真夜中のお花屋さん
真夏の、そう暑い日だった。
暑くて暑くて、こんなの堪えきれるものか!とそう叫びたくなるような、日々が続く中、人は誰しも涼しい避暑地を求めて歩みを進める。
しかし最悪の場合、熱中症、脱水症状などで救急搬送される者も少なくないこのご時世に、私はある名案を浮かべていた。
そう、それは……"夕方に涼しい避暑地を探しに行く"ということ!
これはまあ、いや名案というかそうニュースのお天気コーナーの天気予報士も、「この暑さですので、できるだけ朝や夕方などの暑くない時間帯でお散歩などされるようにしてください。」と言っていたのを鵜呑みにして、それに私が付け加えて思ったことなのだ。
でも我ながら名案の中の名案。そう思っている。
何故ならば大抵行く先は夜の21時までやっているカフェなど、時間帯が時間帯なので人混みが苦手な私にとっては、空いているカフェのような存在が最適である。
そう思いながら行きつけのカフェに寄り、夜ご飯も兼ねて軽い夕食を摂り、帰り路を急いでいたところだった。
「……こんな夜中に花屋が開いている?」
いつもの商店街を抜けようとしたその時、見慣れない小綺麗な木目の看板が出ている外壁に遭遇した。
『Fleuriste de minuit』
「……ふりゅぅりすて、で、みぬぃっと?」
英語なのか何なのか、いやこれはフランス語辺りかな……などと模索して看板に刻まれた文字を目でなぞりながら読んでいた。
「…いらっしゃいませ。」
ボーッと突っ立っているところに、背後から小さな小さなか細い声がした。
「うわっ!」
その声に気づいた私は思わず驚き、声を漏らしながら振り返るとそこには長い黒髪の小さな少女が立っていた。
「あの……お客さんですかね?」
私は男性でその中でも175と上背がある人間であったので、見た感じ中学生かそこらだろうか…150センチあるだろうかといった幼女が、私の目線を上目遣いで見ている。
「あ、すみません。何となく立ち寄ってしまって…お邪魔でしたらすぐ去りますんで。」
何となくだが畏まった言葉遣いで、目を逸らしながら頭を搔いてしまう。
「いえ、いいんです。寧ろ私は暇なのでいらしてくれて嬉しいです。」
人形のようなビイドロの目と陶器の肌を少し綻ばせてそう話す幼女。
促されるまま、いつの間にか私はその花屋に足を運んでしまったのである。