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真実は手の中に  作者: 永田一樹
第一章
3/5

第二話 それぞれの裏事情

02 それぞれの裏事情


お互いに自己紹介を済ませてその場はお開きになった。

では、明日から頑張りましょうという那智の一言で各自解散という流れとなった。

この学校はほぼ街の中心にあり、東西南部から生徒が来ている。

那智は東側、蓮は西側へと校門で別れる事になり、たまたま帰る方向が一緒だった凛と白は二人で歩いていた。


「久しぶり、と言えばいいのかな?」


その一言に凛の心臓が大きく跳ねたのは言うまでもない。


「久しぶりです兄さん」

「まさか那智が連れてきた女の子が凛だったとはなぁ」


実の兄妹ではない、従姉妹と言えばいいだろうか?

それも微妙に違うような気がすると思いながら白は凛を見た。

大人びた姿は周りからは美女と称されているが、白からしてみれば何時まで立っても可愛い妹? である。

同じ高校に入学している事は知っていたが、出身中学が違うのにコンタクトすれば不自然に思われる危険性があったのので今までは会いに行ってはいなかった。

まさか、こんな形で再会するとは思いにもよらなかったが。


「私は何時までもお待ちしておりましたのに」

「悪いな。どういった経緯でバレるかはわからないから、というのは言い訳だけど」


周りに人が居ないことを確認して凛は一歩白に詰め寄った。

そんな凛に驚くような素振りは一切見せず、むしろ白自身も少し詰め寄った。


「どうやら、爺さんはもう知っているらしいいな」


いきなり言われたその一言に戸惑うが何のことか凛は理解した。


「早いですね、学校に監視でもつけているかのようですね」

「ハハハ。俺が知っている中でも一人いるぞ。確か理科担当の先生だったと思う。で、爺さんは気をつけろだってさ。全く何の事か書いておけよ」

「アハハハ。お爺様らしいと言えばらしいですね」


少し大きな声で笑う凛に、白も合わせるように笑った。


「ここでお別れと言いたいところなんだがどうやら本家に来いと言われててな。どうする?」


二人でしばらくの間笑いあった後、唐突に白がそんなコトを言う。

本家とはつまり、祖父と祖母の家のことだ。


祖父は一代で情報処理技術を10年は進めたと言われる人で、祖母とは昔から仲が良かったらしい。

そんな彼の息子や娘たちも様々な分野で第一線で活躍している人達である。

本家に来いと言うのは何かあったと言うことか。


「いや、二人で居るのだからそのまま遊びにきたらどうだという事らしい」

「いいですね。私は予定もありませんし」

「なら、行こうか」



那智が向かっているのは自分の家ではなく、少し遠いところにある病院だ。

何故そんなところに行くかと言えば男の子が居るからだ。


男の子の名前は、組崎透。那智とは昔から仲が良かったある事件が起こるまでは。

今高校二年だから、もう五年前の事になる。

12歳だった二人は透の両親に連れられプールに来ていた、そこで楽しい一時を過ごしていた。

けれどそんな楽しい時間はいきなり終わりを告げることになる。

刃物を持った男が次々に人を刺して回ったからだ、那智自身も刺され重傷を負い目が覚めたのはこの病院の一室だった。

これは後から聞いた話なんだが、男は那智を刺した後透の両親に突っ込んでいったらしい。

それを見ていた小さくても男の子ということだろう透は刺されるのも構わずに男に突っ込んでいった。


「あら、那智ちゃんじゃない。お久しぶりね」


そう声を掛けてくれたのは透の母の組崎恵さんだった。

どうやら過去の事を思い出している間にこの部屋まで来ていたらしい。


「お久しぶりです。元気ですか?」

「えぇ。この前教えてくれた健康法役に立ったわよ、あの人はすぐやめちゃったけど」

「お役に立てたのなら嬉しいいです」

「ちょっと、お花の水を変えてくるわね」


そんな事はここに来て一番にやってることだろうとは言えなかった、気を遣ったのだと知っているからだ。

透のお母さんが部屋を出ていくのを感じながら改めて透の姿に目をやった。

自分と同じ17歳になるはずだが見た目はほとんどあの頃から変わっていなかった。


「今日は、透君に報告があって来んだ。知ってるかな、あの〝真実は手の中〟にっていうゲーム」


このような砕けた口調は本当に親しい者にしか出さない、いや出せないと行った方が正しいのかもしれない。


答えはもちろんない、それを構わず那智は続ける。


「国際大会で優勝すれば、どんなものでも手に入れることが出来るっていうだけどさ。私はあなたの事を選ぶよ」


ポタ、ポタ、と手の上に雫が落ちていくそれは次第に涙へと変わっていく。

彼を前にすればいつもこうだ、一週間に一回のペースでここを訪れるが泣かなかった試しがない。

そんな那智をみれば透は何と言うのだろうか、気になるが答えは帰っては来ない。


気づけば涙は止まっていて、部屋の中に夕日が差し込んでいる。

立ち上がり、部屋のドアを開ける前にちらりと振り返る。何故か彼の顔に頑張ってこいよという表情を見た気がした。



「どうした? こんなコトでへばってたらガーディアンなんて務まらないぞ?」

「ハァ、ハァ、ハァ、すみません!」


蓮がいるのはビル丸々一棟を改造した訓練場である。

訓練の目的は建物内でテロリスト及び偶発的な犯罪に巻き込まれた場合どうするかと云うもの。

蓮はほんの少し前までテログループを仮想敵にした模擬戦闘を行なっていた。


「今日は動きに迷いが出てたな、何か学校であったのか?」


そんな事を言う教官――圓谷蓮司は少し睨むような目を蓮に向ける。


「実を言うと、友達から〝真実は手の中に〟誘われてまして」

「その様子だとOKしたんだろう?」

「はい。ですが、今後予選を勝ち抜く中で多分バレてしまうだろうと」

「お前が隠してる殺人を行うための技能をか」

「えぇ。白には知られているので問題はありませんが女性からとしては耐えれる気がありません」


ここで蓮が言ってる殺人技能は相手を殺す前に再起不能にすることだ。

例え動きを封じたとしても何が起こるのが分からないのが現実世界。

何かが起こったときに結果として保護対象が死んでしまう事が無いようにこの技を最初に身につけるのだ。

最早息をするほどまで身近な存在となっているそれは対戦形式の〝真実は手の中に〟では何時使ってしまうか分からない。


使った時に那智や凛に蔑まれた目で見られるのは嫌だからだ。

自分がガーディアンとなるきっかけになった理由でもあるから。


「多分、お前の心配は無用になるとだけ言っておこう。何故なら白にだって同じことが言えるからだ」

「そういえば、そうでしたね。どうやら俺は臆病になっていたようです」


確かに何時かはバレる時が来るだろう、けれどそれは白にもそして対戦相手にも同じことが言える。

何時の間にか過去の事が蓮を臆病にさせていたようだ。そうと分かれば最早気にすることではない。


少し、心に余裕が出来た蓮はここに初めて白が来た事を思い出していた。

彼が所属する警護会社の主な保護対象者が白の親戚関係の会社の社長や取締役達だからだ。

そういう事もあって、そして白自身もどうしようもない事情から殺人の技を身につける必要があったため一時期ここに通っていたのだった。

その当時教官をしていた蓮司以外の人達を倒したのはここのささやかな秘密となっている。


「そうなるまえに自分で言ってしまえ。そうすれば罪悪感も消えちまうだろう」

「そうですね。では、師匠もう一本お願いできますか?」

「だから、師匠はやめろ俺は教官だっつうの」


苦笑いする教官にしっかりと冷静になってから再度勝負をしかける蓮であった。


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