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風が吹く

 夏の夜空を照らす月明かりの下を、湿気を含んだ初夏の風がそよ風のように吹き抜けていく。その風に乗って立ちこめる硝煙しょうえんの香りと、死体の焼ける匂いが鼻腔を刺激すると、ローブを着たミランダはハンカチを口元に当てて露骨に嫌そうな顔をしていた。

「臭い、臭い。ほんっと臭いわ。二級人種の存在が許せないのは、何をしてもこっちを不快にさせる事よ。特にこの燃えカス程鬱陶うっとうしいものはないわね。今度はちゃんとマスクを用意しないと、私の肺がこのカス共に犯されてしまうと思うと、ゾッとします。コイツらが存在すること事態不快極まりないのに、神はどうして人間に似せてコイツ等をお創りになられたのでしょうか」

 悪態を付きながらミランダは足元に転がっている成人男性の頭部を蹴り飛ばした。焼けただれた頭部が地面の砂を立てながら転がっていいく。

 それをみたロメロ神父がやれやれといった顔を見せる。

「仕方なかろうミランダ。この国の劣等種に規律と忠誠を教え込むのは我ら優良種の勤めでもあるんだ。これも神のご意思なのだから従わなくてはならいのだよ。それに神の信徒として教えを疎かにすることはもってのほかだ」

「大佐は・・・失礼、神父様は平気なのですか? いくら聖痕の力が戻ったとはいえ、まだ完全ではないのでしょう。何もそんな状態で力を使わなくでも」

「ふっ、私をだれたと思ってる。心配しなくても大丈夫だ。これはただのリハビリなのだから問題ない。それに日本人イエローモンキーを狩ることは今の私にとって実に心地いいハビリでもあるのだよ」

 笑を浮かべるロメロ神父の瞳が一瞬だけ光ったのを、ミランダは見逃さなかった。

「それにしても、ポーンをさらった連中がどれほどの手練かと期待しましたけど、期待はずれもいいとこだわ。東洋の狼といわれた陰陽師ウィザードの力がどれほのものかと思ったけど、隣の(中国)サル(韓国)サルと変わんないわね。東洋一とうたわれてれも所詮は二級人種世界での話、そもそも私達と比べる方が愚かなことでしたね」

 辺りを見渡すミランダの視界には、爆心地のような光景が広がってたいた。人間の形をしたケシ炭が幾体も横たわり、大量のガレキと所々で燃えている残り火の状況はまさに地獄絵図だった。

「聖アントニウスの加護が戻ったにしろ、日本の陰陽師(魔術士)も堕ちたもんだな。幻獣もまともに相手することができんとは、かつて我々を苦しめた日本のサムライ集団の面影すらない。そう思うと寂しいものだな」

 倒れた篝火かがりびから風で火の粉が巻き上がる。それはまるで足元に倒れる人間たちの魂が天に昇っていくような光景だった。ここは奥多摩の某所にある山寺『陰徳寺』だ。五行法印局が管理する密教寺の一つで関東連合全域に展開した結界柱のひとつでもあった。

 この結界がある為にロメロ神父と部下のミランダ達は日本連邦内で魔術ちからを発動させる事が出来なった。だが協力者の助力によって一時的に力を使う事ができるようなったことで、手始めに自分たちの力を封印している都市結界の一つを潰してしまうことで、局地的ではあるが魔術ちからを発動させる事ができるようなった。

 魔術ちからを開放する事ができた北米幻魔道士団《黒鉄の赤い十字架》によって、500年の歴史を保つ寺は焼け落ち僧兵たちの死体の山が築かれていた。

「それにしてもよろしかったのですが、勝手に『ロンバルディアの聖釘せいてい』の場所を教えたりして。本国にしれたりでもした大変な事になりますよ」

「心配するな。教えた所で誰も手出しはできんよ。それに本国に知られたとしても決定的な証拠がない限りは何もできんよ。疑わしきは罰せずだ」

「責任者であるロメロ神父がそうおっしゃるなら、私はそれに従います。ですが、本当にこんな所に『クルージュの奇跡』はいるのでしょうか? 私にはとても信じられません」

「やれやれ、それを確かめるたまにワザワザこうして来たんだろう。それをいきなり幻獣神の『羽鳳凰フィニカス』を召喚するからこんな結果になってしまったんだろう。もう少し自重しろ、これじゃ痛め付ける楽しみがないではないか、自らの巡業に少しの楽しみを持たなくては、人生にメリハリを保てなくなるぞ」

「そうですね。今後は少し時間を掛けながら命を刻んでいきます。私もこのサル共に楽しみを持って接していきます」

「よろしい。それでこそ神の子だ。エイメン!!」

 ロメロ神父とミランダは同時に胸で十字をきった。

「それはそうと神父様。これはどうしましょうか?」

「ううん」

 ミランダの足元に男が一人倒れていた。うつ伏せた男は目立った外傷はなくただ気を失っているようだ。

「仰向けにしろ、ミランダ」

 男を右足でひっくり返えした。見るからに中年オヤジだったが、スーツを着ているため僧兵でないのは確かなようだ。

「何者でしょうか? コイツ等の仲間でしょうか、だとしら早速楽しみながら殺しすとしましょう」

「待て、待て」

 ロメロ神父が軽く指を弾くと光の球体が出現し男の顔を明るく照らした。そこにいたのは平松警部補だった。次にロメロ神父が手を伸ばすと、平松の全てのポケットから所持品が飛び出してロメロ神父の手中に収まった。

「この日本人イエローモンキー、連邦警察手帳をもってるくせに陰陽師が使う針や護符マジックペーパーまで持っていやがる。コウモリ見たいなやつだな」

武士ナイト陰陽師ウィザードと言うことは、聖騎士パラディンではないでしょうか? だとするなら我々の相手は五行法印局ペンタグラムの他に、治安当局も相手になるわけですね。ふっふふふ、これはちょっとした戦争になるでしょうね」

 含み笑いを見せるミランダの頭の中で、戦術シュミレートが行われていく。都市殲滅用の戦獣を市街地で投入した場合における戦死者の数は大まかに計算しても軽く200万は超える。それによって殺処分できる民間人の数はその倍になるだろう。

 そう考えただけでミランダの胸は高鳴り、感情がたかぶる。

「落ち着けミランダ。そう結論を急ぐな。頭の回転が速いのはいい事だが、先入観を持って考えると結果が偏ってしまうぞ。まずは多角的視点で物事を見ることが重要だ」

「多角的視点よりも、今私達の目の前にある証拠が結果を示しています。ここは先手を打っておくべきではないでしょうか? 早速本国に連絡して『ヴォルフリューゲル聖獣旅団』の派兵を―」

「ミランダ!! 忘れたのか、我々の目的は『クルージュの奇跡』を回収する事だ。開戦の狼煙のろしを上げることではないぞ。無用な戦闘は避けるようジャネック枢機卿からキツく言われている」

「…申し訳ありません。少し度が過ぎました、以後気をつけます」

「少し火照ってるんじゃないのか、例のホムンクルスを倒した男が気になってるんじゃないのか?」

「ホーンの話では『リョウ』とか言う名前でした。まだ子供のようでしたが、ミハイが倒されるとは予想外でした。あの強さ気になるところです」

「……りょう、…りょうだと……」

 それまで気を失っていた平松が突然口を開いた。

「おっ、お前らは…あいつの…仲間か…過去の無い男…イタコから、クルージュを…守るもの…、お前らも、その仲間か…」

 平松の言葉を聞いた二人が顔を見合わせている間、平松は再び意識を失った。

 ミランダが襟元を掴み上げると、長い金髪を振り乱しまくしし立てるように追求し始めるが、平松の意識は戻らなかった。

 しばらくの間ミランダの様子を眺めていたロメロ神父だったが、平松の手帳をペラペラめくり始めていた。だが、すぐにあるページで手が止まった。

「よせミランダ!! 落ち着け!!」

「しかし、やっと手掛かりに繋がりそうな状況だというのに、落ち着いてなどいられません」

「そうじゃない、見つけたぞ」

「何をですか?」

 ロメロ神父が見つけた手帳の内容には、『月宮亮(亜民)被疑者濃厚重要参考人 出生不明。本日17時頃よりデータ検索できなくなる。住居施設は『たんぽぽ』家族周囲、設楽ルミ施設長、蒼崎玲子主任兼管理者、星村マナ(亜民)風間楓(亜民)神山彩音(亜民)槇村葵(亜民?)』と書かれていた。

「あの電話の主が言ってた名前だ。見つけたぞ!! これが『クルージュの奇跡』だ。見つけたぞ、やっと見つけぞ。兵を集めろ、集められるだけでいい。これより我らは『奇跡』の奪還に入るぞ!!」


 真夜中を過ぎたたんぽぽで寝ていた亮は、ハッと目を覚ました。網戸から吹き込む風と一緒に差し込まれる月明かりが部屋を薄く照らしていた。

 亮の視界に入ってきたのは見慣れた自分の天井ではなく、木目模様の天井だった。一瞬自分がどこにいるのだろうと思ったが、直ぐに理解した。

 神社で落ち着いたマナと一緒に帰った後、みんなで一緒に夕食をすませてから蒼崎先生と少し話をした。その後でゆっくり風呂に入って床につこうとした時に、自分のベットをマナと葵の二人に占領されていたのを思い出した。自分の寝床を占領された亮は、仕方なく1階の和室で寝ることにしたのだった。

「そうだった…ふっ、まったくあいつらはホントにどうしようもないんだら」

 再び眠りにつこうと目を閉じるが、しばらくするとまた目を開けた。決して涼しいとまではいかないが、夏の湿気を帯びた風が部屋を循環してくれるおかげで寝苦しい夜とまではいかない筈なのだが、何故か亮は寝付けなかった。

 やがて、言いようのない圧迫感と不安が亮の胸の内から込み上げてくると、額に汗を浮かべ息が荒くなってきた。

「どいうしたんだよ。クソッ、ハアッ、ハアッ、一体どうしたって言うんだよ」

 亮が言い知れる不安に襲われているさなか、部屋の窓辺の向こうから見える1本杉の大木に人影が一つ見えた。苦しそうに胸を押さえ込む亮の姿を見つめる影に月光が差込むと、そこに月宮薫の姿が現れた。傍らには薄くぼんやりと見える邪虎の姿もある。

 薫は何をするわけでもなく、ただ亮を眺めていた。無表情のまま赤く光る2つの瞳で真っ直ぐ亮の姿を捉えていた。





 





皆さんこんにちは、朏天仁です。昨日更新予定でしたが、遅れてしまい申し訳ございません。本当なら今回番外編を載せる予定でしたが、急遽変更致しました。今回の話から展開が急変し、このまま最後まで駆け抜けようと思います。少し休憩はいれると思います(^_^;)

それで次回でお会いしましょう。ここまで読んで下さってありがとうございますm(__)m

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