友達の友達は
上郷町は山に囲まれた自然と、亜民の自立支援モデル地区の二つの柱が有名だ。だが悪い意味でもう一つ有名な事がある。
それは、緊急時の救急医療体制がきちんと整備されず、未完のままだと言うことだ。その理由は、自然環境促進広域授産都市10ヵ年計画(別名:エメラルドプラン21)がスタートする前に、埼玉県の中で一番過疎化が進んでいた地区であった為、町の保健医療は主に個人医院が主体となっていた。急患や救急患者がでた場合は隣の本庄市まで行かなくてはならなかった。
本庄市内中心にある本庄市立病院は、上郷町の新エメラルドプラン21が実施される前から上郷町長と埼玉地区連邦議会とが協議をかさね、上郷町の医療不足解消を目的とした受け入れ態勢を提唱してきた。その結果、連邦政府と上郷町から多額の補助金を設備投資に回すことができ、病床数550床に10の診療科目と高度な研修体制を備えた特定地域医療病院として厚労省から認定を受ける事ができた。
埼玉県内の中で一・二を争うくらいの医療設備を完備した病院で、外来診察を受けるときは亜民も市民も平等に受ける事ができる。しかし入院ともなると話は別で、亜民は必ず医師の紹介状がなければ入院する事は難しいのだ。
それは市民と同じ扱いを受けれる『特例市民』でさえ例外ではなかった。
夜の21時を過ぎた頃、本庄市民病院の一階奥に設置された地域連携室から、少し疲れた顔の蒼崎が出てきた。後から出てきた白衣を着た若いドクターに深く一礼を済ませると、ロビーへと向かった。広い待合室の隅にある長イスに座っている亮を見つけると、そのまま隣に腰を降ろした。
「なんとか入院手続きは済ませたわよ」
「ありがとうございます」
「取り敢えず私の名前で紹介状は書いといたから。最初は無理かと思ったけど、対応してくたのがたまたま私の知り合いだったから、何とか無理を聞いてもらったわ。それで、ちゃんと説明してくれる?」
「・・・・・・」
「無理にとは言わないわ、亮くんが話せる所まででいいから」
気を使っている蒼崎の問いに、亮はなおも押し黙る事で応えた。
「そう、亮くんが応えたくないなら、先生無理にとは言わないし聞かないけども」
「けども?」
「私たちと美花ちゃんとは浅い関係じゃないわよねぇ亮くん、マナちゃんの始めての友達1号だったし、彩音の学校の後輩でもあるわけだし、二人に美花ちゃんの状況を話さないわけにはいけないわよねぇ」
勿体ぶった言い方をしながら、蒼崎の頬が緩みだす。
「それって、つまり―」
「つ・ま・り、亮くんは美花ちゃんが何であんな酷い怪我をしたのか、私に理由を話してくれないから、私はマナちゃん達に私の推測でしか説明の仕様がないわけだから。このまま家に帰ってから亮くんはあの二人に追求をうまく躱す自身があるって事なんでしょう」
「うぅっ・・・」
亮の額に汗がにじみ出る。蒼崎は大人であるためある程度話を歪曲させれば何とか納得させられるだろうが、あの二人はそうもいかない。特にマナは女のカンと言うのがもの凄くいいから、亮の嘘は全部バレてしまう。これまで何度もバレて酷い目にあった事を思い出し、軽い頭痛がしてきた。
「取り合えず二人には夫婦間暴力って説明しとくわね」
「勘弁してくださいよ先生、そんなの言ったらとんでもない事になりますよ。いや、間違いなくなりますから」
「うん、そうね。間違いなくとんでもない事になるでしょうねぇ。たんぽぽで台風が発生するんじゃないかしらねぇ」
「台風なんてもんじゃないですよ、破壊神の降臨ですよ! 確実にオレ死にますよ!」
「うまい例えね、このまま何も話さなかったら、たんぽぽで2体の破壊神が亮くんをズタズタにしちゃうでしょうねぇ、マナちゃんって意外とコワイからねぇ」
「その冗談・・・笑えないですよ」
「本気よ!」
なんて説明したらいいのだろうか、あの後美花を救出した亮はすぐに彼女の異変に気づいた。浅い瀕呼吸を繰り返し、嘔吐が見られたため直ぐに脳にダメージを負ったと判断した。
緊急にCTかMRIで頭部の状況確認を行える病院へ運ぶ必要があったため。早速、ここ本庄市民病院の救急外来に運ぶと、予想通り頭蓋内出血を起こしていた。直ぐに美花の両親が呼ばれ緊急手術となったが、ここで別の問題が発生した。手術中、別の医師から美花が特例市民の亜民であり、手術後の経過観察が無理なため別の病院へ搬送すると医師から話が出た。
母親の里子は何とかこのまま入院させて欲しいと言ったが、医師の『紹介状』が無ければ無理であると説得されたしまった。それを聞いた亮はダメもとで蒼崎に連絡した。蒼崎は今も医師免許を持っている元女医だ。だが、医師とて開業しているわけではないから色々と制限を受けると思ったが、そんな事を言っていられる状況ではなかった。
連絡をもらって病院に到着した蒼崎は、亮から説明を受けるより先に取り乱したように泣いてくる里子に懇願され、その場で『紹介状』を書いて提出した。
「さあ、話してくれるわよねぇ亮くん」
蒼崎が勝ち誇ったような顔で亮に近づけてくる。
「わっ、わかりました。話せる所まで話しますけど、マナ達には俺が話した所だけを説明して下さいね」
「約束するわ、と言っても皆もう寝てる時間だし、話は明日の朝になるからそれまで私が話しをまとめといてあげるわよ」
「わかりました・・・みっちゃんのケガの原因は事故です」
「事故? 交通事故かなにかなの?」
「まあ、…そんな所ですね。なんの事故かは言えませんが、その事故の当事者の中にみっちゃんの知り合いがいたみたいで、公になるとみっちゃんが、その、何ていうのか…」
「美花ちゃんにとってマイナスになるってこと?」
「まあ、はい。そうですね」
「でもね亮くん。いくらなんでも美花ちゃんがあんなケガをして、両親は真相を知りたいはずよ。これがもしマナちゃん達だったら私、絶対に何があったのか知りたいわ。美花ちゃんの知り合いがいたからって、そんなの勝手すぎるわよ亮くん!」
蒼崎の言ってる事は正しい。普通の親ならわが子に何が起こったのか知りたいはずだ。それを知ってて話さないのは自分勝手と言われも仕方がないだろう
「もし…いえ…真相は俺じゃなく、みっちゃんが自分で話すと思います。もし話したくないってみっちゃんが言ったら、それ以上は聞かないで上げてください」
「…ふぅん」
蒼崎は大きく溜め息を漏らした。それは納得したのか呆れたのか亮には分からなかったが、それ以降蒼崎からの追求は無くなった。
美花の手術が終わったのは日付がかわる数分前だった。手術室の扉が開きベットごと運ばれてきた。美花の頭に包帯が巻かれ、その間からドレーンといわれる管が挿入されていて、頭部内に残った血腫を外へと排出している。
ドクターか看護師かわからないが、繰り返し殴られ腫れ上がった美花の顔半分にガーゼを被せて、見せないようにしている。
気を使ってくれたのは有難いことだが、それが逆に里子を動揺させた。
「美花ちゃん! 美花ちゃん! ママよ。目を開けて、お願い! 美花ちゃん!」
娘の身体に触れようとする里子の行為を、看護師二人があわてて止めに入った。
「お母さん、娘さんは今手術が終わったばかりなので、そっとしてあげて下さい。娘さんは頑張りましたから、これから先生からお話がありますので、ナースステーションまで来てください」
「里子、美花は頑張ったんだから今はちゃんと休ませて上げてなさい」
夫の洋二が里子の肩に手を置いて落ち着かせようとする。美花の父親は少し白髪が混じった40代位の細身で、目元が妹の美久に似ている。おそらく美花も目を開ければ同じ風に似ているのだろう。
「蒼崎さん。入院手続きどうもありがとうございました。今はこんな状況ですから、いずれまた」
洋二はお礼を済ませると、里子の肩を抱きかかえながら看護師達の後を付いて行った。
その後ろ姿は職場から直接来た様子で、Yシャツに乾いた汗が染み付いていた。
蒼崎が夕方見た時と比べ、頬がややこけ、身体が一回り小さくなったように感じられた。もしかしたら母親以上に疲労困憊してるのではと彼女は心配した。
「あれが普通な親の反応よ。亮くん、あたなアレを見てもまだ話さない方がいいと思ってるの? 亮くんは友達して守ってるつもりでも、最終的に美花ちゃんの大切な人を傷つけているのよ」
「…誰にだって知られてほしくない、隠しておきたい事の一つや二つあってもおかしくないでしょ、大切な人ほど知られたくない事だってあるんですよ」
「それは…そうね。それを否定する気はないわ。でもね亮くん、私あの二人の前で黙ってるなんてとても出来ないわ」
「それは、蒼崎先生が俺達の親だからです。おれも先生の意見を否定する気はありませんから」
「おっ!! 言うようになったね、亮くん。『たんぽぽ』に来た時は、私の言葉に反論なんてしなくて無視ばかりしてたのにねぇ。少し成長したのかなぁ」
「茶化さないで下さい。せめて心が開けてきたって言ってもらいたいですね、先生!」
少し茶化された事にムッとした態度をとりながら、ポリポリと頭を掻いてみせた。
「ゴメン、ゴメン。亮くんが普段見せたことがないくらい暗い顔をしてるから、つい笑わせたくなっちゃって、先生反省するわぁ」
「とてもそんな風には見えませんけどね。それよりもそろそろ帰りませんか? まさかこのまま病院に泊まる気ですか?」
「それもそうね。先生、美花ちゃんのご両親に挨拶してくるから、亮くん先に車でまってて、話が終わるまで少し時間が掛かると思うけど、正面出てすぐ右の奥に留めてあるから。はい、コレ鍵よ」
受け取った鍵をポケットに仕舞うと、亮はその場を離れた。美花の様子が気にならないわけじゃないが、手術室から出来た美花を見た時、一瞬で彼女の施された処置は無事終わり大丈夫だと確信できたからだ。それはただの希望的観測ではなく、亮自身の経験から推測した結果だった。医療設備の整ってない野戦病院や、地下の掩蔽壕の中で、負傷兵の開腹手術や外様々外科手術の現場を見てきた亮にとって、間違いなく美花は高度な医療技術で一命を取り留めたと確信できた。
「あっ、間違えた」
一階ロビーまで来たときに、亮は場所を間違えた事に気が付いた。既に受付時間はとっくに過ぎ、照明がおちた一階は全て真っ暗だった。唯一ロビーを照らすのは壁に設置されている真っ赤な非常灯だけだった。
一応、受けの奥に誰か居ないか声を掛けてみるが無駄だった。諦めて夜間外来の方へ向かおうとした時、受けの電話が突然なりだした。
亮はじばらく辺りを見渡すがだれも出てくる気配はない、急患かもしれなと思ったが自分がでるわけにはいかないと思い、その場から離れた。それと同時に電話もやんだ。
そして今度は夜間外来へ向かう亮のすぐ隣にある緑の公衆電話が鳴り出した。一瞬、亮はその場で止まりその公衆電話に視線を向けた。
「えっ!? なんだよ?」
それは偶然なのか、必然なのかわからなかったが、亮はその電話に出る事は裂けるべきと直感がささやいた。
案の定、亮が前を通り過ぎると鳴り止んだ。これはマズイと感じた亮の足は自然と早くなり、気がつくと走っていた。関節照明が照らす廊下の角をまがり、夜間外来のドアが視界に入るとスピードを落とした。夜間受付で待機している守衛に頼みドアを開けてもらうと、すぐに蒼崎が駐車した車を見つけ中に乗り込んだ。
大きく深呼吸してやっと安堵の気持ちになったとき、自分のスマフォがブルブルと震えている事に気がついた。
ずっと病院だったためマナーモードに設定していた事をすっかり忘れていた。まさかと思って液晶画面を見ると『たんぽぽ』の名前が出ていた。おそらく帰りが遅い蒼崎と亮と心配してマナか彩音のどちらかが電話をしてきているのだろう。
「なんだよ…まったく」
亮は溜め息をつくと、通話ボタンを押した。
「もしもし、マナ? 彩音か?」
だが、想像してた返事はなく。かわりに聞き覚えのない声が返ってきた。
『今言った二人はここには居ないぞ』
「誰だお前は?」
『君の友達の友達さ』
電話の相手は音声変換機でも使ってるのか、中性的な声で話し始める。
「はぁ? 言ってる意味がわかんねぇんだけど。俺に友達はいないし、そんな友達は知らねえな!」
『それはショックだな、これでも結構ナイーブな方でね。君とだったら友達になれると思ったてんだけどな』
「残念だけど間に合ってる。じゃあな」
『まあ待ちたまえ。そんなに邪険に扱わなくてもいいじゃなか。こちらも今こうして君とはなしてるのはかなりのリスクを伴ってるんだよ。君が電話に出てくれないから、確実にでる回線を使う事にしたんだよ』
「やっぱりあの電話はお前か…いや、ちょっと待て! テメーまさか!!」
『おっと、気づくのが遅いんじゃないのか。この電話が今どこから君にかけているのか、もっと早く気づくとおもったんだけどな』
亮の感情が『怒り』に集まり始めると、背筋に稲妻が翔け抜け心臓の鼓動が激しく脈打ちする。そして手に持ったスマフォがミシッと音を立てる。
「おい…テメーェ!! マナ達に何をした!!」
『誤解があるようだ。ここいる妹たちには何もしてないよ、まだね』
「テメーェ、一体何が目的だ?」
『おっ、行き成り本題に入るか。いいだろう。こっちの目的は一つ、君に前任者の仕事を引き継いでらもいたい。ただそれだけだよ』
「はあ? 何だよそれ? 前任者って?」
『一ノ瀬君だ。君も知ってるだろう。残念なことに彼は志半ばで殺されてしまってね』
「あいつは事故で死んだはずだけど」
『事故? おいおい、マスコミの報道がいかに嘘まみれなのか知らない訳じゃないだろう。彼は殺されたんだよ。君たちの縁の深い者達によってね』
「知ってるよ。だが断る。俺はもうそういう世界と関わる気はない、それに家族もいる。ハッキリ言って迷惑なんだよ」
『家族? ハッハッハッハッハ、面白冗談だな。あの『桜の獅子の子供達』がここの人間達の事を家族と言い切っるなんて、君は本当に面白い子だな。一体君の身に何があればそんな風に変われるのか興味が湧いて来たよ』
「ああ、そうかい。俺はハッキリ断ったからな。じゅあな」
『まあ、ちょっと待て待て。一つテストしておこう』
「はっ? テスト?」
『そう、単純なテストだよ。私がこれから二階にいる君の家族を1人1人切り刻む。君はそこから全力でここに戻ってくる。君が早ければ早いほど妹達の生存率は高くなるが、遅ければ低くなるそれだけさ』
「てっ、テメー!!!」
亮は荒々しい声で怒鳴った。眉間から顔全体にスジが浮き上がりそれはまさに鬼の形相と言える。病院の駐車場から『たんぽぽ』までどんなに車を飛ばしても30分は掛かってしまう。
『さあ、君の実力を見せてくれ。月宮亮くん、いや…白蛇の夜叉蛇よ』
亮は通話を切るのも忘れ外に飛びだすと、一目散に前方の電柱に駆け寄り上へとよじ登った。そして電柱の頂上から膝を曲げ一気に天高く跳躍した。常人なら1メートルも飛ばす、そのまま落ちて大怪我をするが亮は違っていた。
亮の身体は落ちることなく孤を描くように飛行しながら、100メートル程先にあるコンビの駐車場へと着地した。ドスッ!!っと大きな音と一緒に足元のアスファルトが5センチ程沈む。そしてまた跳躍、今度は200メートルほど先にある紅白に塗装された高圧鉄塔の頂上に着地した。
風は意外と強くなく、亮は『たんぽぽ』の方向を確認すると、その方向へと続く高圧鉄塔ごしに跳躍していく、400メートル間隔の鉄塔を飛び移っている間も、亮は息ひとつ乱さずに眼前に見える『たんぽぽ《我が家》』へに向かっていく。
3分半ほどで亮は『たんぽぽ』に到着した。すでに電気はなく、建物自体は静まり返っていた。間に合わなかったかと思いつつ、亮は鍵がかかってない玄関を開け中へと入る。
廊下を『膝抜き』と呼ばれる音を消す歩き方で進み、マナ達の安否確認のため2階へとたどり着いた。
ゆっくりとマナの部屋ノブを回し中を覗き見ると、人がいる気配はしなかった。同じように彩音、楓、葵の部屋も確認したが、誰もいなかった。
「遅かったか…」
亮は奥歯を噛み締め、込み上げる無力さを振り払おうと拳を床に叩きつけようとしたその時、1階の台所付近で物音が聞こえた。
亮は電話の相手がまが残っていると確信し、1階へと降りて行く。居間に入ると案の定、電気の消えた奥の台所付近から人の気配がする。
真っ暗で完全にはわからないが、亮の目には確実に一人動く陰を捉えていた。おそらくアイツが電話の相手だろうと思い、ゆっくりと近づきながら亮はコイツをどう尋問してやろうかと考えていた。
完全に間合いをつめ、息を止めた瞬間。亮はその影に向かって飛びかかった。
「ふぐぅ…っ」
突然虚を疲れた相手は反撃する間もなく押し倒される。そして両腕を後ろに回され外れないよう亮の右腕が関節をキメる。そして残った左腕を首に回し頚動脈を締め上げた。
頚動脈を絞められた人間は約30秒もあれば失神するが、この相手はバタバタと体を動かし無駄に酸素を消費しだした。これは一種のパニック状態に陥っているのだ。
亮は力を緩める事なく、完全に相手が失神した事を確認すると静かに床に寝かせた。そして手探りで武器がないかどうか身体検査を始める。
以外にも骨格は細く筋肉は少ない。しかも腰周りを探っても装備品を携帯している様子は見られなかった。
すると、突然照明がつき辺一面が眩い光に包まれた。
「しまった。コイツは囮か」
亮は目を細目ながら身構えた。
「何が囮やぁ、ゴラァ!」
「りょ…亮兄ぃ…」
「……変態」
そこには驚きと蔑んだ瞳でたたずむ彩音、マナ、楓の3人が立っていた。
「えっ!? 皆…無事だったのか?」
「何が無事や! おのれのした事よう見てみぃーや!」
「へっ…!?」
彩音の指差す方向に目を向けると、そこには失神した槇村葵が横たわっている。しかも借りているマナの浴衣の裾を亮が持ち、胸元が大きく開きブラと下着があらわになっているではないか。
どう見ても亮が葵の服を脱がせている状態にしか見えない。
「あの…その…ごっ誤解なんだよ…これは…その…」
顔中から冷や汗を垂らしながら、亮は周りの状況を確認しだした。床に転がるアイスクリームとジュース類、袋が空いたスナック菓子の数々を見て、亮は恐る恐る尋ねた。
「もしかして…ひょっとしてと思うが…アフターナイトの最中だったのか?」
3人が同時に頷いた。アフターナイトとは、月に一度『たんぽぽ』内の女子メンバーで行われる女子会だ。今回は新人の葵を含めた親睦会を兼ねた闇ナベならぬ、闇アイス会を開催していたようだ。そこに運悪く亮が乱入し葵を羽交い絞めにしてしまったのだ。
「でっ、どんな言い訳があるんや亮! 聞いたるでぇ、うちらが納得する理由があるんやったらな」
「うん、マナも聞きたいな亮兄ぃ! せっかく葵ちゃんと仲良く楽しんでる最中に、どうして亮兄ぃが葵ちゃんの服を脱がせているのか、マナ聞きたいなーぁ」
二人とも顔に不気味な笑みを浮かべながら、彩音は指の関節をポキポキ鳴らし、マナはフライパンを強く握り締めながら亮に近づいていく。
「はっ…あはっはっはっ…先生ぇ、破壊神が覚醒しちゃったよ…」
その場で覚悟を決めた亮の頭上で、マナの振り上げたフライパンが勢いよく振り落とされた。
その夜、『たんぽぽ』付近の住民達はどこからともなく聞こえてくる、悲鳴とも呻き声とも言えない叫び声を朝方まで耳にする事になった。
こんにちは、朏 天仁です。今回の18話はどうだったでしょうか?楽しんでもらえたら幸いです。
次回は、久しぶりのキャラが登場する予定です。あくまでも予定なのでどうなるかわかりませんが・・・(-_-;)
そんなわけで、今回18話までを読んでくれました貴方様に感謝の言葉を送りたいと思います。
ここまで読んでくれまして本当にありがとうございます。m(__)m




