第零話 プロローグ
銃声が鳴り響く、剣のぶつかった音や観客の歓声がフィールドを包み込む。
「悪い。一人逃がした、蓮!」
「ったく。そういうところは昔と変わらないね」
「いいんじゃないかしら。後一人なんだしね。長かったわ本当に」
少年や少女の声が聞こえるのはもちろん外部モニターからだ。今彼らがいるのは第十回〝真実は手の中に〟国際トーナメントの決勝戦。
既に三回優勝しているとはいえこの落ち着きようはどこから来るのだろうか、残り一人となった彼らの対戦相手は考えた。
その考えが一瞬の隙を生んでしまう。もちろんそれを見逃すほど彼らは甘くはない。
「悪いね。これでゲームオーバーだ」
ゴフッと自分の口から大量の血が出ていることを自覚した。
そのまま数メートル吹き飛ばされ自分の体は動かなくなった。
『栄えある第十回トーナメントを優勝したのは、優勝候補No.1 ――――だ!』
「なぁ。あの実況だけは何とかならねぇのか。正直うざいんだが」
「ふふ。全く、その台詞はもう遅いと思うわよ」
「そうだね。これで俺達が参加するのは最後になるのだから」
彼らは何時までも止まない歓声に各々のリアクションで答えていた。
時は一年半前にも遡る。この出会いが無ければ彼らの未来は全く違っているものになってたかもしれなかった。
その日は終業式が終わって五日ぐらい経った、暖かい春の日だった。
「あのさ、アレに出てみないか?」
そんな一言が聞こえたのは、とある進学校の食堂での事だった。
この進学校は文武両道が売りで文のエキスパートや武のエキスパートが教師や講師を務めている。
「白、アレって、まさか〝真実は手の中に〟って奴?」
白と呼ばれた少年はあぁ。と呟く。
「けれど、あれって四人一組みなんだろ? あてはあるのかよ?」
白の周りの雰囲気が変わる、彼に選ばれたとあれば学校にも顔がきくようになるからだ。
雰囲気が変わった事に気づいてるのか気づいていないのか微妙な感じで白は答える。
「そう! そこなんだよ、一人はあてがあるんだが後二人がなぁ」
あぁ、アイツか……みたいな空気が白の周りに流れる。
まぁ、そこは仕方がないという雰囲気も漂う。何故なら二人はある女子の間でどっちが攻めで受けなのかしらという話の登場人物にされるほど仲がいいからだ。
だから、まず一人の席は埋まってる。だが空席はまだ二つある。
そこを狙おうと各々が牽制し合ってる間に後ろから澄んだ声が聞こえた。
「へぇー、神谷君はそういうのに興味あるんだ?」
後ろから声をかけられたにも関わらず、白はウンウンと頷いて見せる。
その様子に周りの男達とってはとんだ所に伏兵が!? みたいな感じである。
それを見ながら彼女――霧崎那智は笑って見せた。
「そっかぁ。なら、私と組まないかしら?」
にこやかに微笑みながら視線を向けてくる那智に白は振り返ってニヤリと笑う。
「へぇ~。霧崎さんもそういうのに興味あるんだ?」
白の瞳にあるのは自分と同じものに何故興味を持ったのかという純粋なもの。
その目をしっかり見据え那智はこう答えた。
「興味もあるし、優勝賞品が目当てと言ったら引くかしら?」
「いやいや、アレは誰もが欲しがるものだろう」
二人が揃ってそうね、そうだなと頷く。
食堂は何時しか静まり返り、二人の次の一言を待っていた。
「もう一度言うわ。私と組まないかしら?」
「いいよ、乗った。メンバーはあと二人必要だがどうする?」
「一人、宛があるわ。そちらは?」
「奇遇だな。俺も一人候補にしてた男子がいるんだ」
「そう。では、今日の放課後第三応対室で待ってるわ」
そう言うと那智は自分が使った食器を持って席を離れた。
その様子を見ていた白の目には面白いことになりそうだという期待で満ち溢れていた。
こうなったら他が何を言っても無駄だろう、と気づいた彼らは各自自分の食器を片付け始めるのだった。
那智の方も足取りは軽い、まさか誘うと決めていた相手が興味を持っているなど予想外だったからだ。
そうでなくても白は多分誘いを断らないだろうと考えてはいたが。
白が選ぶ相手は十中八九彼だろう、この学校で並ぶ者は居ないという格闘技術を持つ彼だ。
何もかも予想通りに事が運ぶ中で自分は彼らの事を駒としか見ていない事に罪悪感を感じる。
けれどこの選択に後悔はない、那智はある目的のため優勝をしなければならないのだから。
この二人の出会いが世界に与える影響を誰もこの時点では分かるはずも無かった。
後に彼らは世界中から注目され、こう呼ばれる事になる。真実を手にした者達と。
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