スティグマ~たんぽぽの子供たち~ 番外編その②開戦前夜
西暦2019年12月23日午後23時、東京の防衛省付近にあるビルの一室では、薄明かりの下で軍服や背広を来た集団が集まり会議を開いていた。
「やはり議長のおっしゃった通り、韓国海軍の一部が現在尖閣諸島周辺に艦隊を集結しているとう言う情報正しかったです。先程外務省から海上演習を行なっていると通達がありました」
「今更か、既に6時間前に官邸に報告はしたほずだ。予想通り韓国の狙いは例の日中中間線に設置した偽装海中音波探知機の展開状況か、海自のマヌケめ、いくら特定機密法で固めても、ダダ漏れじゃねぇかよ!」
張り詰めた緊張感に支配された室内は、今にも紛糾しそうな言葉が飛び交っている。天井から照らされる必要最低限の光量は、彼らの服までしか照らせなかった。否、そうではなく部屋に20人弱集まっている全員が黒いフェイスマスクを被り顔がわからないようにしているのだ。唯一確認できるのは2つの瞳だけだ。
「まったく・・・たいへん耳が痛いよ。だが裏で韓国を焚きつけているのは恐らく支那だ。連中の耳を甘く見ていた結果がこれだ。夏の東南アジア諸国連合開催中に、支那の梠外務大臣が山岸中日大使に再三抗議していた時からもっと警戒するべきだったんだ。これでは例の計画までもが―」
「よせ! もう済んだことだ。あとは政治が解決する。幸か不幸か連中の目はいま尖閣周辺に向いている。例の計画までは露見していないだろう。これまで以上に口を閉じて行う必要がある」
「それはそうと、韓国は本当にグローバルリズムの優等生だな。外資に蹂躙される結末がこれだから。あの国は経済破綻してから国際通貨基金に自国への介入を許した時点でこうなるとわかっていたが、これでアメリカの狙いに確信が持てた。今度は日本の真水の利権を狙ってやがる。こちらもこれ以上黙っているわけにはいかんな」
「ああ、やはり環太平洋パートナーシップの加盟に慎重なっていてよかった。グローバルリズムの成れの果てが欧州で、関税撤廃の成れの果てが韓国だからな。良いお手本がいて助かるよ、まったく。アメリカも選挙が終わたから、今後はTPPの失敗を取り返そうと躍起になってやがるのさ」
背広を来た二人の男が声を弾ませながら指先を大げさに動かした。マスクで表情はかわらないが、誰が見てもマスクの裏側でニヤついている事が想像できた。
「二人共話が脱線しているぞ。今日こうして集まったの単に経済討論をしたかった訳ではなかろう。そんなのは財務省の新古典派経済学主義者を相手にしてればいい。今回集まったのは、例の計画に関して議長から話があるため集まったのだ。皆、静粛に!」
その言葉で、一斉に奥の人物に目を向けた。全員がマスクで顔を隠しいる中で、唯一奥に座り腕組をしている人物だけがグリーンのベレー帽を被っている。そして身体からは近寄りがたいオーラが醸し出されていた。間違いなくこの人物が議長だろう。
「各々言いたいことがあるだろうが、しばし私の話を聞いてもらいたい」
低く、野太い声で議長が話はじめた。さっきまでの張り詰めていた空気が一変し、全員が議長のこ言葉を聞き漏らさない様に聞き耳を立てている。
「諸君たちも気づいているだろうが、昨今、資源国家となったな日本に対して外資系企業を隠れ蓑とした一部の国が、我が領土を侵食し始めている。だが、そんなものは予想どうりだ。問題は支那にいる協力者からの情報で、向こうの軍部が日本進行に本腰を入れてきということだ」
「とういうことは議長、ついに」
「そうだ。早々に小規模な軍事衝突が起こるだろう。もう避けられん」
「クソ!! あいつら、日本の政府開発援助の援助で経済成長の恩賞を貰ってをきながら、自分達が犯した経済破綻と環境汚染のツケを日本で清算しようと企てやがって。豚のように貪欲な大陸マフィアめ!!」
若い軍人が声を荒らげるが、誰も止めようとせず頷くだけだった。
「おい、若造。議長の話を止めるなよ」
議長の隣にいる参謀らしき男が一言釘をさすと、いわれた軍人は静かに頭を下げる。
「皆、散々支那に煮え湯を飲まされてきのは知っている。だがその感情は開戦後に存分に発散してくれ。そう遠くはないはずだ。だが、それまでに何としても例の計画を実行しなくてはならなくなった。皆をここに読んだのはその為だ」
議長の強い口調に一瞬間が生まれると、皆唾を飲んだ。
「この計画に、はぐれ陰陽道の一派を取り込んだ。既に向こう側に忍野一尉を派遣し調整中だ」
「議長…それは…」
「わかっている。だがもう時間がない、文科省には話を通した。少々強引だったが、陰陽師なら我々よりも『あの死骸』の扱いには詳しいだろう。京都の陰陽師達の参戦が期待できない以上、対外魔術に対抗できる兵力は必須なのだ。ましてや大陸ではもう一緒即発の状態だ。いつ戦争が始まってもおかしくない状況下で、戦力確保は急務。それに、これ以上国のために志願した隊員たちをあんな粗末な実験で無駄死にさせるわけにはいかんのだ。我々の科学力に限度がある以上それを補う別の力が必要なのだ」
「しかし、議長。なのもあの…いえ…問題が一つあります。『あの死骸』を扱わせるのに、京都の陰陽師たちに話を通さずにして大丈夫でしょうか?」
「だからこそ、極秘でおこなうのだよ。それに300年闇に隠れたあの陰陽集団だからこそ、自分たちの力が誇示できる場所を欲している。彼らならアレについて何か策を持っているだろう、今はそれに期待するしかない」
フェイスマスクから見える議長の瞳には、確固たる信念が宿っていた。全員がそれを感じとりそれ以上言葉を発する者はいなかった。
―西暦2019年12月24日、埼玉県奥秩父某山中にて―
月明かりに照らされた川岸で、一人横たわる男がいる。足と肩に矢が刺さり、左胸には致命傷と言える白矢が刺さっていた。この男、島義弘は先輩自衛官のシゴキによってここ奥秩父の某所にて、たた一人で3日間のサバイバル訓練を強制されていた。
訓練開始後すぐに、轍と鳥居を発見し。その時から島の周りで異変が起こりはじめた。突然の方向感覚の消失、時間感覚の失認に加え謎の襲撃、理由も分からず山中を逃げ惑い満身創痍の状態で川岸までたどり着くと、そこで弓を持った少女に左胸を射抜かれた。
射抜いた少女の名は月宮巴と言う。長い白髪に黒い弓道着に身を包んだ巴は、島の呼吸が止まるのを確認すると島の方へ近づいていった。
そばまで来ると一度手を合わせ黙とうした。そして胸に刺さった矢を抜こうと、島の身体に足を置いた瞬間。
「死ぬのは嫌だぁぁぁぁっ!!」
島が奇声を上げながら巴の足首を掴み上げる。
「へっ!? あっ、ちょっ」
突然の出来事に驚く巴は、バランスを保てつずに尻餅をついた。すぐに起き上ろうとするが、片足を持たれ地に伏せられ状態から立ち上がるのは困難を極める。
身動きが取れずにいると、島の腕が巴の両手を掴みながら押し倒す。
無我夢中に覆いかぶさった島だったが、予想以上に巴の腕力が強く必死に押さえつけるだけで精一杯だった。
「このガキぃ!! アブネェーだろうがぁ!! 何すんだまったく、もう少しで死ぬところだったぞ、まったく。殺人未遂だぞこの野郎ぉ!!」
「ぐっ、離せ。この無礼者が!! そんな汚れた手で私の体に触れるとはこの恥知らずめが!!」
「うるせぇー!! なんで俺を殺そうとするんだよ!!」
「当然よ、お前は別天津神の鳥居を犯し、里の外門を開いたんだ。里の掟で殺されるのは当然だ」
「うるせぇー!! この野郎ぉ!! 俺を殺そうとしたやがって。いくら子供でもやっていい事と悪い事があるぞ」
「だまれ!! お前、いつまで私の上に乗ってるつもり。いい加減おりなさいよ!!」
「おい!! 大人しくしろ。悪いがこのまま警察につき出すからな。ほら、一緒に来い!!」
「だから、私に触るなぁ!!」
巴の膝が島の股間を打ち上げる。
「ぐぅぎぃ!?」
唸り声を上げ掴んでいた手を放すと、その隙に巴が島の左胸に刺さっている矢を更に深く押し込もうとした。
「んぅ?」
何故か矢が深く入らない。何か硬いものにでも当たっているのか、いくら押しても矢尻が進んでいかなかった。
「このガキぃいい加減にしろ!!」
一番痛い急所を蹴られ、悶絶を耐えながら沸き立つ激高心に理性が止まる。そして島がついに巴の顔を掴むと、渾身の力を込めた頭突きを額に食らわせた。
鈍い音が川岸に響くと、島の額が裂け血が顔を滴る。襲われる激痛にその場で絶叫を上げ膝を着く。
「ぐおおおおおおぉぉぉ!! なんつー石頭だぁテメーぇ!!」
驚いたことに巴の額は無傷だった。
「阿呆ね、護符で守られてるのに、そんなことするからよ」
両手で額を押さえている島を見下すように眺めると、巴は左胸に刺さった白矢を無造作に引き抜いた。
先ほどと違って簡単に抜けると、今度は右肩を貫通している矢を掴むと左右に大きく動かしてみせる。貫通していた事で運良く止血していたが、動かされたことで傷口が開き血が滲みだす。
「うぎぎぎぎぃぃ、いっ痛てぃ、ヤメロこの野郎!!」
「私の体に触ったバツよ、その愚業をその身に刻みなさい」
「じっ自衛官にこんな事して、タダで済むと思うなよ」
「あなたこそ、最初は可哀想と思ったけどだんだん頭にきたわ。それに水月矢を心臓に受けて生きてるなんて、あなたの方こそ何者なのよ」
「こっこのアマぁ、いい加減にしろ!!」
島が手を伸ばし襟元を掴みかかった時、足場の悪さに大きく身を崩した。偶然にも横えりに掛けてた指を滑らせると、巴の襟元が大きく開き、白く形のよい2つの乳房が眼前に表れる。
「あっ……」
「へぇ!? ひっ、ひゃああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!!!!!!」
耳を塞ぎたくなるような甲高い悲鳴がこだますると、巴は表になった自分の胸を手で隠しその場でしゃがみこんだ。今までの豪気な態度が、一変して恥じらう乙女に変わってしまった。
そして、完全に戦意消失したまま赤面の顔に鋭い視線で島を睨みつける。
「このケダモノめぇ!!」
目に涙を浮かべた巴を見て、島の心中は激しく動揺していた。
「ああっ、ゴメン。ほんとゴメン…ワザとじゃないんだ、決してワザとやったワケじゃないんだ。ほんっとごめんなさい…んっ? ちょっと待て、何で謝らななくっちゃいけんだ俺?」
「鎮守を仰せつかった私に、このな辱めを受けさせるとは…この醜夫め!!」
「ちょ、ちょっと待ってくれ、不可抗力だ。それに、それにだ。そもそもお前が俺を殺そうとするからだろうが、違うか?」
「弁解無用!!」
怒り心頭のまま、巴の掌底が島の顎に打ち込まれると、後ろに倒れ後頭部を石にぶつけた。
「がはっ!!」
倒れた島に対して側にあったボーリング球程の岩を持ち上げると、赤面に青スジを立てながら言い放った。
「コロスっ!! そして記憶を失え!!」
「わあぁ、よせっ!!」
投げ落とされた岩を間一髪のところで交わす。今までで一番身の危険を感じた島は残った力を振り絞ってそこから逃げ出した。しかし、射抜かれた右肩と左脚に加え足場の悪い川岸という悪循環の場所ではすぐにバランスを崩して転倒してしまった。
急いで起き上がり後ろを振り返ると、巴が隠し持っていた小柄の刃が再び亮の左胸を突き刺す。たが、勢い余って二人一緒に倒れこむ。島の体に馬乗りになったまま巴の手が震えていた。
「何で、何で刺さらないのよ!?」
「やっやめろ…」
すでに満身創痍で精根尽き果てた島には、巴の手を掴むだけで精一杯だった。上に乗った巴を振り払う体力は無く、このまま殺さるのは時間の問題だ。
「心臓が無理なら、首を落とす!!」
島の手を振り払い刃を喉元に押し付けた。
さすがの島も今度こそはおしまいだと確信すると、ギュッと目を瞑った。これまで自分が生まれてから過ごしてきた出来事が走馬灯のように頭の中を巡りながら、自分がやり残した事や、やってみたかった事も一緒に浮かび上がってくる。
最後にもう一度両親に会いたかったと思った時、様子が変な事に気がついた。恐る恐る目を開けると、誰かが巴の手首を持ち、動きを止めていた。
「落ち着け巴。落ち着いてそれをしまうんだ」
「兄さん、放してよ。この者は生かしておけないわ」
「兄として言ってるんじゃない、当主として命令してる。巴、放すんだ。今すぐ」
そこに現れたのは、巴と同じ黒い道着を着た月宮誠だった。短髪に堀が深い顔立ちのに流れるような細い切れ目、そして骨格のよい体型をしていた。
「どう言うつもりですか? 掟を破るおつもりですか?」
納得しない様子のまま小柄をしまった巴が訪ねる。
「聞くな、妹なら兄の意見に従え」
「なら、月宮家鎮守である月宮巴として当主である月宮誠氏にお尋ねします。護士法度の一つ『私的な歪曲を許さず、常に誠意を持って説明するべし』ですよ」
「…巴、落ち着いて聞くんだ。現時点でこの里は外界との交流が一部解禁された。その一部とはその男だ」
誠の指先が横たわる島に向ける。
「なっ!? そんな…」
驚く巴を尻目に誠はさらに言葉を続けた。
「これでよろしんでしょう。忍野一尉殿」
「ええ、感謝します。月宮誠当主様。本当に助かりました。我々としても身内が殺されたとあっては話がまとまるものも、まとまらなくなりますからね。議長に変わって感謝します」
誠の後ろから島と同じ迷彩服を着て表れた忍野一尉と言うこの男は、島より身体が細くメガネを掛けて笑っているが、その笑には冷気しか漂っていなかった。
忍野はメガネを指でお仕上げながら呆然とこちらを見つめる島を眺めてた。そして小さく囁いた。
「さて、どう報告したものか…」
西暦2019年12月24日、あと数分後に日本の『第一次極東戦争』開戦のきっかけとなる『欧州・アラブ戦争』が開戦するとは、この時だれも考えていなかった。
みなさん、こんにちは。朏天仁です。今回の話いかがでしたでしょうか? 今回は番外編を載せてみました。本当はこの話はもう少し経ってから載せようと考えていのですが、作者の都合上今回載せていただきました。(๑≧౪≦)てへぺろ
さて、前回は亮の両親が出会った話でしたが、何やらお互い険悪なムードで終わりましたね、この先この二人は一体どうなるのか? 乞うご期待ください。
最後にここまで読んでれました皆さんに感謝を述べさていただきます。本当にありがとうございますm(__)m




