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【連載版】セシルのおしごと 〜聖女ですがヒマなので、ギルド受付嬢もやってます〜  作者: クサバノカゲ


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1/3

01:受付嬢の朝は早い。

 ──ギルド受付嬢の朝は早い。


「おはよう、セシル! なんか美味しい依頼ない?」


 開業を告げるベルとほぼ同時に、受付カウンターに乗り上げる勢いで問いかける褐色肌の長身美女は、アマゾネス族の戦士ライザ。


「おはようございます。今日も早いですね」


 勢いだけでなく、一族の誇りだというビキニアーマーの胸部装甲もででん(・・・)とカウンターに乗り上げているから、隣の窓口に並ぶ生真面目そうな若い剣士の目が泳ぎまくっている。


「うん。大聖堂で聖女様の朝の礼拝(おいのり)に参加してから、市場の露店で朝メシ食べると、ちょうどこの時間ってわけ」


 うなずきながら自慢気に話す彼女の背で、一本に編み上げた長い赤髪が揺れる。彼女たちアマゾネスは、その露出度(みため)に寄らずとても信心深い。


「でも、最近は礼拝もガラガラでしょう? 大聖堂は老朽化で雨漏りするくらいだし、聖女もおヒマなんじゃ……」


 近年になって魔法の研究が一気に進み、代わりに女神を(まつ)る宗教はすっかり衰退していた。

 たいていの傷は治癒魔法で回復できるし、安くてよく効く魔法薬(ポーション)もギルドの売店で手に入る。信仰心もお祈りも必要ないのだ。


「んー、神話では女神さまが、奴隷だったウチらの一族を解放したことになってるしー。……まあそれは置いといて、どうなの?」

「はいはい、美味しい依頼ですよね。ちょっと待って」


 この王都では、東西南北の四か所に冒険者ギルドが設置されている。私の勤める東ギルドは大聖堂のすぐ隣で、目の前には活気あふれる市場が広がる。

 なお四つのギルドの大元は同じ組織で、すべての依頼はいちど中央本部に集められ、翌朝に各ギルドへ平等に再分配される。だから基本的に、朝早いほうが依頼の選択肢は拡がる。


「……中央街道にまたゴブリンが出たので、日帰りで荷馬車護衛の依頼があります。上級ランクのライザさんなら単独(ソロ)で受注できますよ」


 依頼書の束をペラペラめくり、一枚を眼前にそびえる褐色の谷間に向けて差し出す。それ(・・)も平等に再分配されないかしらという想いを、慎ましい胸の内に飲み込みながら。


「わ、いいじゃない! ゴブリンなら楽勝だし報酬も相場以上だし。……あ、でも……」


 依頼書を片手にテンション高めの彼女は、途中で急に凛々しい眉を寄せ口ごもった。


「いいのかな。最近いろいろ言われてるんでしょ? ウチはもうちょい上のでも行けるよ」


 たしかに東ギルドはここ最近、一部の冒険者から初心者向けのお遊び(エンジョイ)ギルドとバカにされていた。彼女が気にしているのはその件だろう。

 いわく、東はぬるい(・・・)依頼が多いとかなんとか。でも依頼書は平等に再分配されているので、そんなことはありえない。


「ううん、だいじょうぶです。あんな流言(デマ)は気にしないで」

「そ? じゃあ、遠慮なく美味しくいただきます!」


 彼女は満面の笑みで依頼書を折りたたみ谷間の奥に押し込むと、カウンターに背を向ける。


「あ……待って、ライザさん」

「うん? どうかした?」


 ──ふと嫌な予感がして、私は彼女の褐色の背中を呼び止めていた。


 ギルドの受付嬢なんて気楽な仕事だと言われる。

 危険な現場に冒険者を送り込んでおいて、自分たちはずっと安全なカウンターの中にいる。制服の白いブラウスを着てニコニコしてればいいだけだと。


 確かに、そういう一面もあるだろう。実際、腰掛け感覚で受付嬢になる子もいる。

 けれど、この手で渡した依頼書が、彼らの命を奪う切っ掛けにもなり得るのだ。それでも私たちにできることはない。ただ、無事を祈って帰りを待つしかない。


 ──それは、決して気楽なことじゃない。


 ギルドの受付嬢に若い子が多いのは、そのほとんどが一年も経たず辞めていくからだという。

 十九歳ではじめた私は、もうすぐ丸一年になる。


「こないだ、武器を再鑑定したいって言ってたじゃないですか」

「ああ! そうだった」


 彼女は自身の武器をカウンターの上にどん(・・)と置いた。


「ホラ、こいつがウチらの一族に代々伝わる戦士の斧だよ」

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