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快楽狂と白竜の国  作者: 木太刀秋步
2章 王都
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2-7 騒然

 連れていかれた先の部屋は二間続きになっており、奥の部屋に続く扉は閉められている。前室ともいえる部屋には、長衣を纏った初老の男と屈強な女兵士が待っていた。

 案内役の兵士が部屋を出て扉が締められると、初老の男の方がシエナに話しかけてきた。

「君がシエナかね?健康調査は次の部屋で行われる。念の為、身体検査と持ち物検を行うが良いか?」

「あ?男に触られるなんて嫌なんだが?」

「安心しろ。触るのはわしじゃなく隣の子じゃからな。」

「流石に女性の検査は女性でしますよ。服の中に武器を仕込んでないか確認するだけですので、両手を上げてください。」

 女兵士はそう言うとシエナの体に手を伸ばした。しかし、シエナはその手を払いのけた。

「あ、こら。嫌がらないの。もしかしてイケメンが良かった?」

「そういう訳じゃねぇ。武器の確認だろ?ほらこれで確認の必要はないよな?」

 シエナはマントで隠れた剣を女性兵士に見せびらかした。女性兵士は急に見せられた凶器に身構えるが、シエナの態度から敵意無しと判断すると、剣に手をかけながら話を続ける。

「大ありよ。今からとあるお方がいる部屋でお話しするのだから武器の持ち込みは厳禁よ?」

「とあるお方ぁ?なに?お偉方がいんの?…っち。ほらよ。」

「…これは‼」

 シエナは舌打ちをしながらギルドの紋章を見せつける。二人はシエナの顔と紋章とを交互に見ていたが、しばらくすると顔を見合わせ一つ頷くと初老の男が口を開いた。

「武器の持ち込みを許可しよう。ただしその紋章を服の下に隠さぬように。後は、当然だが抜刀したりせんようにな。」

「わーってるよ。じゃなー。」

 シエナは扉に手をかけると凶器を持ったまま奥の部屋に入った。ランクが高いハンターは不意の災害に対応できるように、いかなる状況でも武器の所持が認められているのだ。

 部屋に入ると、立派なひげを蓄えた恰幅の良い男が座っていた。周りを数人の兵士が守っている。

「待っていたよ。SSランク資格授与式の時以来だな。まあ、座りたまえ。」

「どーも。宰相自ら面接官とは恐れ入ったよ。暇なのか?」

 面接室にいたのは、なんとこの国の宰相であった。ヨルカル王国の3割に当たる土地を有している領主であり、非常に発言力も高い高官である。

「相変わらずだな。国内3人の最高ランクハンターと話す機会はそうはないのだ。君だけ特別にこの部屋に呼んだのだ。」

「ああ、そうかい。そりゃ光栄なこって」

 だが、そんな人物を前にしても、シエナは態度ひとつ変えずに目の前に置かれた椅子にどっかりと座った。宰相は少し嫌な顔をしたが気を取り直して挨拶をした。

「さて、知っているだろうがこの国の宰相を務めているジェーンズ=ゴートだ。よろしく。」

「ああ、知ってる。SSランクでハンターやってるシエナだ。よろしく頼むよ。」

 それ以降は名目通り、健康や運動に関する質問や同席していた医師による簡易診察が行われた。質問の中には、『剣を振ったことがあるか』『魔法は使えるのか』等の質問もちりばめられており、シエナは案の定だなと半笑いで面談をこなしていく。

 そして、最後に懸念していた質問がジェーンズから来た。

「では、最後に私から…チャイカルヤードという女性は知らないかね?」

「聞いたことないな。何?そんなに政治的価値のある女なのか?」

「それは極秘だ。君は知っているか知らないかを答えればいいんだ。」

「ああ、そうかい。じゃあ知らないと答えるよ。」

「そうか…残念だ…質問は以上だ。情報提供に感謝するぞ。では退室したまえ。」

「ああ。じゃあな。」

 シエナは立ち上がると礼を取ることなく、ドアに向かって真っすぐに歩いて行った。それをジェーンズが呼び止めた。

「…ああ、少し待ちたまえシエナ君。」

「なんだ?宰相様。」

「君にクォリオ山脈で出没している氷山オークの討伐を依頼したいのだが、空いているかね?」

「………まぁ、何も予定してないから相応の金を払うなら行けるぜ?」

 『土地喰いが接近しているのに高ランクハンターを遠ざけるのは何故?』とシエナは思ったが口にはせず、淡々と受注可能だとジェーンズに告げた。

「そうかね。ではギルド経由で依頼書を発行しよう。…後は最後に言いたいことがある。」

「なんだよ?」

「その下品な言葉使い。後々災いを呼ぶことになるだろう。以後気を付けたまえ。」

「余計なお世話だよ。」

 シエナはドアを開けて扉をくぐると勢いよく閉めた。

 二人の確認係に見送られ外に出ると、目の前にはマリアの姿があった。

「あれシエナさんもこの部屋だったんですね。」

「ん?なんでお前もここなんだ?」

 シエナは首をかしげる。宰相は『SSランクハンターと話すためにこの部屋に呼んだ』と言っていたはずだ。マリアがここに来るのはおかしい。

「…シエナさん?どうしました。」

「…たしかこいつは貴族の娘だったな…」

「シエナさん?」

「ああ、なんでもねぇ。ほら、相手を待たせんな。はよいけ」

 ぶつぶつと喋るシエナを心配するマリアだったが、シエナに正論を言われ、慌てて扉に手をかけた。

「そうですね!ではまた後で!」

「おう。あの件には『探している』とちゃんと答えるんだぞ」

「分かりました!」

 マリアはなんの疑問も持たずチャイカルヤードの件について元気よく返事をしたのだった。



「し…失礼しますう」

 シエナが入った面接室にマリアも足を踏み入れた。マリアもハンターだが、ランクが低いので武器は没収されている。

「ふむ待っていたよ。そんな緊張せずにリラックスしたまえ。」

「うぇ!?その服装!?」

 マリアは貴族育ちなため、ジェーンズの服装から相当の高官だとすぐに判断した。あわあわしだしたマリアにジェーンズは優しく話しかける。

「そう警戒するな。取って喰うわけではない。まあ、立ったままもあれだ。まずは、そこの椅子に座りたまえ。」

「はっはい!」

 ギクシャクしつつも、そこは腐っても貴族令嬢。礼儀正しく着席まで行う。その姿にジェーンズは軽く笑った。

「あ、あの!何か可笑しかったでしょうか⁉」

「いや。少し前に入ったハンターも君を見習ってほしいと思ってね。」

「何やってるんですか…シエナさん。」

 そこからはシエナと同じような質問が続いた。マリアは噛みながらも淡々と質問に答えていき、最後にジェーンズから先ほどと同じ質問が行われた。

「では、最後に聞こう。これは健康調査には関係ないのだが、チャイカルヤードという女性は知っているかね?」

 ついに来た!とマリアは体を強張らせながらシエナの言われた通りの言葉を吐いた。

「あ、はい!私の探している人です!」

「…それはどうしてかね?」

「え?あの…」

 マリアは深く考えることもなくシエナの指示通りに答えた。すると、これまで友好的だったジェーンズの顔が険しくなり、眼光鋭く睨みつけてくる。

「質問を変えよう。君はハーベル家のご令嬢だね?」

「え?」

 聞いていた質問とは違うが、ここは素直に答えることにする。

「はい。そうですけども。」

「ハーベル家の領地はアターニャ王国に隣接していたな」

「…はい。そうです…。」

 マリアの親が統治していた村は昔、アターニャに隣接しており、アターニャ王国を行き来していた行商人の憩いの場として栄えていた。…今は帝国に占領されてしまったが。

 そんなことを思い出して暗い顔をしているマリアを無視してジェーンズは次の質問をした。

「…チャイカルヤードを何故探している?」

「え?…どうして…ですか?」

 予想外の質問が続き、マリアは混乱した。シエナからそう言えと言われただけで理由なんか知らないのだ当然である。

「今更恍けても遅いぞ。チャイカルヤードの娘。」

「はえ?」

 ジェーンズは懐から小刀を取り出すとマリアの前に投げた。

「無礼者!こいつを取り押さえろ!。」

「オイ!動くな!」

「うぇええええええええ⁉どういうことですぅ⁉」

「この娘は私にナイフを抜いて襲い掛かってきた!取り押さえて牢に入れておけ!」

「いやそのナイフはジェーンズさんがぁ!」

「うるさい‼付いてこい‼」

「いやですぅぅぅぅ!離してくださいぃぃ!」

 マリアが軽くもがくと兵士たちはマリアから手を離した。マリアが何事かと兵士を見ると、兵士たちは怯えた目でマリアを見ていた。

「…この女!目が赤く!」

「へ?」

 兵士たちが、マリアから後ずさる。マリアが近くに立て掛けてあった鏡を見ると自分の瞳が青から赤に変わっていたのに気づいた。

「へぇ⁉なんですかこれぇ⁉」

 慌てるマリアだったが、それだけではなかった。突如目の前に炎のサークルが出来上がり、そこから炎の塊が現れたのだ。

「なんだ⁉」

「ひぃぃ!」

 怯える兵士をよそに炎の塊は子どものような形になった。ここでマリアは思い出した。自分のマントの中にはヴァンスがいたことを

「あ!ヴァン―――」

「我が名はヴァンノポウポウ!この者の使い魔である!」

「ポウポウ⁉」

 マリアの間抜けなツッコミを無視して偽名を名乗ったヴァンスは弱そうな構えを取って、ジェーンズにとびかかった。

「我が主を守るため貴様を倒す!」

「聖光剛剣!」

「やーらーれーたー」

 いつの間にか抜刀していたジェーンズに真っ二つにされ、ヴァンスはスゥっと消えていった。

 それと同時にマリアの瞳も青に戻っていく。

「ヴァ…ポウポウさーーーーーん!」

 マリアは簡単に倒されてしまったヴァンスに絶望の表情を浮かべた。ジェーンズはそんなマリアを見て剣をおさめる。

「ふん。使い魔の召喚に赤い瞳…確定だな。連れていけ。」

「へぇ⁉」

「もう化け物は出せないんだろ!この他国の魔女め!」

「動くな!この人数に勝てるわけないだろ!」

「びゃああああ‼濡れ衣ですぅ!今のは何かの間違いで…シエナさん助けてええええ!」

 助けの声も空しく、マリアは複数人の兵士に取り押さえられ、部屋から引き摺り出される。それに驚いたのは前室にいた初老の男と女兵士だ。

「何事かね⁉」

「こいつが私に剣を向けてきた。今から牢で拘束する。」

「助けてくださいいいい!」

 事情を知らない二人と助けを求める少女。そしてその少女を拘束する兵士たちでその場は騒然となった。その様子を少し離れた所から依頼書を持ったシエナが見ていた。

 近くには炎の塊がふわふわしている。

「…っち。まさか拘束されるとはな。さて、こうなったらマリアには悪いが囮になってもらおうか。」

「シエナ。これで良かったのですか?」

 マリアの瞳を赤くした後、ジェーンズの前でわざと負けたヴァンスは、マリアの元からシエナの方に戻ってきていた。

「ああ。これでいろいろ分かった。今から一気に片づけていくぞヴァンス。…この国のこととアタシのことをな。」

「…御意」

シエナは依頼書をひらひらと遊ばせながら、城門へと歩いて行った。

「さて、仕事の時間だ。」

 シエナのその言葉はマリアの喚き声にかき消された。

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