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快楽狂と白竜の国  作者: 木太刀秋步
2章 王都
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2-1 王都からの招集

 窓からの日差しが容赦なくマリアの顔を焼く。

「…んぅぅぅぅぅぅうう。」

 まだ眠っていたマリアは日差しから逃げるように仰向けから横向きに寝返るが、別の窓からもたっぷりの日が降り注ぎ、目を瞑っていてもどんどん脳が覚醒していってしまう。

「あふう…眠気がぁぁぁぁ…。」

 昨晩からシエナと『寝ていた』マリアは、睡眠不足と疲労感でなかなか起きられない。だがもう随分と日は高い。やっと眠らせて貰えたのが朝方とはいえ、二度寝するわけにはいかない。

 まだ寝ていたいという気持ちのまま、ゆっくりとベッドから出ると台所に行き、置いてある水瓶から桶に水を取り、顔を洗って意識を鮮明にさせていく。

 後ろにある四人掛テーブルの上を見るとサンドイッチとメモが置かれていた。

メモには『これを食ってさっさとギルドに来いノロマ』とシエナの字で書かれている。

 シエナが新種の魔物を絶滅させてから十日。約束は守られ、魔物は発見されなかったことになっている。

 そして今マリアが住んでいる家はシエナの『三つ目の家』だ。少し広めの台所と、寝るための部屋が一つ。あとはトイレと浴室だけの小さな建物だが生活に必要なものは揃っており、掃除などは通いのお手伝いさんがやってくれる。

 シエナに会う前のマリアは、住む所もお金もなく、内緒でギルドの倉庫で寝起きしていたのだから今の生活は夢のようだ。シエナが泊まった時にだけ用意されている朝食は、家主のいる時にだけお手伝いさんが準備しているのだと思っていたが、シエナが作ってくれていたのだと最近気がついた。

 朝食を済ませ、身支度を整えて外に出ようとすると、初老の女性が入ってきた。

「あら、マリアちゃん。今日はちゃんと起きれたのね。今からお出かけ?」

「はい。ギルドに行ってきます。お掃除お願いしますね。」

「はーい。ギルドってことは魔物退治ね?気を付けるんだよ。」

「ありがとうございます。行ってきます。」

 部屋に入ってきたのはシエナが雇っているお手伝いさんだ。昼から夕方までに三つあるシエナの家の掃除と食料や水などの補充を行ってくれている。

 お手伝いさんとの短いやり取りを終え、マリアは急いでギルドへと向かった。シエナを待たせているという事もあるが、これ以上遅れるとマリアが受注できそうな簡単な依頼がなくなってしまうからだ。

 ギルドにたどり着いたマリアは受付カウンターに向かった。そこではシエナとウェルナーが話しをしていた。

「シエナ?あなた本当に新種を見つけていないのよね?」

「おいおい。これで何回目だよウェル。上層部とも話してこの件はカタがついてるだろ?」

「カタが付いたんじゃなくて、あなたが『これ以上の言及をしたら第二支部をやめる』って脅して話を打ち切ったんでしょうが。」

「ッハ。この程度の揺さぶりで折れるあいつらが悪い。どちらにせよ派遣部隊が新種を見つけられてないんだ。今のところアタシが嘘を吐いていても証明できないだろ?」

「はあ。そんな危険な嘘を吐くメリットはなんなの?」

 ウェルはため息を吐きながら、カウンターに頬杖をついた。

「嘘じゃねぇって言ってんじゃん。」

「お二人ともおはようございます。」

「あ?おせぇよ。いつまで寝てんだ。胸揉むぞ?」

「遅かったのはシエナさんのせいですよ!朝方までいろいろせずに寝てください!」

 マリアは肩を怒らせてシエナに顔を近づけた。それに対してシエナは半眼で睨みつける。

「あ?じゃあお前あの家から出て行け。」

「嘘です。これからもよろしくお願いします。」

「うへへ。いい子だ。」

「…なるほどね…大体理解したわ。」

 ウェルは二人の様子を見て、嘘をついた理由を察するとため息を吐いた。不可解なシエナの行動を心配して色々と気を揉んでいたのがバカバカしくなってしまう。


挿絵(By みてみん)


「マリアさん命拾いしたわね。」

「うえええ⁉あの…そうで…むぐぅっ」

「おい。無駄に口開くな馬鹿。」

「口止めしなくても大丈夫よ。だからマリアちゃんの口から手を離しなさい。」

「あいよ。」

「ぷへっ!シエナさん!塞ぐにしても指で挟むことないじゃないですか!痛いですう!」

「うっせぇよノロマ。」

 二人が睨み合いを始め、一触即発の雰囲気が出てきたところでウェルがパンっと手を叩いて、二人の気を引いた。

「さて、言い争いは終わり。それより二人に渡しておきたいものがあるの。」

「はい?なんでしょう?」

「金か?」

「違うわ。これよ。」

 ウェルはカウンターの引き出しから手紙を取り出すと二人に渡した、

「手紙かよ。アタシ宛てのやつはロクなのねぇからいらないんだけど。」

「でも私にもありますよ?」

「今回は王都からよ。目を通してちょうだい。」

「王都からとか尚更じゃないか。」

 シエナは渋々手紙を読み始めた。わざわざ王都から送られてきたのだ。まさか季節のご挨拶という事はないだろう。読まないという訳にはいかない。

 手紙には、10~18歳の国民は全員王都に来いと書いてあった。ご親切にも王都から遠い地方にいる者はこの手紙と本人証明できるものがあれば移動費と宿泊費まで負担してくれるという。

「…子どもたちの健康診断が目的と書いてありますね。未来を考えたいい政策だと思います!」

「馬鹿かお前。そんなわけないだろ。」

「そんなにバカバカ言わないでください!じゃあ、これは何が目的の手紙なんですか!」

「民兵にするための調査に決まってんだろ。」

「え?」

「魔物の土地汚染に帝国からの侵略。もうすでに正規兵と義勇兵では足らずに、19以上の男は軒並み徴兵されている状況だぞ?それしかないだろ」

 魔樹棒を吸い始めていたシエナがいう通り、すでにヨルカル王国は内外共にパンク状態であり、財政にも余裕はない。そんな状況で悠長に子供たちを呼び寄せて健康診断をする余裕はないのだ。

 口を開けて放心するマリアにウェルナーも追い打ちをかける。

「噂だとスラム街に住んでいる子たちも集めてるみたいだし間違いなさそうね。女性も対象なのは男だけだと勘づく人たちがいるからじゃないかしら?」

「…だから私にも来たんですね。確かに健康調査のためだけにこの大掛かりな準備はおかしいですもんね…。」

「まあ、若者の健康をとやかく言う前に、王の健康をなんとかしろって言いたいけどな。」

「こらシエナ!」

 うつむいて残念そうな顔で納得するマリアをよそにシエナは愉快そうな顔をして大声で笑った。そんなシエナの頭をウェルナーは軽く小突く。

 ヨルカルの王は数年前から病に伏しており、先は長くないと言われている。

 さらに王には世継ぎがおらず、このままでは王位継承関連の内紛が起こりかねない状況となっており、白竜の捜索と並行して大きな問題となっていた。

「まあ、とにかくここら辺の地域に住む対象者は四日後までに王都に行かなきゃいけないから、明日には出発しないといけないわね。」

「ッチ面倒くせぇな。金にもならねぇのに行きたかねぇよ。」

「そういうと思って、これを用意したわ。」

 ウェルはそう言うと二人に紙を渡した。

「あ、私にもですか?」

「依頼書?ウェルどういうこった?」

「明日第二支部が王都に呼ばれているここら辺の子どもたちを馬車で連れて行くんだけど。」

「ああ、護衛か。いくらだ?」

「マリアちゃんに四万ピール。あなたには一二万ピール出すわ。」

「うへ。いいね。乗った。」

「え⁉私も良いんですか⁉」

「ええ。ただ護衛任務はランクによって報酬が変わっちゃうから四万ピールで我慢してね。」

「いえいえとんでもないです!大金ですぅ!」

 マリアは満面の笑みで喜んだ。第二支部から王都までは二日かかるが、その間SSランクのハンターと護衛をするだけで、自分が数十日かけても稼げない額が貰えるのだ。

 シエナもいつもより簡単な依頼で予想以上の額が貰えるとご満悦だ。

「じゃあ、決定ね。明日の早朝に出発するから覚えておいてね。それとシエナ」

「なんだよ?」

「女の子に手を出さないようにね?前科があるから言っとくわよ。」

「えーそんなぁ‼」

 シエナはこの世の終わりが来たかのような顔で両手を頬に当てた。

「言われなきゃ手を出す気だったんですかシエナさん…。」

「わーったよ。ウェルのおっぱいで手を打とう。」

「…。無事に帰ってきたら…少しだけなら良いわよ。」

「いえええええええい!絶対触らないって誓います!」

 恥ずかしそうに胸を持ち上げたウェルの言葉にシエナは一転して、世界が救われたかのような顔で飛び上がった。

「ええええ⁉良いんですかウェルさん⁉」

「私の犠牲で依頼者が救えるなら微々たる犠牲よ…。」

 こうして二人は王都へと向かうことになったのだった。

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