独立国家共同体「日本連邦」誕生
それほど遠くない昔に、日本は世界を相手に戦争をした。別に日本が戦争をしたかった理由ではない。戦争を起こす者は、戦争には大義名分があるなどとよく言ったものだ。人権、人種、国家、宗教、思想、平和といった具合に理由なんて幾つもあった。
ただし、その根幹には必ずといっていいくらい『利権』の思想があった。いつの世も、自分達の益なる事のを相手に従わせる最終手段が『戦争』だ。
2019年に日本を巻き込んだ戦争もその一つだった。始まりは2018年、地球規模で真水が不足し始めた事に端を発する。
地球の約7割は海であるが、その中で人間が飲み水として使えるのはわずか1%にも満たない。64億人の人間にとって、飲み水が無くなるという事は死を意味していた。
その結果、真水は石油以上に価値のある資源として取引される事になる。それまで資源のない日本が、豊富な水資源を利用した資源大国になるのに、そう時間は掛からなかった。
しかし、日本や他の水資源保有国が水市場を独占する事を好ましく思わない国があった。石油利権の恩恵を受けてきた中東や米国、それに発展途上国の国々にとっても水が牛耳られる事の危機感を抱いていた。
最初のうちは、各国も大人なしくしていた。外資系ファンドが水資源国の排水権や貯水権を買ったりして上手く均衡を保ってきた。しかし、真水の枯渇が一層深刻化してくると、国家間で熾烈な水争奪戦を繰り広げる事になった。そしてついに2019年12月24日欧州随一の水保有国であるフィンランド・スウェーデンの水資源を狙って、欧州とアラブ諸国との間で戦争が勃発した。
欧州・アラブ戦争を皮切りに、2ヶ月後の2月11日ついに戦争の波が大陸を飛び越え、日本に襲来した。
日本の水資源を狙らって、ロシア、中国、東南アジアの軍隊が日本の領海を侵犯。第一次極東戦争が勃発した。当初日本側が劣勢に立たされていたが、在日米軍の協力を受けて徐々に優勢に持ち越し、1年後にロシア・中国の休戦協定によって不可侵条約を結び戦争は終結した。しかし、3ヶ月後米国が一方的に日米同盟の集団的自衛権行使の変更を決定。その気に乗じてロシア・中国が不可侵条約を破棄、2021年5月2日第二次極東戦争が勃発。米軍の援軍なく、日本はそのまま3年半戦闘を続けるが遂に2024年12月14日無条件降伏を受理する。
この戦争の裏に、科学を超越した聖術、魔術、陰陽道、異端呪術による呪術戦争があった事を知る者はごく一部だけだった。
その後、日本の水資源は極東・東南アジアの3年10ヶ月に及ぶ実行支配を受けることになる。国民には他国の支配を受ける事よりも、自分たちの飲む水が制限される方が深刻だった。
いくら耐え忍ぶ日本国民でも、生きるための水を奪われる事は死活問題であり、弱い者たちから順に命を搾取されるに等しかった。
故に、日本国内では毎日のようにデモや暴動の嵐が吹き荒れた。中には暴動鎮圧の名で殺された者も少なくなかった。
転機が訪れたのは2028年10月、欧州資源機構とユーロ中央エネルギー省が共同開発した次世代型プラントの稼動により、世界各国への真水の安定供給が可能になった。国連はこのプラントの権利を世界各国に譲渡し、十年近くに及んだ水戦争はようやく沈静化へと向かうことになった。
水資源の安定供給と、真水価値の下落によって日本を実行支配をしていた国々は、翌年の7月に条件付きで日本の独立を認める事になる。その条件とは、日本の47都道府県全てを一つの国として独立させる事だった。つまり日本は47の国にバラバラにされるとういう事だ。
当時の日本政府に拒否権はなく、無条件で受け入れるしかなかった。こうして日本はバラバラになりながらも実行支配から解放された。
そして、翌月の8月に行われた列島総選挙において、当選した各国の代表者たちが一同に集まり協議した結果。日本を47の共同国家が集まった一つの国にすると宣言。
無論、隣国や諸外国は反対したが、国連での米・英の後押しもあり主権国家として認める決定がくだされた。
そして遂に、2029年8月15日に日本を47の小国が集まった独立国家共同体、『日本連邦』として建国を果たすことになる。
戦後の日本連邦では、2つの新しい法律ができた。一つは国同士を超えて犯罪者の追跡捜査が行えるバウンティハンター制度(通称:BH法)もう一つは、亜民と呼ばれる一般市民の中からこぼれ落ちた社会生活不適合者の強制自立支援を目的とした、社会不適合者自立支援法が施行された。
後に、この二つの法律によって日本連邦内で様々な物議を醸し出す事になるとは、この時だれも想像はしていなかった。
世界設定でここまできてしまいました。主人公の月宮亮やその家族の話は次の章で始ると思います。多分・・・(´Д`;)
ともあれ、ここまで読んでくださって本当にありがとうございます。
なるべく早く次の話を出したいと思ってます。どうどよろしくお願います。