表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
summer visit  作者: 河野夜兎
3/53

◇悪態と苦笑とKYな姉

(なんか気まずいな…)


 とりあえず出されたアイスコーヒーを無言で飲みながらチラリと彼女に視線だけ向けると、仏頂面でアイスティーに刺さるストローをくわえたまま、じっと厨房内の洋二さんを睨み付けている…。


 そんな視線にひたすら苦笑を浮かべる対面の洋二さんから(助けて欲しい)的な視線が姉に向けられるけど、華麗にスルーされてるし。

 そんな姉はというと、カウンターで彼女の隣に座り「ワクワクしてますよっ!」と謂わんばかりに満面な笑みを浮かべて彼女を見つめている。


「…けど充月君。本当に久しぶりだよね? 身長、何センチ伸びた?」

 沈黙と彼女のガン見に耐えらなくなった洋二さんは、俺に話題を振ってきた。

「…今176センチだから15センチ位は伸びました」

 そう告げてやんわり笑ったら、

「充月の身長なんてどーーでもいいわよっ! ねぇねぇっ! 彼女名前なんていうのっ!」


 姉は待ちきれないというオーラを発して隣の彼女に言葉を発した。


「昨日メールで教えただろ…」

「充月には聞いてない!」

 俺の言葉を即シャットアウトする姉に、すげー理不尽な扱いだなと盛大にため息をつきたくなった。

 そんな俺を見て、洋二さんは(お気の毒様…)と言いたげな苦笑を見せた。



「…(そら)…。進藤蒼(しんどうそら)という名前ですが…」

 彼女――蒼は、ストローを口から放して、照れ隠しにストローの包み紙を指にくるくると巻き付けながら小さくつぶやいた。


「そらちゃんかぁ♪ かわいい名前っ。…で、充月とはどこまでいったの?」

「…姉ちゃん…、マジ頼むからさぁ…」


 俺は姉をジロッと睨み付けて牽制した。


「…昨日は北村と自転車で南町駅前のファミリーレストランまで行ってみました」


(つーか、どこまでいったの意味が違うだろ)と思ったが、姉や洋二さんに慣れるには会話をするのが一番手っ取り早い。だから、とりあえずは黙って聞くことにした。



「それから二軒隣の複合型ショッピングビル内2階にある『遊べる本屋』と称されるヘンテコ雑貨屋のキモカワ老人形と目一杯戯れた後、4階にあるペットショップの隅で北村と向き合いキ…」


 彼女は急に会話を止めて、アイスティーを飲む為にストローをくわえた。


「…キ? …まさか♪ そのペットショップの隅でそらちゃんは充月と…キス?」

 姉の瞳がドキドキと期待で輝きを放つ。


「キンギョを見ました。私と北村は破廉恥な公然猥褻をするような、どヘンタイではありませんので」


 そう告げて洋二さんを再度睨み付けた。


「…蒼、ちょっと言い過ぎ。つーか、さっかからやたら洋二さんに悪態つくのはやめろって」


 これだけ露骨に洋二さんに対する態度が悪いと、さすがにマズいだろうと思った俺は、蒼に少し強い口調を放った。


「……」

 蒼は、口を結んで視線をグラスに落とした。


「…蒼ちゃん…、洋二のことあまり良く思ってない…? ごめんね…初対面なのにあんな場面見せられたらやっぱり…」


 姉は寂しさ混じりの複雑な笑みを浮かべてつぶやいた。


「……」

 そんな姉のつぶやきに反応する気配を見せずに蒼は俯いたまま、アイスティーのグラスを見つめ続けた。

「なんだか申し訳ない…」

 洋二さんも複雑な笑みを浮かべて小さくつぶやいた。



「いや、違うんです。あの…実は、蒼は…」


 俺は蒼の『心の事情』を二人に打ち明けた。 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ