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快楽狂と白竜の国  作者: 木太刀秋步
2章 王都
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2-5 王都での夜

 巫女と別れて数時間後。シエナとマリアは夕食を取るべく宿屋近くの酒場に来ていた。店の客に女性や子供の姿はなく、仕事を終えた男たちが酒を片手に大声で話し、笑い声を上げている。

 そんな酒場のど真ん中。豪快に酒をあおる美少女とオドオドと周りを見ている巨乳娘がいればもちろん目立つ。男たちは口笛を吹き好奇の視線を投げかけた。

 机の上にはすでにたくさんの料理が並んでいたが、オドオド巨乳娘ことマリアは食事どころではない。

「あの…シエナさん。どうして食堂ではなく酒場なんです?」

「あ?美味い酒が飲みたいからだよ。」

「そうですか…でもぉ、あの…何か凄く見られてるような…」

「あら?なにか文句でも?」

 優しい声音に美しい微笑み。なのにそれが恐ろしい。

「ひぃぃぃい!ないですううう!」

「せっかくターゲットを連れてきたご褒美に飯も宿も奢ってやるんだ。ありがたく食えや。」

「ううう。だったら酒場じゃなくても…。」

 ご褒美に美味しいご飯と言われた時には嬉しかったマリアだが、昼のカフェのような店を想像していたので少し落胆していた。とはいえ、嘘を吐かれたわけではないし、宿屋も招集された子どもたちが泊まる宿より数段良い所を取ってくれた。

 以前は自生している木の実を食べ、その日の寝どこに困る日々を送っていたマリアは、今は食べられるだけでも幸せだと言い聞かせて、若干口に合わない酒場の味が濃い料理を頬張り始めた。

「おい。おまえはリスか。口がパンパンだぞ。はしたねぇな。」

「しえなふぁんにいわれふぁくないふぇふ!」

「あー魔樹棒うめぇ。」

「んむううう‼ちゃんと話を聞いてくださいよう‼」

 もう周りも気にせず開き直って食事をしていた。そんな時、

「お、マリアちゃんじゃないっすか!抱き着きっすうう‼ハハハハ!」

「ぴゃぁぁぁぁぁぁぁ‼」

 マリアは急に後ろから抱き着かれて悲鳴を上げた。

「ちぃちょいちょーい!俺のこと忘れたんすか⁉ベンっすよ⁉ベン!怖がらないで!」

「ひぃぃぃぃぃぃ…。」

「なんで⁉」

 正体を明かしたのに更に怖がられショックを受けるベン。前にマリアが失敗した奮突豚の依頼では自分も力になったのにとうなだれる。

「そりゃ、彼氏でもないのに急に後ろから抱き着いてきたら怖がるだろ。馬鹿か。」

「ああ!シエナじゃないっすか‼こんなとこで何してんすか⁉」

「こっちのセリフだよクズ。アタシのもんに許可なく触んな。殺すぞ酔っ払い。」

 強めの言葉と殺意で質問に返答したシエナだが、顔が真っ赤なベンはその殺気に気付かない。

「俺は酔ってないっす‼まだ12杯しか飲んでないっす。」

「十分飲んでるじゃないですかぁぁぁぁ!」

 大騒ぎをする三人に更に視線が集まる。そんな中、ベンの頭がペシリと叩かれた。

「おいベン‼目を離している間に何やってんだ‼迷惑かけるなと言ってるだろう!」

「痛いっす‼」

「あ、バリスさん。」

「ぬ。なんだお前たちか。」

「ようバリス。その不快な生物をアタシの視界に入らないところに移動させておいてくれ。」

 ベンを叩いたのは、同じく奮突豚の討伐に向かったバリスだ。どうやら今回もベンと二人で行動しているようだ。

 シエナは吸いかけの魔樹棒を手に持つとバリスたちに向けた。

「つかなんでお前らいるんだ?ここは第一支部の管轄だろ?」

「ああ。第一支部の連中は八割くらい遠出しているみたいでな、数合わせで呼ばれたんだ。」

「遠出?どういうことだよ。」

「どうやら、いろいろな地方の大型魔物を各支部と連携して討伐しているらしい。」

「今更おせぇんだよなぁ。つかさ、なんでそんなにすっからかんになるまで第一支部から出したんだ?王都の守りが手薄になるだろうに。」

 王都には王直属の軍がいるが、これは主に対人・対国用だ。竜は盟約によって魔物から人を守るが人間同士の争いには一切手を貸さない。そのため作られたもので、あくまで竜が国にいる事を前提としている。

 よって魔物相手となると勝手が違う。竜のいない今、それ専用に作られた討伐ギルドにハンターがいないということは、それだけで脅威となるのだ。

「それで俺たちが呼ばれたんだ。知らなかったってことは、お前らは別件みたいだな。」

「ああそうだよ。ってか『俺たち』ってことは他にも来てんのか。何事だ?」

「なぜか知らんが『土地喰い』が王都目指して直進しているらしい。」

「とっととととと土地喰いですかぁ⁉」

 マリアは椅子からひっくり返りそうになった。『土地喰い』とは、名前の如くあらゆるものを『喰い』ながら移動していく魔物だ。動きはゆっくりだが止める術はなく、移動するごとにその体はブヨブヨと大きくなっていく。今では優に城を超える大きさになっているという話だ。

 『土地喰い』のいる所には他の魔物も恐れ近づかない。たとえ竜がいたとしても勝てるかどうか分からない相手だ。それ程にその力は強大だ。

 シエナはその話を聞いて眉をひそめた。

「土地喰いがぁ?なんでここ目指してんだよ?前まで魔素に汚染された遠い場所でおとなしくしてただろうが。」

「それがさっぱりだ。すでに進路上の町や村は壊滅らしい。第一支部のギルドマスターからは支部のハンターはすでに呼び戻していて数日後には戻ってくると聞いているが…」

「土地喰いはどれくらいで到着するんだ?」

「まあ七日ってとこだな。迎撃準備が間に合わんかもしれん。」

「おいおい。それにしては王都民の危機管理が足りてないんじゃないか?」

 シエナが言う通り、王都の人々は最大の脅威が迫ろうとしているのに、全く恐怖を感じていない。今も酒場は笑いと喧騒で大賑わいだ。

「どうやら王政が発表をしていないらしい。混乱を避けるためだろうが…悪手だな。」

「ふーん。まあいいや。明日は午後から暇だしアタシも首つっこんでやるよ。」

「お、珍しいな。どういう風の吹き回しだ?」

「今日知り合った女の子がいてな。そいつの為だ。別にお前らの為じゃない。」

「ったく。可愛げがないな。嘘でも仲間の為とは言えんのか。」

 バリスとシエナが話している横で、ベンがマリアに絡んでいた。あまりにもしつこいため、マリアはシエナに助けを求めた。

「シエナさああああん!助けて下さあああい‼」

「マリアちゃんもお酒飲むっす‼今日は一緒に騒ぎましょうっす‼」

「ベン‼いい加減にしろ‼」

「痛いっす‼」

 またもやバリスに叩かれてベンは頭を抱えて蹲った。どうやら強めに打たれたらしい。うめき声をあげるベンを横目にバリスはマリアに謝罪する。

「マリアすまなかったな。俺の顔に免じて許してくれ。」

「いえ、あの…大丈夫です。」

「っち。いくぞマリア。」

「え?いいんですか?『土地喰い』のお話は?それにご飯も残ってますよ?」

「あ?こんな馬鹿がいるところで酒が飲めるか。宿屋戻るぞ。」

「シエナにも嫌な思いをさせてしまったか?悪かったな。」

「ああ。アタシの女に気安く触ってくる野郎が視界に入るだけでもイライラするわ。素面になったらベンに言っとけ。次は無いってな。」

 シエナはそう言い終わると、席を立って会計の為にカウンターへと向かっていった。マリアもバリスにお辞儀をした後に、カウンターへと向かう。

「…あいつら、いつの間にそういう関係になったんだ?」

 バリスはベンの首根っこを掴み、外へ出て行く二人を見送るのだった。



 酒場を出ての帰り道。シエナはマリアに優しかった。絡んでくる輩には睨みをきかせ(ちらりと赤い手が見え袖や裾に火が付いたりする)。道を塞いで寝ている奴がいれば道を開け(蹴り飛ばして)。馬車が通れば後ろに庇った(胸を触りながら)。まるでそれはジェントルマン。マリアは胸がキュンとなる。が、はっと気付いて首を振る。

「違うんです!これは違うんです!」

「あ?なにがだ?」

「いえ⁉なんでもないですよう⁉」

 焦るマリアに「可笑しな奴だ。」と笑うシエナ。その笑顔にまたキュンとなる。マリアの葛藤は終わりそうにない。

 無事に宿屋に着いて部屋に案内される。ホッとして目の前のベッドに倒れこんだ。

「あ、すごいですう。安い宿屋よりもふかふかですう。しかもすごく大きい。」

「そりゃ二人用だからな。当たり前だろ。」

「っぴゃ‼シッシシシシシエナさん⁉どうしてここに⁉」

 側にはシエナが立っており、服を脱ぎ始めている。

「なんでじゃねぇよ。二人用の部屋になんでアタシがいちゃいけないんだ?」

「分かりました!二人用の部屋を借りて、私と同じベッドで寝るのは理解しましょう!なんで全裸になってるんですかぁ!いつもは服着て寝てますよね⁉」

「分からない?朝まで相手しろ。お前も脱げ。」

「昼の約束と違いますううう‼巫女様をお連れしたんですから今日はやらないって‼」

「アタシの頭を叩いた恨みは…オマエノカラダデハラス。」

「ピギイイイイイ!」

 逃げようとしたマリアだったがすかさずシエナに捕まり服を剥がされる。

「いやですう‼たまにはゆっくり寝たいですう‼」

「そういうのは自分で生活が出来るくらい稼いでから言いな!」

「待って‼今日のシエナさん乱暴です!なにかあったんですか⁉」

「あ?そりゃ男にお前がさわら……」

「さわら?お魚の名前かなにかですか?」

「うっさい‼さっさと残りの服も脱ぎやがれ‼」

「あーーーれーーーー‼」

さっきまで胸キュンなジェントルマンだったのに!更け行く夜にマリアの悲鳴がこだました。

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