2-4 初めてのカフェ
席について十数分後、机の上にはパンケーキが一皿、オレンジジュース、コーヒー二杯が置かれていた。もちろんパンケーキとオレンジジュースはアリクのものだ。
アリクは目の前に置かれた初見の食べ物に目を輝かせている。
「わぁぁぁ。フワフワです!甘い香りがします!」
「普段はこういうの食えないのか?」
「私は竜の巫女です。『欲を言わず、怠惰をせず、こころ乱さず、竜と共にあるもの。』…ということになっているので、ご飯もとても質素なのですよ。」
「ひえー。巫女さんは大変そうですうう。」
「あの…このオレンジ色の飲み物は何なのです?」
「オレンジジュースだ。飲んでみな。それも奢ってやる。」
「ええ⁉果物を液体状に‼そんな発想が!驚きです!」
「今までその発想が出てこなかった方が驚きなんだが?」
アリクは夢中でオレンジジュースとパンケーキを口に運ぶ。その度に可愛らしい表情を見せるため、見ている側も飽きない。
「ふぉれおいしいれふ!もぁたしふぁんどおひまひは!」
「おい、飲み込んでから喋れ。」
シエナの注意にアリクはコクコクと首を縦に振って、パンケーキを飲み込んだ。
「シエナさん!私は感動しました!世の中にはこんな美味しい食べ物があるのですね!」
「ああ、他にもたくさんあるぞ。まあ今回はそこまでにしとけな。晩飯入らなくなるぞ?」
「分かっています。それでお話と言うのは?」
「ああ、竜について聞きたいんだが。」
「え?シエナさん?」
シエナの言葉に大きく反応したのはアリクではなくマリアの方だった。まさか、シエナが女の子相手に真面目な話をするとは思ってもいなかったし、竜に興味を持っていることにも驚きを隠せなかった。一方アリクは若干顔を曇らせたものの首を縦に振った。
「…私が答えられる範囲なら。」
「んじゃ一つ目な白竜はまだ生きているのか?」
「はい。竜官庁からも声明が出ていますが、国境を越えた場所に白竜様の反応があります。」
そう答えたアリクの目をシエナはじっと見ていたが、しばらくして2つ目の質問をした。
「そうか。…じゃあ二つ目。白竜との交信はどれくらい出来る?」
アリクは、口を噤んでシエナの目を見返した。見ず知らずの人間に不出の話をして良いのかと考えたからだ。数分の沈黙の後、アリクはこれくらいなら大丈夫だろうと口を開いた。
「私はまだ力が覚醒していないので、交信はできません。」
「ほう。それは残念。でも、お前の母親なら交信可能だろ。なんか聞いていないのか?」
「はい。母は交信ができます。ですが、今は竜の反応がある場所へ赴いていますので、母とは数か月くらい竜の件どころか普通のお話もできていません。」
アリクは少し寂しそうな顔をしてパンケーキをほおばった。
「なるほどねぇ。よし。じゃあ最後に聞きたいんだけどよ。」
「申し訳ありませんが、これ以上の竜に関する情報は開示できませんよ。」
さすがに少女とは言え竜の巫女。これ以上は無理ですと、アリクは丁寧に両手でバツを作った。
だが、シエナは気にもせずに最後の質問をした。
「竜の反応がある場所はどこだ?」
「そんなの言えるわけ…」
「元アターニャ王国の山岳地帯だろ」
「なぜそれを⁉」
アリクは驚いた顔をした後にハッと口を両手で隠した。シエナは満足そうにシシシと笑った。
「カマかけたに決まってんじゃーん。へーそうなんだー。アタシびっくりー」
「あわわわ!この件は内密に…」
「へへへへ。どうしよっかなぁー。フヘへ…いってぇ!」
「こら!巫女様を困らせちゃダメですよ!」
興が乗って悪ふざけを始めたシエナを見かねたマリアがシエナの頭をひっぱたいた。シエナは額に血管を浮かばせてマリアをにらみつける。
「てめぇ…夜覚えてろよ」
「ひぃ!ごめんなさいごめんなさい!」
「あのシエナさん…本当にこの件は」
涙目になっているアリクを見たシエナは、謝り続けるマリアの胸をはたいて黙らせると、話を再開した。
「安心しろ誰にも言わねーよ。アタシにメリットないし。」
「良かったです。…でもどうして竜の居場所を知りたかったんです?」
「いや、アタシもこの国のことが心配でさ。不安を解消したくてつい聞いちまった。」
「…嘘ですね。女性にしか興味がないシエナさんがそんな…いったいですぅ!」
シエナはボソボソ喋っていたマリアの太ももを引っぱたいてマリアを黙らせた。
机の下で行われた暴力に気付かなかったアリクは、関心して頷いた。
「素晴らしい愛国心です!今後も国の為に尽力しますので、シエナさんは安心してハンター業を頑張ってください!」
「ああ!クニノタメニガンバルヨ!」
「ああ…無垢な少女が悪魔に騙されて…痛いですぅ!」
性懲りもなく悪態を吐いたマリアへの制裁にこれまた気付かなかったアリクは遠くの時計塔の針を見て、慌てて立ち上がった。
「ごめんなさい。そろそろ戻らないとバレてしまうので。パンケーキと飲み物ありがとうございました。」
「いいよ。とっとと帰りな。」
「はい。ごちそうさまでした!」
アリクは急いで席を立ち、ペコリと頭を下げた。
「じゃあ気を付けて帰れよ。また会えるといいな。」
「はい‼またどこかでお会いしましょう!」
「アリク様。お気をつけてー。」
二人に元気よく手を振ったアリクは神殿へと小走りで向かっていったのだった。




