いや、師匠殿よ、ちとばかり、ダリルさんに厳しくは無いかえ?
そんなドトマさんの話しにてダリルさんがの。
「しかし、師匠が子供に菓子をなぁ。
そんな一面もあったのだなぁ」
感慨深気にな。
「ん?
師弟の関係だったのだよな?
菓子の一つくらいは、貰ったことがあろうに」
そう、ミハガ隊長が尋ねるとな。
「いや、一度も無いな。
と、言うかだ。
俺は本物の菓子とやらを知らん。
飯も、師匠の飯を合わせ、俺が作っておったからな。
ゆえに、他の者が作った品を食べること自体が稀であった。
甘味を自作して食べた事はあるが、アレが菓子と呼べるかはな。
まぁ、狩人は、己が者は己にて得る、が、師匠の持論だったゆえ、狩りに必要なら別だが、菓子などはなぁ」
いや、過酷過ぎんかえ?
「そ、そうなのですね。
それで、本日は、ど、どの、ような?」
「ふっ、気にせんでも良い。
まぁ、アノ、師匠にも、人並みの感情があったと知れただけで重畳。
それよりもだ。
今朝方に鎧熊を狩ってな。
狩って解体したは良いが、卸し先がない。
この程度の獲物では、自分の装備を造る気にもならぬしな。
そこでミハガ殿であったか。
彼に卸し先を聞いた訳だ」
ダリルさんが、そう告げ、背嚢へ括り付けていた毛皮を外し、ドトマさんの前へと。
ほぅ。
流石は職人さんじゃてな。
皮を受け取ると、厳しい顔付きに。
色々とチェックしておるが、それが終わると満面の笑みへと。
「素晴らしい品です!
間違いなく鎧熊の皮であり、傷が一切ない。
解体も丁寧で、私より腕前が上だ。
ですが、鎧熊の頭部がないようですが?」
「ん?
頭を斬り落としたゆえ、別にしてあるのだがな。
頭部の皮は使い難いゆえ、革袋にでもしようかと、思っておったのだが」
困惑顔で、そう答えるとな。
「いえ、コレだけ傷が無いと、剥製にしたい方もおられるのです。
ゆえに、頭の部分も有れば、そのような方とも交渉できますので」
「なるほど。
そのような用途もあるのだな。
覚えておこう」
そう告げた後、頭部の皮と爪に牙、甲殻も彼の前へと。
「コチラは?」
不思議そうにダリルさをを見るとじゃ。
「うむ。
流石に肉と骨は持ち込めず放置したが、コレらは確実に素材になるでな。
ゆえに保持した訳だが。
剥製にするならば、コレらも有った方が良かろう?」
そのようにの。
確かに、牙爪と甲殻が本物ならは、鎧熊の剥製が栄えるであろうの。
それはドトマさんも感じたのじゃろう。
「畏まりました。
謹んで、お預かり致します」
そう告げて受け取っておったな。
「しかし、牙や爪に甲殻の状態も、実に素晴らしい。
こりゃぁ、ミッドガランド武具店に知られたら、さぞ恨まれる事でしょうなぁ」
そんなことをな。
「ん?
どう言うことかね?」
「いやね。
ウチは皮を扱う関係上、解体を行うことが多いんでっさ。
解体したら、爪や牙などの武具に使用する部位も出て来やす。
そうなれば、そう言う素材を卸す先も必要なんですわ。
それなのに、コレだけの品を流さなければ、知られたらゴネられそうでして」
そう告げるドトマさんへダリルさんがな。
「はて?
別に必ず話しを通す必要はないのでは?
確か、その店は革鎧などの鎧も造っておったハズだが?」
そのようにな。
したらドトマさんがの。
「良くご存知で。
確かに革鎧も造っておりますなぁ。
まぁ、基本的に金属鎧が主ですがね。
ウチも革を卸しておりますから」
そのようにの。
それを聞いたダリルさんがな。
「なれば卸し元が、ココ以外にも在るのは分かるハズだ。
少なくとも、この革鎧の革は、この店以外から得ているのでな」
そう告げられ、ダリルさんの鎧をマジマジと。
「!!!
そ、それは?
その革鎧の革はぁっ!?」
「うむ、深層の獣を革にし、それにて鎧を造っておる。
獲物を狩り、鞣し加工したのは、我、師匠だな。
俺の旅立ちに合わせ、師匠から送られた品だ。
つまり、少なくとも、この革鎧の革は、この店を介さずに取り引きされておる。
まぁ、それも店の力量。
文句を言う筋合いでは無かろう。
なれば、同じく得た素材を、アチラへ必ず流す筋合いも無いことになる。
如何かな?」
うーん。
揉めねば良いのじゃがのぅ。