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快楽狂と白竜の国  作者: 木太刀秋步
2章 王都
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2-2 怪しい男

 ヨルカル国の守護竜が行方不明になって数十年。魔物の活性化は止まることを知らず、今まで安全だった道のりも決してそうとは言えなくなっていた。

 王都への道中では多種多様な魔物が陸から空から森の中から絶えまなく襲い掛かってきており、魔物と戦いなれているシエナはともかく、マリアは疲労困憊となっていた。

 王都に着くころには使い物にならなくなり、結局シエナだけが護衛任務を完遂した。

 無事子どもたちを宿屋まで送り届けたシエナは、馬車の奥で涎を垂らして寝ているマリアの胸を鷲掴みにする。

「おい。着いたぞ降りろ。馬車が片付けれんだろうが。」

「ギニャアアアアアア‼敵ですか⁉加勢しますう!」

「もう着いたって言ってんだろうが。」

 寝ぼけているマリアを叩き起こし、御者に全員下車した事を伝えると馬車は王都の南方面へと走り去って行った。南には討伐ギルド第一支部があるため、そこに馬車を置かせてもらうのだ。

「さてと、仕事も終わったし自由行動だな。お前はどうすんだ?」

「えーと、特に行く場所は無いですね。一人で行動するのは怖いので、シエナさんに付いていくか宿屋でゆっくりするつもりです。」

「そうかい。んじゃ丁度いいや。今から会う予定の奴がいるからお前もついてこい。」

「…シエナさんの知人…ですか?」

「あ?なんか文句あんのか?」

「いえ!大丈夫です!お供します!」

 マリアはシエナの言葉に警戒しつつも断ったところで無駄なことは分かっているので、大人しく後ろを付いていった。


 王都の中心に向かって歩くこと一時間。周りの風景はどんどんと洗練された物になっていく。さすがは国の最重要都市。先日鼠退治で行った町よりも道幅は広く、人や建物も桁違いに多い。石を均等に並べて舗装された道路は、田舎者のマリアにとってはそれだけで芸術作品のように見えた。

 てっきり怪しい場所に連れていかれると思っていたマリアだったが、連れてこられたのはお洒落なカフェだった。シエナは外に置かれたテーブルに腰を落ち着けると、隣に座ってくるように促してくる。

 言われた通りにマリアが隣に座ると、すぐに男性の店員がやって来た。

「いらっしゃいませ。ご注文をお伺いします。」

「あ、シエナさんどうします?」

「っち男の店員かよ。…コーヒーでいいぞ。後は軽くなんか食べたい。」

「あ、じゃあコーヒー二杯とこのハムサンドを二つお願いします。」

「かしこまりました。少々お待ちください。」

 しばらくすると、注文した料理が運ばれてきた。田舎の喫茶店とは違い食器には洒落たデザインが施され見る目に美しい。サンドイッチも綺麗な色の薄いハムが幾層にも重ねられ、新鮮な野菜がそれに彩りを添えている。ぶ厚いハムだけが自慢のギルドのサンドとはえらい違いだ。なにやらパンの色見まで違って見えてくる。味も雰囲気が相まってか、とてもデリシャスだ。

 マリアがうっとりとした気分で食事を終えコーヒーを飲んでいると、シエナが誰かを見つけて手を振った。

 その先には身長の低い猫背の男がおり、シエナに気づくと、こちらに向かってきた。

 仕立ての良い貴族服を着こみ小綺麗にはしているが、顔がはっきりと見えてくると詐欺師っぽく見えなくもない。

 ひどく出っ歯で、鼻は大きく、髪の毛も薄い。というより頭頂部は禿げあがっている。一言で言うなら鼠のような男と言えば良いか。

「キヒヒ。シエナさんお久しぶりですねぇ。ようやく見つけましたよぉ?」

「いつものカフェでって手紙で書いてただろうが。ちゃんと読んでないのか?」

「いやぁ、いつものって書いてあったので前に会ったカフェかと思いまして。」

 男は禿げた頭頂部を笑いながら掻いた。

「ああ、そういうことか。次からは店名で書くわ。」

「そうして頂けると助かりますねぇ。…おや?そちらの方は?」

「あ、マリア=ハーベルと言います。」

 今まで蚊帳の外だったマリアだが、話を振られ慌てて名乗った。

「ああ、ようやく手に入れたアタシのペットだ。」

「ペットじゃないですう‼」

 シエナの言葉に男はおやおやと首を振ったが、気を取り直してマリアに自己紹介をする。

「キヒ。まあペットの話は置いておくとして。私はドメイク=チュウチュスと申します。公爵としてこのヨルカル国で政治家として働いております。以後お見知りおきを。」

「え‼公爵の方なんですかぁ!」

 ドメイクのまさかの発言にマリアは驚いた。てっきりシエナの知り合いなので闇商人かなにかかと思っていたのだ。

「おい顔に出てんぞ。アタシの知人をなんだと思ってるんだ。」

「あば!すいません。」

「キヒヒ。お気になさらず。そのような扱いは慣れている故。」

「あばばばば!すいませんん!」

 恐縮するマリアを笑顔で慰め、ドメイクは本題を切り出した。

「さて、シエナさん。私を呼んだ理由をお聞かせ願えますか?今は王と竜の件で忙しい身。なるべく早く済ませて欲しいのですが。」

「ああ、悪いね。少し聞きたいことがあってさ。」

 シエナは悪びれもせず腕を組むと、一つ質問をした。

「今回ガキ集めてるだろ?あれの目的を教えろ」

「え?」

 シエナの質問にマリアは首を傾げた。シエナは民兵調査のためだと言っていたからだ。

 ドメイクはニタニタしながら答える。

「子どもたちの健康調査ですよ。最近はレング病が流行り始めていますからね。」

「馬鹿にすんなハゲ。目的は健康調査じゃないのは分かってんだよ。そもそも流行り病の調査で王都に全国から人集めるわけねーだろ。王都に病気を持ち込むとか国家反逆だろ。」

「キヒャ。流石に分かっていましたか。」

 ドメイクは短く笑うと、店員にコーヒーを注文して、机に両肘を付いた。

「それで、子どもたちを集める理由ですね。…民兵調査と言ったら?」

「それもあるだろうが、まだなんかあるかなって思ったんだよ。」

「キヒヒ。相変わらず鋭いですねぇ」

 ドメイクは諦めた顔でシエナに小声でささやくようにしゃべった。

「チャイカルヤードなる女性に関与している子どもを探しているそうです。」

「ちゃいかるやんど?長い名前の女性ですね?」

「馬鹿巨乳!声がでけぇ!聞かれたらどうすんだ!」

「へぶっ!すいません!」

 シエナはマリアの後頭部を叩いて黙らせた後、ため息を吐きながら話の続きをする。

「その名前…この国の女じゃねぇな?」

 ヨルカル王国では、王族以外の名前は5音までと決まっている。そのため、名前が5音以上の時点でこの国では王族か別の国の人間ということになる。それを知らないマリアは首を傾げた。

「え?どうしてです?」

「お前、もう黙ってろ。」

「ひどい!」

「キヒヒ。まあ、健康診断中のどこかで関連する質問があるかもしれませんな。私は直接かかわっていないのでどういう形式で情報を収集するか分かりませんが。」

「いや、そこまで聞ければ上々だ。その女のことはこっちで調べさせてもらうぜ。」

「あまり目立たぬよう。」

「わーってるよ。あともう一つ。」

 終わったと思い、席を立とうとしたドメイクにシエナは人差し指を立てて牽制した。ドメイクはやれやれと首を振って席に座ってコーヒーをズズゥっとすする。

「最近、竜の巫女が変わったらしいじゃないか。聞くところによるとまだ九歳で、とても可愛らしいと聞いている。」

「キヒ。なるほど。会わせろと?」

「話が早くて助かるぜぇ。どうにかして会わせてくんねぇかな?」

「全く。忙しい時だと言うのに相変わらずですねぇ。噂の女の子に会いたいがために多忙の私を呼び出しますかねぇ…。」

「白竜関連の情報も知っときたいんだ。流石にお前じゃわかんないだろ。」

「そりゃそうですが。竜の情報はほぼ竜官庁が管理していますからね。…言っておきますけど、私の立場では竜の巫女は連れ出せませんよ。」

 竜の巫女は守護竜を呼び出すことが出来る唯一の存在だ。故に王と同等に扱われることが多い。公爵風情に呼び出せる人物ではなかった。

「えー。天下のドメイクさんでもダメなんすかー?」

「キヒ。まあ、呼び出せませんが、会うことは可能ですよ。」

「お⁉マジで⁉」

 シエナはガタッと前のめりに立ち上がり、前に座るドメイクへ顔を近づけた。

「はい。竜の巫女が三日に一度行う瞑想の儀をご存じですかな?その時にフードを被って街中を歩き回っておられますよ。最近はここら辺の商業広場がお気に入りのようです。」

「え?なんで瞑想をしなければならない巫女様が城下におられるのですか?」

 マリアはドメイクの情報に疑問を投げかけた。瞑想の儀とは、竜との交信の精度を維持させる為、専用の部屋に一人で籠り瞑想を行う儀式だ。そんな重要な儀式の最中に当の巫女様が外に出ているのはおかしい。

「ええ。瞑想の儀は儀式部屋で『原則、巫女様が一人で行う儀式』ですので…。」

「なるほど儀式の間なら教会から抜け出せるんですね。」

「そういうことです。ちなみにこれは歴代の巫女様も行っていました。流石に現巫女様のように頻繁ではありませんが。」

 ドメイクは口元に手を当ててキヒヒと笑った。

「なるほどな。じゃあここら辺を探してたら会えるかもしれねーんだな?」

「はい。丁度今の時間がそうですぞ。運がいいですなぁ。」

「ああ、女運は良いんだアタシ。ってかお前はなんで巫女が抜け出してんの知ってんだ?」

「キヒヒ。情報はいくらあっても良いですぞ。もしかしたら巫女様を揺さぶる武器になるやもしれませんしな。」

「相変わらず考え方がセコイなネズ公。」

 ドメイクはその言葉に軽く笑うと、もう話は終わったとばかりに席を立った。今は本当に忙しいらしい。

 ドメイクの姿が人ごみに紛れて見えなくなるとシエナも立ち上がり『ウーン。』と伸びをした。

「さてと、マリア。手分けして巫女探すぞ。アタシはあっち、お前は反対側から探せ。」

「はい。…でも私は巫女様の容姿を知らないのですがどうすれば。」

「フード被ってる幼女なんてそうそういないだろ。取りあえずそれっぽい奴に声かけろ。」

「うええ。違ったらどうするんですかぁ。」

「知らん。その時は自分で対処しろ。じゃあな。一時間後にここに集合だ。巫女連れてなかったら今日の夜は覚悟しとけよ?」

「ひええええ!そんなぁ!」

 シエナは会計を済ませると、そのままスタスタと商業広場の東側へと歩いて行った。マリアも平和な夜を得るために西側へと走って行った。


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