ロゼッタ嬢の実家工房、ちと酷過ぎんかえ?
一工房が持つには過ぎる権力に、ダリルさんが首を捻るとな。
「ああ、深層狩人の装備を造った工房として、幅を効かせたてんだわ。
何せ、装備を造ったのなら、深層狩人との繋がりもあるハズってね。
それを喧伝して悪用してんだよ、質が悪い」
いや、装備を造ったのは、ロゼッタ嬢とハゲルさんではなかったのかえ?
意味が分からんわい。
「装備か。
一つ、装備について聞きたい。
一部を除いて、非常に満足しとるのだが、一点だけ合点がいかん」
唐突にダリルさんがな。
ソレを聞いたロゼッタ嬢がムッとした表情へ。
まぁ、己が自信を持って納品した品だ。
それへのクレームはのぅ。
したらハゲルさんがな。
「お嬢、職人としての良い出来が、使う者にとっても良いとは限んねぇんだぜぇい。
して、ダリルの旦那」
「いや、アンタの方が歳上なんだ。
旦那は止めて貰えないか?」
凄くイヤそうにの。
まぁ、歳上へ旦那呼ばわりはのぅ。
せめて若旦那なれば、いや、やはりイヤかえ?
「お、おぅ。
そいっあぁ悪かったよい。
で、なっ。
その気に入らん箇所てぇのは、何処なんでぇい?」
ハゲルさんに、そう告げられたダリルさんがな。
「槍の穂先だ。
後付けされた感じもだが、槍のコンセプトに合っていない。
俺の槍は、突くよりは斬る槍だ。
もしくは、殴打用だな。
中層以降で、刺すなどの動きが止まる攻撃は妥当では無い。
常に動き続ける動きが求められる。
ゆえに突き刺すなどの動きが止まる攻撃はしたくない訳だ。
ゆえに、この形に収まっておる訳だが。
コイツに穂先が付いておった。
何か意図が?」
それを聞いたロゼッタ嬢が、ビックリしてハゲルさんを見る。
ハゲルさんも首を傾げてな。
「いや、納品前には、槍へ穂先など付いておらなんだハズだぜぇい?
その穂先は?」
「ああ、コレだ」
ダリルさんが背嚢から穂先を。
「ふむ。
出来は悪くはないぜぇい。
ウチの工房作だろうねぇい。
ん?
コイッぁ、ジャミガのガキの印じゃねぇかいっ!
ヤツに、このクラスの穂先は造れねぇ。
おそらく、職人の誰かに造らせたんだぜぇい。
コイツを槍へ後付けしやがったなっ!
他人の作品へ手を出すなんてぇ、職人としてやってはならんことだ!
ふてぇヤツだぜぇっ!」
うわぁ。
ハゲルさん、激昂しておるわい。
「ふむ。
ミハガ隊長。
そのジャミガなる愚か者を捕えて罰して貰えぬか?
俺が報復すると、ソヤツは確実に死ぬ。
ロゼッタの弟だから、出来たら殺したくないのでな」
そう告げられたミハガ隊長がの。
「ですが、深層狩人の名を語り、好き放題しておる様子。
しかも、武具作成者を語り、なおかつ武具を勝手に手を加えております。
深層狩人の武具に対してです。
これらは、王家からの下知を無視し逆らったことにもなりましてなぁ。
まぁ、死罪は免れんでしょう。
実は捕える準備まで出来ておるのですが、王命に叛いたとなれば類縁にも害がおよびます。
ですが、深層狩人の武具を造れる者を連座で捕えるのは。
そのため延期になっておりましたが、当事者である深層狩人のダリル様が、ジャミガのみと明言されるのならば、キャツのみを捕えられます。
よろしいか?」
ほぅ。
そがぁなっちょりましたかいな。
「うむ、俺は、それで構わん。
ロゼッタとハゲルは?」
「出来の悪い弟だったけど、弟だからねぇ。
けど、アイツは遣り過ぎたよ。
最早、庇えないね」
諦め顔で。
「オリャぁ、構わないぜぇい。
っか、腹に据えかねてたかんよぉい。
是非、お願げぇしてぇもんだぜぇい」
まぁ、話しに聞く限りでも、好き放題していたみたいだしな。
弟が捕まれば、ロゼッタ殿の実家工房は後継不在で潰れるだろう。
ロゼッタ嬢が戻り跡を継げば大丈夫だろうが、今更だろう。
まぁ、腕の良い職人は、ハゲルを筆頭に工房を去っている。
元々長くはなかっただろうのぅ。
しかし、ボンクラ一人で、名のある工房が潰れるか。
堪らんのぅ。