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コード:407

「それで報告は以上か? よし、それならそのまま監視を続けておけ。追って指示を出す」

 霞ヶ関のオフィス内で、村岡はL-211の無事確保の連絡を受けた。あと数時間もすればL-211を収容した車がここに到着する。到着したらしばらくは別の場所に収監してから、第3研究所よりも警備が厳重な場所に移さなくてはならない。

 これでようやく厄介事が片付いたと思えるほど甘くはなかった。今回の事後処理と並行して収容施設の職員に対する身辺調査徹底の命令を受けた為、ここ数週間は激務に追われる。

 ただ村岡にとっては、L-211を確保してもその後の事後処理に追われ事それ以前に、今回の任務中に殉職した部下たちの事後整理をまず考えなければならなかった。

 たったの数日間で多くの戦友や優秀な部下を失った事は自身の責任にほかならないと考えて、せめて残された家族に苦労がかからない様にできる限りの保証をしなくてはと、一人頭を抱えながら優先順位を立てて考えていた。

「失礼します。竹中氏が村岡三尉にお会いしたいと来ていますが、どういたしましょうか?」

「んっ、ああぁ。通せ」

「ハッ!!」

 スーツを着た若い部下が敬礼をして部屋を出ると、入れ替わりに厚い書類封筒を脇に挟んだ竹中が敬礼をして入ってきた。

「失礼します。竹中二尉入ります」

「おい、竹中。敬礼はいい、むしろ先に敬礼をするのは俺の方だろ。上官が先に敬礼をしたら部下に示しがつかんぞ」

「あっ、失礼しました三尉。以後気を付けます」

 竹中二尉はワザとらしくもう一度敬礼をした。例え階級が変わろうと自分の上官は貴方である、そう伝えているかのように。

 村岡三尉もその気持ちをくんでか、それ以上言及したなかった。

「今日はどうしたんだ? 国税局マルサの方は大丈夫なのか? 心配しなくても、こっちの任務はもうすぐ終わる。お前は自分の仕事に戻らないと俺みたいに出世街道からこぼれ落っこちまうぞ」

「ご心配およびません。ちゃんと休暇申請を出してきましたのし、ちゃんと連邦本部に話を付けてきましたので、自分がココに来ても問題はありません」

「そうか、それならそれで結構。それで、今日は一体どうした? 何かあったのか?」

「一佐っ、失礼。三尉、お忘れですか。以前自分に例の少年の素性調査を命じたではありませんか。今日はその報告にきました」

「おう、そうか。そうだったな」

 L-211が無事確保できたことで、その事をすっかり忘れていた。確か月宮亮と言われる少年の調査を竹中二尉に頼んでいたのを思い出した。普通なら管轄が違う彼は村岡の部下ではなく、むしろ上官である。部下が上官に命令するわけには行かず、協力要請という形でいったつもりだったが、竹中二尉はそれを直命と思ってやってくれたようだ。

「まず、報告の前にお伝えする事があります」

「何だあらたまって? 何かわかったのか? おおかた敗戦後の戦争孤児を町ヤクザが私兵として訓練していたのだろう、戦後のよくある話だ」

 竹中は脇に挟んでいた書類封筒から一枚の書類を机に置いた。

「いいえ、この少年を調べていたらこんな結果がでてきました。自分の最初はそうだろうと思ってよりましたが、よく見てください三尉」

 置かれた書類は、旧防衛省の機密書類を示す朱印が打たれていた。文字の9割近くが真っ黒い塗りつぶれていたが、こんな機密レベルが高い情報まで竹中は調べていたのかと思った村岡の目に止まったのは、黒塗りの書類を上から斜めに打たれた文字だった。

『国家機密法ニ該当スル為、開示不可 処理コード:407』と赤文字で打たれていた。

「これは、…まさか」

「自分も最初は何かの間違いかと思いましたが、同じでした。この少年…存在自体が我国の国家機密に該当しているんです。しかも現在進行形で」

「どういうことだ? この少年は一体?」

「それともう一つ。この処理コードを調べてみたところ、この407と言うのは第二次極東戦争(先の大戦)中使用されたいた、対魔兵器の試作兵器を示すコードでして、人間に割当てられるコードではありませんでした」

「何っ!? 本当か!?」

「はい、連邦中央情報局にいる同期から裏を取りました。間違いありません」

「なんてこった…」

 村岡はまさかっと思いながらため息をもらした。

「ひょっとして…陰陽師なのか…?」

「いいえ、少なくとも陰陽師では無いと思います。それ以上にわからないのです」

「何がわからないんだ?」

「この男は存在していません」

「はあ!? どう言う事だ、説明してくれ」

 突然の言葉に、村岡は困惑の表情を浮かべたまま竹中に問い返した。すると竹中は書類封筒から数枚の書類束を広げ、指を指し示しながら説明を始めた。

「いいですか三尉。正確に申しますと、まず最初に…この月宮亮と言われる少年について、戸籍を始めとする全ての公的書類が一切ありません。この月宮亮なる人物が我国の記録に載ったのは、彼が5歳の時です。しかも最初の記録が国土交通省の入国管理局の出国者リストの中です」

「おいちょっと待て。戸籍もない人間が簡単に国外に出れるわけないだろう。しかも時期的に日本がまだ占領地時代だろう、政府要人でさせ出国には厳しい審査があったんぞ。ありえんことだ」

「ですが本当です。しかも彼の出国に対して身元保証人がいましたが、誰だと思いますか?」

「…誰だ?」

「現在の日本連邦軍戦略情報局(J.S.I.C)の前身である国土治安維持保安部(国治保)です。国治保が特例処置として発行していた事と、他にも特例処置で彼と同じ歳の39人の子供が国外に出国していました。さらに次の年は42人の子供が出国しています。これは異常ですよ三尉。国籍不明の少年少女が目的不明のまま国外に出国しているんです」

「何てこった…81人か…」

 予想外の情報に村岡は困惑し、動揺を隠しきれなかった。

「話を戻します。出国した月宮亮は一度ヨーロッパ(EU)を経由して、イスラエルに入国してます。2年間イスラエルで暮らした後は、記録は抜けてしまったている箇所もありましたが、判明しているだけでも彼は、その後パレスチナのガザ地区、コソボ、アフガニスタンからソマリアに、そして南アフリカへと渡っています。当時の紛争地帯…それも最悪といえる危険地帯を点々と移動していて、15歳で帰国する前は、1年半紛争真っ只中のミャンマーにいました……三尉に以前見せた写真は帰国した時の写真です」

「あれか…どうりで」

 村岡は以前見た写真を思い出した。眼光鋭い瞳に、独特の雰囲気を身にまとった感じは、彼がだた者ではないと思っていたが、まさかこれほどだったとは思いもよらなかった。

「…本人に関する情報を続けろ」

「帰国後次に記録に残っていたのは、埼玉県バウンティハンター訓練施設の入学記録でした。ただ、あそこはネットワークが独立していて詳しい情報は得られませんでした。何人かの同期生から話を聞けたのですが、みな彼のことを『従順ならざる狂犬』と言っていました」

「いわゆる『一匹狼』か……続けろ」

 言われるままに最後のファイルを取り出し、広げてみせるがそのほとんどが写真画像だった。

「次の記録は警視庁にありました。三尉、2年前の『刀帯たてわき事件』を覚えたらっしゃいますか?」

「あの『大宮連続児童誘拐殺人事件』か、そもそもあの事件はわからない事が多すぎたな、身元不明のハンターや、警察の裏で五行法印局が動いたりして……まさか!! コイツはバウンティハンターとして捜査に関わっていたという事か?」 

 村上の質問に竹中二尉は首を左右に振る。

「いいえ、ハンターではなく、彼はその事件の容疑者でした」

「容疑者だと?」

「はい、警視庁捜査一課のファイルに、彼は事件の最重要容疑者だったのですが、刀帯死刑囚が捕まると直ぐに公安部の方から、警視庁の容疑者リストから削除するよう圧力が掛かったそうです」

 村上の中で複数の線の仮説が繋がった。この『月宮 亮』はバウンティーハンターでありながら、なぜか潜入捜査官アンダーカバーを行っていたのだと。

 そうなると、彼に捜査を指示させた人間が確実に1人いることになり、彼より上の人間か、もしくはパートナーが確実にいただろう。

 村上は机の上で手を組むと、小さくため息を吐く。

 竹中二尉が次の説明に入ろうと書類をめくると、ファイルから一枚の紙が落ちてきた。

「これは何だ?」

「あっ…それは事件後に作成された、『死亡者及び行方不明者リスト』です」

 手に持ったリストに目を通すと、そこには全員の名前や年齢・性別等が書かれている。捜査関係者に至っては所属名まで細かく書かれていた。

「リストの中には死亡した警察関係者4名、バウンティーハンター2名、陰陽師6名の詳細が書かれているな」

「はい。死亡者の多くは、ほとんどが被害者の児童ですが…リスト中に、1人だけ行方不明者がいまして、五行法印局から派遣させた上級陰陽師の『冴鬼さえき のぞみ』だけが、未だに行方不明のままです」

 村上の頭の中で『冴鬼 希』という名前が引っかかった。

「その名前、どこかで聞いたことがあるぞ」

「ご存知でしたか? あれです。たしか……10年くらい前に陰陽師達の間で神童と騒がれた子供です。当時10歳にして安倍晴明あべのせいめいの再来といわれた、天才陰陽師です」

「いや、そうじゃない。そうじゃないんだ」

「はっ?」

 村岡の頭に引っ掛ったのは、冴鬼と言う名前だった。その名を聞いて同じ名前の冴鬼法眼の顔が浮かんだからだ。

「まさかな…続けてくれ」

「はい。2年前の事件のあと彼は精神を病み、旧県立精神病院に処置入院しています。入院目的は心的外傷後ストレス障害(PTSD)の治療となっていました。そこで薬漬けの毎日を送っていましたが、半年後に同病院を脱走しています。2週間後に戻って来た時に叔父と名乗る『月宮 誠』なる人物が彼の身元引受人として現れ、現在の今いる軽度対応型施設『たんぽぽ』に入所させています。しかし、ここでも入所後2週間で傷害事件を起こしています。略式裁判で強制的社会奉仕活動の判決を受けています。………彼に関する事は以上です。三尉」

「ご苦労だった。ありがとう」

「それと、これは余談と思って聞いてください」

「何だ?」

「大宮事件の時に、巨大な白蛇が現れたと現場にいた数人の捜査官が証言しています。あと事件後の生存者ハンターの中にあの一之瀬がいました。しかもその後、この彼と同じ施設に入院しています。偶然の一致でしょうか、一之瀬()と同じハンターだった者が一緒に病院に入院して、その後一之瀬の事件が発生、L-211が仲間の月宮亮の元に送られる。自分には別の何かによって―」

「竹中二尉!!」

 竹中二尉の話を急きょ止めた。そして人差し指を口元に置いて『盗聴されいる』と合図を送った。いくらなんでもここで国家機密に関わる事を話すのは危険と判断したのだ。

 腰を上げ、机上の書類をまとめると引き出しの中へとしまった。

「ご苦労だった。竹中二尉。報告が以上なら下までお送りしよう」

「あっ、はい」

 これ以上の会話は危険と判断した2人は、そのまま部屋を出てエレベーターに乗り込んだ。

「ここは監視カメラだけだ、音声は入らない。竹中二尉、今後は身辺に注意しろ」

「はい、ですが…三尉、この彼は一体何者ですか?」

「…わからん。だた一つ言えるのは、間違いなく俺達以上の修羅場を数多く渡り歩いている事だけだ」

「コード:407、実際には存在しないコード番号のハズなのに、どうして人間に当てはめられていたのでしょうか?」

「わからん…人ではないのかものな…」

 エレベーター内の空気が重たく息苦しくなり、シャツの襟元を指で緩めた。L-211を無事に回収できると思った矢先に、想定外の情報に困惑する村岡は、これまでにないくらいの胸騒ぎを感じていてた。

「竹中、もうお前はこの件に関わるな。もしかしたら伏魔殿ふくまでんの扉を開けてしまうかもしれんからな。俺は…どうか、このまま無事に終わってくれる事だけを願っている。もうこれ以上部下を失うのは御免だからな」

「…自分も同じです。三尉」

 エレベーターの扉が開くと、前の目に播磨局長の秘書官が立っていた。いつも見ている彼女とは思えないくらい嫌悪感を漂わせている。村岡はこの彼女の独特な目の視線が慣れず、いつも視線を少しずらしていたが、それでもただならぬ雰囲気なのだとハッキリわかった。

「村岡三尉。播磨局長がお呼びです」

「…わかった」

 竹中二尉だけがエレベーターを出ると同時に、彼女が中に入り込む。そしてお互い相向かいのまま2人を乗せたエレベーターの扉が静かに閉ると上昇を始めた。











こんばんは、朏天仁です。今回の話いかがだったでしょうか?今まで隠されていた亮の過去が次々と明かされていて、その上何やら身内同士できな臭い動きがありますね。

 さて、次回は月宮亮の話に戻ると思いますので、楽しみにお待ちください(^_-)-☆あの続きも気になると思います。

最後にここまで読んで下さった読者の皆さんに感謝を送りたいと思います。本当にありがとうございますヾ(@⌒ー⌒@)ノ

では、次回お会いしましょう。後、下にある小説家になろう勝手にランキングを1クリックしてもらえたら嬉しいですo(^▽^)o

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