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【連載版】聖女ですがヒマなので、ギルド受付嬢もやってます。  作者: クサバノカゲ


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02:残業は大歓迎です。

 その大振りの片手戦斧(ワンハンドアクス)は、黒鋼の刃から持ち手まで流れるような曲線の一体成型で、おそらくドワーフの名工の手によるものだろう。


「これは……業物(わざもの)ですね……」

「そうなの? 由来はよく分からないんだけど」


 手入れもしっかり行き届いていて、大切に受け継がれてきたことがよくわかった。刃の側面に刻まれた無数の傷は、盾としても持ち主の身を守ってきたことを物語っている。


「西のギルドじゃ『ただ無駄に古いだけ』とか言われてさ……」


 ライザの不満げな声を聞きながら、指先で触れた表面をそっとなぞっていく。

 確かに、特別な力は宿っていなかった。付与された魔効(スキル)の良し悪しが重視される魔力鑑定において、西の鑑定結果に誤りはない。

 それでも、この斧は世代を超え受け継がれてきた。


「いいえ。その古さこそ、代えがたい価値です」

 

 指先から伝わるのは、幾重にも連なる戦士たちの誇りと、我が子よ強くあれという願い。

 願いとは、すなわち祈り。それが力になり得ることを、私は知っている。


 ──どうか、彼女(ライザ)を守って。


「つまり、鑑定結果は変わらずか」


 無言でうなずいて、手を離す私。


「でも、なんだかすっきりした。ありがとセシル、あんたに鑑定してもらえて良かった」


 ライザは笑顔で斧を持ち上げ、そして少し首を傾げながら軽く振る。


「なんか、ちょっと軽くなったような」

「気のせいですよ」

「だよね。じゃあ、行ってくる!」


 斧を肩に担ぐと、彼女は窓口に背を向けた。

 見ればギルド内には冒険者の姿が増えはじめている。お天気も良いし、今日も忙しくなりそう。これはまた残業かな? そう思うと、つい口元がにやける。


 ──そうして目まぐるしい一日に追い立てられて、気付けば夜の帳が下りていた。


 もうすぐギルドの閉業時間だ。両隣に「別の窓口をご利用ください」の札が鎮座するカウンターで、受付嬢は私一人だけ。


「こんばんはセシル! 今日も残業かい?」


 明るい声と共にカウンターに乗り上げる胸部装甲。ライザだった。私は、ほっと胸を撫でおろす。今日期限の依頼で未帰還なのは、彼女だけだったから。


「ええ。いちおう別のお仕事もあるのだけど、そっちはほとんど収入ないから」

「ふうん、慈善事業(ボランティア)みたいな?」

「そんな感じです。家も古くなってきて老後とか不安だし、稼げるときに稼いでおきたいから、残業は大歓迎なの」

「じゃあ、こんど市場でメシでも奢るよ。いつも世話になってるし」


 にっこり笑って彼女は、谷間の奥から取り出した依頼書をばんとカウンターに叩きつける。下部にはしっかり依頼主のサインが記入されていた。


「今日の依頼も上手く行ったみたいですね」

「いやあ、そうでもなくてさ。ゴブリンども、劣勢になったらオーガなんか連れ出してきて」

「え、オーガ!?」


 それが朝の嫌な予感の正体か。オーガと言えば凄まじい強靭さ(タフネス)で知られ、中級以下の冒険者ならパーティー壊滅さえ有り得る強敵だ。


「ああ。さすがに一人じゃヤバいと思ったけど、今日はやたら急所撃ち(クリティカル)が決まりまくりで、なんとかなった。よっぽど運の良い日だったのか、それとも……」


 そこで彼女は少し不思議そうに問いかける。


「もしかして武器鑑定のとき、何かした?」


 肩に担がれた斧の側面に、朝は無かった大きめの傷がひとつ、増えている気がした。


「ええ。ライザさんをお守りください、ってお祈り(・・・)しましたよ」

「そっか、ありがとう。でもお祈りは自分でも毎朝やってるしなあ……それじゃ、まるで……」


 差し出した報酬の銀貨を受け取りながら、ふと彼女は私の顔をまじまじと覗き込んだ。


「──そういえば、前から思ってたんだけどさ」

「はい?」

「セシルってなんとなく聖女様に似てるよね?」


 彼女は真顔で問いかけてきた。


「……えっ? いや、そんなことは……」

「その白い肌も澄んだ声も。白金(プラチナ)のポニーテールだって、ほどいてストレートにしたらそっくりだし……」

「でも、聖女の素顔は見たことないでしょう?」

「たしかに聖女様のお顔はヴェールで見えないけど、きっとセシルみたいに優しい蒼い目の清楚美人だと思うんだ。うん絶対そう!」


 褒めてくれるのは嬉しいし、思わず頬が熱くなってしまうけど、彼女は金貨を受け取ったまま私の手をぎゅっと握って離してくれない。琥珀色の瞳がきれいで、絡み合った視線を逸らせない。


「ねえセシル……。教えて、あなた本当は聖女様……」


 アマゾネスには人の嘘を見破る能力があるという。魔法ではなく、相手の脈拍や目の動きから心を読み取るのだとか。

 すべて見透かすようなその瞳に見詰められ、私はゴクリと唾を飲み込んでいた。


「……の妹さんでしょ?」


 …………。


「いえ、違います」

「えっ違うの!? あ、じゃあお姉ちゃん? それとも従姉妹(いとこ)とかそのへん?」

「どっちも違いますって」

「えー、そっかー気のせいかー……」


 東のギルドはここ最近、初心者向けのお遊び(エンジョイ)ギルドなどと一部の冒険者からバカにされている。

 ぬるい依頼が集まると言われる理由は、他のギルドより依頼の達成率と冒険者の生還率が、なぜか(・・・)妙に高いせいらしい。


「ほら、もう窓口閉めますよ?」

「はーい。じゃあ明日もよろしくね」


 さて、これにて本日の窓口業務は終了。もちろん残業分の時間外手当はきっちりしっかり請求する。──もうそろそろ、我が家(・・・)の雨漏りを直せそうだ。

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