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快楽狂と白竜の国  作者: 木太刀秋步
2章 王都
12/15

2-6 城門前にて

「おい‼起きろバカタレ!遅刻するぞ!」

「ふええええ⁉おはようございますう⁉」

「もう昼だぞ。時間の感覚大丈夫か?」

 半ば気絶するように眠ったマリアは、日が真上から照り付ける頃に叩き起こされ目を覚ました。

「それはシエナさんが私を寝かせないからですう‼」

「うるせぇよ。ほら時間ねぇんだからさっさとしろ。サンド作ってるから、行きながら食え。」

「え?ありがとうございます。」

 ベッドから起き上がると、机の上には綺麗にたたまれたマリアの服と小さなバスケットが置かれていた。中を覗くと美味しそうなサンドイッチが入っている。マリアは顔をほころばせ、急いで支度をするとバスケットを持った。

「シエナさん。お待たせしました。」

「おう。行くぞ。」

 マリアは上機嫌でシエナの後について行った。



 王城に着くとすでに大勢の若者が集まっていた。城の者たちは対応に追われ猫の手も借りんばかりの忙しさだ。

 健康調査の診断は午前の部と午後の部で分かれている。午前の部の者たちは既に城内に入っており、城門前には午後の部を待つ少年少女が並んでいる。その中に二人もいた。

 しばらく待っていると内側から門が開き午前の部の者たちが中から出て来た。それと入れ違えるように午後の部の者が城内に入っていく。別に順番が決まっている訳ではないので別段急ぐことも無い二人は最後尾で全員が入りきるのを待っていた。

 そこでシエナは何を思ったか、午前の部から出てきた少女の肩を叩いた。

「ちょいと、アンタ。話聞きたいんだけどいい?」

「ヒャッ‼な…何でしょう?」

「こらシエナさん‼暇だからって女の子をナンパしないでください!」

「ちげえよ。ちょいと聞きたいことがあるんだが。」

「な…なんでしょう。」

 突然話しかけられた少女は、シエナの見た目と態度のギャップにとまどいながらも答えてくれた。

「調査の問診でなに聞かれたか教えてくんない?」

「え?問診ですか?普通に最近の体調とか病気になったとかですけど。あ、でも一つだけ良く分からない質問がありました。」

「良く分からない?詳しく教えてくんない?」

「えーと、チャイカルヤードという女性を知らないかという質問なのですけど」

「ほう。あのネズ公の話は本当みたいだな。」

「…ネズ公?」

「ああ、わりいこっちの話だ。気にするな。」

 もう少し質問をしようとしたシエナだったが、少女を呼ぶ声に諦めた。

「あ、いいよありがとう。あの子は友達か?」

「はい。魔物に故郷を襲われて離れ離れになってたんですけど、今日はこの調査のお陰で久々に会えたんです。」

「そうかい。じゃあ、質問に答えてくれた駄賃だ。これで友達と一緒に昼飯でも食いな。」

「え⁉いや良いですよ!そのために答えたんじゃないです!」

 シエナが差し出したのは銀貨5枚。これは昼飯どころか、一日中遊んでもおつりがくる額だった。少女は突然差し出された大金に困惑している。

「いいから、貰えるもんは貰っとけ。損するぞ。」

「そうですよ。お礼の気持ちなので受け取ってください。」

「お前が出してんじゃねぇだろ。何様だこの野郎。」

「ヒエェすいませんん!」

 シエナとマリアの会話を聞いていた少女は、少し考えた後に微笑んで、シエナの差し出した金貨を受け取った。

「ありがとうございます。折角ですのでこれを使って楽しい思い出を作って帰りますね。」

「おう。…なんならアタシとも思い出を作ってかない?今日の夜空いてんだけど」

「え?」

「こらシエナさん‼」

 マリアの怒声が城門前に響いた。



 門をくぐっておよそ半時間。午後の部の者たちは未だ太陽の照りつける中庭で待たされていた。

 いくらお城の行事とはいえ多少の苛立ちは隠せない。もちろんシエナも魔樹棒を咥えて地団駄を踏んでいた。

「っち。待たせんじゃねぇよクソが。」

「こらシエナさん!お城の人が見てますから!それと、城内で魔樹棒はメっですよ!」

「あ、てめ!」

 マリアは素早くシエナの口から魔樹棒を奪うと火を消して懐にしまった。『段々マリアが付け上がってきている気がする。何もできないくせに生意気な』と睨み付けたが、最前列が城に入り始めたことに気づき、マリアに耳打ちをした。

「おい、マリア。さっきの質問内容は覚えているな?」

「はい。チャイルカンダルさんですね。」

「チャイカルヤードだ馬鹿。あの質問が来たら『私の探している人です』って答えとけ。」

「え?なんでです?」

「教えない。」

「なんでですか!私を信用できないんですか⁉」

「いや。信用はしているが、不測の事態になったら焦り散らかして、情報を口から滑らしそうだから言いたくないだけ。」

「あぅ…あぁ…そうですか。」

 嬉しいことと嬉しくないことを同時に言われてマリアは複雑そうな表情を浮かべた。だが、シエナが言ったことは尤もなのでおとなしく引き下がった。

「まあ、なにかあった時用にヴァンス貸してやる。」

「え?」

「ヴァンス。もしもの時は、言われたようにな。」

「御意。…フフフではよろしくお願いしますねマリアさん。」

 シエナが両手で水をすくうように構えると、手のひらに小さな赤い光が現れ、ふわふわとマリアのマントの内側に入っていった。

「ひぇぇ…背中に魔人が…」

「まだ怖がってんのかよ。ビビりが」

「当たり前ですよう!」

 マリアは、少し怒ったような態度をしたが、気を取りなおして気になったことを口にした。

「でも珍しい名前ですよね。チャイカルヤードさんって。どこの国の人でしょう?」

「アターニャ王国の人間だろ。あそこの国は名前の最後がヤードの奴が多いからな。」

「あの帝国に滅ぼされた国ですね。…チャイカルヤードさん…どんな方なんでしょうか?指名手配犯?」

「それならギルドで働くアタシたちが知らない訳ないだろ。まさか指名手配犯の名前を覚えとらんのか?」

「えへぇ。えへへ。」

「お前ハンターやめたら?」

「辛辣!」

 そんな話をしているうちに、いつの間にか列は進み大広間へと通された。平素は国賓を招いて舞踏会でもするのだろうか。天井にシャンデリアが輝く立派な部屋だ。相当な人数が通されたが部屋は広く狭苦しさはない。所々に置かれたテーブルの上には洒落たお菓子と飲み物が置かれ、さながら立食パーティーのようだ。部屋の入口に立っていた兵士が全員の入場を確認し大きな扉を閉めた。それを合図としたように広間に朗々とした声が響く。

「みなさん、ようこそ王城へ。これより順番に名前を呼んでまいります。呼ばれた者は兵士の指示に従い次の部屋にお進み下さい。それまではテーブルの上のお菓子など召し上がりながらお過ごし下さいませ。」

 ちょび髭を生やした小太りの男はそう言い終わると、そそくさと部屋を出ていった。他にもやることがあるのだろう。

 シエナとマリアも、飲み物を手に、壁際に立ち順番を待った。シエナが可愛い女の子を見つけてはちょっかいをかけようとするのでマリアがその度、服を鷲掴んでは止める。それを繰り返しているうちにシエナの名が呼ばれた。

「シエナ君。うん?継名が無いのか。珍しいな。君の番だ来なさい。」

「ようやくか。んじゃな。」

「はい、また後で。」

 マリアに軽く手を振ると、シエナは兵士に付いて広間を出た。

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