傀儡師
西洋魔術には、使う術士の法位によって使用できる魔法が限れている。国や協会によって力の程度は違うが、大まかに分類すると3つの魔法がある。下級術士が使える近代魔法。協会所属の中級術士や神父が扱える中世魔法。聖職位階制上位者が扱える古代魔法がある。
近代魔法は、カードや杖を使用して五大元素いわゆる「地」「水」「火」「風」「空」の五つを操る事ができる。一般的に庶民がテレビやマンガで見慣れている魔法だ。
中世魔法は精霊や霊獣と言った召喚獣を生み出し、それを自在に操る事ができる。また一部の神父には白魔法の中で自然治癒力を高める魔法も使える者がいる。
そして、西洋魔法の中で最高で限られた聖人にしか使えない古代魔法は、その威力からしても他の魔法を大きく凌駕している。
分かりやすく例えるなら近代魔法は1~3人を相手に使う魔法で、中世魔法は有事の際に敵国の軍を相手にする魔法だ。それだけも大量破壊兵器レベルだが、更に古代魔法は国そのものを破壊する魔法で、もし古代魔法同士の戦いが始まれば一つの大陸が消滅するとも言われている。
しかし、古代魔法の凄さはその強大な破壊魔法ではなく別の力だった。その魔法には名前は存在しない。何故かはその魔法自体が人間の禁忌を犯すからだ。聖人でありがならそれを使用することは、自分達の信仰に対し重大な背徳行為にあたる。それ故にその魔法に名は無く、存在しない魔法として扱われている。
「あいつは確か・・・不等価交換と呼んていたっけかな? もう一人の方は何って言ってたかなぁーもう忘れちゃったな。まあいいや、名前なんてどうでもいいし」
「うぐっ、あぁ・・・うっぅっあ・・・がぁは・・・」
地面に横たわり小刻みに身体を震わせ苦しんでいるミハイに対して、亮はポケットに手を入れたまま見下したようにその光景を眺めていた。
「さっきも言ったけど、早く出てきてくれよ。そっちと話がしたいんだけど、それとももう少しのたうち回るって見るか」
「ぐががががっあああああああああ!!!!! あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!! ゛
突然ミハイが叫び声を上げてバタバタと苦しみ出した。両目から涙が溢れ、噛み締めた口の元から泡を吹き出しながら地面を跳ね回る姿は、まさに阿鼻叫喚的な光景だ。
「いくら身体がホムンクルスで頑丈でも、魂が人間のままだとそりゃー苦しいだろうな。ホムンクルスの身体を借りて魔法を使をうと考えた所は関心したけど、ちょっと爪が甘かったな。人間に近づき過ぎた事が仇になったんだよ」
ホムンクルスは、古代魔法の中で存在自体が認めれていない禁忌魔法によって生み出された人造人間だ。
人間と似て非なるもであるが、一番の特徴は対魔術防壁陣の結界内でも魔法を発動させる事ができる。その為、ミハイは結界が張り巡らされた連邦国家内で活動できる数少ない魔術師の一人なのである。
「おそらくお前はどこか大きな協会組織の下に付いているんだろう。神を信じてる者たちがホムンクルスを造っちまってるんだから、笑っちまうよなお前らの信仰心とやらわ」
「ぎっ貴様・・・神を愚弄するきか・・・」
「それはお前だろうがぁよ。お前の存在自体が神を愚弄してる結果だろうが。よく考えろよな」
「ぐう゛っ!?」
様々な宗教世界の教えでは、神が自分達に似せて人間を作ったとされている。人間にしてみれば神は創造主であり、その神に対し人間が同じ人間を生み出す行為は、宗教的にはも倫理的にも禁忌とされてきている。
「それにしても、お前の身体ってホント良く出来てるよな。筋肉や骨格に至るまで人間のまんまだし。人間と同じように血まで通ってるんだからさ」
「くぅっがっがぁうう・・・こっ・・・・ゴロズ・・・ゴォロジテェヤルゥゥ・・・」
声を捻り出しながら顔を苦痛に歪ませたミハイは血走った目で亮を睨みつけた。これが今のミハイとって唯一できる抵抗だった。
「すごいな、まだそんな元気があるなんて。その精神力はたいしたもんだよ。根性だけは認めるよ。ただし相手が悪かかったな、お前の身体はいくら頑丈でも内部から壊されるのは防ぎようがないしな」
「ぐぎきぎぎぎぎぎぃ」
「なあ知ってるか、この地球上でいったいいくつの毒が存在してると思う。俺はそんな暇人でもないしハッキリとは知らないんだけどな、自然界だけでも細かく別けたら軽く数万はいくらしい」
「なっ・・・ぎぎぎ・・・何がいいだいん゛だぁ・・・?」
「毒の種類が多くあるってことは、当然珍しい毒もあるって事だよな。毒で有名な生物って言えば蛇を思い浮かべると思うけど、あれはあれで結構いろいろな毒を思ってる。呼吸器官や神経伝達を阻害する神経毒や、血管系の細胞を破壊し腎機能障害や多臓器不全を引き起こす出血毒、細胞組織そのものを壊死させる筋肉毒もある」
「わっワタシに・・・何を・・・した・・・何・・・を・・・ガッガッ」
「ディノポネラだよ」
「なに・・・?」
「知ってるか南米アマゾンの森の中に生息してる蟻にディノポネラって言う蟻がいるんだけど、そいつは珍しい毒を持っていてね。中毒性はないし、炎症反応もさして強くないし致死率も高くないんだ。だけど『痛み』にたいしては飛び抜けた性質を持ってるんだ。この蟻に刺された人間はこの世にある全ての痛みを24時間味わえるって言われていんだ。どうだい味わってるかい?」
「ぎっぎざまぁ!!」
「そうだよ、今お前の身体を巡っているのはディノポネラの毒さ、それも高濃度のな」
「ぐぅっぐぎぎぎ・・・ぶっぶざげぇるなあ゛ぁ・・・ごのグゾザルがぁ」
すでにミハイの身体は激しい痙攣から筋硬直をおこしていた。
地面で大の字に手足を広げ、背中を剃り返しブリッジの格好をしながら僅かに振戦しているだけだった。
「ゴロ゛ゼ・・・ひと思いに・・・ゴロ゛ゼよ」
「それはまだダメだ。さっきも言ったはずだけど、まずは『クルージュの奇跡』について聞かせもらうかな。さあ、話せ!」
「誰が・・・ザルに言うか・・・」
「そうか、せっかく話せるまでに毒の濃度を落としてやったのに、もう少し濃くしてみるかな」
「ぎぎぎや゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛ああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
更に大きな悲鳴が路地裏にこだました。いくら暗く人通りが少ないとはいえ誰一人として様子を見に来るものはなく。ミハイの悲鳴が虚しく響くだけだった。
叫び続けるミハイの身体から、ポキッポキッと鈍い音が鳴り出した。
「おっ!! 始まったか」
「ぎっぎっぎっぎぎぎぎぎぎ」
筋肉の強い硬直により負荷がかかった骨関節が折れだした。ゆっくり体中の骨が砕き始め、その痛みがさらミハイを苦しめた。
「早く答えろ。今はまだ小さな骨が折れ出しただけだが、そのうち大きな方も折れるぞ。背骨が折れたら一気に死ぬぞ。さあ、早くしゃべるんだ。楽になるぞ痛みから開放してやる」
亮はしゃがみ込んで指を鳴らす姿をミハイにわかるように見せる。この指をならればお前を痛みから開放できる、その為に早く落ちろとミハイに迫っている。
実際、ミハイは身体も精神も限界だった。体中から悲鳴を上げ、思考回路が殆ど機能していない。自分が何者なのかさえ理解できなくなっていた。
何を優先するのか判断できない状況下で、亮の言葉は実にわかりやすかった。この苦しみから解放する。単純すぎる言葉だが、それゆえに考える必要がなかった。誰もが痛みから開放されることを望むだろう。
だが、ミハイがとった行動は予想に反していた。ゆっくりと中指を立て拒絶の意思を示したのだ。
敵ながら見事な奴だと関心すると、ミハイが一瞬だけ笑ったように見えた。
「そうか上等だ!! よし!!」
「それくらいにしてあげて」
突然前方から声をかけられ顔を向けると、何故かもう一人のミハイが立っていた。間違いなく同じ顔で、しかも同じ服装だ。唯一違うところは大剣を持っていない事だ。
「やっと現れたか、あんたが傀儡師か?」
「そうよ」
「あんたに聞きたい事がある。さっきコイツに聞いた『クルージュの奇跡』とは何だ。それと、何で俺達をツケ回す?」
「前者の質問については答えられない。後者については答える気もない。ただソレを回収させてもらう」
もう一人の自分に向かって細い指先を向ける。
「そうか、なら答えさせるまでだな。あんたはホムンクロスじゃないただの人間だろう。なら俺は手加減するが、コレはそうもう行かないかな。いけ!」
亮が合図をすると、足元にいた大釜狐が動いた。弾丸のようなスピードでミハイに直進する。大きく尻尾の釜を振り上げるが、それを振り下ろす前に身体が弾かれた。
「んっ?」
弾かれ地面を転がりながら起き上がると、再び尻尾を上げ飛びかかろうとした。だが直ぐに亮が止めた。
「なるほど、これは厄介だな」
ミハイの体を注視して見ると、体の前に薄青い魔法陣が盾のように立っていた。この魔法陣に大釜狐は弾けれたようだ。
「聖アントニウスの加護よ、如何なる攻撃も妖でさえこの加護より先には踏み込めたないわ。あなたの質問には答えられないけど、代わりに残念な事を教えてあげる。もう我々にこの国の結界は通じないから、これから思う存分動かせてもらうわね」
「それが無けりゃ外も出歩けないなんて、どんだけ肝っ玉が小せぇーんだよ」
深く被ったフードから鋭い視線が一瞬垣間見えた。
「下品な言葉ね、これだから豚にも劣る二級人種は嫌いなのよ。でもその実力は認めて上げる、だから―」
立ててあった魔法陣が消えると、亮の周りを同じ魔法陣が取り囲んだ。咄嗟に魔法陣を殴りつけがまったくビクともしない。
「くそ!」
「少しそのままでいてね。すぐ終わるから」
ミハイは痛みに悶絶するもう一人の自分の元に歩み寄ると、小声で何かを唱えじめた。聖アントニウスの加護の魔法陣に囲まれた亮にとって、もうどうしようもできなかった。
下手に力を使えば体力の消費は膨大だ。それに相手の目的がわからないうちは、大人しくしていることが得策だと判断した。
「別に構わねぇさ。お前たちがどこで何をしようと俺には関係ないし興味もない。だた、俺の周りをうっとうしく嗅ぎ回るなら容赦しいぜ。これは警告だ。今度俺の前に姿を見せたら、警告なしに叩き潰す、わかったな」
亮の言葉を聞き流し、ミハイは苦しみ横たわる自分の胸元に手を置いた。その手が白く輝くとスッと中へと入り込み琥珀のように輝く球体をとしだした。とっ同時にそれまで苦しんでいたもう一人のミハイの体が土人形のように粉末状に崩れ落ちた。
「それが魂の器か? でもいいのか貴重なホムクロスの肉体を壊しちまって」
「まったく問題ないわよ、壊れたならまた作り直せばいいのよ。銅100g、亜鉛200gで生成できるし、むしろこっちが壊れてしまう方が問題だったわ」
噂では、創りだす時に使用する術式は、古代錬金術士達が考案したまったく新しい術式で、どんな物質からでも人間の体を錬成できてしまうと言われていた。
「さてと、そろそろ戻るとするかしら。ポーンの事についてはもういいわ、別の班が見つけたみたいだから」
「おい、さっきの俺の言葉聞いていただろ」
「聞くだけは聞いていたわ、でもね『クルージュの奇跡』を知らないんだから、ワタシとはもう関係ないでしょう。それよりワタシが気になるのは貴方見たところ人間じゃないわよね、でも貴方の体から人間の匂いはプンプン漂ってくるわ。おそらく人間と一緒に生活してるわね、深淵の住人が何故人間に興味をもっているのか? そこは気になるところだわ」
亮は黙ったままミハイを見つめていた。
「まあいいわ。それじゃ後片付けお願いね。すぐそこまでパトカーが来てるから」
そう言い残すと、ミハイは路地裏の暗闇に消えていった。
周りを囲っていた魔法陣が消える、そこでようやく遠くのほうからサイレンの音が響いてきた。これだけ銃声や叫び声がすれば、誰かしらに通報だってされるだろう。
亮は持っていた銃から指紋を拭き取ると、青いポリタンクのゴミ箱へ放り込んだ。そして急いで霧島の元へと戻りだした。
「あっ! やっと来た。遅いわよ、もう警察が来ちゃうじゃないのよ」
亮が再びコンビニに戻ってくると、大破した車の側で後ろ手に縛れた男が座っていた。その横で愛用のLARKを吸っている霧島がいる。車の周りには10人くらいの集団がたむろしていて、物珍しそうに二人を眺めながらヒソヒソ話を始めている。
「相変わらず派手にやりましたね。大丈夫なのか?」
「うっうん。多分・・・」
「・・・そう」
二台の状況から大体の予想はついた。昔からこの霧島の行動は意表をつく事がおおく、今回の結果も当然と言えば当然だったと亮は納得した。
「それよりも今後の事はわかってるわよね。すぐに警察が来るから貴方はすぐここを離れて、ハンターバッチ持ってないんだから、捕まったらいろいろと面倒な事になるし。あとは私に任せて早く帰りなさい」
「わかってるさ。そっちが無事かどうか知りたかったんだよ」
「あらら、心配してくれたの? 嬉しいわ」
「あんたじゃなくて、相手の方な」
「失礼ね。死なない程度にしてあげたわよ。実際死んだようにぐったりしてるけど大丈夫よ。そっちはどうなの?」
「一人死んだ。もう一人は気絶してるから、警察に任せる」
「死んだ!? あなたまさかー」
「おいおい、俺じゃねぇよ。仲間が一人増えてそいつが殺したんだよ。俺は殺してない」
「それならいいわ。でも死体が出たなら厄介ね。それなら尚更早く行きなさい」
「わかってる。じゃあな」
霧島をその場に残し、亮はサイレントとは反対方向へと走り出した。
すぐに国道まで出ると、標識で場所を確認する。すでに埼玉には入国してるようで『たんぽぽ』まで約20~30キロ程だろう。
このまま順調に行けば朝には到着するし、一応神矢先生の練習をサボった事の言い訳を説明しよう。その後に朝飯を食べて少し休もうかなと考えたとき、亮は大事な事を思い出した。
たんぽぽに今の今ままで連絡を入れてなかった。歩を止めポケットから携帯を取り出すと、案の定着信履歴が『たんぽぽ』と『蒼崎玲子』『マナ』で埋まっていた。しかも後半はほぼ全て『マナ』の着信になっている。
「やべぇーな。こりゃー」
昨日の事でマナとギクシャクした関係になっていた所に、もう一つ心配ごとを増やしてしまった事で余計亮の気が重くなった。
取り敢えず急いで帰った方が無難だろと思って携帯を戻すと、すぐ横を一台の車がつけてきて停車した。どこのメーカーか分からないが、形からスポーツカーだとわかった。
運転席のドアが開くと中から亮のよく知る人物が現れた。
「なんだ。お前か」
「ねぇ兄上。乗っていかない! 新車よ新車!! スゴイでしょう」
声を弾ませながら月宮薫が近づいてくる。
「お前、よく俺の前に面だせたな。まあいいこの前の続きをしたいのか」
「もうそんな昔のこと忘れましょうよ。私が送っていってあるげから。乗って乗って。それと・・・兄上と少し話がしたいし」
「・・・・・・」
薫からは敵意は感じられず。亮は一瞬躊躇ったが、送ってもらうことにした。
「さあ兄上シートベルトして」
「なあ、一つ聞いていいか」
「なに兄上」
「お前・・・免許持ってるのか?」
「無いよ」
薫はあっさりと答えた。
「警察に捕まったらどうするきだ」
「うんっ、警察が捕まえられたら捕まってあげる」
「だよな・・・・・・取り敢えず安全運転で頼む」
「リョーカーイィ!!」
その返事と一緒に薫はアクセルをおもいっきり踏み込んだ。甲高い音と白煙を巻き上げながら一気にスタートダッシュで加速する。もしかすると、このスピードが薫にとっての『安全運転』の範囲なのかもしれない。
その夜、国道はこれまでにないくらい嵐のようにクラクションが鳴り響き続けのは言うまでもないだろう。
こんにちは、朏天仁です。投稿が遅くなってしまって申し訳ありません。今回の話はどうでしたでようか? 少し誤字脱字があると思いますが、物語の感想などを送ってもらえると嬉しいです。
あと、できれば下記の「勝手にランキング」をクリックして貰えると助かります。ここまで来るのに正直辛かった事もありましたが、そでも続けこれたのは応援してくださった皆さんがいたからだと思ってます。本当にありがとうございます。m(__)m
では次回29話をお楽しみください!!




