表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/72

神罰烙印

「やる気十分になったとろこで悪いけど、僕はヒステリィー女に構っている暇はないんだよ」

「ちょっとそれは無いんじゃないの。仮にもあんたは私の領域に無断で入っておきながら、私の顔に血に化粧までしてくれちゃんってのに、相手にしないなんてのが通ると思ってるの? いい度胸ね!!」

「そうかい、なら少し遊んであげるよ」

 そう言って白虎の法眼が尻尾を下げると同時に、何かが薫の顔面で弾け後ろによろめいた。

「ぐぅっ!!」

「ほら、もっと遊んでやるよ」

 白虎と薫の距離はおよそ10メール、その間を初期動作も見せず攻撃が入った。薫が油断していたのかと思いきや、さらに数発が同じように顔面で弾けると薫が膝を着いた。間違いなく薫に効いている。

 周りにいる邪虎達は何が起こっているのかわからず困惑したような声を上げている。

「どうだいお嬢ちゃん。楽しめたかい? 僕の貴重な時間を割いて遊んで上げてるんだから、楽しんでもらえないと残念だよ」

「ペッっ、やってくれるじゃなの。いいわね、これくらいじゃないと楽しめないわ。お前たちは下がっておいで、コイツは私の獲物だからね」

 垂れる鼻血を舌なめずりしながら、薫は笑っている。まるでこれからアトラクションに乗り込む子供のように期待感を持った顔で笑ってる。

「私だけもらってたらつまらないから、こっちも行くわね」

「いや、遠慮するよ。僕は与えるのは好きだけど、もらうのはお金と名声以外興味ないから」

「そんな謙遜けんそんしなくてもいいわよ、正直な所はどうでもいいけど」

 薫は右足を引き体を右斜めに向けると、刀を右脇へと降ろして剣先を後ろに下げた。脇構えと言われる構え方だ。更に体を低く落とすと前方へと重心を下げた。

「いくぞ!!」

 勢いよく左足を蹴り弾丸のようなスピードで突進すると、白虎の首元目掛け横一文字に切りつけた。だが、手応えがなかった。

 すぐに振り返ると、視界に平然と白虎が尻を置いて薫を眺めていた。

「遅い、遅い。スピードでこの白虎に挑もうなんて百万年早ぇよ、嬢ちゃん。ちなみに今のセリフは僕が一度言ってみたかっただけ、とくに意味はないから」

「ハッ・・・ハッ・・・ハハハハハ、ハァハァハァ!! ここまで私がおちょくられるなんて・・・ぷっ、そうね。そうでなくっちゃつまらないわ。やっと私の血がたぎってきたわ、おもしろ!! じつにおもしろいわ、あんたには特別に私の技を見せてあげるわ」

 薫の左手に持っていた鞘のこじりと言われる先端部分が20cm程外れ落ちた。そのまま刀を鞘に収めると抜刀術の構えを白虎に向けた。

「次は切るわ」

 再び弾丸のように飛び、切りつけた。

「バカの一つ覚えか、いくら鞘を小さくして勢いを早めても僕にはお前の動きが全部見えるんだよ」

 全行程がスローモーションのように動く世界で、余裕を持て薫の一撃を交わす。だが、横を抜けようとした瞬間、白虎の目には交わしたはずの刃が飛び込んできた。

 砂煙を上げ薫が着地すると、薫が笑っていた。今度はちゃんと手応えがあったからだ。

「どう、気に入ってもらえたかしら? 月鎌流居合体術つきかまりゅういあいたいじゅつ丙一式へいいっしきさざなみ』よ。ドラ猫ちゃん」

「くっ、何で!? 僕はちゃんと交わしたはずなのに・・・なんで・・・」

 白虎の白色体毛に、真紅の線が首筋から左肩まで出来ている。その線がジワリジワリと太くなりながら広がっていく。幸い傷はそれほど深くはなかった。だが、肉体的よりも心理的影響は大きかった。

 確かに白虎は薫の攻撃を交わしたはず。それは間違いない事なのだが、交わしたはずの刃が再び目の前にあらわれた。とても理屈で説明する事ができなかった。

「幻でも見たんじゃないの、ここの存在自体が夢みたいなもんなんだし。でも夢はここまでよ。次はちゃんと首を飛ばすから」

「そうかい、それなら僕の方も手を打つ番だね」

 白虎が右前脚で地面を叩くと、地面が脈打ち動き出した。お互いを囲い込む巨大な円陣が浮かび上がる。

 薫の使う術がわからない以上は下手に詮索するよりは、いっそのこと術自体を封じてしまう他なかった。むしろその方が効果が高い。

「『竜華樹無動封陣りゅうげんじゅむどうふうじん』どんな幻術を使っているか知らないけど、これでお前の術は封じてもらったよ。ちなみにこの封陣は結界でもあるから、そう簡単には出られないよ」

 薫を結界内に閉じ込めた事で少なくとも術と動きの両方を封じる事ができた。あとはタイミングを見計らって倒れている道士を回収すればいい。法眼はもう自分が白虎を使っているのに限界がきている事はわかっていた。時間が経てば経つほど分が悪くなる、だから早急にこの状況を収束させる必要があった。

「さて、そろそろ終わりにしようか。僕も忙しいんだよ」

「ふっ、見ているところが違うんじゃないかしら。陰陽師ってこうも頭が硬いのかしら、そんなんじゃどんな結界を使っても私の技を封じる事なんてできないわよ。正直・・・がっかりだわ。それなら最後にそのガチガチの頭叩き割って上げるわ」

「そうか最後ね、面白い。ならせめて名を聞いておこう。最後までヒステリィー女じゃ僕としては何とも後味が悪い」

「ぷっ、ねぇちょっとこの状況でまだ自分が勝てると思っているの? まあいいわ、その自信に免じて教えてあげる。『月宮薫つきみやかおる』よ。それにあんたさっき私の事女って言ったけど、私・・・男よ」

「へぇ!? 誰が?」

「私よ!!」

「・・・嘘?」

「本当よ!!」

「マジで?」

「そうよ!! 失礼しちゃうわね。正真正銘日本男児よ!!」

「・・・お前のどこが日本男児だ!! 僕は今全身に悪寒と鳥肌が立っちまったよ!! この究極にして最悪なまでに気持ち悪い卑陋ひろうの極みめ!! 恥を知れ恥を!!」

「そこまで拒絶されるなんて始めてよ、あの兄上もそこまで言わなかったわ。でも、まあそこまで言ってくれると生かす理由が消えるわ。父上には何か手土産が必要だと思ったんだけ気が変わったわ」

「悪夢だ・・・悪夢以外の何者でもないな・・・」

 薫の言葉を上の空で聞きながら、一人ブツブツを呟いている。

 そんな事などお構いなしの様子で再び抜刀術の構えを向けると、薫の瞳が琥珀色に変化した。

「さぁ、行くわよ!!」

 構えを崩さす一直線に突進すると、白虎が前ではなく後方へ飛び方陣から出て行った。

「なっ!?」

 虚を突かれた薫は、そのまま法眼が造った『竜華樹無動封陣りゅうげんじゅむどうふうじん』の陣壁に衝突し、青白い火花を散らしながら跳ね返った。

「いたた・・・ちょっとあんたどう言うつもりよ。勝負はどうしたの逃げる気!!」

「勘違いするなよ。僕がいつお前と勝負するなんて言った。少し遊んでやるって言っただけだろう」

「何よそれ。こんな中途半端が許されと思ってんの。私の体傷モノにしておきなならタダで帰れると思ってんの、ちゃんと最後までやりなさいよ!!」

「・・・変だな、何故か不快感が出てくる言い方だな。そうか、お前の存在自体が不快感の塊そのものだからな。大人しくそこにいろ、僕は僕でやる事があるんだから」

 取り残された薫が陣壁を切りつけると、青白い閃光と火花が散る。

「へえーひょっとしてあんた、こんなチンケな結界で私を拘束できるているって、本気で思ってんの」

 今後は切先を地面に突き刺した。軽い衝撃音と一緒に土煙が上がると竜華樹無動封陣りゅうげんじゅむどうふうじんの方陣が消失した。

「ほらね、言ったでしょう。こんな貧弱な結界で私を縛りつけておくなんて無理だよって。さて、続きをしましょうか」

「あ~あ、やっちゃった」

「・・・・・・んっ!? 何よ、これ?」

 方陣の消失と同時に、薫の前で幾つもの青白い小さな球体が出現し上へとゆっくり昇っていく。それを追いながら上空を見上げた薫はそこで言葉を失った。

 そこには大小様々な円魔法陣とそれをつなぐ鎖聖言セントクロスで形成された巨大な多重聖域魔法陣が出来上がっていたからだ。

「・・・・・・まさか、『天界の神罰烙印(スティグドミニオンズ)』・・・なんで陰陽師がバチカン禁書術式が扱えるの・・・」

「ふっ、知りたいか。でも教えて上げないよ。とりあず潰れろよ」

 その言葉を合図に上空の『天界の神罰烙印(スティグドミニオンズ)』が輝き、勢いよく光の粒子が放出された。粒子の濁流が薫の体を飲み込むと轟音と一緒に地響きが発生した。

 全てが一瞬の事で、時間にして一秒もなかっただろう。

 薫が立っていた所はポッカリと大きな穴が出来上がっていた。いや、穴と言うよりは底が見えない巨大な井戸のようだと言ったほうがわかりやすい。

 バチカン禁書術式の中で特一級禁秘術に扱われている『天界の神罰烙印(スティグドミニオンズ)』、中世ヨーロッパで高位悪魔祓い(エクソシスト)の神父達が考案した邪神殺しの秘術だ。特殊な円魔法陣を組み替える事で破壊力を無限に増幅させることができる。事実、近代戦において2つの都市を消滅させた事があり、その未知数なまでの破壊力が危険視され法王みずからが禁書庫に封印させた秘術だ。

 法眼が最初に作成した竜華樹無動封陣りゅうげんじゅむどうふうじんの方陣は、天界の神罰烙印(スティグドミニオンズ)を隠すための偽装フェイクだったのだ。必ず結界が破られると考え、薫の注意を引くために目立つように地面に方陣を敷いたのだ。

「僕とした事が、少し本気出しすぎちゃったかな。まあ~終わりよければいいかな」

 さすがにあの攻撃を交わしとは思えず、チリとして消滅したと確信した法眼はすぐに虫の息の道士の元へと駆け寄った。

「おい、道士大丈夫か?」

「もっ、申し訳・・・ございません・・・ゲホッ・・・村上殿の部下を助ける事が・・・」

 とても話ができる状態ではないが、血を吐きながらも道士は言葉を続けた。

「奴は、何者でしょうか・・・希様の『縛蟻しばりあり』を・・・あんな、ゲホッ・・・短時間で・・・ゴホッ・・・」

「道士もういいから、説明は無事戻ってから聞く。このまま戻るぞ」

 道士の襟元を食え上げると、向こうの奥から邪虎たちが向かってくるのが見えた。

「チッ、遊んでる時間はねぇんだよ。くうぜんてんしょうかん蘇婆訶そわか

 唱え終わると、法眼のすぐ横の空間が歪み大きな渦が生まれた。それが一人分程の大きさまで広がると、その中へと道士を食えたたまま引きずり込んだ。

 邪虎たちが着いた時にはすで白虎も空間の渦も無くなっていた。静寂が訪れた空間で残骸に燻った炎がパチパチと音だけが響いていると、巨大な底なし穴の中から黒い塊が飛び出し邪虎たちの隣に着地した。

 少しよろめいて片膝を付く。制服は破れていたが全身に緑に光る幾何学模様が浮かび上がっていて、顔や身体に付いた傷がみるみるうちに治癒していく。

「やってくれんじゃん。まさか陰陽師が西洋術を使うなんて思いもしなかったわ。ふっふっふっ、あいつ楽しめそうね」

「随分と楽しそだな薫。いいおもちゃでも見つけた」

「父上!!」 

 振り返るとそこには月宮誠が立っていた。

「父上、申し訳ございません。思わぬ邪魔が入り込みまして、少し時間が掛かってしまいました」

「別に構わん、亮の周りにいた捜査員達を始末できたんだからな。それよりもこの威力は陰陽道の技ではないな、北米幻魔道師団(レッド・クロス)か?」

「いいえ。術式自体は西洋術です、ただ問題なのは発動させたのは間違いなく陰陽師です」

「ほう。何者だ」

 薫が膝についた砂を叩きながら立ち上がる。

「強き者です。名は・・・確か法眼だったと」

「法眼・・・ひょっとして京八流きょうはちりゅうの法眼か、それならお前が手こずったのもわかるな。奴は陰陽師の中でも強者だから」

「その陰陽師が西洋術を使うとは、しかもバチカン禁書の『天界の神罰烙印(スティグドミニオンズ)』を発動させるなんて・・・今こうして『ランゲの書』が発動してくれたおかげで何とか窮地を脱したけど、下手したらやられていたわ。今後私達の脅威になるから、今のうちに殺しておいてもいいかしら父上」

「ほっておけ」

「えっ、でも・・・」

「お前が手を出さずとも。ここでこれだけの事をしたんだ。向こう側でも影響が出ないはずないだろう。間違いなく五行法印局ごぎょうほういんきょくが嗅ぎつける。そうなればアイツらが上手く足止めしてくれる。それにもうアマテラスの場所はわかってる。まあゆっくりやるさ、ゆっくりとな」

「さすが父上、もうアマテラスを見つけたのですね!! それでどこですが?」

あいつの家だ」

「ふ~ん、・・・兄上の所なんだ・・・」

 薫の笑が一気に冷淡に変わった。



 

こんにちは、朏天仁です。今年も残すことろあとわずかになりました。今年最後の作品更新になります。

 され、今回の話しいかがだったでしょうか? ここ何話でシリアスっぽい話しが続いてしまいましが、次回は少し小休憩てきな話にしていこうと思ってます。(^_^;)(あと番外編の続き書かないと・・・)

 それではここまで読んでくれた読者のみなさん。今年も一年お世話になりました。来年もどうぞ『スティたん』をよろしくお願いしますm(__)m

 最後に、来年も続きを読みたいと思う方は、下の『勝手にランキング』に1クリックお願いします。

 それでは皆さん、良いお年を!!\(^o^)/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ