女ハ…ハリマ…二…渡シタ…」

「ハリマ? 誰だそつは? オイッ!!」

 既に大量に血を失い過ぎたのか、男はそれ以上答えようとしない。失神しかけている様子で意識がハッキリしていないようだ。

「オイ!! 寝るなァ!! 起きろォ!! ハリマは誰だ? 誰なんだ。起きろォ!!」

亮の怒声に男がもう一度口を近づけた。そして、

「Boom!!」

 その言葉と同時に男の左手から現れたのは小さな起爆装置スイッチだった。

 亮は早く気づくべきだった。防弾ベストに不自然に多くある手榴弾と、ベスト下にあったC4の存在に。この男は最初から死ぬ気だったことに。

 全てを理解した後、亮は起爆スイッチを停止させる最善の手段をとろうと、銃口を男の鼻部に押し当てた。鼻先からやや下辺りに当てれば生命維持を司る脳幹と運動中枢を司る小脳を一緒に破壊することができる。そうすれば、運動反射を起こすことなく爆破を止められる。僅かでも狙いがズレたら、反射的に起爆スイッチが押されてしまう。

 亮に迷いは無かった。瞬時に狙いを定めトリガーを引こうとした。

『亮兄ぃ』

 だが再び聞こえたマナの声に指が止まる。そして、男が起爆スイッチに押そうとした瞬間、亮の脳裏を過ぎったのはマナの顔だった。

こんばんは、朏 天仁です。早くも12月を迎えてしまいました。気温も寒くなり皆様体調は崩されていませんでしょうか。今回で59話を更新しましたて。気になる終わり方でしたが、次回はたぶん番外編になると思います。ならないかもしれませんがf(・_・;)

 それでは次回またお会いしましょう。最後まで読んでもらい有り難うございますm(__)m

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