第4話 悲劇の序章
残酷な描写あり。
ザインと武器を購入した翌日。《七色のテラス》総出で迷宮へと向かった。
ここは第25階層の次の階層へ続く階段の手前。団員達の緊張感が凄まじい。
彼等は食事を取り、装備の最終点検や、ルートの確認をしていた。
「いやー長かったなぁ…」
ザインはとても疲れた様子だ。
「ザイン、そんなんで疲れてるんじゃこの先不安だぞ?」
「わーってるよ!」
そんな軽口を叩き合う2人を見て団員達の緊張感が多少緩んだ。
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「よし皆、準備は出来てるか?」
カインの問いかけに団員達は頷く。
「この下の階層第26階層から、休息地帯の第38階層で休息を取り、第50層…下層へと向かう。
パーティは3つに別れ、第一部隊を先頭に第二、第三部隊も10分毎に続いていく。
パーティの隊長はさっき指示した者達だ。絶対に指揮を無視しないように。
最後に、俺もこのクランの団長として精一杯頑張るつもりだ。だからお前達も俺に着いてきて欲しい。」
『はい!』
雄叫びの様な声がこの階層に響く。
「できるか、じゃない。必ず成し遂げるんだ!!
俺達の夢の為に!!行くぞ!お前ら!!」
『うぉーーー!!』
再度雄叫びの様な否、雷鳴が鳴り響いた音程の大きさの声が響いた。
「では第一部隊!俺に続け!!」
第一部隊隊長はカイン。この部隊の前衛を担う。
カイン達が進んだ10分後、
『ヴェン・コレスト』率いる第二部隊が出発し、その10分後ライ率いる第三部隊が出発した。
カイン達は流石は第一部隊といったところか。立ち塞がる下位狼や、オーク達を殲滅していき、縦横無尽に且つ連携の取れた動きでどんどんと進んで行った。
「なあ、カインどうしたんだよ?さっきからなんか変だぞ?そんなに剣を見つめて。魔物の血がこびり付くのは当たり前の事だろ?」
「いや、その…不思議な力を感じる?っていうかなんていうか…」
「団長!今はそんな事を言っている場合ではありません!指揮系統を乱すおつもりですか?」
この部隊の指揮担当の彼女『ノーラ・テリネス』からの叱責が飛ぶ。当たり前だ。指揮系統を乱すと、リスクが高まるのだから。
「そうだな、悪かった。」
謝罪し、いつもの雰囲気に戻る。その様子に部隊の皆は少し安心した。
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ー第30層ー
第一部隊は第三十層へ辿り着いた。この階層には《フロアボス》という魔物の主がおり、10階層毎に存在する。先駆者の情報によると、この階層には『ミノタウロス』という適正ランク5のモンスターが出現するらしい。
だが、このパーティはランク4が4人、ランク3が2人、ランク2が1人というメンツで出来ているため、十分対処出来る存在だ。
カイン達が第三十層に到達する少し前…
ー第28階層ー
第三部隊が着実に攻略を進めていた。第三部隊はランク4が1人、ランク3が4人、ランク2が2人でできている。ランク4のライは的確に部隊の皆に指示を出し、尚且つ自分は前衛で魔物を狩っていた。
「ライさん、次の角を右です。」
その指示に従ったライは角を右へと曲がり…
首だけとなり、床に放置されていた。付近には大量の血がドロドロと流れていた。
『え?』
団員達は固まった。なんせこの中で唯一のレベル4が為す術なくあの一瞬で死亡したからだ。
ライ以外のメンバーはライの3m程後ろを走っていた。そのせいで彼が角を曲がった瞬間どんな魔物に殺害されたのか分からなかった。
────悲鳴すらもでない。その前に全員が命を刈り取られていたからだ。
カイン達はフロアボスのミノタウロスと相対していた。
パーティにはそれぞれ役割がある。テンプレの7人で考えると、前衛アタッカー2人、タンクが1人、後衛アタッカーが2人、回復が1人、指揮が1人。
カイン達はこのテンプレでパーティを構成していた。
前衛アタッカーにカイン、ザイン。
タンクに彼、『ダイル・ガンタ』ランク4
後衛アタッカーに彼女達、
『メイ・ヘラータ』ランク4
『カンナ・シオネルク』ランク3
回復にリア
そして、指揮がノーラだ。
全員がとても連携の取れた動きで、ミノタウロスを圧倒していた。カインがミノタウロスの攻撃の瞬間予備動作の箇所を斬り刻む。その怯んだ瞬間にザインの重い一撃と、後衛アタッカーの《魔術》が飛ぶ。
《魔術》とは空気中の《魔力》を変換する術で、イメージが大切なためイメージを鮮明にするための《詠唱》が必要であり、下から下級、中級、上級、特級と4つの階級に分けられ、より上の級になるほど詠唱が長くなる。魔力は体内にも存在し、人によって魔力量は変わる。
「我らを照らしてくださる四大精霊火の精霊サラマンダーよ、我らに地を溶かす灯火の矢をお貸し下さい。」
メイが持つ杖が光り輝く。
「《ファイア・アロー》!!」
中級魔術ファイア・アロー
メイの杖から火の矢が20本程放たれ、ミノタウロスに直撃した。
『ブモゥ?!』
とても痛いのか暴れ回ろうとする、がカインにアキレス腱を斬られそれを阻止される。動けなくなったミノタウロスに対してザインが走り出す。
「そろそろ使うか」
彼がそう呟くと、急に彼からとてつもないオーラが感じられた。
ミノタウロスもそれを感じ取ったのか、防御の体制に入った。
「ハッ!それで耐えられるかな?」
ザインはミノタウロスの上へと飛び上がり、叫んだ
「《獣の重圧》!!!」
その言葉と同時に彼が持つ斧からとてつもない程の重量をそこにいる全員が感じた。
───勿論それを振り下ろされたミノタウロスも。
「やっぱつえーなその《スキル》」
カインが感嘆したように呟いた。
「確かにつえーけど、一瞬だけっつーデメリットもあるからな」
そう、彼が使った能力は《スキル》
生まれた時から持っている能力である。
魔術が込められている道具の『鑑定の目』という道具を使用すれば、スキル名と効果、《レベル》が判明する。
スキルにも1〜6のレベルが定められている。
例として挙げるならば今回のザインのスキル
《獣の重圧》はレベル2である。
魔人を除く人類は必ず1つだけ持っており、魔人は必ず2つ持っている。
似たような能力を持つ者達はいるが、完全に同じ能力を持つ者達は存在しない。
スキルは《魔力》を使わず、別種の力《異力》を使用しているが、その詳細は解明されていない。
魔力量もそうだが、人によって体内の異力量は変わる。
ミノタウロスを撃破し、雑談を交わしていた彼らだったが────
とんでもない速度でこちらに走ってくる者がいた。
第二部隊隊長のヴェンだ。しかも、大怪我を負っている。
「ヴェン?!その怪我大丈夫か?!それより、部隊の皆はどうした?!」
カインが血相を変えて聞いた。
ヴェンからの答えは聞きたくないものだった。
「皆…みんな死んじまった…抵抗することさえ出来ずに…奴に、奴に!!」
彼はランク4このクラン最大ランクだ。このクラン内のランク4の中では1番弱かったが、それでも十分強者であった彼がこんなにも恐れるような敵が中層に?と全員が驚いた。
「来る、来る…奴が…奴が!!速く、速く逃げよう!!!」
彼は錯乱状態に陥っている。だが、彼が恐れるような敵とフロアボス戦で消耗しま自分達の勝ち目は低いと感じ、全速力で先の階層へと進んだ。
ー第37階層ー
彼等は必死に階層を走っていた。道中のモンスターは過去見た事も無いような速さでカインが斬り刻んでいく。
後4分の1程で第38階層に到着する。そうすれば他の大勢の冒険者達がいるはずなので安全だ。
────だがそうは運命が許さない。
遥か後方から足音がした。過去に類を見ないとんでもない速度でだ。
カンナの中級魔術で全員の移動速度を上昇させているはずなのにそれよりも何倍も早い速度でこちらに向かってくる。
「あと少し、、あと少しなんだ…」
カインがそう呟いた瞬間彼の頬に何かが飛び散った。
「あ?」
彼は困惑した。鮮血だったからだ。しかし自分は怪我を負っていない。ヴェンにも止血を施した。となると一体誰の────
ドシャ
そんな気持ち悪い音が階層に響き渡った。
カンナが四肢と、首をバラバラにされて倒れた。大量の鮮血を流して。
その付近に黒いローブを纏った者が立っていた。素顔はローブでよく見えず、彼が握っている大剣には人間の血液が付着していた。
「あ、アイツだ!俺の部隊の皆を殺したのは!!皆は俺を逃がして団長達に伝える為に、、その為に…!!」
激昂するヴェン
「あ、あう、あ…」
恐怖でその場にへたりこみ、失禁してしまった。リア
「おい…嘘だろ?嘘だと言ってくれよカンナぁ!」
現実を直視しようとしないザイン
(奴は見えている腕からして恐らく人間。でもあんな人間、、少なくとも最上位冒険者レベル、、まさかランク9クラス?!
そんなのどうやって逃げれば…)
焦りながらも冷静に思考するノーラ
「カンナ…え?あ、あああああアアアア!!!
アアアアアアア!!カンナァ!」
カンナの親友だったメイは完全に精神が壊れてしまった。
精神が壊れたメイは魔術を発動する為に詠唱を始めようとし、怒り狂うヴェンはローブの男にその手に握るナイフを振りかぶる。
この中の誰も気付くことさえできないその一瞬でメイと、ヴェンの命は刈り取られた。
ドシャと、ローブの男が無慈悲にも死体を投げ捨てる。
皆が恐怖する最中1つの声が響いた。
「《自己境界》」
その一言と共にとても冷静な様子のカインが皆の前に立ち塞がった。
────カインのスキル《自己境界》
レベル4精神を集中させ、恐怖心や、焦りを完全に遮断することができるスキル。外界からの精神系のスキルを弾く事ができ、冷静な判断力を維持し、パニックを防ぐ。
ただし、これには時間制限が存在し、スキルの熟練度によって時間は変わるが、今のカインだと、10分で途切れてしまう。途切れた瞬間彼は、恐怖で何も出来なくなるだろう。
だが、10分も足止めする事が出来ればザイン達は容易に第38階層に辿り着く事ができる。
────勿論足止めを出来ればの話だが。
「ほらザイン、ノーラと、リアを連れてさっさと行け。俺が絶対行かせねぇから。」
「は?何言ってんだ?それじゃあお前が…」
その先の言葉を話す前に静かに詠唱が響き渡った。
「我らを支えて下さる四大精霊大地の精霊ノームよ。不動の壁を作る大地をお貸しください。」
「カインーーッ!」
ザインが必死にカインの元へ向かおうとするが…
「アース・ウォール」
とても大きく分厚い土壁が迷宮の通路を塞ぎ、ザインを阻む。
だが、そんなものは知らないと言わんばかりに別のルートを探そうと1人で走り出すザインだったが
「辞めなさい!貴方は…貴方は団長の覚悟を無駄にするのですか?!副団長!」
涙声のノーラがそれを制止した。
「でも、でもよう…カインが、カインがぁぁぁ!」
大粒の涙を流すザイン。だが覚悟を決めたのか、リアと、ノーラを担ぎ走り出した。
「待ってろ…待ってろカイン。絶対に応援を呼んでやるからな。」
そう言い残し去っていった。
(ああ、それでいい。)
カインは安心感に包まれた。ザインがこちらに来るのではないかと心配だったからだ。
だがその憂いは晴れた。後は時間の許す限り目の前の敵を足止めするだけだ。
それよりも頭痛が酷い。まるで身体が警報を出しているかのような痛みだ。
「なんでこんな時にいつもの発作が起こるんだよ。」
そう毎度使う度に頭痛に苛まれるのだ。原因は未だ分かっていない。だが、そんな事よりも目の前の敵に集中せねばならない。
一瞬でも気を抜いたら死────
そう考えていた瞬間、反射的に剣を前に出しローブの敵の大剣を受け止めた。
(なんつー力だ、、さっきのミノタウロスの比じゃねぇぞ?!)
1度剣の交差を解除し、カインは守りの体制へと入る。そんなカインにローブの敵は大剣で襲い掛かる。
剣を凌ぐ度、どんどん自分が後ろの土壁の方へと押されていく。カインが耐えられている理由は、頭は冷静なのでいつもより、技量が冴え渡っているからだ。
このスキルを使用した際のカインのランクはランク6に匹敵する。
だが、それでもローブの敵には絶対に勝てないはずだった。それ程のランク差が開いているからだ。
(なんだ…?この力、レベル8に匹敵するくらいじゃないか?)
そう、それ程までにカインが強くなっていた。その原因は───
(この剣、『ファトゥム』が力を貸してくれている…のか?さっきまで感じられなかったとんでもない力を感じる。なんでだ?なんでさっきは感じられなかった?)
長考の末辿り着いた結論は
(まさかこの剣に精神系のスキルがかけられていて、俺のスキルで無効化した…?)
そう結論づけた。そうとしか考えられないからだ。だが、その力のおかげで大剣を凌ぐ事はできていたので良しとした。
しかし、そんな力を持ってしても押されていた。しかも相手は力だけで押しているだけで、技量はあまり見せない。
(恐らくこの人が本気を出したら俺はとっくに死んでいる。そうしないのは何故なんだ…?)
思考しながらも敵を相手に剣を交わし続ける。
(後、30秒ってとこか)
満身創痍のカインが必死に思考する。
(あいつらは辿り着けたかな?でもなんでこいつは俺だけに本気を出さないんだ?)
しかしそう考えていたのも束の間。ローブの敵の様子が代わり、力に技量が加わった。その技量によりカインは、ファトゥムを落としてしまった。その瞬間運悪く、スキルの効果時間に達してしまった。
「いやだ…俺にはやり遂げなければならない夢があるんだ!」
敵に恐怖しながらも逃げようとするが、自分が設置した土壁に逃げ道を阻まれる。
(ああ、そうかこれで俺の物語も終わりか、、くっそ夢、達成出来なかったなぁ)
心で嘆くカインに無慈悲にもローブの敵は大剣を振りかぶる。
そしてカインの頭に大剣が振り落とされ、彼は死亡した────
──かに思われた。その刹那懐かしい香りがし、白い髪をたなびかせた美しい女性が目の前に現れ、
大剣とレイピアが交差する音が階層に鳴り響いた。
「そこの君、大丈夫?」
そう声をかけてくれたのは、、
「…!貴方は…《白剣姫》…メルダ・ディンス?」
「…そう、君の友達に言われて助けにきたの」
────カインの物語はまだここでは終わらないようだ。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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