01:受付嬢の朝は早い。
──ギルド受付嬢の朝は早い。
「おはよう、セシル! なんか美味しい依頼ない?」
開業を告げるベルとほぼ同時に、受付カウンターに乗り上げる勢いで問いかける褐色肌の長身美女は、アマゾネス族の戦士ライザ。
「おはようございます。今日も早いですね」
勢いだけでなく、一族の誇りだというビキニアーマーの胸部装甲もででんとカウンターに乗り上げているから、隣の窓口に並ぶ生真面目そうな若い剣士の目が泳ぎまくっている。
「うん。大聖堂で聖女様の朝の礼拝に参加してから、市場の露店で朝メシ食べると、ちょうどこの時間ってわけ」
うなずきながら自慢気に話す彼女の背で、一本に編み上げた長い赤髪が揺れる。彼女たちアマゾネスは、その露出度に寄らずとても信心深い。
「でも、最近は礼拝もガラガラでしょう? 大聖堂は老朽化で雨漏りするくらいだし、聖女もおヒマなんじゃ……」
近年になって魔法の研究が一気に進み、代わりに女神を祀る宗教はすっかり衰退していた。
たいていの傷は治癒魔法で回復できるし、安くてよく効く魔法薬もギルドの売店で手に入る。信仰心もお祈りも必要ないのだ。
「んー、神話では女神さまが、奴隷だったウチらの一族を解放したことになってるしー。……まあそれは置いといて、どうなの?」
「はいはい、美味しい依頼ですよね。ちょっと待って」
この王都では、東西南北の四か所に冒険者ギルドが設置されている。私の勤める東ギルドは大聖堂のすぐ隣で、目の前には活気あふれる市場が広がる。
なお四つのギルドの大元は同じ組織で、すべての依頼はいちど中央本部に集められ、翌朝に各ギルドへ平等に再分配される。だから基本的に、朝早いほうが依頼の選択肢は拡がる。
「……中央街道にまたゴブリンが出たので、日帰りで荷馬車護衛の依頼があります。上級ランクのライザさんなら単独で受注できますよ」
依頼書の束をペラペラめくり、一枚を眼前にそびえる褐色の谷間に向けて差し出す。それも平等に再分配されないかしらという想いを、慎ましい胸の内に飲み込みながら。
「わ、いいじゃない! ゴブリンなら楽勝だし報酬も相場以上だし。……あ、でも……」
依頼書を片手にテンション高めの彼女は、途中で急に凛々しい眉を寄せ口ごもった。
「いいのかな。最近いろいろ言われてるんでしょ? ウチはもうちょい上のでも行けるよ」
たしかに東ギルドはここ最近、一部の冒険者から初心者向けのお遊びギルドとバカにされていた。彼女が気にしているのはその件だろう。
いわく、東はぬるい依頼が多いとかなんとか。でも依頼書は平等に再分配されているので、そんなことはありえない。
「ううん、だいじょうぶです。あんな流言は気にしないで」
「そ? じゃあ、遠慮なく美味しくいただきます!」
彼女は満面の笑みで依頼書を折りたたみ谷間の奥に押し込むと、カウンターに背を向ける。
「あ……待って、ライザさん」
「うん? どうかした?」
──ふと嫌な予感がして、私は彼女の褐色の背中を呼び止めていた。
ギルドの受付嬢なんて気楽な仕事だと言われる。
危険な現場に冒険者を送り込んでおいて、自分たちはずっと安全なカウンターの中にいる。制服の白いブラウスを着てニコニコしてればいいだけだと。
確かに、そういう一面もあるだろう。実際、腰掛け感覚で受付嬢になる子もいる。
けれど、この手で渡した依頼書が、彼らの命を奪う切っ掛けにもなり得るのだ。それでも私たちにできることはない。ただ、無事を祈って帰りを待つしかない。
──それは、決して気楽なことじゃない。
ギルドの受付嬢に若い子が多いのは、そのほとんどが一年も経たず辞めていくからだという。
十九歳ではじめた私は、もうすぐ丸一年になる。
「こないだ、武器を再鑑定したいって言ってたじゃないですか」
「ああ! そうだった」
彼女は自身の武器をカウンターの上にどんと置いた。
「ホラ、こいつがウチらの一族に代々伝わる戦士の斧だよ」




