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守るべきもの

「それで、どうするつもりだ?」

 亮は殺気立たせながら、瞳に映り込むボイスを睨みつけていた。

「どうした? いつまでそこに突っ立てる。そんなに睨みつけてないで早くこっちに来いよ」

 マナの身体を借りて話すボイスは、挑発するように指を動かした。

 亮は今にも飛びかかって行きたい衝動を一瞬だけ抑え、瞬時に計画プランを構成していく。マナの身体を操っている以上は、物理攻撃は無理だ。下手したらマナを殺してしてしまう、それなら作戦は2つ。

 まず一つは、マナの身体からボイスの術を切り離せばいい。だが無理に引き離せばマナの精神に影響が出てしまう危険がある。

 もう一つは、ボイス本人を見つける事だ。術は術士から離れれば離れるほど力が弱まる。だからこの近くにいる事は間違いない。どこにいるのかさえ分かればあとは簡単だ。問題はそれをそこを特定するだけの時間が無いことだ。

 どっちにしろマナの身体を人質にされいる以上、手が出せない事をボイスは知っている。イチかバチか亮は動いた。かなりリスキーだが、マナの首に巻きついてる御札を剥がす事を選択した。

 亮の指先がマナの首元に触れる瞬間、脳天から電流のような激痛が駆け抜けると、悲鳴さえ上げられず横に倒れた。

「それがお前の弱点だよ」

「・・・何っ!? どっ、どう言う・・・意味だ?」

「やっぱりまだ弱いな。少し考えればわかったはずだ、自分が既に結界内に囚われている事にな。激情にかられて自分を見失ったただのバカめ。お前それでも『桜の獅子の子供たち』の生き残りか? そのみっともなさに、お前の『夜叉蛇』が泣いてるぞ。 恥をしれ!!」

「うるせぇ!! 面と向かって話もできねぇ奴が、偉そうに説教たれてんじゃねぇ!!」

 虚勢を張り上げなおも立ち上がろうとするが、さっきより強力な痛みが全身を駆け巡った。

「ぐぎいぃぃぃ!!」

「吠えるな、餓鬼めぇ!! それと大人しく鬼門を閉じないとバラバラになるぞ。下を見てみろ」

 ボイスの指先が地面を指す。そこには薄く小さな鱗のようなものが地面を波打っていた。凝らして見れば神社内の地面を巨大な一匹の大蛇が泳いでいる。

「この二柱神社は鬼門を相殺する二つの気脈が集まる場所だ。そこに水蛇みずちおろくくりのもりにした『三衛括さんえいくくりの陣』だ。そういえば2年前も括られたそうだな、どうだ苦しいか? 同じ括りの術に苦しめられるのは」

「テメェー、一体・・・」

 体をわずかに動かしただけでも、内側から何枚ものカミソリでジワジワ切り裂かれる感覚に体が襲れる。苦悶に顔を歪める亮にとって、精一杯の虚勢を出すのがやっとだった。

 なんとか歯を食いしばり耐えているが、この『三衛括さんえいくくりの陣』は着実に亮の体をむしばみ始めていた。

「鬼門を閉じろ。死にたいのか?」

「ハアッ、ハアッ、そうかよ。俺にそんな脅しが通じると思ってんのか? おめでたい奴だな」

「ほう、死にたいようだな。そうか、そうか。なら早く死ね!! ただし、お前が死んだらこの娘も一緒に死ぬぞ。それでいいのか?」

 亮が血走った目で睨みつける。

「マナを殺すきか・・・テメー・・・」

「誰が殺すと言った、死ぬと言ったんだ。身体を間借りしているとは言え、若干の意識混濁はあるんだよ。この娘はお前が死んだらここで死ぬ気だ。それでもいいのか?」

「ぐぅっ」

「いいかげに頭を冷やよ。話が終わったらすぐに返してやる。それにもう時間が残り少ないぞ、このまま時間が掛かればどんどんこの娘に負担が掛かっていくぞ。それでもいいか?」

「ぐっ」

 亮は地面の土を握り締めた。それは己に弱さと悔しさの表れでもあった。そして自分の命の他にマナの命が一緒になっている。マナを助けたい気持ちと失いたくない気持ちが相成って、亮の琥珀色の瞳が徐々に黒色に戻っていった。同時にさっきまで襲われていた激痛も和らいでいく。

「それでいい、懸命な判断だ。この娘も安心してるぞ、それに今お前を亡くす訳にはいかないからな」

「いつか、お前を、お前にこの代償を払ってもらう」

「早速だけど前にも話したと思うが、お前に前任者の変わりをしてもらいた」

「・・・人の話聞けよ」

「時間がないんだ。続けるぞ、前任者の任務はある施設に幽閉されている対象者を拉致し、こちら側に引き渡すという事だった。だが前任者は対象者を拉致した所までは成功したが、何を思ったかこちら側に引き渡す途中で裏切り敵の手に落ちた。予想外だったよ、だが運がいいことに対象者はまだ敵の手に落ちていない。むしろある意味では安全な場所で保護されている」

「なら、それでいいじゃねぇかよ。何でわざわざ俺に頼むんだ? 俺には関係ない話だろうが」

 いくらか体が動くようなってきた亮はゆっくりと立ちがり、膝をパタパタと叩いた。

「こっちの意思ではない。前任者がお前を選んだんだ」

「・・・どういう・・・意味だ?」

「残念なことに、対象者を保護してる人間達は何も知らされていない、むしろ保護してる事さえ気づいていないんだよ。前任者の計画には時間がなかった、拉致して万が一不測の事態が起こった場合にと、対象者を亜民に偽装して信頼のおける人物の元に預ける。彼はそう言っていた」

 嫌な予感と一緒に、亮の脳裏にあの子の顔が浮かんだ。まさかと思って振り払っても浮かんできてしまう。

「嘘だ・・・そんなはずない・・・」

「亜民に偽装したのはいい手だった。おかげで他の外敵からは目をそらせる事ができたし、テストの時間もできた」

「テスト? だと」

「そうだよ。最初は不良グループを使って間接的に始めさせてもらった。おまけの銃を渡したおかげで、あの時お前がまだ鬼門を開けることができると確認した」

「おい、ちょっと待て。それってー」

「そうだよ。今話してんるのはこの前起こったバス亭の襲撃だ。ひとり余計な亜民が間に入ってきて失敗したと思ったが、予想以上に上手くいってくれた」

「テメェー!!」

 亮はボイスの首に掴みかかろうと手を伸ばしたが、すぐ手前で停めた。どんなに殺意も持ったとしても、今ボイスの身体はマナの身体なのだから。

「テメェーのせいで、みっちゃんが!!」

「名前などどうでもいいだろう。こっちには崇高な任務があったんだ」

「何が任務だ!! そんなもんクソ食らえだ!! テメェーのせいでみっちゃんはまだベットの上だ。みっちゃんの妹や、その家族がどうな思いをしたと思ってやがる。みっちゃんは俺やマナ、それにたんぽぽ皆の友達だったんだぞ、それをテメェーは!!」

「それが何だ。『生まれながらの(人身御供で産み落され)大量殺戮鬼兵団(た桜の獅子の子供たち)』が今更善人ツラしてんじゃねぇよ。お前自身はどうなんだ、自分自身の過去から目を背けといてこっちを人でなしのように罵しる事ができるなんて、たいしたご身分だな。お前が殺してきた人間の中に子供はいなかったなんて言うなよな。自分が何者だったかを思い出してみろよ、散々戦場で血と屍の山を求めた殺人鬼が今頃になって愛だの平和だのと口にするのか? 笑わせんじゃねぇよ、お前が今更改心したからと言って過去からは逃げられないんだよ」

「テメェーは・・・一体何者なんだ?」

「どうだ。違うなら違うと言ってみろ。ほら、さっきの威勢はどうしたんだ。反論はどうした? 正論を言われて何も言い返せないか」

 正直、亮は何も言い返せなかった。自分がこれまで生きてきた過去は、ボイスの言う通りただの殺人鬼だった。声を上げて、それは違うと言う事もできないまま、亮は黙って奥歯を噛み締める事しか出来なかった。

「そして次のテストはお前がちゃんと戦えるかどうかを見させてもらった。前任者のあのアパートにいた男を餌にした結果は申し分無かった。ただ噛ませ犬だった道士との力の差があり過ぎたのが反省点だったな」

「あれはその為のものだったのか、じゃあその後の変な集団や、ホムンクロスの襲撃もテストだったんだな」

「あれは違う。あれはお前の叔父である月宮誠が仕組んだ事だ。こっちはそれを利用しただけさ」

「叔父さんが? 何で?」

「さあな、お前を戻すためだろう。獅子は獅子の世界に帰る。今のお前の存在は歪そのものなんだろう」

「ふざけるな!! 人を駒みたいに使いやがって、何だと思ってやがるんだ!!」

「何度も言わせるなよ。実際ヒトはただの駒で、お前はただの兵隊蟻で間違いないだろうが」

「この・・・ッ」

「おい、いい加減にしとけよな。ここでああだ、こうだと、遊んでる時間はないんだよ。前任者の任務を引き継いでもうらう。対象者の存在はお前も薄々気付いているだろう」

「まさかとは思うが、ひょうとしてー」

「そうだよ。お前の所にいる『槇村葵』だよ」

「どうして・・・何で葵なんだ・・・葵が何をしたんだ」

 薄々は感づいていたが、実際に言われてみても困惑を隠せなかった。

「何をしたではない、これからするんだよ。ちなみに本名ではないぞ。どんなに探してもあの子の名前は存在しなかった、唯一識別番号として施設内では『L-211』と登録されていたそうだ。そして作戦中のコードネームーは『アマテラス』だ。おまけに教えてやるが前任者のコードネームは『タジカラオ』だ」

「ハッハッ、『アマテラス』と『タジカラオ』か、洒落のつもりならよくできたもんだな」

「んっ、どう言う意味だ?」

 ボイスは首を傾げながら訪ねてきた。以外にもボイスはこの意味を知らないようだ。

「お前古事記を知らないのか? アマテラスは古事記に登場する高天原たかあまはらの主神で、日の神様なんだよ。弟のスサノオウにイジメられたアマテラスが天の岩屋戸いわやとに籠ってしまったのを、アメノタジカラオノカミが岩屋戸を開けてアマテラスを外に出したんだ」

「そういう意味だったのか? 変な名前だと思っていたけど、意味がわかるといいもんだな」

 ボイスは関心したように頷いた。

「そうれで、さっきの続きだけど葵が何をしたんだ。どうして狙われる? 目的は一体何だ?」

「それは関係ないだろうっと言えば済む話なのだが、本当はお前に前任者の変わりではなく槇村葵を保護しながらこちら側に引き渡さないでもらいたい」

「はあぁ!? どういう意味だよそれ。守っといてそっちに渡すなって、一体どう言う事だよ!?」

「こっち側も一枚岩じゃないんだよ。特に武闘派連中のケツに火が付き始めてしまって火消しが大変なんだ。槇村葵が予想外過ぎて計画自体が狂い始めている、ここいらで軌道修正する必要があるから少し時間が掛かるんだよ。その為お前の所で保護してもらいたい。それだけだよ」

「その軌道修正が終わったら、葵をどうする?」

「大人しく引き渡せって言ったらどうする? 大人しく引き渡すか?」

「それは葵次第だ。葵が行くのを嫌がったら、俺は葵を守る」

「他の同居人達がどうなってもか?」

「マナ達も守る!!」

 亮の決意した言葉を聞いて、ボイスが笑い出した。予想外の返答にしばらく失笑が止まらなかった。

「ハハハっ、なあー。ひとつ聞いていいか? どうしてお前はそんなにあの亜民達を守ろうとするんだ? お前にしてみたら赤の他人だろう、そうだ。お前がその理由を正直に教えたら葵の処遇を考えてやる。お前が亜民達《この娘ら》をどうして守ろうとするのか、どうしてそんな頑なに自分を否定するのか知りたいな」

 亮は右手の拳で自分の心臓を叩くと惜しげもなく言い放った。

「俺の魂がこう言ってからだ。マナ達と一緒に見れる明日が、俺の夢なんだ。それを奪う奴は例外なくブチ殺す!! ってな。それが答えだよ」

「・・・そうか、それが答えか」

 ボイスは少し思案顔のまま俯いた。よく見ると、マナに額に無数の汗が流れ落ち息遣いも荒くなってきている。そろそろ限界なんだろう。

「随分と懐かしい言葉セリフを聞かせてもらったよ。だがそろそろこの娘の身体が限界だ。一旦終わりにする。また近い内にこちらから連絡するから、あの携帯は常に持っておけよ」

「わかってる。だが今度マナの身体を利用したなら、こっちも手を考えて対応させてもうからな」

「心配するな、そっちがちゃんと電話にでれば問題ない事だ」

 ボイスが首に巻いている御札を剥がすと、緑に燃え落ちた。

「・・・一緒に・・・見える明日か・・・やっぱりそっくりだな・・・島分隊長・・・の忘れ形見・・・か・・・」

 マナの体から力が抜け落ちながら倒れ始めると、咄嗟に出した亮の手に救われそのまま亮の体に寄りかかった。

「マナっ!! マナっ!! しっかりしろ!! 大丈夫かオイっ!! マナ、マナ!!」

 亮の問いかけにゆっくりと目を開き、意識を取り戻した。

「・・・りょっ、亮・・・ぃ」

 マナの瞳に涙がにじみ始めた。

「亮()ぃ、うっぐぅ、マナ・・・ひっぐぅ、亮兄ぃに、何か言わなきゃいけないかったのに・・・ひっぐぅ、ひっっぐぅ、どうして・・・なんで・・・ひっぐぅ、こんなに悲しいの? 亮兄ぃ、亮兄ぃ、うっぐぅ・・・」

 溢れ出す涙を何度も袖で拭い続けるマナの姿に、亮はマナの頭を優しく撫で続ける。

「亮()ぃ、亮()ぃ!! ひっぐっ、うっぐぅ、はあああぁあぁあぁあぁ、あ゛あ゛あ゛ぁぁぁ」

 マナの中で感情が一気に溢れ出だす。亮が今まで見たことがない程の泣き声を上げた。マナ自身でも押し寄せる感情にどうしていいかの分からず、ただ泣き続ける事しかできなかった。

 マナの幼気いたいけな姿が、亮の胸の奥をギョッと締め付ける。たまらず亮は自分の胸にマナの顔を抱き寄せると、胸の奥で苦しくて辛い感情と一緒に、とても愛おしい感情が生まれた。

「亮()ぃぃぃ!! 亮()ぃぃぃ!!」

 さらに声が上がる。

 自分の胸に顔をうずめて泣き続けるマナの気持ちを察しても、かけて上げる言葉が見つからない。歯がゆい思いのまま、亮はずっと抱きしめて上げることしたできなかった。





こんにちは、朏天仁です。120年に一度の大雪に襲われ、家に缶詰状態で書き続けてましたが、いかんせん執筆が遅いのが悩みの種です(ーー;)

投稿も土曜日に更新してたのに、連続して日曜にずれ込んでしまいした。反省すべき所です。

さて、次回は22日投稿を目指して行きたいと思います。

最後まで読んで下さった読者の皆様、本当にありがとうございますm(__)m

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