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summer visit  作者: 河野夜兎
25/53

◇目的


「充月、ランチA2つ、6番様ね」

「6番、はい!」


 伝票にレ点チェックを入れてトレイを2つ持ち、6番テーブルへ歩く。

「Aセット、お待たせいたしました」

 向かい合わせて座るカップルに注文の品をだし、そのついでにお客さんが帰ったテーブルの上を片付ける。


 自ら考えて率先して動くではなく、司令塔である姉の指示に従って動く。残念ながら、頭は全く回ってない状態だった。


 周りを見渡す余裕もなく、慌ただしく過ぎるランチタイムをどうにか乗り切る事で精一杯。厨房にいる蒼の顔も殆ど見ないで、瞬く間に時間が過ぎていった。


 客が引いたランチタイム終了の午後1時半過ぎ、テーブルを拭いて「疲れた…」と思わず疲労感が口からこぼれた。

 そんな俺を見て姉は、


「お疲れ様~♪ よく頑張ったね」

 と、労いの言葉をかけるけど…。


(姉ちゃん、あれだけ動いてよく平気だよな…)


 この人、化けモンかよ…。そう思ったら、笑顔が引きつった。


「充月っ♪ 待ちに待ったお昼ごはんだよ~っ♪」


 姉の声も足取りも凄まじく軽やかだ。つーか、飯…あんまり食べる気しねー…。

 そんな疲労感丸出しで、無言半笑いの俺を見て、


「何? 嬉しくないの? お昼ごはん。洋二と蒼ちゃんが作ったごはんだよ!」

「いや…、ほとんど洋二さんが作ったんだろ?」 

 やれやれと苦笑いする俺に、


「あんた…、ほんっといっぱいいっぱいだったんだね…」

 姉は、お気の毒様と言いたげな視線を俺に投げて、

「ごはん、蒼ちゃんが作ってたんだよ。洋二は隣でアドバイスしてただけ」


 この上ないご機嫌な笑みで厨房に視線を流した。

「マジか?」

 つられて俺も厨房に視線を向けたら、蒼が洋二さんを見上げて嬉しそうに何か話しかけてた。


「蒼ちゃんて、料理上手だったんだね♪」

 姉は嬉しそうに声を弾ませた。


「…」

 俺は返答ができなかった。何故なら、蒼が料理上手だなんて知らなかったからだ。俺が知らない蒼に対して思わず眉間にシワが寄ってしまった。


「…充月、もしかして蒼ちゃんが料理できるって事、知らなかったの?」


 俺の表情で姉が察知した。

「…他人の事全て知ってるなんて、あり得ねーし」

 図星をさされた苛立ちから、思わず言うべきじゃない乱雑な言葉が口をついてこぼれた。

「他人とか…。何その冷たい言い方…。彼女なのに他人て…」

 姉はムッとした表情でつぶやいた。

「いや、あの…、違うんだ」

 言葉のあやっていうか、心からそうは思ってないんだってこと、そんな気持ちをうまく伝える言葉を探すけど全然見つからない。

…結局口から出たのは情けなくも「ごめん…」の一言だった。


「充月」

 嫌でも顔が床に下がる。そんな俺に姉は、


「充月は、なんの為にここに来たの?」


 その口調は穏やかだけど、とても強い言葉だった。 

「なんの為にここにいるの?」

(なんの為に…)


 はっとして顔を上げると、姉は、

「本当の目的、ちゃんと思い出せた?」

 ちいさく安堵の息をついて、柔らかな笑みを浮かべた。


「ごめん…。俺…自分の事でいっぱいいっぱいだった…」


 厨房に視線を遣ると、蒼はそわそわとした様子で俺を見つめてた。


「さあ、行こう♪ 彼女の笑顔と、お手製の美味しいごはんが待ってる」


 姉はにしっと笑って俺の肩をポンと叩いた。


「…姉ちゃん、ありがとう」

 つぶやいたら無性に照れ臭くなって、早足でカウンターへと向かった。

 



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