消え物武器に御執着?っか、自作するのかよっ!
「?
矢が、そんなに気になるのかのぅ?」
里長が不思議そうに。
「うむ。
箆の部分が素晴らしい。
俺も矢は自前で揃えているが、コレほどまでに真っ直ぐな箆を作れたことはない。
矢は消え物なのでな、自作できることに越したことはない。
だが、ここ迄の品は、俺には作れんだろう。
できるなら、作り方を教わりたいものだ」
箆?って、なんだ?
『矢のシャフト部分のことですね。
工業製品でないシャフトが、アソコまで真っ直ぐに作られているのは、職人の腕が良いからでしょう』
「いや、矢を自前で、って、お主のぅ。
駆け出しで金がない者ならば分かるが、主レベルなら店から購入するじゃろうに」
そう里長が呆れたように。
したらな。
「里の店に置いてある品を使うなら、自分で用意した方がマシだな。
だが、この矢は違う。
このクラスの矢ならば、購入するのも吝かではない。
だがな。
先程も告げた通り矢は消え物、つまり消耗品だ。
狩りの最中に足りなくなる場合もな。
故に、狩り先にて自前で揃えねばならない場合もある。
その際に、より良い矢を調達できれば、狩りの成果も上がると言うものだ。
なればこそ、己が作れるならば、それにこしたコトはあるまい」
いや、ストイック過ぎません?
「ふむ。
それは、その投擲武器にも言えような。
今は狩った獲物素材や刃鹿の角を、己で加工しとるのじゃろうが、職人が造った物は違うらしいでな。
しかも、お主が今、持っておる縄鏢とやらは、素人造りでは危ういらしいでな。
まぁ、どう使うか、儂には分からんが」
なんだ、アレ?
ナイフ?
いや、槍刃を小さくした錘か?
縄に、それが付いているんだが、どうやって使うんだ?
振り回すのかねぇ。
「うむ。
慣れれば色々と便利なのだがな。
ただ自作は難しい品だ。
何年か愛用していたが、狩りの途中で紛失したり破棄せざるを得なくなったりだな。
師匠から与えられたが、最後の一本を破損させてから手に入れられておらん。
他の投擲武器も、俺が造る物より上等だが、この縄鏢は仕入れ先が知りたいものだ」
いや、扱えるのかよっ!
『おそらくですが、武器と言うより補助としつつ使っているのかと。
色々な用途に使えるのでは、ありませんか』
そうなのか?
俺には分からんが。
「この鍛治師は、ちと人を選ぶらしいでな。
儂もガウランドの伝で依頼したのじゃが、普通は会ってもくれぬらしいわえ。
ほれ、ガウランドからの紹介状じゃ。
お主が会いたがると言っておったが、まさしくじゃのぅ」
そう告げながら、紹介状を。
「有り難く受け賜る。
しかし師匠が、このような物を俺へなぁ。
己が得物は、己が揃える物。
それが出来て、初めて一人前っと、言っておったのだが」
ダリルさんが、そのように告げるとな。
「この2年ほど、お主へ迷惑を掛けておったでな。
ガウランドは身体が動かんで、ヤツから素材を預かり儂が手配したまでじゃ。
儂としても、里のこととは言え、主には迷惑掛けたでのぅ。
して、何時立つのじゃ?」
そう里長が尋ねるとな。
「明日にも里を出る」ってな。
「それは急じゃな」ったらさ。
「装具を揃え直したら出るつもりだったのだ。
それが手に入った今、なんの支障も無くなったのでな」
「ほうじゃったか。
では、儂から依頼しても良かろうか?」
そのようなことを。
いや、図々しくね?
「ふむ。
ザケゾン村までの護衛であろ?
刃鹿の巣立ち時期だから、刃鹿の角を村へ卸すのだろう。
なれば、それを狙った不届者も現れると言うもの。
ゆえに、腕が立つ守り手が欲しい。
そう言うことかね?」
そう告げると、里長が頷いてな。
「そう言うことじゃな。
此度はザーハントが無償で任に着くことになっておる。
アヤツは良いと思い行ったことじゃが、里へ迷惑となったでな。
しばらくは労役に従って貰うでな。
他にも数人ほど、荷運び兼用で着くが、ちと不安でな。
出来たら、これで頼めぬか?」
そう告げ、硬貨の入った革袋を。
ダリルさんが中身を確認し。
「ふむ、何時もより多いが?」っと。
「里から出るでな、里人以外へ払う依頼料じゃて。
里からの恩恵なき者は、その分の値が上がるでな」
つまり、里人は依頼料が下げられている訳か。
世知辛くね?